魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」 作:ヘルカイザー
「つっ!? ウメ……うっ……めぇ……いやだよぉ」
「動いちゃダメだよフィスティーナ。加減されてたとはいえ、結構酷い怪我だったんだから」
「……か、カン君? どうして」
悶える姉は突然聞こえた声に驚きその方向へと視線を向けた。するとそこには金髪のバーテン服を来た男の子が1人。彼女の友達であった。
「どうしてって……あんな荒野で倒れてたら誰でも助ける。はぁ……で? 何? 今度は何やったのさ」
「お願いカン君!? 」
「ちょっ、いきなり何!? 」
彼女は男の子の両肩に手を置くと今にも泣きそうな顔と声で男の子に懇願する。愛する妹。彼女を助けてくれるように懇願するのだ。しかし男の子は首を縦に振らない。言葉にもできない。そんな顔で彼女を見つめる。
「何……どうしたの? カン君? 」
「今それどころじゃないんだ。母さんとクソ親父が……」
「フェイトさん達に何かあったの!? 」
男の子の濁した言葉に彼女は置いていた手を引っ込める。黙って男の子の言葉を待ち。男の子はそれを察したのか静かに口を開いた。
「落ち着いて……聞いて」
実は現状……ウメが過去へ行った事だけが問題ではない。この時代、この場所ではとんでもない事になっていた。フィスティーナが眠っていた数日の間に事態は急速に加速し、取り返しのつかない状況へと発展してしまう。
止めようのない後悔と無力さをフィスティーナは感じる。妹に対しても、自分に対しても。
ただ……
ただ男の子の……彼の言葉によって…………
「キャロさんと陸飛さんが本気で喧嘩し始めた」
「え……キャロお母様と父様が……で、でもそれはいつも」
「今君の家が残骸すら残っていなくても? 」
「え……何言ってるの? い、言ってる意味がよく…………」
「あ、あれはいつもの喧嘩じゃないよ。あれを喧嘩って言っていいのか……殺し合いだよ僕から言わせれば………早く2人を止めないと。もっと酷いことに……下手をしたら……君の家だけじゃ」
「はは……また、嘘なんでしょ? そんな事になんかなるわけ……だ、だって前はあんなにイチャイチャしてて……ね、ねぇ? カン君そうでしょ? 冗談……なんだよね? ね? …………そんな……くっ……なんでよ!!! どうして!!! なんで!!! 」
1度止まった彼女の歯車は動き出した。
え〜それでは本編よろしくお願いします!
ディアーチェ達があの子にそそのかされてから3週間が経過した。不思議と管理局は動かない。これも全てあの子の仕業なのか。
私は疑問に思っていた。確かに陸の事はこれ以上ないくらい好きだった。大好きだった。ディアーチェやシュテルにレヴィ。そして陸と私。5人でいるこの家族が何より大好きだった。
でも今の状況は嫌いだ。誰も幸せじゃない。こんな事をしてまで私は陸を前の陸に戻そうなんて思わない。
だからこそ疑問だった。そこに本気の好きがあるのならば、変わってしまった陸もまた……私達の知らない陸も陸なのだ。そこを認めずして家族と言えるのか。むしろ陸の全てを知るいい機会。陸の全てを好きになれる機会だ。
み今のみんなは冷静ではない。悲しみにくれ、本来目を向けなきゃいけない事から目を背けている。現実を受け入れない。否定し、都合のいいように。
他人であれ、家族でいるというのはこんなにも簡単で難しい。一つの綻びが、一瞬でその関係を壊す。それが今の状況だ。
故に私はあの子が嫌いだ。みんなを壊し、惑わし、傷つけ。あんなにも陸を苦しめているあの子が。例えそれが陸の未来の子供であっても関係ない。私は嫌いだ。
人が人を嫌いになる。私は初めてその感情を深く知った。嫌悪、嫉妬、憎しみ、殺意。そんな物を本気で、自分の感情として制御できないのは初めての事だったからだ。
私は目の前に吊るされている陸を見て思う。
『絶対に許さない』
この感情が圧倒的に勝る。自分の心が闇に、深く……深く堕ちていくのがわかる。しかし分かったところでそれに抗う事はしない。何故ならこの感情は不思議なものではない。抱いて当たり前。むしろなんて心地いいのか。私は浸るだけこの感情に浸る。
この感情でこの先どうなろうと知ったことではない。陸の為。みんなの為。私は喜んで『悪』となる。
「ユーリ〜お疲れ様、そろそろ交代だよ? 次は僕の番! 」
「私はまだ大丈夫です。だからこのまま私が見張りますよ」
「え? でも交代の時間だし、順番ってみんなで決め」
「ふふ……レヴィ? 」
「え……な、何……ユ、ユーリなんか怖いよ……」
「私のお願い。聞いてくれますよね? 」
「で、でも」
「3度目はありませんよ? 」
「ひっ!? わ、分かった、僕かわるから!? ユーリお、お願いね!? 」
脱兎。
それが今のレヴィにはお似合いだろう。彼女は空気は読まないが人の悪意には敏感らしい。私の言葉が本気である事が分かってか、私の顔を見るなり全速力で逃げ出す。
そしてしばらく誰も来ない事を確信した私は、陸の前まで足を運んだ。ぐったりとし、すっかり衰弱している陸の両頬を自分の両手で添える。
「陸? 聞いてください。聞こえてなくてもかまいません。私は今日で陸の家族をやめます。ディアーチェ達ともです。だって……私は陸やみんなが大好きですから。だからやめるんです。だから……今回はこんな事をする私を許して……くれませんか? 陸……ちゅっ! 」
少し陸の顔は高い。だから私は背伸びをして自分の伝えられる最後の想いを『それに』のせた。一瞬だったが私は満足だった。自己満足。でもそれでも構わないと自分では思っている。
今まで私は散々、陸に助けられた。ディアーチェ達にも助けてもらってばかりで、私自身は何も返せていない。大好きと言う気持ちしかみんなには返せないのだ。
「陸の拘束は解いておきます。それじゃ……もう少しだけ待っていてください。行ってきます。陸……っ!? えっ」
「ま……て。何を……する……気だ? 」
私が陸に背を向けた直後、私の手を弱々しい手が掴んだ。当然の事ながら、掴んでいるのは今床に倒れている陸だ。想像以上に衰弱しているのか、今まで見た事ないほど陸の力は弱い。私のような、か弱い女の子にさえ、簡単にその手を外せるほど。
いくら、どんなに陸が私を引き止めようと。私はもう立ち止まる気は無い。私は決めた。守られて甘えてるだけの私は今日で終わりにすると。
「陸……今ここに、紫天の盟主として誓います。私は自身の存在全てをかけて……あの子と戦います」
「よ……せ……君では……勝て……な」
「そうかもしれません。いえ、万に一つも……私ではあの子の足元にも及ばない。例えこの身にあるエグザミアが完全に機能を取り戻していたとしても……私はあの子には勝てない」
「だっ、たら!? 」
「大好きなんです!!! 」
「…………」
「陸には私達と過ごした時の記憶はないのかもしれません。でも私には残ってます。大切な、大切な陸達との日々の記憶が……決して偽物なんかじゃない……あんなに幸せだった4年間………私は……私は陸が大好きなんです。ディアーチェやシュテルのことも。レヴィだって……みんなを守りたいんです。この家族を壊したくないんです!!! 」
「ぐっ、ま……て…………」
私は走った。陸から逃げるように。もう後戻りしないように。すがらないように。
今度は私の番。私が助ける番だからだ。命をかける。家族の為にすべてをかける番。だから私は戦う。
だから私は…………
『ディアーチェ達を裏切る』
◇◆◇◆
「ヴィヴィオお姉様? どうしてそんな目してるの? もしかしてまだ諦めてないんだ? 」
「どうして私をお兄さんのいる地下室から出したのかわからないけど、私は最後まで諦めない! 」
「ふふ、ほんっと……ヴィヴィオお姉様らしい」
今私は自分の学校。その教室にいる。勿論身動きは取れない。バインドで完全に無力化されているからだ。しかしどうしてなのだろうか。ウメちゃんは私に対して、何一つ手を出そうとはしてこない。大事にされてるのとは違うが、私を傷つけようとする意志がまるで見えないのだ。
「地下にいた時のあの振動、私の予想が正しいならあの下には」
「あは! 気づいちゃった〜? そうだよ? あの下には私の『天敵』がいる。あの状態でまだ暴れられるんだから化け物だよ『ギンママ』は……」
「やっぱり……なら」
地下にいた時に起こったおかしな振動と破壊音。私の予想はあったっていた。あの下にはギンガさんがいる。今どんな状態で捕まっているのかはわからないが、暴れているということは無事なはずだ。もし、今の状況を打開できるとすればカギはギンガさんを助け出すこと。お兄さんやキャロさん、みんなを解放する為にはその道しか残されていない。
「ギンママを解き放つつもり? どうやって? もしそんな事をしようと思ったら私を倒さないといけないよ? ふふ、この時代のヴィヴィオお姉様が私に勝てるわけないでしょ? ま、逆に今のヴィヴィオお姉様『じゃなきゃ勝てない』のは事実だけど」
「それはどう言う意味なの? 」
「え? あ……な、なんでもない!? なんでもないから! それより、逃げ出そうなんて考えないでよね! ふん!」
ウメちゃんはそう言うと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。だが今の言葉は少し引っかかった。まるで未来では私には勝てないと言っているように聞こえたからだ。もしかすると未来の私はウメちゃんの弱点を知っているのではないか。でもそんな事を考えたところで答えなど出るわけもない。それはあくまでも未来の話なのだから。
「ウメちゃんはどうしてディアーチェさん達を仲間に引き込んだの? 」
「ん? どう言う意味? ヴィヴィオお姉様変な事に疑問持つんだね」
「そうかなぁ? 別に変じゃないと思うけど」
私はニヤリとしながら話を折るようにこの話題を話し出す。そもそもウメちゃんがディアーチェさん達を仲間に引き込む理由は何なのか。彼女達が悪人でなく、むしろ善人丸出しな人達なのを分かってウメちゃんは仲間に引き込んだ筈だ。だとすれば一つの仮説を立てることができる。ウメちゃんはディアーチェさん達について何一つ分かっていないと言う事だ。
それはウメちゃんにとって、いや……未来を、時間的な法則を無視した人間からすれば彼女達の存在がイレギュラーであるからだろう。
もし私の推測が正しいのならばディアーチェさん達を『含めた未来』はウメちゃんの暮らす未来には存在しない。
つまりは……ウメちゃんはこの先の未来は見えていない。無意識のうちに否定している。そこが今のウメちゃんの穴だ。
「ウメちゃん、私には未来の事なんてわからない。でもウメちゃんが言った事はいくらでも変えていける。私はそう信じてるから! 」
「……ヴィヴィオお姉様はいつもそうだよね。どうしてそう……真っ直ぐでいられるの? 血の繋がりがないとは言え、なのはおば様の娘だからかな? でも今となってはなのはおば様にそんな信念見る影もないけど」
「未来でのなのはママは違うの? 」
「違うって言うか……男おらずが心を壊したと言うか……むしろそれが戦闘に拍車をかけたと言うか…………」
「へ……」
突然怯えたように震え出すウメちゃん。目は遠い場所を見据え、何かを思い出しながら両手で自分の体を抱きしめ始める。その様子はとてもなのはママの事を考えている様子ではない。一体ウメちゃんの知る未来でみんなはどうなっているのか、気にならずにはいられない。ましてや、なのはママの事なら尚更。
「ヴィヴィオお姉様、なのはおば様はね……その……恋人がいない事から目を背けようとするあまり変な方向に熱心になっちゃって……あ、頭のネジが多分2、3本ぶっ飛んじゃってると言うか……そんな感じなの」
「……わかんないよ!? 何それ、気になるよそんな言い方されたら!? なのはママに何があったの一体!? 」
「こ、これ以上は嫌……思い出したくないもん」
「なのはママに何が…………」
「と、とにかく! ヴィヴィオお姉様が何をしようと無駄。諦めて大人しくしてて! 」
「それ……分かってて言ってるでしょ? ウメちゃん? 私が……どうするつもりなのか」
なのはママの事は結局よくわからなかったが、ウメちゃんのその言葉は私の諦めの悪さに火をつけた。諦めるなどできない。できるわけがない。お兄さんは私を助けてくれた。一生分助けてくれたのだ。どんなに何を返しても返しきれない恩と想いが私にはある。それは勿論キャロさんにもだ。だから私がお兄さん達にしなきゃいけない事は決まっている。2人を助け出す事。それは諦めてはいけない。努力できるだけ、やれる事は全てやる。全力全開で、できる手を全て尽くしてこそ、お兄さんに顔向けできると言うものだ。
「はぁ……余計な事言わなきゃよかったかな。その目……面倒くさい事になりそうで怖いよ、ヴィヴィオお姉様? 」
◇◆◇◆
「ディバインバスター!! ……なっ、これでもダメなの!? 硬い……どうなってるのこの結界……」
「なのは! 」
「フェイトちゃん」
「ごめん遅れて。それより……」
「うん……普通の魔導師がはった結界じゃない。この中にヴィヴィオがいる筈なのに」
フェイトちゃんが合流し、私を含め数多くの管理局員がヴィヴィオの通っている学校を包囲している。だがこれだけの数をもってしても今現状を打開するに至っていない。何故なら学校を取り囲んでいる結界魔法が硬すぎて誰も破ることができないからだ。
ヴィヴィオが消息をたって3週間。同時期に起きた謎の学園ジャック。もうここにヴィヴィオがいるとしか考えられなかった。
「なのはここは収束砲撃が有効打にならないかな? 結界を破るなら……なのはには負担になっちゃうけど」
「そうだね……それしかないかな」
「無駄です」
「え? 」
「君は……だ、誰? 」
これからの作戦、その話を折る形で1人の女の子が私達の後ろから現れた。青く、ギンガやスバルを彷彿とさせる髪の色。そして左寄りに髪を少しだけ束ねた小さいポニーテール。私から見れば明らかに一般であった。普通ならここで彼女を安全な場所まで出て行かせなければならないが、私達は彼女が言った無駄という一言。この理由を聞かずにはいられなかった。
彼女は何かをしっている。彼女の目からそう判断できた。
「無駄っていうのはどういう事なの? 」
「なのはさん、あれは魔法を受けると自分から半壊して再生する魔力結界です。衝撃は限りなく緩和され、再生速度は目で追いつくレベルじゃない。つまりあれを壊すのは事実状不可能」
「そんな!? そ、そんな物どうやって壊したら……あれ? なんで私の名前知ってるの? 」
全てが謎。この結界や今起きてる全ての事が謎だ。最近、おかしな事ばかり、理解の追いつかない事ばかりが起こる。そんな事を考えている時だった。女の子は左拳を握り自分の顔の横まで上げると私達に視線を戻しながらにわかには信じられない事を言い出した。
「私に任せてください。2人だけですが、なのはさんとフェイトさんをこの中に入らせます。その代わり……この事件の首謀者。私の妹に手を出さないと約束してください」
「妹? 」
「君の妹がこの結界を? でも入れさせるってどうやって……なのはの砲撃も効かないのに」
「ふふ。それは勿論……母様に貰った、この拳で! コフゥゥゥゥッ……」
女の子は目を閉じる。左手を肩の横で後ろに下げ、右手を前へ。さらに独特な呼吸を始めるとその瞬間、巨大な魔力の爆発と共に彼女の周りを黄色い魔力光が包み込む。
「……超……愛殺拳……」
「ふぇ、フェイト……ちゃん」
「ギ、ギンガの技? ううん、違う……これって」
「《夫を愛するあまり夫もろとも近くの女を殴り殺しちゃうぞ拳》! ふぬっ、ぐっ! でぇぇぇりゃぁぁああああああああああああ!!! 」
「「技名長っ!? てか酷!? 」」
まるでギンガが言いそうな技名で放ったその技に、思わず声がハモってしまった私達。だがそれよりも私達がいくら攻撃してもなんの効果もなかった結界に大穴を開け、私達が入れるほどの空間を作った事に驚きだ。
もはや言葉も出ない。唖然だ。滅茶苦茶すぎるパワーとそれを可能にするインパクト力のある拳。
それは決して一朝一夕で得られるものではなく。間違いなく日々の鍛錬によるものだ。
「なのはさん、フェイトさん今です! 行きますよ」
私達はこうして学園の中に侵入。結界は再び閉じてしまったが、彼女を含めた3人は中へ入れた。
そしてその後すぐ、目の前の少女の事が気になって仕方がなかった私は彼女にこう尋ねる。
今更すぎるその言葉を…………
「ねぇ、名前……教えてくれないかな? 」
「え? そ、そうですね……まぁ大丈夫か。フィスティーナです。フィスティーナ・スズキ・ル・ルシエ・ストーン・ナカジマと申します」
「「何その滅茶苦茶見知った名前揃いの羅列!? 」」
短編・絶望のコロナちゃん劇場
第3話《小さな歪み》
「キャロお姉様ぁ〜んふふ〜」
「あはは……コロナは可愛いね」
キャロは未だ拘束され、その状態のままコロナに抱きつかれていた。顔をスリスリとキャロの胸に埋め、今の幸せを堪能する。だがキャロの方もどういう心変わりなのかこれでもかというくらいコロナを甘やかしていた。
「ねぇ、そういえばコロナはいつから私にそんな感情抱いてくれたの? こう言ってはなんだけど私コロナに酷い事しかした記憶ないんだけど……」
「え? 酷い事なんてそんなぁ〜今思えばとっても嬉しい事です。私ムカムカしてたんです。キャロお姉様がヴィヴィオとヴィヴィオのお兄さんといる時とか。ヴィヴィオとキャロお姉様がお兄さんについて話してる時とか。それに……この間ヴィヴィオがキャロお姉様に助けられたんだって聞いた時なんてもっと苦しく……あ、あれ? ……えっと私……私…………」
「コ、コロナ……」
コロナは話している最中にふと……何か気づいてはいけない歪みに気がつき始める。それは小さな、小さな歪み。本人ですら気がつかなかったほんの小さな歪み。
故に……キャロはコロナの様子を見てある事実に気づいた。
本人すら知らず、全く気がつかなかったお門違いな想い。友情を否定し、それでも恋という想いを掴み取ろうとしたが為に生まれてしまったコロナの絶望ともいうべき想いに…………
彼女は絶望する。
何故なら…………
「わ、私はお姉様が好き。そうだよ。何も考える事なんてない。キャロお姉様大好きです! 」
彼女の絶望はまだ始まってすらいない。
to be continued…………
次回もよろしくお願いします。