魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」 作:ヘルカイザー
遅くなりまして。
ではよろしくお願いします!
「2ペン流ペン技極式……『幻筆不可視の型』……」
「クヒ、クヒヒヒ! 何をしようとももう私は止められない! お゛どなしぐじねぇぇぇええええええええ!!! 」
「……《逆鱗》!!! 」
敵の雄叫びと共にその魔力はまた跳ね上がる。だがお兄さんはそれに動じず、構えをとったその手で私が渡したボールペンを放った。
そこまではいい。そこまではいいのだが、その威力は見ているこっちがおかしいと判断できる。それは音だ。轟音。周りを支配するその空気抵抗を無視している音が、私達にその威力を強調させていた。
「無駄だ!! 何をしようともこの魔力の壁を突破する事など……え……かっ!? ……な、 何? ……が……ぎっ、ぎゃぁぁぁあああああああああ!? 」
一体いつだろうか。いつの間にかお兄さんのもう一方の手に握られていたボールペンが消えていた。するとその代わりと言わんばかりにその場に敵の悲鳴がこだました。さらに投げた筈のボールペンがお兄さんの手元に敵を背後から貫通して戻ってくるというありえない光景を目の当たりにしながら起こる。
「あがっ!? そんな……どうじて……つっ……くぅ……見えなかった……違う……そんなんじゃ、目の前で本当に消えて…………」
もう言葉が出ないとか驚くとかそんな話ではない。何をどうやったらこんな事ができるのか。物理法則を完全に無視している。私はそうとしか思えなかった。
放ったボールペンが本当に敵の目の前で消え、突然背後から現れ敵を射抜く。これはもはや反応するとか防御するとか対処できるレベルの攻撃ではない。
あの強固な魔力の壁をなんでもないかのように貫通する防御無視のボールペン。さらにはそれを不可視にして任意の位置から敵を貫く。一体どうやって防ぐ事ができるのか。
言わば防御不可の必中技。無茶苦茶な攻撃なのだ。
「ぐっ……くぞ、おのれ! (魔力が練れない……力が…………)」
「お前が一体なんの目的でリンを狙ったか知らんが、いずれにしてもここでお前を生かして返す気はない」
「くっ、ふふ。とても管理局の言葉とは思えないわね? 」
「残念んだが俺は今管理局じゃない。ただの一般人だ。……2ペン流ペン技極式……幻筆不可視の型」
「ただの一般人が……ただの一般人なら出しゃばるんじゃない!? この化物がぁぁあああああああ!!! キエェェエエエエエエエエエエエエエ!!! 」
もう終わりだ。そう……私は感じた。敵の行動はただの悪足掻きだ。いかに数を増やし、お兄さんに攻撃を放ったところで、それは目に見えていた。敵の敗北という形で。
「かはっ!? そん……な……申し訳ございません……ルーフ様ぁ…………」
蹂躙。圧倒的な力。人のみから外れた能力。どれを取っても、何を考察してもお兄さんは一般人として生きていくには危うい存在だ。それが分かっているからこの場にいるなのはママやティアナさんにギンガさんはそんな顔をする。
悲しみの底がない。この先を暗示しての顔を。
「っ!? なっ…………」
『勝手に終わらせてくれるなよ。クラン、俺の命令なしに死ぬ事は許さん』
「ああ……さまぁ……ルーフ様ぁ……私はぁ……こんな恥と失態を……どうか、どうかあなた様の手で……殺し……てぇ…………」
敵がお兄さんに貫かれて倒れる寸前、それを支える者が現れた。それは男。しかも確実に敵だ。私は感じた事がある。昔、あのおじさんにさらわれた時。お兄さんのお師匠さんにさらわれたあの時おじさんから感じた気配と底知れぬ恐怖を。
「誰だ」
「クランをここまで追いつめるとは……流石はペン技の後継者と言ったところか。だが、今のお前は俺の敵ではない」
「それは挑発か? それとも……」
「フフ、どっちだと思う? ま、今日は見逃してやってもいい。クランがこんな状態だしな。しかし次は殺すぞ。こんな女でも俺の女だ。それにお前は俺の……」
「待て!? 」
新たに現れた男の人は負傷し気絶した仲間を抱えると何処かに行こうとお兄さんに背を向ける。だが、お兄さんもなのはママ達もそれを逃す気はない。止めようと一斉に動き出した。
しかしその刹那、お兄さんの肩を何かが貫く。黒く、紫がかった魔力光を纏った何かが。
「ぐっ!? 」
「リッ君!? 」
「お兄さん…………」
「こ、これは……馬鹿な……貴様一体」
今の一撃で膝をついたお兄さんは自分の肩に刺さった物を引き抜くとそれを見て驚く。勿論それを見た私達も。
「フフ、『兄弟子』に向かって貴様とは随分な口の利き方だな? 鈴木 陸飛。だがお前は殺す。それは変わらない。これは宣戦布告だ。お前に対しての。『邪流ペン技……』」
「邪流……くっ、ペン技遠式……三の型」
「《闇蛇》! 」
「《貫》!! ……何っ!? ぐあっ!? 」
技の撃ち合い。だがお兄さんの攻撃は敵の攻撃に粉砕され、そのまま敵の放った攻撃がまるで蛇のようにうねりながらお兄さんの膝を貫いた。
お兄さんは負けた。結果、技の練度で。それは私にとっては信じがたい光景だった。
「フン、所詮こんなもんだ。ん? っ!? ……面白い。さらばだ鈴木 陸飛。『オヤジ』の仇はいずれ必ず取らせてもらう」
「ぐっ!? 待て!? ……くそっ! 」
こうして今日という長い日は終わった。しかし結果的に私達は多大な犠牲を出して敵を追い帰したにすぎない。今回私達と戦った敵はあまりにも強すぎた。しかも最後に現れた男はお兄さんよりも強い。こんなにも常識を外れて強いと思うお兄さんよりもだ。
ただ幸いな事にここに死者はいない。この戦いで死んだものはいないのだ。唯一、重傷者として、リンさん。リンさんは急いで病院に担ぎ込まれたが、2週間がたった今も以前意識不明である。
◇◆◇◆
「あ、あの……カス……ト? その……そろそろ機嫌なおして……」
「俺の知らないところで死にかけた馬鹿女の事など俺は知らん! 」
「あうっ!? ……ううぅ…………」
あの後ユーリに回復して貰っていた私は大事に至らずに済んだ。でも見つかるまで放置されていたカストは出血も多く、もう少し遅れていたら助からなかったとの事。これにはレヴィに感謝してもしきれない。私がまたカストに会えたのもレヴィやユーリたちのおかげだ。
しかしカストが目を覚ました後、私とお見舞いに来ていたはやてがうっかり私が死にかけたのを喋ってしまいカストは今の状態に。ベットに横になったまま私に顔も見せてくれず、完全にヘソを曲げてしまっていた。悪いのは私だが、それはカストも同じじゃないかと抗議したい。
「カ、カストだって私の為とはいえ無茶したんだから許してくれると……嬉しんだけど」
「フン! 」
「ああ……もう! せっかくまた会えたのにいい加減顔見せてよ!! 」
「あ? ちょっ!? 馬鹿、何して、ぐあっ!? ……馬鹿、やろう……怪我人の上に乗る奴が……あるか。つっ……下りろよフェイト」
「やだぁ……」
「ああん? お前……なぁ……フェイト? 」
「嫌だよ……もう離したくない。離れたくない゛よ゛ぉ」
私はカストの上に馬乗りになりながら彼を抱きしめた。もう我慢ができなかったのだ。私は今泣いているだろう。でもそれは許してほしいと思うのだ。あの時、本気でカストを失ったと思った。最後の時、カストに飛ばされたあの時に見た覚悟の決まったカストの顔。あんな顔は2度と見たくない。あんな顔は2度とさせない。私はレヴィがカストを見つけてくれた時にそう誓った。
この人が私の大切な人だと再認識し、もっと強くなろうと思った。今のままじゃ守れない。またあんな事になったら今度こそ失う。カストを多くの仲間を。それだけは……嫌だった。
「悪かった。だがよぉ。守ってやれなかった俺の気持ちも察してくれよ。情けないだろ? 」
「そんな事ない! カストは……十分助けてくれた。だって、もう前線から離れて何年も経つのにあんなに守ってくれた。こんなに怪我して……だから……カス……ト。ちゅっ! 」
まっすぐ見つめあった私達の視線は引き寄せられるように近づき合わさった。口づけをかわし、ここがどこかも忘れて永遠と互いを求めあう。
これが私が高みを目指そうと思ったキッカケだった。強いけどどこか危うい。優しい私の大事な人。この人を守る為ならどこまでだって強くなれる。そんな気がするのだ。
「あんたら私がいるの忘れるんやない!? こんなん見せつけて嫌味か! 誰か私にも男紹介してぇぇぇえええええ!! 」
◇◆◇◆
「陸さんズルいですよ! どうしてキャロだけ別室なんですか! 私も陸さんと2人っきりがいいです! 」
「落ち着けよ。と言うかお前の場合、キャロより軽傷だろ? だったらワガママ言うな。リンと仲良く療養してろ」
「どうしてですか!? 嫌です、断固反対です! 今すぐ抗議します! さぁ、私をラブホへ連れて行ってください! 殴りますよ!! 」
「お前は相も変わらずとんでもないな!? もっとおしとやかにできないのか! 」
私は結構なダメージを追っていた為、入院。リンさんと同じ病室に入れられた。だがキャロだけ個室での入院。つまり陸さんがお見舞いに来たら2人っきりだ。なんて羨ましいのか。
まだ意識を取り戻していないとはいえ、リンさんと2人の病室。これではおちおち陸さんを殴れない。
「わたくし、陸様を御殴りしたいですの! 」
「誰だよ!? 言い方だけおしとやかにしただけじゃねーか!? 」
「はぁ……面倒いから殴ろうかしら」
「お前なぁ……」
陸さんには分からないのだ。私がどんな思いで、どんな思いで陸さんを愛し、殴りたいのかを。何故ならこの拳には陸さんへの愛がビッシリと、ビッシリと詰まっている。だからいくら殴っても殴り足りない。
愛が、愛が止まらないのだ。故に私は拳を握り、愛を溜める。止まらない、止まらない陸さんへの愛を。陸さんの制止などでは止まらない。止まらないのだ。
「愛・殺・拳……」
「ギ、ギンガ待て!? 」
「陸さん! 《愛しています》!!! 」
「ふぬっ!! ぐっ……」
私の拳を陸さんは両手で受け止めた。殴り飛ばされるのではなく受け止めた。私はどうすればいいのだろう。最高だ。やはり陸さんしかいない。私が私でいる為には陸さんしかいないのだ。
「これ俺以外なら死んでると思うのは気のせいか? 」
「ええ、殺す気で『撃ち込み』ました! 」
「はぁ……」
「私の愛、受け止めてくれて嬉しいですよ? 私。それに受け止めたんですからその……責任とってくれるんですよね? 」
「は? 責任? 」
陸さんはどうして意味のわからない顔をするのか私には分からない。でもきっと照れているだけに違いない。私の拳を受け止めた。この意味をわからない訳はないのだ。ただ、やはり恥ずかしがり屋な陸さんは私の言葉で言った方が良さそうだ。だから言葉にする。陸さんへの愛を。
「これはもう一生私のサンドバックという夫になって貰うしか」
「一回お前の頭に異常がないか見てもらったほうがいい! 俺は先生を呼んでくる」
「キャァァァアアアアアアア!!! 陸さん危な、い゛!! 」
「ごふぁっ!? ……お、お前……不意打ちは汚い……ぞ…………」
「何言ってるんですか? 背中を見せた陸さんが悪いんですよ? ……ね? 」
私が拳圧を飛ばし、笑顔でそう言ってあげているのに陸さんは動かなくなった。いくら私の拳が『気持ちいい』からといって寝てしまうのはどうかと思うのだ。
しかしこの状況は私にとっては好機。キャロがボロボロで動けない今こそ陸さんを物にするチャンスではないか。そう思った私は行動に移す。ベットから下り、陸さんを抱えようと側へ。だがここで思いもよらぬ邪魔が入ってきた。
「陸さ〜んっ!? な、何この岩……ハッ!? 」
「ギンガさんすいません。キャロ『お姉様』のお願いでして。断れないんです。ヴィヴィオのお兄さん守らないといけませんので。どうかおとなしくしてください」
「ぐっ……こんな……も……のぉぉ……は、外せない!? 」
「無駄ですよ。それはキャロお姉様に付き合ってもらってできたゴーレム操作の応用です。例えギンガさんといえど、今の弱った体では外す事は出来ませんから。言うなれば《ゴーレムプリズン》ですかね」
「い、いつからキャロに対してそんな従順に……」
邪魔に入ったのはヴィヴィオの友達のコロナだ。どうやらキャロの差し金らしい。でも少し変だ。私が知ってる限り、コロナはキャロを怖がっていた筈。しかし今は怖がるどころかむしろ感じるものがある。
『愛』だ。
「コ、コロナ? まさかとは思うけど……」
「……ええ。私キャロお姉様が好きです。『愛してます』。いつからと言われれば、理不尽にお兄さん絡みのことでキャロお姉様に踏みつけにされた時からですかね。まだキャロお姉様には知られてませんが。それに私思ったんです。1人の大事な人の為に頑張れるお姉様はなんて素敵なんだろうって。理由もなしに簡単に人の首を回しに来るキャロお姉様はなんて過激で、素敵なんだろうって。私にはない物をキャロお姉様はなんでも持ってるなぁ〜って。そんな人を『私の物』にできたら……なんて素敵なんだろうって。クスクス」
私はよく知っている。愛は人に絶大な力を、奇跡を与えるのもだ。だがその反面、愛は人を簡単に壊す。誰かに捧げた愛の為に、どこまでも自分を壊してしまう。今のコロナはその扉の前に立っている。もし誰かが止めなければいずれそれは、取り返しのつかない闇となる。
「コロナ、ちょっと考え直してみない? コロナの気持ちは素敵なことだけど」
「素敵? 私の気持ちが? 何言ってるんですかギンガさん? こんな『ドス黒い物』が素敵な物なわけないじゃないですか。ふふふ。さて、喋りすぎましたね。それじゃ……今の全部忘れてくださいね、ギンガさん? これからする事、邪魔されると困るんで」
「い、いや……ちょっ、まっ、ひっ!? いやぁぁああああああああああああぁぁぁ…………」
こうして何をされたかわかる前に私の意識は今の痛みでブラックアウトした。
短編キャロ様劇場……キャロ様療養につきお休みです。
そしてコロナに唐突なフラグが立ちました。次の章では意外と重要です。
次回もよろしくお願いします。