魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」 作:ヘルカイザー
ああ〜、もう少しでこの章も終わりですかねぇ〜。
気がつけばもうすぐ70話!?
こんなに長く続けるとは書いてた当初は思ってもいなかったですよ。
そんなこんなで
ではでは……よろしくお願いします!
「あがっ!? 」
突如私達を襲った、絶望とも言うべきギンガさんの敗北。一体今なきが起きたのか。リンさんを気にしていてよく見ていなかった私には分からない。ただ、なのはママも、ティアナさんもキャロさんも……この状況は理解できないようだった。
今のギンガさんはどんな時だって敵が動かなくなるまで油断なんかしない。それこそ敵の攻撃などかわすまでもなく拳で消し飛ばせるはずだ。
だが今目の前には無残に消えた左腕を抱えながら地面で悶えているギンガさんの姿。
「あ……いっ……つっ…………」
「ギンガさん、大丈夫ですか!? 」
「キャキャキャ! もういいわ。仕方ないわよね? てめぇらが私を本気にさせたのよ? 私にこんな力まで使わせて……だけど……ここからは一方的な虐殺よ? ウキャキャキャ! ごほっ!?ごほっ!? ……ま、まぁ……流石にさっきのは効いたわ……本当、イライラする!!! 死ね!!! 」
敵はトドメを刺すつもりで倒れているギンガさんに紙の槍を二本飛ばす。しかしギンガさんは動く事ができない。
「キャキャキャ! ……ちっ」
「させると……思いますか……」
「クヒ! どうして守ろうと頑張るの? 貴方は何回殺されてもそう。馬鹿馬鹿しくならない? 知らんぷりすれば自分は幸せになれるのよ? そこのリン・ストーンさえ差し出せばぁ? 」
ギンガさんはキャロさんに守られた。でもキャロさんは俯き、敵の言葉をただただ聞いている。だが後ろで見ている私には見えた。右拳を握りしめ、ワナワナと震える右手を。そしてここで私達は気づいた。今、キャロさんは……
「ふひゃひゃ! ん? ……っ!? 」
「ギンガさんを殺そうとしたからには……覚悟は……できてるよね? 」
初めて見る。本気でキレた……キャロさんを。敵に対しても敬語ははずさなかったキャロさんが、今とんでもなく怖い顔をしている。軽く怒ったりしたところは見た事はあった。でもこれはそれと桁が違う気がした。
これは聞いた話だが、キャロさんとギンガさんは争っているように見えて実は仲がいい。プライベートにしてもよくあって食事をしたり遊んだりしているようなのだ。
「キャ……ロ……」
「休んでていいですよギンガさん。今日は助かりました。後は……私がやります」
「そんなにその女が大事なのかしら? 敬語使っているし、さほど仲がいいように見えないわよ? それに暴力的で、敵を倒す事に躊躇がない。ウキャキャキャ! そんな女ろくに彼氏もできないわぁ〜? 私と一緒、アヒャヒャヒャ! 」
「うる……さぃ……」
「あん? 文句でもあるの? 」
「お前が……ギンガさんと一緒なものか。ギンガさんは陸飛さんを……一途に……何年も一途に思える素敵な人だ。お前みたいな人間と……いっしょにするな!!! 」
怒気。そして初めて聞くキャロさんの怒鳴り声。それは動こうとしていたティアナさんとなのはママを止め、敵の足を一歩後ずらせる。私は知らなかった。キャロさんがギンガさんをどう思っているか。そして、その覚悟と決意を。
「気に入らない。やっぱりてめぇは気に入らねぇわ! 」
「今日で終わらせる。お前を倒して!! 」
ぶつかる2人は互いが互いを強く敵視しているが為に、その一撃一撃が重い。でも誰かを守りたいと思う、キャロさんの方が……遥かに強かった。
「ぬぐっ!? なっ、何が起きてるの!? さっきより、フロラァ!!! 」
「愛気竜流し……竜! 力! 愛! 破!!! 」
「ぐあっ!? おっ……あ…………」
「例え殺してしまったとしても、お前には謝らない!! 」
「どふっ!? 」
キャロさんは敵の手刀を左で受け、空いた右手で掌底を敵のお腹の叩き込む。今敵に浴びせた技は一度相手に見せている技だが、キャロさんの気合の入れ方と敵の反応から、それが効いているのだとわかる。
「ごほっ!? ……くそっ……さっきのダメージがまだ……」
「これで……最後…………」
「くっ……しかたない」
誰もがキャロさんの勝利を思い浮かべた。敵もギンガさんの拳を受けている以上ダメージがかなりきている。だからそんな状態でキャロさんの相手をするのは部が悪いようだった。
しかし膝をついている敵にキャロさんがトドメをさそうとした瞬間、それは起きた。
「これで……これで本当に……っ!? え…………うっ!? 」
「はぁ……はぁ……はは、アヒャヒャ! 」
「ごほっ!? ど、どう……して…………」
起きてしまってからではもう遅い事だ。誰もが何故と驚愕する。何故なら攻撃を加えようとしたキャロさんの動きが敵の目の前で完全に停止した。そして敵がキャロさんのお腹を貫くまで、キャロさんは無抵抗のままその状態を続けていたのだ。
だがそんな事普通に考えればありえない。つまりはキャロさんが自分の意思で固まっていたのではなく。敵によって動きを封じられたと見た方が正しかった。
「あがっ!? 」
「くそガキが、好き勝手やってくれたなぁ!! あ゛あ゛? 」
「ぐっ、あああっ!? い゛ぁぁあああああああああああ!? 」
「「キャロ!? 」」
「キャロさん!? 」
すぐになのはママとティアナさんがフォローにはいるがその間にもキャロさんのお腹はかき回されている。地面にはおびただしい量の血がビジャビジャとでているのだ。
「あの2人は間に合わないわぁ〜。残念だったわね? おしかったけど……今回もお前は死んで、そしてもう次はない! ウキャキャキャ! ふふ、さようなら。キャロ・ル・ルシエ!! 」
「うっ、ぁぁっ……」
「オラァ死ね!! 」
「あ゛あ゛っ、ぐっ……がぁぁあああああああああああああ!? 」
それが知り合いのものとは思えないほどの断末魔。そしていつしか声は小さくなり、キャロさんの敵の手を掴んでいるその手はダラリと下がった。
例え無駄だとわかっていても、私は声を荒げずにはいられない。誰かの助けを神に祈りながら。
「や、やめてよ!? やめてぇぇぇええええええええええ!? キャロさぁぁぁああああああん!? 」
私の叫びは虚しく響いた。しかしダメかと思ったその時、奇跡は起きた。
「そこまです! 」
「何っ!? うぐっ!? 」
新たに駆けつけてくれたのはシュテルさんだ。そして敵の顔面で砲撃をぶっ放す。
「キャロ、大丈夫ですか!? しっかりしてください! くっ、ディアーチェ今です! 」
「紫天に吼えよ、我が鼓動…………さっさと地獄に行くがいい! この腐れ下郎がぁぁぁあああ! 出よ巨重ジャガーノート!!! 」
「なっ!? こ、こんな場所で広域魔法使うなんて正気の沙汰じゃ!? うっ!? 」
いつの間にか敵の真上で詠唱を完成させていたディアーチェさんがデバイスを振り下ろし、下に向けて5つの魔法陣が展開。さらにそこから幾千もの爆発が起こるとそのまま敵を押しつぶした。
「はぁはぁ……流石に……はぁ、はぁ……実戦を離れてると……衰える、ものだな」
「お疲れ様ですディアーチェ」
「シュテル、キャロの具合はどうなのだ? 」
「今はまだ大丈夫そうですが、すぐに治療しないと危ないと思います」
「シュテル、ディアーチェ! 」
「ナノハ」
「はやくこやつらを病院へ連れて行け! ここは我らがやる! 」
敵がディアーチェさんの魔法をまともに受けた事で、話をする余裕ができた。しかし今まで私達を誰1人逃がしてくれなかった敵が、それを許すはずもない。それどころか、状況はキャロさんとギンガさんが戦闘不能になった事で危うくなり始める。
「逃がさねぇ……何度も言わせるな……何人増えようが! この私の敵じゃぁ〜ねぇぇんだよぉおお! さぁ〜絶望しろ! そして許しをこえ! 土下座し、私の足を舐めろ! アキャキャキャキャキャキャ! ウキャキャキャ! 《ゼロ・ポイント・フィールド》!!! 」
「あっぁ……なん……だぁぁ……力が抜け……て…………」
「ディアーチェ!? 」
「お前もだ! お前も跪け、黒いの! 」
「うっ!? ……あ、足が……」
ディアーチェさん、シュテルさんと1人ずつ膝を折り、地面に座り込んでいく。そして糸の切れたマリオネットのように地面に横たわり始めた。勿論離れた所で見ている私もだ…………
「な、な……に? どうして……体が……起こせ……ない……の? 」
「教えてあげましょかぁ? 聖王のお嬢〜ちゃん」
「ひうっ!? 」
突然声がしたかと思えば目の前には足がある。敵の足だ。私は恐怖で体を震わす。私からはみんなが見える。まだ幸いにも殺されてはいない。だが全員私と同じく地面に顔を擦り付けていた。しかしそうホッとして瞬間、私は片手で首を掴まれ、上へと持ち上げられる。体が動かない為、手足はぶらぶらとだらしなく揺れた。
「あっ!? ぐっ!? うっ、ううっ…………」
「ふふ、可愛い顔ね? それでさっきの答えだけど……このフィールドは私が認識した人間の力をゼロにするのよ? 常人なら動く事すらできないわ? それじゃ〜一番安全だと思っている貴方から……殺してあげようかしら? 」
「やっ、がっ!? かっ……あっ…………」
首を掴む手がゆっくりと締められる。抵抗はできない。息ができず、意識が遠のいていくのがわかる。誰も助けてなどくれない。という事は、私はここで殺されるという事。死ぬという絶望が私を包む。
「ヴィヴィオ……さん……から……その手を離して……ください!! 」
「あら? 今頃お目覚め? クヒ! どうしようかしらねぇ〜」
「あっ……あ……ぁ…………」
「離せ!!! うっ!? ……そん……な……力が…………」
そんな中、この状況で立ち上がった人間がいた。それはアインハルトさん。今まで気絶していたが目が覚めたようで、私の様子を見てかなり怒ってくれている。
だが例えアインハルトさんでもこのフィールドの前では地面に顔を擦り付けるしかない。
自分の無力さに私もアインハルトさんも涙を流す。ここにいても完全に足でまといでしかないからだ。
「そんなに死にたいなら殺してあげるわよ? お前からなぁ!!! 」
「やめっ……アイン……ハルト……さん」
「ぁ……ヴィヴィオさ……」
アインハルトさんの周りに配置された紙の槍。それが一斉にアインハルトさんに襲いかかる。
「何っ!? どこに行った!? っ!? 馬鹿な、聖王のクソガキまで!? どこ……どこだ!? ……ハッ!? 」
結論から言えばアインハルトさんは助かった。では何故? そう答えが欲しいはずだ。ここにいる全員、誰1人立つ事などできない。では何故アインハルトさんは助かったのか。
それは1人……この場に乱入してきた人間がいた。そしてその人間はアインハルトさんと私を敵の手から救い、そっと地面に下ろす。
「お前……いつの間に……ま、まて……どうしてここにいる? 記憶のないお前は、この事に気付けないはずだ!? 」
「記憶なんて知らない。ただ……ギンガちゃんが開いたメール。それがたまたま見えただけだ」
「お兄……さん? 」
「陸飛先生…………」
乱入してきたのはお兄さんだ。ただまたお兄さんの雰囲気が変わっていた。決して完全ではない。でも確実に……昔のお兄さんになってきているのが、私にはわかった。
「俺の友人に、生徒に手を出して……どういうつもりなんだ? 」
「ふ、ふふ。剛殺のボールペン、残念だが、4年前戦った時にお前の力は分析済みだ! だから例えお前であろうとも、このフィールドでは何もできやしないわ!!! 」
「うぐっ!? ぐっ……」
「キャキャ! 凄いわぁ〜耐えたのね? でも倒れないようにするのが精一杯みたいね? それでは動けないでしょ? さぁ〜死ね!! その目障りな面を私の前から消え失せ!!! 」
またこのフィールドだ。敵がお兄さんを認識した瞬間、お兄さんは膝をつき、動く事が困難になる。そして、敵の周りにある紙の槍一本がお兄さんの心臓に向けて放たれた。
近くにいた私は叫ぶ間もなく、私の顔に温かい液体がかかった。それは血だ。しかしお兄さんの血ではない。それは……キャロさんの血だった。
「ごふっ!? 」
「キャ、キャロちゃん!? 」
「ちっ! そういえばお前を認識するのを忘れてたわ。クヒ! でもまぁ……これで本当にお別れね。キャロ・ル・ルシエ! アキャ! 」
目を疑う光景。起きてほしくなかった事。信じたくない。これは夢だと認めたくない。キャロさんの左胸が完全に紙の槍で貫かれているという事実を。
キャロさんはお兄さんと敵の間に立ち、両手を広げてお兄さんをかばったのだ。
「あ……」
キャロさんから槍が引き抜かれ、力の抜けたキャロさんはお兄さんの方へ倒れた。でも動けない中、お兄さんは無理矢理体を動かすとキャロさんが倒れる前にそれをキャッチする。
「キャロちゃん!? しっかり!? キャロちゃん!! ……っ!? 」
「陸飛……さん。もう……いいですよ……ね? 私……頑張ったんです……いっぱい、いっぱい……苦しくても……頑張り……ました。だから……もう……休んでも……いいです……よね? ごほっ!? ごほっ!? ……だから……さい……ごに…………」
お兄さんに抱えられているキャロさんはプルプルと震える手でお兄さんの頬に手を添える。言葉はかすれそうなほど小さく。そんな中で敵は笑い、狂ったような笑みを浮かべた。
「キャロちゃん、何言って!? 」
「陸飛さん……大好き……です。……ちゅっ! 」
「んっ!? 」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! ……クソが! 胸糞悪いもん見せんじゃねぇ!!! 」
キャロさんの最後の力を振り絞ったようなキス。そして……その近くでは敵が逆上し、紙の槍を飛ばした。
しかしその刹那、お兄さんの頬に添えられていたキャロさんの手が力を失いポトリと地面に落ちる。
「死ねぇぇええええええええ!!! 」
『ペン技近式……一の型……』
「っ!? つっ、い、いぎゃぁぁぁああああああああああああああ!? 手が!? 手がぁぁあああああああああああ!? わだじのでぇぇえええええええええええええ!? 」
「《赤破》…………」
残酷にも、お兄さんがお兄さんとして戻る為には……その代償はあまりにも大き過ぎた。
短編・キャロ様劇場
第10話《もう休んでも……いいですよね? 》
「キャロちゃん!? しっかり!? キャロちゃん!! ……っ!? 」
「陸飛……さん。もう……いいですよ……ね? 私……頑張ったんです……いっぱい、いっぱい……苦しくても……頑張り……ました。だから……もう……休んでも……いいです……よね? ごほっ!? ごほっ!? ……だから……さい……ごに…………」
陸飛は力をゼロにしていくフィールドの中、必死にキャロを抱きしめ、呼びかけていた。虫の息である筈のキャロ。
実は…………
こんな事を考えていた。
【あぁ……やっと陸飛さんが私を見てくれた。このまま私が死んだら陸飛さん悲しんでくれるのかな? でもそうなると陸飛さんの為に作っておいた、向こう30年分の梅干しが無駄になっちゃうし。けど体動かないし……最後になるなら2度目のキスぐらい……】
キャロはそう思いながらキスをかわす。さらに、キスをしている最中のキャロは…………
【幸せだなぁ……これで陸飛さんが私の事思い出してくれたらもっと幸せなんだけどなぁ……。でもそれって死亡フラグだよね。でも……陸飛さんの記憶が……戻るなら……いっ……か…………】
キャロの意識はそこで終わった。しかしなぜかこの時、別の場所では…………
「ひぅっ!? 」
「エ、エリオ? どうしたの? 」
「な、なんでも……ないよ」
「はうっ!? 」
「ど、どうしたの? ルー? 」
「な、なんでも……ない……かな」
ちょうどルーテシアと通信をしていたエリオ。だが説明できない、過去最大とも言える悪寒がエリオとルーテシアを襲っていた。まるでこの後自分達に何かが起こるかのように。
((い、今の寒気は……ひょっとして……キャロがまた何か? ))
2人の明日は暗い。
to be continued…………
次回もよろしくお願いします。