魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」   作:ヘルカイザー

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ども〜

ではよろしくお願いします。


第61話《俺達のケンカ》

「さぁ〜今大会初、ダラダラ教師と名高い鈴木陸飛先生の初舞台だぁぁあああああ!! 」

 

司会の元気のいい紹介。私達の運命を決める先生同士の模擬戦はあっとう間に幕を開けた。そして司会の言う通り、お兄さんの問題ぶりは学校中に広まっているのだ。しかしそんな紹介をされて今の私達のクラスがムッとしないわけはなかった。観客席でお兄さんの応援をし、対戦相手のクラスの罵声に対してふざけんなと反論する。

 

「勝つのは私達の先生よ! 」

「何言ってるの? そんなダラダラ教師に私達の先生は倒せません事よ? 」

 

「さぁ!! 盛り上がってきました! では、鈴木陸飛先生VS我が校の美人先生、魅惑のプリンセス! ダイアン・イレーナー先生!いざ、尋常にぃぃ、始めぇぇぇえええええ!!! 」

 

始まった一回戦。クラスのみんなは両手を合わせて祈る。しかし私やリオ、コロナは心配どころか相手の心配をしているのだ。理由などは言わずともわかるだろう。

 

「さぁ! ダイアン先生が魔法の準備に入ったぞぉぉ! これは砲撃かぁぁ? ……へ? 」

「きゃぁぁぁああああああああ!? ……あ……う…………」

 

「あれん? もう終わりん? 」

 

この瞬間、一気に会場が静まり返った。ダイアン先生には隙はなかった。お兄さんとの間合いを取り、空中でダイアン先生お得意の瞬速の砲撃を放とうとしたのだ。しかしそのためるほんの僅かな一瞬。お兄さんはダイアン先生の目の前に移動し拳で真下に叩き落とした。たかが一撃の拳だがダイアン先生はもう動けない。

 

「しょ、勝者……鈴木陸飛……先生…………」

 

「嘘…………」

 

「あ……はは! 」

『やったー!!! 』

 

クラスからの大歓声。お兄さんの実力を知らない者から見れば、当然の反応と言えるだろう。そして次の試合もお兄さんは圧勝だった。みんなはお兄さんの活躍に大興奮し、さらに士気を高める。

 

「ここお邪魔しても構いませんか? 」

 

「あれ? アインハルトさん? どうしたんですか? 」

 

「いえ、せっかくなので陸飛先生の試合を見ようかと。陸飛先生の戦い方はデタラメでまだじっくり見てませんので」

「そんな事言ってただ陸ちゃんの応援に来ただけじゃないのですですか? まったくハルハルは素直じゃないですですねぇ〜」

 

「リンさん!? 」

「ち、違いますよ!? わ、私は別に……というかハルハルってなんですか!? 」

 

どういうわけかリンさんまで現れた。どうやらお兄さんの応援とお兄さんにいちゃいちゃする為に来たらしい。働いていないだけにどれだけ暇なんだと私は少し引いた。キャロさんもギンガさんも来たかったのだろうが、2人はそこは社会人、そのくらいで休んだりはしないようだ。

 

「ちょっと3人とも試合始まるよ? 」

 

リオのそんな声に私とリンさん、アインハルトさんは会場に目を向ける。しかし何やら様子がおかしい。お兄さんは平常運転だが、対戦相手の先生が少し怒っているようでわけのわからない文句を言っている。その声もモニターを通して全て聞こえてしまう為あまりいい気分ではない。

 

「貴様、辞退しろ! しないのなら、ここで潰す」

 

「どうしてん? というかん……どうして怒ってるのん? 」

「黙れ!!! 貴様の問題ぶりは私の耳によく届いている。よくもぬけぬけとこの場に立てるのもだな? 貴様など教師失格だ! 」

 

「まぁ〜間違ってはいないんだけどん……約束しちゃったし……それはできないかなん? 」

 

「約束だと? 」

 

「うん……僕が勝って、みんなの優勝の手助けをするって」

 

「……お前には無理だ」

「っ!? 何ん……これ…………」

 

試合開始の合図は始まっていない。だが相手の年配の先生は何やらフィールドに半円状の結界を張り、お兄さんと自分を閉じ込めた。幸い、その結界は半透明の為、中の様子は見る事ができる。

 

「ちょっと!? まだ始めって言ってないんだけど!? ああ〜もう!! 始め!!! 」

 

司会者の少し怒った声。試合は唐突に始まった。お兄さんは始まると同時に相手に拳を向ける。本来ならこれで終わっている筈の攻撃だがこの結界の中ではそうはいかなった。何故ならお兄さんの拳は相手に届く事なく静止したのだ。

 

「っ!? 」

 

「驚く事はない。この結界は私が視界で捉えている対象のベクトルを0にする。だから殴るだけが取り柄のクズ教師に勝ち目などない。ふおあっ!!! 」

 

「ぐっ、がっ!? 」

 

お兄さんの下から突如出現した石の壁。そしてそれをお兄さんを相手と反対方向にぶっ飛ばすと、今度は砕けて尖った石つぶてとなり、お兄さんに降りそそぐ。

 

「ぐっ……うっ……うわぁぁぁああああああ!? 」

 

「ふん……たわいもない。所詮クズ教師」

 

いくつも石が刺さったお兄さんの体。足は勿論、腕やお腹にも刺さっていた。服からは血が滲み出ている。だから私も含め、ここにいた誰もが思ったのだ。相手の先生は試合をする為にお兄さんと戦っているわけじゃないと。完全に潰す為に戦っているのだと。

 

「酷い……こんなの試合じゃない……お兄さん」

 

「こんなの認められません。止めるべきです! 」

「待つですですハルハル」

 

「待てません! 」

「待てと言ってるのが聞こえないのですですか!!! 」

 

「っ!? 」

 

ドスの効いたリンさんの怒鳴り声。抗議しようと席を立ったアインハルトさんをリンさんは止めたのだ。流石のアインハルトさんも少し驚き、凄んだリンさんに怯えている。そしてどうして止めるんだとクラスのみんなも私も不思議に思う。しかしリンさんの答えは私達には到底わからない理由だった。

 

「これはもう試合じゃありませんですです。でもだからこそ、私達は手を出しちゃダメですですよ。これはあのクソジジイが売って、陸ちゃんが買ったケンカですです」

 

「ケンカって……これは実戦じゃない、殺し合いとかじゃないんですよ? リンさん、これでお兄さんが死んだら」

「それでも……今の陸ちゃんには必要な事です。それに……大丈夫ですですよ」

 

「え? 」

 

「もしあのクソジジイが陸ちゃんを本気で殺そうとしたら……その瞬間に僕があの首飛ばしてやりますですです」

「っ!? 」

 

リンさんの言葉はそこにいたクラスメイト全員を震え上がらせた。リンさんの笑顔は決して笑っていない。本気の目に渇いた笑顔。その顔で相手の先生を見るリンさんは、恐らく本気で首を飛ばすつもりなのだろう。その所為かはわからないが、リンさんが思いっきり握りしめる手からは握り過ぎて血が出始めていた。拳から血がポタポタと滴る。

 

「ふん……こんなものか。無様だな」

 

 

「あ……ぐっ……がっ!? 」

 

「屑が! 貴様のような屑教師に、この先を勝ち残る資格はない。私はお前の存在を認めない。お前の存在など不愉快だ。このファン・ドラムティ! 初等部5年、学年主任を務めるこの私は! 断じて貴様のような問題教師をのさばらせておくわけにはいかん!!! 2度と立ち上がれないように、ボコボコにのしてくれるわ」

 

この結界の中では相手のファン先生が圧倒的有利だ。お兄さんは動く力を奪われ、ファン先生が作り出すバインドの嵐に捕獲されながら、同じくファン先生の作り出した石つぶてを浴び続ける。正直私はもう見ていられなかった。しかし目をそらす事が私にはできない。

 

「もうやめて……」

 

「やめてよ、先生死んじゃう」

 

「そうだよ……降参でいい。これ以上勝たなくったって……っ!? せ、先生? 」

 

クラスメイトのもういいと言う声。その声は少しざわざわとし始め、フィールドにいるお兄さん達にも聞こえ始める。中には降参という人間も出始めたがその瞬間、お兄さんの視線が私達に刺さった。やめろと言っているように感じるその視線。私達は押し黙ってしまった。

 

「ファン先生、いい加減にしなさい!! 」

 

「これは騎士カリム。いらしてましたか? ですが余計な口出しです。貴方にはそんな権限などない」

 

「このっ……っ!? 何を……やめなさい!? 」

 

どこで見ていたのかカリムさんがシスターシャッハと共に席から立ち上がりファン先生を止める。しかしファン先生はそれでは止まらない、それどころかさらに焚き付けてしまった。十字に磔にされたお兄さん。その上には巨大な岩の塊。何をしようとしているのかはここにいる誰もが理解できた。

 

「これで終わりだ。消えろ! 」

「これ……で……おわ……りなのん? ダメ……だよん。約束……したんだ……よん。みんなで……勝つってん…………」

 

「戯言だ! お前などに生きる資格などない!!! 」

「っ!? 」

 

お兄さんに向けて岩が落下し始める。それを見たリンさんも流石にヤバイと感じたのか動き出そうと身を乗り出すが様子が一変した。

 

「 っ!? バインドですです!? 馬鹿な、一体何の為に誰がですですか!? 」

「リンさん!? 何してるんですか!? リンさん! 」

 

リンさんは間に合わず、お兄さんは容赦なく岩がの下敷きになった。落下した岩は砕けて瓦礫になっている。私は目の前の現実を受け入れられず、きっと何かの間違いだ。お兄さんは無事でいる筈だと祈ったが、その祈りは残酷にも裏切られた。何故なら瓦礫の下から大量の血が広がり始めたからだ。すると当然、クラスメイトも会場のみんなも悲鳴をあげる。

 

「お兄さん!? あ……ああ……いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!? 」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ここは……僕はん? 」

 

「いいのか? これで」

「っ!? また……きちゃったんだねん」

 

「別にいいじゃないか、何度来たって」

 

陸飛が来たのはあの黒い空間。いつも通り、もう1人の陸飛も目の前に立っている。そしていいのかと問われた陸飛は悔しそうに唇を噛み締めた。

 

「お前には守りたいものがあるんだろ? 」

 

「僕はん……で、でも……僕じゃ……」

「勝てないか? 」

 

「っ!? …………」

 

図星をつかれ、陸飛はそれ以上何も言えない。なんて答えたらいいかわからないでいた。しかしそれを無視してもう1人の陸飛は言葉を続ける。

 

「勝てないから諦めるのか? お前を心配している、期待している生徒を裏切るのか? 」

 

「けど、みんなだってもういいって「甘えるな!! 」え…………」

 

「これはもう試合なんて都合のいいお遊びじゃない。お前はわかってるのか? どんな形とは言え、お前はケンカを売られたんだ。そして、それをお前は買った」

 

「僕がん…………」

 

陸飛は驚いたように目の前の陸飛の話を聞く。自分が何をしていたのか。何を勘違いしてまだ試合をしていると思っていたのかを。そしてさらに目の前の陸飛は言葉を続ける。

 

「買ったケンカは最後まで続けろ。そして思い知らせてやれ、お前がただの怠け者じゃないって事を。お前はいい先生だって事をな? 」

 

「……そうだよん……これはん、僕が買ったケンカ。だから……ここからは僕のケンカだん! 」

「いいや、違う」

 

「え? 」

 

「俺達のケンカだ! 」

 

その瞬間、暗闇の空間は強烈な光に照らされ、陸飛は現実に引き戻された。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「お兄さんが……そんなぁ……お兄さん……」

「ヴィヴィオさん!! 」

 

「え? 」

「見て……ください」

 

アインハルトさんの言葉を聞いた瞬間の事だった。騒がしかった会場が静寂に包まれ、代わりに大きな音がフィールドから発せられた。私はそれを見て、思わず流していた涙をさらに増やす。

 

「馬鹿……な…………」

 

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 

その音の正体はお兄さんが瓦礫を吹き飛ばす音。本来瓦礫があった場所から、ゆっくりとお兄さんが血だらけで立ち上がる。私達はお兄さんの無事に喜びを隠せない。しかしお兄さんにおかしな違和感があった。言葉遣いが普通になっているのだ。

 

「貴様……」

「貴方の言う通りだ」

 

「何? 」

 

「僕はダメダメだったよ。でもこれからは頑張ろうと生徒たちと約束したんです。だから、僕がここで負けるわけにはいかない。それに……貴方は僕にケンカを売った」

 

「ケンカだと? ふふ、ははは! 何を言い出すかと思えば、ケンカにすらなっていないぞ? 」

 

「そうですね……けど、ここからは……僕達のケンカだ!!! 」

 

「僕達? ふん、血迷ったかクズが。お前は私にダメージを負わす事すら……っ!? 馬鹿な、私の障壁が!? 何をした!? 」

 

お兄さんは動いていない。しかしファン先生の周りを守っていた魔法障壁がひび割れ、砕けた。ファン先生は驚愕しお兄さんから距離をとると、障壁を貼り直す。だが今の攻撃私もアインハルトさんも何をしたのかまるで見ることができなかった。当然、クラスメイトも同じ。リンさん以外は。

 

「陸……ちゃん? 記憶が戻ったですですか? いや、あの型は違いますですですね。それに……という事は完全ではないのですですか」

 

「陸飛先生は……今何をしたのですか? まるで見えませんでした。ヴィヴィオさんは見えましたか? 」

 

「い、いえ……私も見えませんでした、アインハルトさん」

 

みんなの疑問、それはお兄さんがとった構えで解けた。だがそれは非常識で、どんな技術があれば可能なのか皆目見当がつかないもの。何故ならお兄さんが手にある物は…………

 

「チョーク……だと? 」

 

「この結界は視界にとらえた物の力を奪う。なら貴方のとらえられない速度の攻撃なら関係ない。違いますか? 」

 

「馬鹿な……確かにその通りだが……それと貴様が手に持っているそれと何の関係があるというのだ! 」

 

ファン先生の驚く顔。しかし何人の人間が驚かずにこれを分析して観れるのか。お兄さんのやっている事はもはや常軌を逸している。本来それは武器として使用できるようなものではないのだから。

 

「僕は教師です。だから教師がチョークを武器にして何か不思議な事がありますか? 」

 

「何を世迷言を……」

 

「信じられないなら見せますよ。だがその時は……貴方が負ける時だ」

 

「ぐぅぅっ……ふざけるな!!! 」

 

ファン先生の大きな声。本気で憤慨し、自分の目の前に大きな岩を作るとそれをお兄さん向けて飛ばした。しかしお兄さんはその場を動かない。それどころか何やら構えをし直した。左足と左手を前に突き出し、チョークを持っている右手を後ろに伸ばす。それを見た私は見覚えのあるその構えに思わずある技の名を口ずさんだ。

 

「ペン……技…………」

「ヴィ、ヴィヴィオさん? ペン技ってなんですか? ヴィヴィオさん! 」

 

「石灰砲技(せっかいほうぎ)! 」

「なっ!? ぐぅ……うごぉわぁぁあああああああああああああ!? 」

 

瞬間……大きな岩は砕けて破片とともにファン先生へとはね返る。そしてお兄さんの飛ばしたチョークはファン先生のお腹を射抜くとフィールドの壁までぶっ飛ばし、強く叩きつけた。幸い、投げたのがチョークの為、ファン先生は気絶だけで怪我はない。チョークはそのまま粉々に消え、その粉が霧のようにファン先生の周りを舞う。

 

「貫爆白霧(かんばくはくむ)…………」

 

こうして、試合と呼べない試合は、お兄さんの勝利で終わった。

 

 




《短編・キャロ様劇場》

第5話《おもちゃ》

「うふふ、エリオ君どう? 気持ちいい? 」

「ちょっ……キャロぉ……そ、そこは……うぅ……」
「キャロ!? キャロ!? 何してるの!? やめてよ!? 私のエリオ君なんだから! 」

椅子に固定されたルーテシア。そしてバインドでぐるぐる巻きにされたエリオ。ルーテシアは今、キャロによって顔を赤くして気持ちよさそうにしているエリオを見せつけられていた。ルーテシアはもう涙目である。

「ごめんねルーちゃん。エリオ君の初めて貰っちゃって」
「キャロ! 許さないわよ! キャロ!!! 」

「キャロぉ……ダメ……許して…………」
「だぁ〜め。エリオ君達は私のおもちゃなんだから。ほら、気持ちいいでしょ? 」

「う……あぁ……き、きぃ…………」
「エリオ!? 言ったら許さないからね! 絶対言ったら許さない!!! 」

キャロに好き放題されているエリオはもうどうすればわからずしくしくと泣き始める。そしてそんなエリオの様子にキャロは凄く楽しそうだ。

「さぁ〜エリオ君? 」
「ああっ!? うっ……ひぐっ……えぐっ、えぐっ……気も……気持ちいい……ですぅ…………」

「はい、私の勝ち。ルーちゃん残念」

「いやぁぁぁぁあああああああ!? 私がする筈だったエリオ君の初めてぇぇぇええええ!? うわぁぁあああああああああぁぁぁ…………」


初めて……そう。ルーテシアはキャロにエリオの初めての『耳かき』を奪われた。






to be continued…………





次回もよろしくお願いします。

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