魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」   作:ヘルカイザー

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ども〜

遅くなりました。

皆さん、あけましておめでとうございます!

これからもヘルカイザーの作品をよしなに!

ではよろしくお願いします。


第60話《心の叫び》

それはちょっとした事が引き金のちょっとした事故。でもそれは確実に彼の、エリオさんの心の叫び。

 

「陸飛さん……貴方が戻ってきてから僕の人生暴落続きですよ。キャロにはいいように尻に敷かれるし……ルーにフられるし……ルーにフられるし……ルーにフられるし……ルーにフられるし。そもそも貴方が…………」

 

「え、え〜とん……そんな事言われてもん……それは僕のせいじゃないしん…………」

「貴方以外誰がいるんですか!? ふざけんな……誰の所為で僕がこんな目に……貴方に……貴方にキャロが不機嫌だとどうなるか分かりますか? それで被害にあうのが僕だって分かりますか? 僕はどうすればいいんだ!! 」

 

「い……いやん、そう言われてもん………」

 

「貴方に分かりますか? 僕はいつだって比べられるんですよ? 誰にって顔してますね? 貴方ですよ! いいか! お前と比べられるんだ!! ポテンシャルも、容姿も、性格も!何もかも違うのに比べられるんだ!! どうしてだと思います? キャロの中では貴方が全てなんだ。それ以外何もない。それでも……陸飛さんが死んで……キャロがどんなに悲しんだか僕は知っている。だから……理不尽な八つ当たりは我慢できた……ルーがいたから余計に我慢できた……なのにどうして……どうして貴方が生きているのに状況は悪化してるんだ! 不愉快だ……不愉快だ……ひぐっ……お前が……お前の存在が……貴様の存在が憎い。消えてくださいよ……僕の為に……僕の身勝手な我儘の為に……僕の幸せの為に…………」

 

「ちょっ、言葉がだんだん悪くん、っ!? 」

「消えろぉぉぉぉおおおお!!! 」

 

「ちょっ、エリオさんおちついて!? 」

 

事の発端はルールーにフラれたエリオさんが私、高町ヴィヴィオを含めたみんなで模擬戦をしていた時に起きた。最初、エリオさんはフェイトママを抑えるために戦っていた。しかしその途中、同じく模擬戦に参加していたお兄さんとカストさんが乱入。お兄さんはこっちのチームだったがカストさんは向こうのチームだ。2人の戦いは激しい物で、互いのダメージは負っていないものの、その間に割り込めないほどの物だった。

初めて見たが、カストさんの実力。流石はリンさんと同じ部隊にいただけはあると思い私は関心する。だがそれを見ていたルールーから皮肉まじりに、わざとエリオさんに聞こえるように呟いた一言が最初の状況を作ってしまった。

 

「あーあ……陸兄はかっこいいなぁーエリオとは大違いよねぇー。強くて優しいし、エリオとは違うわよねー。浮気なんかするエリオとはー」

 

勿論、ルールーも本気でそんな事を思っているわけではなかった。その証拠に言い方もほぼ棒読み。ただルールーもフったとは言え、エリオさんが好きなのだ。だからこう言う風に言ってしまうのは仕方ない。しかしそれを聞いたエリオさんは穏やかじゃなかった。何かがキレたように目を見開くと戦ってるフェイトママをはねのけ、真っ直ぐカストさんへと向かう。

 

「あ? 」

 

「すいません……邪魔なので! 」

「ごふぁっ!? (俺……いつも不意打ち喰らってね? )」

 

「……え……カストーーー!? 」

 

カストさんはよっぽど強くぶっ飛ばされたのか近くの建物の中に突っ込みそれから一切音沙汰がない。だがそれも当たり前だ。あのゼロ距離であの出力の魔力を込めた一撃。確かに初めは味方のお兄さんを助けたと思ったのだが、エリオさんはお兄さんに向き合うとストラーダを突きつける。状況的に味方にする行為ではない。しかもその言葉はだんだん悪くなっていき。今の状況を作り出した。ストラーダでお兄さんを攻撃し始め、エリオさんは私の言葉やルールーの言葉、さらには自身の相棒である筈のストラーダの言葉も聞こえていないらしい。

 

「ちょ、ダメだってん!? 」

「うるさい! 消えろ! 消し飛べ!! 消滅しろ!!! 」

 

こうなっては模擬戦どころではない。みんなもエリオさんを止める為に動く。しかしそれは困難を極めた。何故なら今の激昂したエリオさんは無意識でやっているのかみんなのバインドや威嚇の魔力弾を躱し、お兄さんを攻撃する。だがお兄さんは反撃は愚か、怒って言い返す事もしない。

 

「うっ……何ん……頭が」

「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!! 」

 

お兄さんは片手で頭を抱えながらエリオさんの攻撃を躱す。具合の悪そうな顔で。何かに脅えるような顔で。今確実にお兄さん中で何かが起こっていた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「ここ……はん? 」

 

「なんだ? また来たのか? 」

「!? ……あの時の僕? 」

 

陸飛がいるのはいつだか迷い込んだ真っ暗な空間。そこに、あの時の男も立っている。陸飛は驚いたと同時に何かを言いたげだった。

 

「どうした? 」

 

「僕には何ができるのかなん? 」

 

「お前は何がしたい? 」

 

「それは分からないよん」

 

「なら人は好きか? 」

 

「それは……嫌いなわけないよん。だってん……僕も、みんなも人だからん」

 

少し気落ちしたようにそう答える陸飛。だがそんな態度に目の前の男は笑ってみせる。そして喜んだように右足を後ろに下げると右手にボールペンを握った。

 

「な、何!? 」

 

「見極めてみせろ」

 

「え、え? 」

 

「俺が俺自身に優しくしてやるつもりはない。今お前がしなければならないのはお前が考え、お前自身で決める事だ。お前のやりたいようにやれ。お前の道はお前が決めろ! ちなみに……俺ならこうするだろうな? 『気がすむまで、全力で相手をしてやる』とかな? ふふ。行け。そして考え、決断しろ! それがお前の為すべき事だ!!! 」

 

「ひっ!? うわぁぁぁあああ!? 」

 

 

突然放たれた反応できない程のスピードを秘めたボールペン。陸飛は諦めて目をつむった。しかし目が覚めてみるとそこは空のある明るい場所。目の前にはストラーダを構えて攻撃をしているエリオの姿。そして陸飛はそのストラーダをいつの間にか掴んでいた。全く身に覚えのない光景。陸飛は困惑の中一つの答えを出した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「くっ、離せ!? ぐっ、クソっ! 外れない」

 

「僕には何ができるのかは分からないよん。でも……今全力で戦わなきゃいけないのは、分かった!!! 」

「っ!? あがっ!? 」

 

「ちょっ!? お兄さんまで何してるの!? 」

 

みんなの丸くなる目。誰もがそこで固まり反撃しだしたお兄さんを見ていた。たかが拳1発。しかしその威力はその場の空気を慌ただしくさせる物だ。飛ばされたエリオさんも近くの建物ごと倒壊し。お兄さんはさらにそこへ追撃に行く。

 

「つっ……はっ! くっ」

「フン!! 」

 

「ぐっ……はぁぁあああああ!!! 」

 

瓦礫から出てきたエリオさんは拳を振りかぶったお兄さんの攻撃を躱し、大きく振りかぶったストラーダを振り下ろす。でもそれは当然お兄さんには届かない。そうしてヘトヘトになるまで戦う2人。だがそんな時間も終わりを迎えた。

 

「はぁ……はぁ……へへ」

 

「どうかしたのん? 」

 

「いえ……なんかスッキリしました。それにこんなに馬鹿みたいに感情的になったのは久しぶりで」

 

「なら……良かったのかな? 」

 

「はい。ありがとう……ございました。は、はぁ……ふぅ〜。でも、陸飛さんは化け物ですね。なんで僕だけ息上がってるんですか? 正直勝てる気がしない」

 

何を言っているのかは私達には聞こえていない。でもエリオさんの顔はさっきまでの顔ではなかった。憑き物が抜け、清々しい程吹っ切れていた。少し笑い。お兄さんとの立会いを楽しんでいる。

 

「僕は僕が僕である理由がわからないん。けど……みんなは好きだよん? 」

 

「あ……すいません。僕は……」

 

「最後にさぁ〜、思いっきりやろうかん? 1発だけん」

 

「……はい! 」

 

それぞれが構えを取り、向き合う。そして緊張。何か一つでも音が出ればそれが合図となり始まりそうなそんな緊張。だがボロボロのなり、いい笑顔を見せているエリオさんとお兄さんを見て、私の反対側で見ていたルールーは口に手を当てながら泣き始めていた。お兄さんとエリオさんの会話は通信を通してルールーの所には聞こえていたのだ。だから理由としてはそれもあるだろう。

 

「うっ……エリオ……ごめ、っ!? 」

「「はぁぁあああああああああああ!!! 」」

 

ルールーのつい漏らした言葉はその場の緊張を弾けさせた。もはやデバイスすら持たずに拳を握りしめたエリオさん。互いの拳はそれぞれの頬を捉え、相打ちのように見える。しかしそれは一瞬だ。拳で、力でお兄さんにかうなんて事は天地がひっくり返ってもありえない事だろう。と、すれば。結果は決まっている。

 

「ごふぁっ!? 」

「あ……エリオぉぉぉお!? 」

 

エリオさんはお兄さんに殴り飛ばされ、そのまま後ろにぶっ飛ぶ。しかしお兄さんもお兄さんだ。明らかに殴る瞬間、エリオさんの飛ぶ方向を調整した。その証拠に少しずれていた筈のルールーのいる方向へとエリオさんは飛んで行ったのだ。ただ、調整した所為で少し力が入ってしまったらしい。

 

「え、エリオ……」

 

「ルー……ごめん……僕は……まだルー……が、す…………」

「っ!? うっ……えぐっ…………」

 

エリオさんはその一言を言い切れずに気絶。そしてそこから3日間意識が戻らなかった。一方、お兄さんは……

 

「このたわけが!! 」

「ごふっ!? ディアち……何……を」

 

「何をじゃないわ、このうつけが!! 何を一緒になって暴れてるのだおぬし! しかもエリオの奴をあんなにしおって! 少しは加減を覚えんか馬鹿者!! 」

 

模擬戦を外で見ていたディアーチェさんにこっ酷く叱られていた。しかし本人も、今回ばかりは自分が悪いと言うのは少し気に入らないらしく、ディアーチェさんと喧嘩になってしまっていた。

 

「僕は今回は何も悪くないじゃないかん!! ディアちはもう少し周りを見た方がいいじゃないのん!! 」

 

「何を抜かすかこのたわけ! おぬしになど言われたくはないわ! おぬしこそ周りを見ろ!! 一体その性格で何人の人間に迷惑をかけるつもりだ!!! 」

「しょうがないでしょん! 僕だって、好きで……好きで『自分を忘れた』わけじゃないんだよん!!! ……あ……れ?……」

 

「り、陸……? 」

 

「っ!? ち、違……なんでもないん。なんでもないよん」

 

そこで見ていた人間はこの時こう思った筈だ。今のは完全に言ってはいけない言葉だったと。そもそもどうしてお兄さんは言葉遣いも、態度も悪いのか。普通ならそんなものはすぐに直せる。しかしそれは全ての、自分を構築する今までの経験があってこその事。だがお兄さんはその経験を記憶という形で失ってしまっている。だからそれが悪い事かも何も判断が遅いのだ。それにそれで1番辛いのは誰か。お兄さん自身に決まっている。周りが悲しいのと本人が悲しいのではその度合いも質もまるで違う。記憶を、みんなを何もかも覚えていない事の悲しみなど、ここにいる人間には到底理解できない。

 

「陸……そのす、すまない。そんなに……泣く程とは思ってなくて……あ、陸!? 待つのだ陸! 陸…………」

 

お兄さんはどこかへ走り去ってしまった。誰にも見られたくないのだろう。自分の、その事に対する涙を。正直なところ、最近ではお兄さん自身が1番よくわかっているのだ。自分のダメだったところを。だからこそ、お兄さんはそうならないように気をつけている。少しずつでも。

 

 

◇◆◇◆

 

 

森林の方へ走り去った陸飛さん。私は1人、それを追いかける。でも陸飛さんは速くてどこにいるのかもうわからなくなった。しかし私には分かるのだ。私の感がそう言っている。

 

「あ」

 

するとやはり陸飛さんはいた。川の大きな岩に大人には似合わない体育座りをしながらシクシクと泣いていた。本当に記憶がなくなると別人だ。こんなに弱々しい姿は前の陸飛さんにはなかっただろうと思える。しかし今はこれが陸飛さんなのだ。だから私はそっと陸飛さんの後ろにいき優しく陸飛さんを抱きしめる。

 

「え? 」

「いいじゃないですか。迷惑、かけてください。私にならいくら迷惑かけても構いません。陸飛さんが落ち着くまで、いくらでもかけていいですよ? 」

 

「君は……どうしていつも僕の事気にかけてくれるのん? 僕は……君の事全然覚えてないんだよん? 」

 

そんな事を言う陸飛さんに私は少し微笑み、抱きしめる力を少しだけ強くする。私が笑っているのは陸飛さんには見えない。けど私は今あげられる精一杯の愛情を陸飛さんに伝えたかった。

 

「好きだから……それじゃダメですか? 陸飛さんが私を覚えていなくても、私は覚えています。陸飛さんがくれた優しさと言葉。いっぱい助けてくれた事も」

 

「で、でも……」

「あ、勘違いしないでくださいね? 」

 

「ええん? 」

 

「私の好きは、みんなが好きの好きじゃありません。陸飛さんを愛してるの好きです。だからいくらでも、これでもかと言うくらい。私には迷惑をかけてください。でも……その代わり、もう……私の前からいなくならないで……下さい」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「さぁ! とうとう始まったわよ! みんな? 気合い入れて勝ちにいくわよ!! 」

 

『おー! 』

 

合宿が終わり帰ってきた私達は、学校行事の全学年対抗のクラス戦に燃えていた。そしてそれが今日この日。

 

「さ〜さ〜お兄さんも! 」

 

「う、うん……」

「早く行くよ? ヴィヴィオのお兄さん! 」

 

「行こ行こ! 」

 

お兄さんの手を取り、リオとコロナも一緒に手を取りクラスみんなの円陣に加える。団結し、クラスみんなでの勝利を得るために。

 

「勝つのは私達だ! さぁ〜いくよ! 勝つぞ!! 」

 

『勝つぞ!!! 』

 

最初私達のクラスは順調に白星を刻んでいっていた。だが途中幾つか負けもあり、残るはお兄さん達先生同士による模擬戦。もちろんこれに勝てば優勝できるというものでもないが、他のクラスと差はここが1番大きく左右する。しかも私達はお兄さんが負ければ優勝のチャンスなどないギリギリの状況だった。やはり上級生の壁は高い。だから私達はみんなで必死に応援する。しかし、そんな私達の願いは……応援は……途中トーナメント3回戦で危うくなり、みんなからはもう一言の言葉も出ない。

 

「あ……ぐっ……がっ!? 」

 

「屑が! 貴様のような屑教師に、この先を勝ち残る資格はない。私はお前の存在を認めない。お前の存在など不愉快だ。このファン・ドラムティ! 初等部5年、学年主任を務めるこの私は! 断じて貴様のような問題教師をのさばらせておくわけにはいかん!!! 2度と立ち上がれないように、ボコボコにのしてくれるわ」

 

模擬戦に使われるフィールドを囲うファン先生の結界。お兄さんは動く事も出来ずにただ攻撃を受け続けていた。これを誰もが思うだろう。こんなのは模擬戦ではない。これは……ただの公開処刑でしかないという事を。

 

「これで終わりだ。消えろ! 」

「これ……で……おわ……りなのん? ダメ……だよん。約束……したんだ……よん。みんなで……勝つってん…………」

 

「戯言だ! お前などに生きる資格などない!!! 」

「っ!? 」

 

「お兄さん!? あ……ああ……いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!? 」

 

ファン先生によって作り出された光る特殊バインドの十字架。それに磔にされたお兄さんは、真上に創り出された巨大な岩に押し潰された。

 




《短編・よかったね、エリオくん劇場》

1話完結《言葉を遮るくちづけ》

「うっ……あれ? 」

エリオは気がつくと見覚えのある天井を見ていた。それはルーテシアの部屋の天井だ。彼女の部屋の天井は独特ですぐわかるもの。そしてエリオが横を見ると涙目でホッとしているルーテシアがいた。

「エリ……オ……」

「る、ルー? 」
「エリオ!! 」

ルーテシアは我慢できずにエリオに飛びついた。2人でベットに倒れ、互いに見つめ合う。

「ルーごめん。僕……ん!? 」

何も言わずにエリオの口を塞いだのはルーテシアの唇。ルーテシアも当然したことのない熱いキスをエリオにした。当然エリオもそんな物を受けたことはない。互いが、エリオの叫びが届いた瞬間だった。

「ルー? 」

「ごめん……ね? 全部キャロが話してくれたの。全部誤解だったんでしょ? それなのに……私……私……んっ!? 」

今度はルーテシアの唇がエリオのそれで塞がれた。ルーテシアの顔はトロンとなり、そのキスに身をゆだねる。2人は晴れて、今まで通りに戻ったのだった。

しかしその部屋。ドアの外では…………


「よかったね、エリオくん? ふふふ…………」

キャロが悪い笑みを浮かべていたのだった。


よかったね、エリオくん(劇場)…………完

↑この意味、お分かり頂けるだろうか…………








次回もよろしくお願いします。

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