魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」   作:ヘルカイザー

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ども〜

遅くなりました。

ではよろしくお願いします。


第56話《スタート》

「ねぇヴィヴィオ? お兄さん大丈夫だったの? 」

 

「うん……とりあえず、命に別状はないって」

 

今日、教室は殺伐とした雰囲気に見舞われている。それは昨日、みんながお兄さんを病院送りにしたからだ。しかしみんなは後悔していた。その証拠に、朝私が学校に来るとみんなは私に謝ってきた。みんなはお兄さんが本当の兄でない事を知らない。正直私に謝られても困るのだ。本当に謝らなきゃいけないのはお兄さんにだ。だがお兄さんは当然今日は学校には来ていない。と言うより来れるわけがない。何故ならお兄さんは今頃病院のベッドの上。だからみんなも謝りたくても謝れない。そして自分達がやってしまった事の重さを痛感していた。するとそんな時だった。自習の教室に誰かが飛び込んで来たのだ。その子は少し小さくウェーブのかかった長い金髪の子。あと、後から小さい頃のなのはママ達の写真でしか見た事がないがその頃のなのはママ達にそっくりな三人が教室へと入ってきた。しかも息を切らせて慌ててる様子。

 

「ディアーチェ、いない!? 陸がいないです!? 」

 

「そんな筈はない!? 我らより先に出た筈ではないか!? まさか……」

「ディアーチェ、陸飛はどこかで倒れたのでは…………」

 

「す、すいません! 貴方達は誰なんですか? と言うか今陸飛って……お兄さんの知り合いですか? 」

 

「我らは陸の家族だ」

 

「家……族? ですか? 」

 

お兄さんの家族、それを聞いて私は少し混乱した。そんな話は聞いたことがなかったからだ。昔聞いた話はお兄さんの家族はいないという話。だからそう聞いて私は少し驚いた。だが私達はこの人達からもっと大変な事を聞かされた。今朝お兄さんが病院から抜け出したと言うのだ。しかもそれが私達との授業をするという約束を守る為だと言う。クラスのみんなは驚き、お兄さんを心配し始めた。何故ならこの人達より早く出た筈のお兄さんがまだ教室についていない。つまりここへ来る途中で怪我が悪化、倒れた可能性があるからだ。しかしそれを確かめる事が私達にはできない。探そうにも場所の見当がつかないのだ。

 

「お兄さん…………」

「呼ん……だん? 」

 

「え? っ!? お兄さん!? それに……ギンガさんにキャロさんも…………」

 

「きゃっ!? そ、そんな……り、陸、どうしたんですかその怪我!? 」

 

「お主ら……何があったのだ? 一体何があったのだ!? どうして陸が血まみれになっている!? 」

 

ギンガさんから軽い説明を受けた。一言……通り魔に襲われたと。だがお兄さんはそんな事は関係ないと言わんばかりにギンガさんやキャロさんの手を離れ、フラフラと教卓の前に立つ。そして次の瞬間、お兄さんは頭を教卓に振り下ろすかの如く打ち付けた。当然教室はその音で響き渡る。

 

「みんな……ごめんなさい! ちょっと不真面目過ぎましたん……今、そしてこれからも、皆さんが卒業するまで……ちゃんと授業します。それをここで僕はクラスのみんなに約束します。だから僕を許してくれませんか? 僕を……このクラスの担任でいさせてくれませんか? 」

 

クラス全員が面を食らったように固まり、やがて一人のクラスメイトが口を開いた。しかしそれは罵倒でもなんでもない。クラスを代表してのみんなの心の声。お兄さんが来てからみんなで話そうと決めていた事。

 

「先生……ううん、陸飛先生! 二つ約束してくれませんか? 」

 

「約束ん……何かなん? 」

 

「一つ! 今日はもういいです。先生の誠意は伝わりました。だから陸飛先生の怪我が治ってから改めて授業してください」

「え……」

 

「二つ! 今年行われる年一回の学校行事、St.ヒルデ全学年のクラス対抗戦です。私達のクラスはそれに勝ちたいと思ってます。だから陸飛先生も一緒に戦ってください。その大会でクラスの得点を大きく左右するのは担任の先生同士で行われるトーナメント方式の模擬戦です。先生にはそれにできる限り勝って貰いたいんです! 私達の担任でいて頂けるのなら、お願いします! 」

 

「も、勿論いいよん!? というかん……担任でいて頂けるなんて言わないでん? 元々は僕の不真面目が原因だしん…………」

「陸飛先生! 」

 

「え? 」

 

『昨日はやり過ぎました、本当にすいませんでした! 』

 

クラス全員が起立し、一斉に頭を下げる。お兄さんが先に謝ってくれたのだ、だから私達が謝らないわけには行かない。でもその後は自然にみんなの顔は笑顔になる。これでわだかまりはなくなった。お兄さんも安心したのかいつもの笑顔と雰囲気に戻る。私達のクラスはやっと今日が始まりだ。少し遅いスタートだがこれはこれでいい思い出になったと私達は思う。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「いらっしゃいませ! なんだ、あんたかよ」

「その言い方凄いひっかかるんだけど!? 私が来たら嫌なの!? 」

 

「嫌じゃねぇ〜けど……どうせまた歩けなくなるまで飲むんだろう? その度に送っていく俺の身にもなってくれ」

 

「うっ……それは悪いと思ってる。で、でも私は君に送って欲しいんだよ!? 」

「なんだ、わざとか!? 何の為にそんな嫌がらせするんだ!? 」

 

「違うよ!? 私は君が好きだって何度言えば分かってくれるの!! 」

 

私はいつも通りカストの経営するバーに足を踏み入れた。ただカストは私が来ると呆れた顔をするので少し気に入らない。もう少し愛想よくしてくれてもいい筈だ。何せもうここの常連さんなのだから。そして私はカストとの軽い言い合いの最中、これもいつも通り私の気持ちを言葉に乗せる。でもどうせカストはいつも「隙などない」とか言い始めるに違いないと私は思っていたのだ。しかし今日はどういう訳か違っていた。突然の事で私も戸惑う。

 

「好き? お前が俺を? マジ? 」

 

「……う、うん! 好き、だから私と付き合って! 」

 

「……悪い。それは出来ない」

 

「……そ、そそそうだよね、ごめん……私……ぐすっ……帰る…………」

「え、おい……って、ちょっと待て!? どさくさに紛れてワイン持っていくな!? 」

 

私はふられたショックで店を出る。もう泣かずにはいられなかった。だから出る瞬間にカウンターに置いてあったワインを瓶ごと掴み取る。そして家へと走りながらそのワインをラッパ飲みした。もう自分を癒してくれるのはお酒だけだ。何もかもを忘れ、酔っ払いたかった。

 

「たらいま〜ひくっ!? ……ののは〜? 」

 

どこをどう走って来たかは覚えていない。ただ途中でソニックムーブやらなんやらを使ったような気がするが覚えていない。私は家に着いた後なのはを探した。慰めて欲しかった。温もりが欲しかった。ただそれだけだ。自分自身は酔っ払い、何をしていると言う自覚はないが恐らくろくな事をしていないのだろう。

 

「すぅ……すぅ…………」

 

「ののは〜寝ちゃっらの? うっ……ののは〜!? 」

「ごふっ!? 」

 

「げほっ、げほっ!? 何!? ってフェイトちゃん!? どうし、酒臭!? ちょっとフェイトちゃんやめて、そんなに締めたらっ!? ぐ、苦しいぃ…………」

 

「ののは〜私ふられたんらよ〜、もうダメ。私にはののはしかいらいんらよ!? 」

「フェイトぉぉ……ぢゃん゛……死んじゃう゛!? 死んじゃうよぉぉ……っ!? え……フェ、フェイトちゃん? ちょっん!? んーっ!? んんー! んんむっ!? ぷはっ!? フェイんむ……ん……んむっ……んん…………」

 

私はなのはを襲った。どんな意味かは控えておく。ただその途中で目の前がピンク色に光った気がしたがそれ以降、気を失った為何も覚えていない。そして翌朝、なのはは怒っていた。何故なら私の朝ご飯だけ小さなお魚一個。他は何も出してくれない。ヴィヴィオは当然、隣で目を丸くしている。

だから私はヴィヴィオの前だろうが御構い無しになのはに土下座をした。怒ってるのにニコニコしているなのはが怖かったのだ。それから何度か謝り、やっと許してくれたがお酒は禁止された。

 

「い、行ってきます……ん? え……何……してるのカスト? 」

 

「ふわぁ〜。……何だと? 俺の所為でお前が泣いたんだろうが。その……き、気になっただけだ」

 

私が仕事に行こうとした時、玄関の外で仕事着のまま座っているカストを見つけた。聞けば私が出て行ってからずっと後を追いかけ、途中で私が意味もなくソニックムーブを発動して帰った為追いつくことが出来なかったというのだ。そして現在、彼は私の出てくるのを待っていた。確かに夜中にインターホンを鳴らすのは迷惑だ。しかしだからといって一晩中家の外で待っている事はないと思う。

 

「心配……してくれたの? ふふ、そんな訳ないよね……カスんっ!? 」

 

それは突然だった。私が落ち込み気味で自分にマイナスな事を言おうとした時、カストは大胆にもそれを黙らせるように自分のそれで私の唇を塞いだ。

少し乱暴だったが私は嬉しかった。彼の答えを聞かなくても気持ちが伝わってくるようだったからだ。

 

「……カスト」

 

「こ、これで答えはいいだろう? いや……こういう場合は言わないと失礼なのか? あ゛あ゛〜もう!? ……たくっ……悪い……経験ないもんだ。というか昨日は悪かった。俺はあまり出来のいい人間じゃないからよ、あんたみたいな美人さんには釣り合わないと思ったんだ。ただ……あんたに泣かれた時、泣いて欲しくないと思った。それは多分、あんたに少なからず惹かれていたからだと思うんだ。だから今はそれしか言えない。それじゃ〜不満か? 」

 

「ううん、今はそれでもいい……かな」

 

「そっか……それじゃコレ! 」

「へ? ……これって……え!? 何これ!? 」

 

「何って……あんたが昨日持っていったワインの領収書だが? 普通の奴だったらサービスしてやってもいいんだが、あんたが飲んじまったそいつは……なぁ? 」

 

カストから渡された領収書と言う紙切れ、しかしその内容を見て私は驚く。何故なら私が持っていったのは100万の白ワインだったのだ。私は紙切れとカストを交互に見ながら顔を引きつらせる。

払えなくはない、ただワインで100万と言うのには抵抗があり、それだけなのだが、やむなくお支払いはするハメになった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「陸ぅ〜リンゴです、あ〜んしてください。あ〜ん? 」

 

「ユリち、自分で食べられるよん」

「あ〜ん! 」

 

「だからユリち……」

 

「むぅ〜……」

 

私は今、陸のお見舞いに来ている。でも他のみんなはいない。今日は私一人だ。リンゴを剥き、陸の口元に運ぶ。しかし陸は自分で食べられると食べてくれない。だから私は頬を膨らませてふてくされた。それに対して陸は困った顔をしている。そんな時、病室のドアが勢いよく開けられた。けど病室なのだからもう少し静かにするべきだと思う。

 

「陸さん、お見舞いに来ましたよ! 」

「よよよ〜……ユリち僕この人怖いん…………」

 

「あ、この間はどうもありがとうございました。陸を助けていただいて。私はユーリと申します」

 

「貴方可愛いわね。私はギンガ・ナカジマっていいます。よろしくね? あれ、それリンゴ? 」

 

「はい。でも陸、あ〜んしても食べてくれないんです……」

 

「あ〜なるほどね。でも大丈夫よ? 陸さんに食べさせるにはコツがいるの。貸して? ふふ、こうするのよ? フンっ!! 」

 

「ちょっ、ごふっ!? 」

「あーん! 」

「むぐっ!? んんっ!? うっ、おえっ!? 」

 

そう言うと私が手にしていたリンゴを手に取り、一体何を始めるつもりなのかと私は思った。するとリンゴを持っていない方の手で突然陸のお腹に拳を叩き込み、思わず開いた口にリンゴをねじ込む。だが陸はそれで息もできず、さっきの一撃が効いたのか、戻してはいけない物まで胃から逆流してしまった。

 

「もう〜陸さんダメですよ、ちゃんと食べないと」

「突然陸に何をするんですか!? 」

 

「何ってあ〜んよ? あ〜ん。ちょっと……優しすぎたかしら? 」

「何処がですか!? むしろ過激すぎます!? 」

 

「そう? 昔の陸さんはこれで食べてくれたのになぁ〜」

 

「あわわ……昔の陸が可哀想です…………」

 

私は笑ってそんな事を言ってのけるこの人に恐怖を覚える。そして確実に敵なのだと思った。何故ならこの人が陸を見る目は普通じゃない。愛おしい人を見る目、そしてその奥に別の何かを秘めている。それが何かは私には分からない。だがこれだけは言える、負けたくなかった。

 

「陸、私のも食べてください! はい、あ〜ん! 」

「ユリち……僕今気持ち悪い」

 

「あーん!! 」

「お、およよ…………」

 

陸は顔を青くしながら私のリンゴを食べる。今考えれば酷い事をしていると思うのだが、私は歯止めが効かなくなっていた。陸を取られたくない、ただそれだけの気持ちが先行し、陸にリンゴを突き出す。しかし陸も陸で涙目の私に気を使っているのか、次々にリンゴを食べてくれた。だが陸の様子は見ただけでおかしいと分かる。何故なら顔は真っ青で、変な汗もかきはじめているからだ。

 

「陸さん具合悪いんですか? ふふ、それじゃ私が看病してあげますよ! はぁ〜弱ってる陸さん素敵」

「ダメです、陸は私の家族ですよ! 私が面倒みるんです! 」

 

「き、気持ち悪いよん……うぷっ…………」

 

私とギンガさんが言い合いを始め、陸は完全に放置状態。口元を押さえて苦しそうにしている。しかし私やギンガさんはそれには気づいてあげられなかった。するとその時、病室のドアが開くと二人の人間が部屋へと入ってきた。そして気持ち悪そうにしている陸に気づいた二人は私達を押し退けて陸に詰め寄る。

 

「陸!? どうしたのだ!? 」

「大丈夫ですか陸飛さん!? ……気持ち悪そうですね、立てますか陸飛さん? 」

 

「う、うん……うぷっ」

「陸もう少し我慢しろ、部屋を出たらすぐ流しだからな? 」

 

部屋に入ってきたのはディアーチェとこの間ギンガさんと陸を助けてくれたピンク髪の女の子。そして私達は二人の対応の早さを突っ立って見ていた。二人で陸を支え、外の流しの方へと連れて行く。しかもあまり陸に衝撃を与えないようにゆっくりと手慣れた動きで。私達はもうこの時点で2人に負けているのだと、ギンガさんと2人で顔を見合わせるのだった。




《短編・キャロ様劇場》

【第1話 陸飛が出て行った後の教室で】

「ヴィヴィオ、お兄さん早く元気になるといいね? 」
「うん! ……あれ? キャロさん? どうしたんで……なっ!? 」

陸飛達が出て行った後、教室でヴィヴィオのクラスメイト達は安堵していた。しかし一人だけ帰らずに残っていたのだ。それはキャロだ。そしてクラス全員をアルケミックチェーンで捕縛し、机ごと固定する。ヴィヴィオ以外の全員は困惑しているがヴィヴィオは顔を真っ青にし冷や汗をダラダラと流していた。ヴィヴィオには事の重大さが分かっていた。今自分が、自分達が誰を怒らせたのかという事である。

「ふふ、それじゃ〜……私が代わりに特別授業を始めますね? 今日は骨の髄までしっかり教えてあげますよ? 後悔という……言葉を……ね? ふふふ……」

その後……そこで何が起こったかは、誰も思い出したくないと言う。







次回もよろしくお願いします。

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