魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」   作:ヘルカイザー

55 / 76
ども〜

遅くなりやした!

ではよろしくお願いします。


第55話《イレギュラー》

「はぁ……はぁ……ぐっ!? あやや……しんどいなん……でもん、自業自得だよねん。間に合って……下さいなん。……およ? 誰ん? 」

 

「ふひひ、久しぶりねぇ? 剛殺のボールペン? 元気そうじゃない、そんなにボロボロで? ふひひ」

 

「何を言ってるのか分からないよん? と言うか君誰? 今君に構ってる暇はないんだよん。だからそこを通してくれるかなん? 」

 

「あら? そんな冷たい事言わないでちょうだいな。貴方と私の仲じゃない? ふふふ、その様子だと思い出してはいないみたいね? 安心したわ? 本当は貴方の様子を見に来るだけのつもりだったのだけど……頑張ってどこかに行こうとしてる貴方を見ていたらゾクゾクしてきちゃった。ここで貴方を歩けなくしたらどんな顔をしてく・れ・る・の・か・し・ら? あふふ……ひひひひ、あっははははは!! 喰らいなさい? 紙技……折り紙……《鶴の折り方》!!! 」

「っ!? ぐふっ!? あ……が…………」

 

僕は病院を抜け出し、学校へと向かった。しかしその道中、見覚えのない女性に行く手を阻まれた。突然攻撃を受け、僕は怪我の痛みで避ける事が出来なかった。目の前で高速に織り込まれて出来た鶴の形をした紙。それが僕のお腹へと突撃した。でも本来なら紙程度で痛みなどある筈はない。だがこの紙は恐ろしく硬く、今の一撃で完全に僕の傷口は開いた。僕は膝をつき、息を荒くする。僕は呼吸がまともに出来なかった。しかし倒れるわけには行かない。僕は約束を守る為にここまで歩いた。なら、最後まで突き通すのが正しい事。怪我をしているいないは関係ない。重要なのは約束を守るか、守らないかだ。

僕はガクガクと震える膝を手で押さえ、やっとの思いで立ち上がる。

 

「ははっ! 貴方……本当に凄いわ〜? 実は私、男は嫌いなの。暑苦しいし、いやらしいし、本当にケダモノだわ。でもねぇ〜貴方は好きよ? 貴方には男と言う事を差し引いてもとても魅力的な部分がある。それは希望。どんな事があっても諦めずにその目はいつまでも輝いている。私はその目が好き。その目を……黒く、黒く、黒く、真っ黒に染めたいの! だから楽しさのあまり殺してしまったらごめんなさいね? 」

 

「行く……んだ……学校に……行かな……きゃ……あ…………(動けない……あ、足が動かないよん…………)」

 

「さぁ〜見せて頂戴な? 貴方のその目が絶望に染まるその時を! 」

「ぐっ……ディアち……ごめんよん。約束破ってん…………」

 

「紙技……紙刺し……《九紙突》!!!」

 

9つの紙の先端が尖り、僕の方へと照準を合わせる。諦めてはいないが僕の足はガクガクと震え、一歩たりとも前に踏み出す事が出来ない。こんな事ならディアちの言う事を聞いて病院で寝ていれば良かったと思わなくもないが後悔だけはしたくない。この選択が間違っていたと思いたくなかったのだ。でもこの攻撃は躱せない。そんな力は今の僕には残ってない。今射出されたこの軌道だと確実に急所を抉られる。だから僕は静かに目を閉じた。折れてしまったのだ。無理だと。そして僕が目を閉じて見えたのは走馬灯。ディアち達、それに……誰だか分からないが僕に笑いかけてくれるピンク髪の女の子。僕は知らない。この子を知らないのだ。では何故こんなにもはっきりと脳裏に浮かぶのか。どうしてこんなにも愛おしいのか。そう思った瞬間、僕はまだ終わってはいけない気がした。でもどうすればいいのか分からない。僕はどうすればいいのか。どうあるべきなのか。僕は一体……誰なのか……………

 

ーー信じろよ。お前は今一人じゃないーー

「っ!? ……お前……は……ぐっ、どこまでも……どこまでも私の邪魔をするか竜召喚士!! 」

 

「今の……僕の声? え……君は……誰ん? 」

 

「陸飛さん。本当に生きて……良かったぁ…………」

 

刹那、頭の中で確かに聞こえた自分の声。するとガチャリという音と共に僕の前に女の子がいた。その子はピンク髪のさっき頭に浮かんできたその人だった。でも誰かは分からない。

そしてその子の魔法だろうか、至る所から魔法陣が展開され、そこから鎖が飛び出している。9つの紙を鎖で捕獲しているのだ。

 

「キャロ、大丈夫!? あ……陸飛さん…………」

 

「エリオ君? 邪魔だよ? 分かるでしょ? 今感動の再会だよ? 早くあいつの相手して来て」

 

「え……いや……一人で? 」

「当然でしょ? エリオ君はいつもルーちゃんとイチャイチャしてるんだから今度は私の番だよ。ほら早く! 」

 

「う、うん…………」

 

そう言われた赤い髪の男の子は髪使いの女の方へと向かい、戦闘が始まった。しかし目の前の女の子はそっちの方を見る事もなく僕の心配をしてくれる。これでは少しあの男の子が不憫だ。しかも明らかに実力は相手の方が上。上手く凌いでいるがそれでも時間問題。このままではやられてしまう。その証拠にその男の子は必死でこの子に手伝いを求めている。

 

「キャロ!? ちょっ!? 手伝って!? 」

「陸飛さん? 私の事覚えてないんですよね? 」

 

「ごめん……覚えてないん…………」

 

「キャロってば!? 」

「あはは、大丈夫ですよ? 少し悲しいけど……陸飛さんの方が苦しいですもんね? 私待ってますから、いくらでも。陸飛さんが思い出すその時まで。だから、ゆっくりでいいから思い出してくださいね? 」

 

彼女の笑顔は僕に優しく溶ける。どうしてこの子を知らない僕はこんなにも嬉しいのだろうか。いや、分かっているんだ。彼女は記憶がなくなる前に僕が守っていた人の1人だと。でも分からない。思い出せないのだ。思い出そうとしても頭が痛くなるだけで何もない。

彼女の事は確かに気になる。しかし今はそれよりも彼の方が心配だ。

 

「う、うん……ありがとん……と言うかん、いいの? 物凄く辛そうだけどん? 」

 

「え? ああ〜いいんですよ。エリオ君は少し痛い目にあった方がいいんです」

「キャロ!? 酷いよ!? 僕が何したの!? 」

 

「はぁ……エリオ君? もう少し……頑張る? 」

 

「え!? が、頑張らないよ!? 」

「違うでしょ? 」

 

「い、いやすいませんでした!? お願いだから手伝って!? 」

 

なんとなくだが彼は彼女に頭があがらないらしい事はわかった。でもそう思うとさらに彼が不憫に感じる。するとようやく彼女は僕から離れ、彼の応援に向かう。そしてそれに気づいた相手は赤い髪の男の子への攻撃をやめ、ピンク髪の子へと視線を向ける。

 

「やっとやる気になったのかしら? でも正直不愉快だわ。貴方はどうしていつもいつも私の楽しみを邪魔するの? いえ、どうして邪魔できるのかしら? ちっ、言ったところで理解などできるわけないのだけどね」

 

「貴方の言ってる事はよく分かりませんが……不愉快なのは私の方ですよ? 私の陸飛さんに手を出してただで済むと思ってるんですか? 」

 

「!? ……ふ、ふふ……凄むじゃない? 貴方にもそんなドス黒い物を表に出せたのね? 今まで見た事なかったわ? でも無駄よ? 貴方は私には何度やっても歯が立たない。それは繰り返した時が証明してるわ? とは言え、これまでどんな形であろうと私の魔力を暴発させて私の計画を台無しにしてくれたのも事実。だから今回で終わりにするわ? 貴方に邪魔をされるのも最後。ふひひ、だって……運が良くも悪くも今ここで貴方に会えたのだからね!!! 」

 

「あ、危ない!? え、何ん? 」

「大丈夫ですよ陸飛さん。今のキャロは、強いですよ? 僕なんかより」

 

ポンっと僕の肩に赤い髪の男の子が手を乗せる。そして大丈夫と自信満々の顔で言うのだ。しかし僕は安心できない。今あの女の子には30以上はあろうと紙が尖り、あの子へと向かう。とても躱せる数じゃない。ましてやあの子にそこまでの身体能力があるとも思えなかったのだ。だがそう思った瞬間、尖り、ピンク髪の子を突き刺そうとしていた紙は一斉にその子の目の前で活動を停止した。

 

「な!? また……鎖ですってぇぇ。馬鹿な、この数を一度に…………」

 

「今……何かしました? 」

「ぐっ……なんですってこの小娘ぇぇ……ナメるんじゃないわよ!? 紙技……連紙突……《三重紙》!!! 」

 

相手は憤慨し、一枚の尖らせた紙を物凄い速さでピンク髪の子に打ち込んでいく。正直、目で捉えるのがやっとのレベル。しかし僕は目を疑った。あのスピードの突き技を全て見切ってあの子はいなしている。掠りもしていなかった。しかもあの構えと身のこなしは一朝一夕で修得できる物じゃない。聞けば我流だと言うが、我流とは言えないほどの技の完成度だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? こんな事ある筈がない!? 私が全力でないとは言え、一撃も与える事が出来ないなど!? ……お前は誰だ。誰だ!? 本当にあの竜召喚士なのか!? 何故だ……どうして今まで変わらなかった世界が……ここに来て大きく変わっている!! 何が原因だ……なんだ……なんだと言うのだ…………」

 

「はぁ……遅いですね? 」

「なんです……って? 」

 

「遅いと言ったんですよ? 聞こえませんでしたか? 今の貴方はなのはさんやギンガさんと同じレベルかそれ以下。なら私には勝てませんよ? どうしてだと思います? 」

 

「へ……へははっ! 知るかクソガキ!? ふざけるな!!! ……っ!? な……に…………」

「今の現状で、この世にアルカンシェルを除いた、本気のギンガさんが放った拳を上回る威力の攻撃や防御魔法など存在しません。なら……その拳の威力を完全に殺して無効化できる私にはどんな攻撃も通用しないという事です! 愛気竜流し(あいきりゅうながし)……《愛竜返却》!!! 」

 

「あがっ!? ……あ、ぐっ…………」

 

彼女は相手が放った後ろからの攻撃、つまり死角からの攻撃を察知し、それを躱したそしてそのままその攻撃を掴みとその威力を殺さずにそのまま相手の右肩へと突き刺した。そしてその反動で相手は後ろへと転がる。

僕は見惚れた。見事な技。彼女はまさに攻撃を受けるスペシャリストだ。でもこの時、彼女の話を聞いて僕は思った。あのギンガという子が本気で拳を放つと人が死ぬんだ? という事である。この世にあの子以上の攻撃力はないと言っているようなものだ。それは流石に信じがたい事実。

 

「ぐぅぅ……ぐっ!? ひ、ひひ……ひひゃひひ……こんなもんか……残念だわ? 言いように言わせてやらせてあげればこの程度しかダメージ与えられないの? せっかく殺すチャンスをあげたのに? ふひ? 」

 

「強がりですか? 貴方の……っ!? え……」

「どうしたの? ふひひ……気がつかなかった? 貴方の首にはずっと私の紙が巻きついていたのよ? ひゃひひ! これをこうするとどうなるのかしら? 」

 

そう言うと相手はその紙を思いっきり引き、それに連動して彼女の首が締まる。彼女の顔色は一気に青くなり、自分の首に両手を当てがう。僕はマズイと思った。このままでは相手はどうにでも彼女を料理できる。

 

「うぐっ!? く、苦しい…………」

「死ぬ? それとも苦しむ? どっちがいいのかしら? 自分で決めさせてあげるわよ? さぁ〜選びなさい? 」

 

「あ゛ぐぁ!? かっ……うわぁぁ……」

 

「あらあら? 喋る事も出来ないの? 可哀想にねぇ? ふひひ、あひゃひゃ! ちょっとしたイレギュラーが起こったからどんな感じかと思って乗ってあげれば……はぁ……もういいわ? 死ね」

「かひゅっ……ふ……ふ。や、やっぱり……かはっ ……お……そ……い……んですよ………… 」

 

「? ……っ!? 何!? 」

「愛・殺・拳……《愛殺情砕拳》!!! 」

 

「馬鹿な!? いつの間に!? シールドを……なっ!? ぐぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああああ!? 」

 

突如として相手の後ろからあの時僕に拳を叩き込んだギンガと言う子が物凄い形相で拳を上から下へと振り下ろした。すると相手が張ったシールドを砕き、減速する事なく相手へと拳が直撃した。そしてその瞬間、まるで爆発でも起こったかのように辺りは大きな音と地面を破壊した埃で包まれる。

 

「キャロ大丈夫!? 」

 

「けほっ、けほっ……は、はい。助かりましたギンガさん。それより敵は? 」

 

「残念だけど、逃げたわ。あれを喰らって動けるのは大したものよ? 」

「ですね。あの技はなのはさんの収束砲撃の軽く2倍はあるでしょうから」

 

埃が晴れ、辺りの様子が見えるようになった。でもギンガって子の攻撃で出来たクレーターの中に相手はいない。どうやら逃げたようだ。彼女達も大した怪我はないようで僕は安心した。元々は僕の事を助けて始まってしまった戦いだ。だから怪我なんてして欲しくなかった。

 

「陸飛さん大丈夫ですか? 早く病院に」

「待ってん!? 」

 

「え? 」

 

「助けてくれてありがとん。でもお願い……僕を……学校に行かせて……ください! 」

「陸さんダメよ? その怪我じゃ大事になるかもしれないわ。大人しく病院に行きましょう? 」

 

「お願いん……生徒のみんなと約束したんだよん……だから!? お願い! 」

「分かりました」

 

「え!? キャロ正気? 」

 

「正気ですよギンガさん。怪我は勿論心配ですけど……陸飛さんの決意とその約束を尊重しないと。身体より信念。それが陸飛さんでしょ? ね、ギンガさん? 」

 

「はぁ……負けたわ。本当、ズルいわよねキャロ? ……本当に敵わないわ…………」

 

「ありがとん」

 

ここにいる人達はいい人ばかりだ。だから本当に思うのだ。記憶を無くす前の僕は一体どんな人間で、この人達にどう接していたのかを。そしてその後だが最初は1人で歩いて行こうとした僕だ。しかし学校に行かせる条件として自分達も手を貸すと、ピンク髪の子が言ってくれた。だから僕は彼女に肩を借り、学校へと歩く。まだ間に合う事を祈って…………

 

 




次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。