魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」   作:ヘルカイザー

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ども〜

ではよろしくお願いします。


第54話《大事件》

「陸!? 何ですかこれ!? どうしたんですか!? 大丈夫なんですか!? 」

 

「ちょっと落ち着けユーリ。陸、本当にどうしたのだ? この痣はちょっと転んだとかぶつけたとかの痣ではないぞ? 車のでも跳ねられたのか? 」

 

「う〜ん……別になんでもないよん? ちょいと……殴られただけん」

「殴られた!? 誰にですか!? 許しません!? その方はどこにいるんですか? 私が殺してきます!!! ……シュテル? 」

 

「ユーリ、私も行きます! 二人で塵芥にしましょう……いえ、チリも残しません」

 

「だから少し落ち着けと言っておるだろうがぁぁぁああああああ!!! 」

 

今日バイトから帰ってきた我は普段より早く帰ってきている陸に疑問を覚え、どうしたのかと尋ねた。するとちょっと怪我をしたから早退したのだという。だからその怪我を見せろと言い、陸の奴に怪我の場所を聞くが最初こやつは見せようともしなかった。大抵こう言う時の陸は何かを隠している。けどだからと言って放っておくわけもなく、無理やり服を脱がせた。しかしその服の下には真っ青に腫れ、見るからに痛々しい痣があったのだ。おそらくだが肋骨が2、3本逝ってるだろう。だが問題はここからだった。陸の痣を見たユーリは気が狂ったように騒ぎ出し、陸から怪我の理由を聞くとその張本人を殺すとまで言い始めた。しかもそれにシュテルまでのかっかっていく始末。もう少し落ち着いてはくれないものかと我は頭を抱えているのだ。このままではうちの家族から殺人者が出てしまう。すると陸がやめてくれとユーリ達を説得した。流石に陸に言われてしまってはユーリ達も言う事を聞かざるおえない。

 

「陸……本当に大丈夫なのですか? せめて病院に行った方が…………」

 

「大丈夫だよんユリち。心配してくれてありがとん! 」

 

「はぁ……陸、今から病院に行け! 」

 

「ディアち? だから大丈夫だよん。こんなのほっとけば治るよん? 」

「いいから病院に行けと言っておるのだ!!! 」

 

「ディ、ディアち…………」

 

「陸……こんな時くらいお金の心配なんてしなくてもいい。確かにうちは貧乏だが家族の為に出す事は何でもない! それに家族が怪我をしたのだぞ? 心配しない訳なかろう? 頼むからこれ以上心配をかけるな。さぁ病院に行くぞ陸? 」

 

我がそう言うと陸はしぶしぶ病院に行く支度を始める。こやつは何でも一人で抱え込む。特に自分に対しての危険や怪我は我らにはなかなか話そうとはしない。水臭いのだ。我らとて陸が好きだ。家族を想っているのは陸だけじゃない。陸が我らを想ってくれるのと同じくらい、我らも陸を想っている。何より大切なのだ。この繋がりが、家族が。しかし我とてユーリ達の気持ちが分からんわけじゃない。叶うなら我も陸に怪我をさせた張本人を亡き者にしてやりたい。でもダメなのだ。そんな事を陸は望んでない。それにそんな事をすればこの幸せな日々が壊れてしまう。それだけはなんとしても避けたかった。我らが家族でいる為に。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「お兄さん、昨日の怪我は本当になんでもないの? 」

 

「何でもないよん? 平気、平気ん! っ!? イタタタっ!? 痛いよん!? 何するの!? 」

 

「ヴィヴィオのお兄さん嘘は良くないよ? これが何でもないわけないじゃん…………」

 

「リオの言う通りだよお兄さん!? 病院には行ったの? 」

 

「行ったよん? 肋骨が3本折れてたん…………」

 

お兄さんは昨日のギンガさんが帰ってからすぐに早退した。理由は保健の先生が帰れと言ったからだ。ついでに病院にも行く言うに言われていたのだが今日確認するまで私は心配だった。しかし聞けば肋骨が3本折れていると言う。いくら何でもギンガさんはやり過ぎだ。記憶があるお兄さんになら大丈夫かもしれないが、今のお兄さんは他人も同然。これではただの暴力だ。でもギンガさんの気持ちは分からなくもない。お兄さんが生きていて嬉しいのは私も同じだったから。だがそうなるともう一人怖い人がいる。キャロさんだ。昔のままなら怖い人など絶対に言えない人だったが、今は違う。私的にはギンガさんより遥かに怖い。ギンガさんが表面的な怖さなのに対し、キャロさんは内面的な怖さだ。この四年で性格が捻じ曲がったというか、下手な事をすると知らないうちに消されてしまうんじゃないかと思う。本当、知らないうちにだ。逃げる逃げないの問題じゃない。相手がギンガさんならば逃げるという選択肢が使えるが、キャロさんの場合は確実に殺される。勿論これは私の勝手な想像だ。しかし私はその片鱗をこの四年間で何度か見てしまってる。だから私の中で怒らせてはいけないランキングぶっちぎりの一位。それがキャロさんだ。

 

「はぁ……授業面倒くさいよん…………」

 

「ダメだよヴィヴィオのお兄さん! ちゃんと授業しないとクラスのみんなに襲われるよ? 」

 

「うん……多分そろそろいい加減にしないとみんなの怒りが爆発すると思う」

 

「そうだよお兄さん、二人の言う通りだよ? だから教室戻ろうよ? と言うかお兄さんもう教室にすらいなくなってるよ。ほら、お兄さん戻るよ? はーやーくぅぅぅ……はぁ……はぁ……もう!? お兄さんビクともしない! ダメだってお兄さん!? こんな所で虫観察してる場合じゃないよ!? 」

 

実は今、お兄さんは絶賛おサボり中。いつもならサボってても教室にいたのだが、今日は教室にすら現れずこうしてリオ、コロナと一緒にお兄さんを連れ戻しに来た。しかしお兄さんは外でしゃがみ込み、地球で言うアリのような虫を観察していたのだ。呑気に「頑張れ〜! 」などとお菓子をあげて応援している。授業サボって何をしているのかと思ったが今のお兄さんなら仕方ないと諦めた。でもだからと言って放っておけない。何故なら教室ではクラスメイトの怒りが爆発寸前。このままでは学級崩壊にも発展しかねない。

 

「お兄さん!!! いい加減にして!!! 」

 

「およよ……分かったよん。戻るよん…………」

 

私達はこの言葉に安堵し、お兄さんと教室に戻った。だが時は既に遅かった。教室に帰るとクラスメイト全員が沈黙し俯いている。どうした事かちょっとしたホラーを見ている感覚になった。そして私達は自分の席へつき、お兄さんが話し始める。お兄さんもみんなの様子から自分が悪いと感じたようで謝罪から始まった。

 

「みんなごめんねん? 今日は度が過ぎたかなん……明日からはちゃんちゃんと授業するからん。でもまだ時間あるし、少しでも授業を「今更ですよ…………」へ? 」

 

「今更だって言ってるんですよ!!! 」

 

「そうですよ! 先生は私達の授業なんかどうでもいいんですからね? だからサボるんでしょ!!! 」

 

「ふざけんなよ!!! 」

「そうですよ!? 謝るくらいなら最初からやってくださいよ!!! 」

「やる気ないならやめてください!!! 」

 

お兄さんの謝罪で、みんなの怒りは噴火した。噴き出すように吐き出されていくお兄さんへの不満や悪口。私やリオ達が何を言っても聞いてもらえず、教室は言葉の嵐と化した。そう……これが私達の学校、St.ヒルデ魔法学院始まって以来の大事件。私達のクラスで起きた学級崩壊である。

そして最初は言葉だけだったみんなも次第に文房具や魔力スフィアをお兄さんに投げたり放つようになり、もう私達の力では止める事が出来ない状況になってしまった。しかしここで私はある事に気付いたのだ。いつもなら攻撃をされても躱したり消滅させたりしていたお兄さんが全く動作をしていない。みんなの不満、その塊とでも言わんばかりの物や魔力攻撃を全て受けていたのだ。何もせず、ただひたすら棒立ちでそれを受けているだけ。お兄さん的には自分への罰のつもりなのかみんなの不満を全て受ける気でいるのか知らないがこのままでは危ない。いくらお兄さんが頑丈でも、この量の攻撃を絶えず浴びていては怪我をするのは確実。ましてやお兄さんにはギンガさんによって折れた肋骨まで抱えているのだ。

 

「やめてよ……みんなやめてぇぇぇえええええええ!!! 」

 

「死んでください!!! 」

「教師をやめてください!!! 」

「帰れ!!! 」

 

「そうだ!! 授業しないなら帰れ!!! 」

「もう学校に来ないで!!! 」

 

私の叫びはみんなの不満で掻き消され、聞きたくない言葉が私の耳をすり抜けていく。しかしその時だ。みんなの不満がピークに達し、何人かが自分の出せる最大出力の砲撃を準備し始めたのは。そしてそれを何の躊躇もせずお兄さんに向けて放った。当然お兄さんは避ける気がない。砲撃が直撃し、お兄さんがいる場所の教卓や黒板は大破した。けど当のお兄さんの姿はない。私は埃が舞う中、お兄さんを探した。だけどおかしいと思ったのだ。いつの間にかみんなの言葉や物、魔力攻撃の嵐が止まっていた。そして……みんなの視線の方向へ目を向けるとそこにお兄さんが倒れていた。あのお兄さんが倒れているのだ。気絶? それともダメージで動けないのか、お兄さんは起き上がらない。私は沈黙する教室の中、恐る恐るお兄さんに歩みよった。みんなもやり過ぎたと分かってか、誰一人としてこの場を動かないし言葉を発さない。

 

「お、お兄さん? 大丈夫? ね、ねぇ? お兄さん? お兄…………」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ? ヴィヴィオのお兄さん大丈夫なの? 「できて…………」え? 」

 

「早く誰か先生呼んできて!!! 」

 

やり過ぎだ。確かにこれはお兄さんの自業自得。でもここまでする必要はない。ここまで……お兄さんのお腹に穴が空くまで攻撃する必要なんかない。私はみんなに対する怒りで逆に冷静になった。お兄さんも悪い。でも……これじゃ……みんなも悪い。どうしてこうなるのか。私はお兄さんから流れ始めている血を押さえながら怒りの行き場を考える。でも誰も責められない。みんなの怒りも分かる。お兄さんが悪いのも理解している。だけどただただ……やり過ぎだ。

そしてこの後お兄さんは病院へと運ばれた。幸い、命に別状はない。しかしクラスのみんなとお兄さんの間には溝ができてしまった。これからどうなってしまうかは……私にはまだ分からない。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「うっ……およ? ここは? 」

「お! 気が付いたようだな陸? 大丈夫か? 」

 

「ああ……ディアち……おはよん…………」

 

「はぁ……おはようではない、たわけ……心配させるなと言った側から入院する奴があるか」

 

我は陸が病院に運ばれたと連絡を受け、急いで病院に向かった。しかし我が到着した頃には治療は終わっており、陸は病室で寝かされた後だったのだ。そしてさっきまでユーリ達も来ていた。だが眠っている陸を見たユーリは大泣きをし始め、ここにいては落ち着かないのでシュテルと家に帰らせた。でも確かにこの陸を見るのは心が痛む。家族でいるとはこのような気持ちの事を言うのだろう。

 

「陸? まだ先生を続けるのか? 今回ので完全に生徒の心は離れたのではないか? 確かに生徒もやり過ぎたが、我はお主が一番悪いと思うぞ? まぁ……我が言わなくても分かっておるようだけどな? そうでなければこうなっておらん。違うか? 」

 

「あやや……バレてるのねん? ちょっと……サボり過ぎちゃったよん……みんな凄く怒ってた……だから悪いのは僕。でも約束したんだよん? 明日はちゃんと授業するって。だからねん? 約束は守らないとん」

 

「気持ちは分かるがこの身体じゃしばらく入院だぞ? 残念だがそれは退院した後にするがよい。大丈夫だ。ちゃんと謝れば生徒達も許してくれる。だから次はちゃんと授業しろ」

 

「ディアち……ありがとん……ごめんよん…………」

 

陸は自然にまた眠りに入った。取り敢えず陸が無事で安堵した我は今日は家に帰ることにしたのだ。すると家ではユーリは泣き疲れて眠っていて、シュテルは我の帰りを待っていてくれた。レヴィは相変わらず呑気にアニメを見ている。だが陸の事は凄く心配していた。だから次の日、我達はみんなで陸飛のお見舞いに向かったのだ。しかしそこで見たのは空になったベット。

 

「陸が……いないですよ? ディアーチェ!? 陸がいない!? 」

 

「あのたわけ…………」

「ディアーチェ? 」

 

「ああ、シュテル。あやつが行くところなど一つしかあるまい。まったく……いつも授業はサボる癖に変な所で律儀な奴だ」

 

昨日の今日だ。陸が向かった場所などSt.ヒルデ魔法学院しかない。あやつは生徒との約束を守りに行ったのだ。今日はちゃんと授業をすると言った言葉を。だから陸は授業をしに行った。だがあの身体だ、まともに授業などできるわけがない。仕方なく我達は行く事にした。St.ヒルデ魔法学院へ…………

 




次回もよろしくお願いします。

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