魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
「ヒクッ……うぇ〜い! 今日も酔っ払いってますですですよぉ〜? ヒクッ!? ……ん〜? む〜君は誰なのですですです!! 僕の前に立つんじゃ〜らいです!!! ヒクッ…………」
私は夢を見ていた。これは私が猛者と手合わせがしたくてある一人の魔導師に戦いを挑んだ時の光景だ。私の目の前にいるのは元時空管理局に所属していた魔導師。丁度2年前まで最強とまで言われていた魔導師だ。名をリン・ストーン。彼女は緑色の髪にツインテールをし、赤い着物を着ている。
今の酔っ払った状態では最強の面影はない。勿論、2年も前線から離れているのだからもう腕は落ちていると私は思っていた。しかしそれでも強者には変わりがない。だから私は挑んだのだ。
「どうも、初めまして。リン・ストーンさんとお見受けします。私はカイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王を名乗らせて頂いてます」
「は……おう? 歯王!? ケッ! ぬわぁ〜んですですか? 歯の王が僕に何の用がありますですですですです? 歯並び綺麗ですですかぁ〜です? 」
そう言って彼女は自分の歯を指さしながらこちらを睨みつける。酔っ払っている所為か彼女は勘違いをしているのだ。覇王を意味の分からない歯王と。そもそも歯の王とは何なのだろうか……いくら酔っ払っていてもそれぐらい分からないものなのだろうか。しかしまだお酒の飲めない私には分かることではない。
「貴方と手合わせをお願いしたいのです! 貴方の技と私の拳どちらが強いのか! 」
「手合わせぇ〜です? いいですですよぉ〜? はい、右手と左手を合わせて幸せ、です〜! あははっ!? 幸せ! 幸せですですですよ? ブフッ!? 幸せ……幸せってブフフ…………ヒクッ」
「はぁ……もうすっかり貴方の牙は抜け落ちてしまったようですね。少し残念です。ですが……せめて全て抜け落ちる前に貴方を倒してあげます!! ……っ!? え…………」
私は先手を取り、彼女へと拳を放った。しかしそこにさっきまでお腹を抱えて笑っていた彼女はいない。完全に私の視界から消えた。周りを見回しても彼女の姿はない。気配すらも感じない。
「一体……どこ……に……つっ!? 」
「どう言うつもりか知りませんですですけど……僕に対して敵意を向けるなんてとんだお馬鹿さんですですね? そんなに死にたいんですです? 」
「……そん……な……いつの間に……わ、私の後ろに…………」
「あはは、まぁ〜いいですですよ。本当に強い事が何なのかも分からない子供には、僕が直々にお灸を据えてあげるですですよ? 」
「っ!? (やらなきゃやられる!? )覇王、断・空……え…………」
「僕に一撃を入れるなんて10年早いですです。『極破瞬殺定技……112式』(きょくはしゅんさつじょうぎ……ひゃくじゅうにしき)…………」
消えた彼女は突然私の背後へと現れ私に何かを突きつけていた。そして彼女から放たれた言葉から何かヤバい雰囲気を感じ取った私は後ろを振り向いて反撃に出る。しかしそこに彼女の姿はまたしてもない。すると私の背後からまた声が聞こえた。だがそれが聞こえた時にはもう遅かった。
「しまっ!? 」
「Cut OF Blood Measure(カット・オブ・ブラッドメジャー)!!! 」
「ぐっ!? ……んなっ!? な、なななな…………」
彼女の攻撃で私は腰を抜かした。でも彼女の攻撃が直撃したからではない。その惨状を見て腰を抜かしたのだ。もしこの攻撃が直撃していれば私はもうこの世にいない。何故なら私以外の周りの建造物が全て倒壊していた。幸い、倒壊した建物は左右共に取り壊しが決まっていた為に怪我人はいない。恐らくそれを見越しての事だろうがあまりにもデタラメすぎる。一撃で二階建ての一軒家を粉々にしたのだから。
そして彼女は腰を抜かした私の側へと歩いてくる。私はこの時、初めて自分が敵に回してはいけない相手と出会った。
「ま! これくらいで勘弁してあげるですですよ? 僕はもう管理局じゃないですですからね? はぁ〜でもお陰でもうすっかり酔いが醒めてしまったじゃないですですか……ぬぐぐぅ…………飲み直しですです!!! 」
そう言いながら彼女は去って行った。これがその時の出来事、今私が見ている夢だ。そしてこの戦いが終わったと同時に私の意識は元の時間へと戻った。
「! ……夢……一番怖かった時の私の記憶…………」
「よ。やっと起きたか。随分うなされてたけど大丈夫か? 」
「は……はい……あの……ここは」
私は知らない天井の下で目を覚ました。ふと隣を見るとノーヴェさんが一緒に寝ていて少しびっくりした。でも私はすっかり世話になってしまったようで、少し申し訳なくなった。そんな時だ、オレンジ髪の女性が入って来たのは。
「おはようノーヴェ。それから自称覇王イングヴァルト」
「本名アインハルト・ストラトス。ザンクトヒルデ魔法学院中等科の1年生」
「あ、あの!? 私を倒した人は? 」
私は話を途中で折って今一番知りたい疑問を投げかける。私がこうして手合わせをして負けるのは二回目だ。一回目は敵う敵わないの前に挑んではいけないと言う感じでもう挑もうとは思えなかったが、今回の人は力が異常なだけに感じた。しかし私より遥かに強い事も事実。だから私はもう一度戦いたい。彼と手合わせを、今度は彼の全力を見させてもらいたかった。
「そう言えばノーヴェ、まだ聞いてなかったわ! この子を倒したその男……間違いないの? 」
「ああ、顔は間違いない。見間違う訳もない。昔の事件の時、モニターではっきり見てるし」
「……もし……本当なら私……怖いんだけど…………」
「「怖い? 」」
「怖いよ!? もし陸飛さんが生きてるの知ったらまたギン姉が壊れるかもしれないんだよ!? やっと落ち着いたのに!? ティア達だって知ってるでしょ? 陸飛さんが亡くなった後のギン姉の荒れっぷり!? 本当にあの時は一年あまり手がつけられなかったんだから!? 」
「そ、そうね……その一年は本局のあちらこちらが定期的に弾け飛んでたもんね……主にギンガさんの拳で…………」
ギン姉、ギンガさん……その人の名前なのか愛称なのかそれは分からないが、一体誰の事を言っているのか私には分からなかった。しかもその話を聞いてる限り凄く怖い人にしか聞こえないのだが、その人はどうやら目の前のスバルさんという人の姉らしいのだ。
「すいません、私を倒した人は…………」
「え? ああ、そうだったわね。悪いけど分からないのよ。貴方を倒した後どこかに行っちゃったみたいで。と言うか居場所を知りたいのはこっちの方なんだけどね」
「? それはどうしてですか? 」
「その男、鈴木 陸飛は今から4年前に起こったJS事件と呼ばれる事件の被害者……私達の同僚。元管理局の事務員で……その時亡くなった筈なんだけど…………」
「え…………」
私は驚いた。一体何に驚いたか、彼が亡くなったと思われていたからじゃない。彼が元管理局の事務員である事に驚いたのだ。武装局員ではなく事務員であの強さ。意味が分からなかった。詳しく聞けばただの事務員との事だった。となればますます彼に興味がある。どうして事務員でそこまで強いのか。どうしてそこまで強くなれたのか。私は知りたかった…………
◇◆◇◆
「すいません先生! ちゃんと授業して下さい!! 」
「ええ〜ん? だって面倒くさいよん…………」
「何言ってるんですか!? あんた先生でしょ!? 」
「ちぇ〜分かったよん。じゃぁ〜自習! 」
『それは授業じゃない!!! 』
お兄さんと思われる人が担任になった次の日、初めての先生の授業。しかし先生は授業をしないで教卓でグダグダ〜としているだけ。最初はみんなの頭にはてなマークが出ているような不思議な感覚に襲われたが、それが15分、30分となればクラスメイトも黙っていない。授業をするように指摘し始める。だが始める様子はない。一体何がしたのかは私には分からないが流石に授業をしないと取り返しのつかない事になりそうだった。何故なら一部のクラスメイトがキレ始めていたのだ。まるでこれから殺しでもするかのように先生を睨みつけ手のひらにはこれから魔力スフィアを放とうとしているのか魔力の塊が形成されている。
そして流石にヤバイと思った私はみんなを止めようとした。しかしその前にみんなの手のひらにあった魔力スフィアが全て弾けた。みんなは何が起こったのか分からず目を丸くしている。
「はぁぁ……しょうがないねん。じゃぁ〜授業やろっか! それじゃん……教科書1ページを開いてくださいん」
「え? え……い、今何が…………」
「ヴィヴィオ今の何? ヴィヴィオのお兄さん何したの!? 」
「い、いや……わかんない…………」
リオが今のを理解できずに授業中にも関わらず私に詰め寄るが私にも今起こった事は理解できない。お兄さんは教卓から一歩たりとも動いてない。それにも関わらず、みんなの形成していた魔力スフィアは一斉に弾けた。しかし明らかにお兄さんが何かしたのは確実だ。何故ならこの教室にそんな事が出来る人物はお兄さん以外いない。
「およ? チャイム……なっちゃ、ちゃ……それじゃ〜これで授業終わりますん! さいなら〜」
『結局10分くらいしか授業出来てない!? 』
クラスメイト全員がハモり、それを聞いてもお兄さんは教室から関係ないと言わんばかりに出て行く。その時だった。お兄さんが教室から出て行く直前、お兄さんの懐から何かが落ちた。お兄さんはすぐにそれを拾う。しかし私はその落ちた物が何かを見逃さなかった。お兄さんが落とした物、それは昔私があげたお守り。それはお兄さんがお兄さんである何よりの証だった。何故ならあんな物、この世に二つと無い……私の描いた絵が描いてあるのだから。
「お兄さん!? 」
「ん? はい、何かなん? 高町さん? と言うかん……僕は君のお兄さんじゃないよん? 」
「お兄さんだよ!! 間違いない! お兄さんが今落とした物、それは私があげた物だよ? お兄さん以外そんな物持ってるわけない! どうして私の事覚えてないフリなんてするの!? わ、私の事……嫌い……に? 」
「……覚えてないんだよん」
「え? 」
「僕は4年前以前の記憶がないんだん……自分が誰かも分からなかったしん……ディアち達がいなかったら……きっともっとダメになってたと思うしねん」
今私は全ての歯車が噛み合った、そんな感覚に襲われた。お兄さんは記憶喪失だ。私の事を覚えてないのはその所為。決して私が嫌いになったわけじゃない。だからこの4年間、私達の前に姿を現さなかったのもこれで納得がいく。けど……そうなればキャロさんやギンガさんはどう思うだろうか。それになのはママも。お兄さんが記憶喪失という事が分かれば悲しむ人は沢山いる。しかし何より苦しんでるのはお兄さんだ。
「ヴィヴィオ? 」
「え? !? な、なのはママ!? 」
「にゃはは、ヴィヴィオの話が気になって来ちゃった。それで……っ!? リッ……君? 」
「え、え〜とん……誰? 」
「え……な、何言ってるの? わ、私だよリッ君!? なのはだよ! 高町なのは! 」
「いや、知らないよん? 」
「し、知らないって…………」
その言葉になのはママはショックを受けているようだった。しかしそれも無理はない。なのはママはお兄さんが記憶喪失なのを知らない。だからその反応は当然の事だった。そしてなのはママが唖然と固まってる間にお兄さんはどこかへと行ってしまい。私達だけが残される。
私はいつまでもなのはママが固まっているので早く説明することにした。お兄さんが記憶喪失である事を。
「き、記憶喪失!? それ本当なのヴィヴィオ!? 」
「うん、間違いないと思うよ? 本人もそう言ってたし」
この先、お兄さんが記憶喪失なのを聞いて色んな人がお兄さんを訪れる筈だ。キャロさんやギンガさん、それにリンさんにはやてさん達も。
それによって何が起きるかはその時の私にはまだ分からなかった。でもそれでお兄さんになんらかのいい影響があればいいとその時の私は思っていたのだ。しかしそれは間違いだった。何故ならお兄さんには私達の知らない4年間と言う日々がある。それによって培った絆や想い……それはたかだか半年程度の付き合いしか持たなかったなのはママ達とは比べ物にならない程強い物だったからだ。だからもう少し慎重に事を運ぶべきだったのかもしれない。もしそうしたなら……なのはママ達と今のお兄さんとの関係があそこまでこじれる事はなかったのかもしれない。
次回もよろしくお願いします。