魔法少女リリカルなのは!?「幻の残業局員」 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
〜ヴィヴィオサイド〜
「お兄……さん?本当にお兄さんなの? 」
「ん?おうヴィヴィオ元気そうだな?良かったよ」
お兄さんは少しこっちを向きヴィヴィオに笑いかけてくれた。もうヴィヴィオはお兄さんを見た瞬間から嬉しくて涙が止まらない。もう会えないと思っていたお兄さんが生きていた。今目の前にいる。お兄さんはまたヴィヴィオとの約束を守ってくれた。必ず私の所に戻ってくる、ヴィヴィオはお兄さんが守ってくれるって。それをお兄さんはまた守ってくれた。
「陸ちゃん……どうして…………」
「なんで生きてるんや……い、いや、無事だったんは本当に良かったんやけど。誰が見ても完全に鈴木君の心臓が射抜かれたんは明白やったんやで? それなのに…………」
「ヴィヴィオが守ってくれたんですよ」
お兄さんが言った理由にヴィヴィオは驚いた。しかしヴィヴィオには覚えがない。だってヴィヴィオはお兄さんが負けた時もうその場にいない。それにヴィヴィオがもしその場にいたとしてもお兄さんを守る事なんて出来ない。ヴィヴィオには何の力もないから。
「これですよ。こいつが俺を守った。ヴィヴィオ、ありがとな? 」
「そ、それ前にヴィヴィオがリッ君にあげてたお守り!? 」
「ば、馬鹿な!? そんな石ころが私の技で砕けない筈がない!? なのに何故その石は傷一つついておらんのだ!? 」
お兄さんが自分の懐から出したのはヴィヴィオが前にあげた絵の描いてあるお守りだった。あのお守りがお兄さんを守ってくれたんだ。でもおじさんはそれはあり得ないと声を荒げている。確かにその辺で拾った石ころ、ただそれに絵を描いただけの物。あんな化け物みたいなおじさんだ、それで守りきれるとは到底思えない。
「あんたヴィヴィオがどんな力をもっているか知っている筈だぞ? あの時こいつにはヴィヴィオの魔力が込められていた。俺も気づいたのは意識を取り戻した後だったけどな 」
「魔力だと?それが一体なんだと言うんだ!?たかが魔力が込められていただけで私の攻撃が防げる……は……ず…………」
「気づいたか?」
「まさか……聖王の……鎧……か……だ、だがそれはこのガキが身の危険を感じた時に無意識レベルで発動する固有技能の筈だ……それが何故だ、何故石ころに込められる!? っ!? くっ……くだらん、意志の力だとでも言いたいのか……お前はまたそんなくだらない御託を並べるつもりか陸飛!? 」
ヴィヴィオがあげたお守りにはヴィヴィオの聖王としての力が込められていたと言う。勿論ヴィヴィオがそれを自分の意志でやった訳じゃない。でもあのお守りを作ってお兄さんにあげた時お兄さんが元気でいますようにとヴィヴィオは願った。それをあの石は叶えてくれた。
「昔……どっかの誰かさんにお節介で言われた言葉だが……必要な事でも人が人を傷つける事は間違っている。確かに自分の為に使う力のとみんなの為に使う力、力としては前者の方が強い筈だ。でも誰かの為にみんなが力を使えばそれは大きな力となり、みんなが笑って過ごせる未来が来る。人が人を傷つける世の中じゃなく、人が人を想える世の中が来ればいい、いつかそんな世の中が来る様に自分はみんなの為に力を使うのだと。それを昔、大事な仲間に教わった。そのお陰で俺は大事な事に気づいた」
「そ、そんな事覚えていたですですか……そんなまっすぐ言われたらな、なんか照れくさいですですよ」
お兄さんはそう言ってなのはママに抱えられているリンさんを見た。リンさんはお兄さんと目が合うなり顔を赤くして困っている。なのはママ達もそんな事言ってたの?といいリンさんに感心していた。ヴィヴィオもそれを聞いてリンさんは本当にいい人なんだなぁ〜と感じる。いつか本当にそんな世の中が来ればどんなに平和な未来がやってくる事か……ヴィヴィオはそんな未来を少し想像してみた。
「ちっ……お前は変わったな、陸飛。最初にお前とあった時、お前は剥き出しの刀の様な人間だったがそれが今や仲間の為にとほざきおる。くだらん……くだらん、くだらん!!! 誰かの為に他人の為に自分の身を削った成れの果てがこの私だ! それに何故気づかん陸飛! 私と同じ仕事をしたお前なら分かるはずだ、我々がいかに頑張ろうと、どんなにこの身を削ろうと、誰も私達の存在は明るみには出ない! こんな馬鹿馬鹿しい事があるか? 一体なんの為に我々は頑張り、その身を滅ぼしていくんだ!? 」
「……理想の為だ」
「何?」
「昔あんたが言ったんだぞ? 自分の犠牲がこれからの若い管理局員の未来に繋がり、こんなどうしようもない血みどろの世の中をいつか絶対に変えてくれる。だからそれまで管理局は自分が支え機能させ続けるのだと、それが自分の理想であり信念なのだと……だから俺は……あんたを尊敬し、目指した。それが一体どこで変わった!? どこで狂ったんだ!? 」
「……ぐっ……くだらん、お喋りは終わりだ。今度こそお前の命を後ろの大事な仲間とやらの目の前で跡形もなく消してやろう。今のお前では私には勝てん!!! 」
その瞬間、おじさんがお兄さんに向けボールペンを放った。お兄さんはそれを避けおじさんに向けボールペンを放ち返す。しかしそれは当たる事なくおじさんも避ける。そして二人は互いの攻撃を躱しながら直接ボールペンがぶつかり合える位置まで近づいた。高速のボールペンでの打ち合い、互いのボールペンは砕けそれに伴いそれぞれ新しいボールペンが消費されていく。始まってしまった……誰にも止められないおじさんとお兄さんの戦いが、もうヴィヴィオ達には見ているだけしか出来ない。
◇
〜リンサイド〜
「りぃぃぃくぅぅうううううとぉぉぉおおおおおお!!!」
「…………」
少尉が雄叫びをあげながら陸ちゃんに僕と戦った時以上のスピードを見せつける。おそらく怒りで少尉の力が上がっている為だ。でも陸ちゃんはそれを冷静に見極め躱していく。しかしそれも一時的なものだ、陸ちゃんの頬や身体のあちこちは躱しきれずに攻撃を掠めている。そう心配して僕達が見守っているとカチッというボールペンの芯を出し音が聞こえた。
「ふははは!!!どうした陸飛よ、もうへばったか!!!」
「……ペン技近式……二の型……《弾》!!!」
「無駄だぁぁあああああ!!!」
陸ちゃんのその攻撃は簡単に少尉に捉えられボールペンごと手を掴まれる。一瞬互いの動きが止まり両手が塞がってしまった陸ちゃんは片手の空いている少尉の次の攻撃に対応できない。
「ペン技近式、三の型!! 《緑空》!!! 」
「ごふぁっ!? 」
「お兄さん!? 」
少尉の技で陸ちゃんは真上にぶっ飛ぶ、そしてヴィヴィオちゃんは身を乗り出し陸ちゃんの心配をしている。あの攻撃は痛覚五倍の効果がある。常人なら喰らった時点で意識が飛んでしまう。力の差は歴然、万全なら陸ちゃんは負けるなんて事ない。でも陸ちゃん動きはどこかぎこちない。多分この間少尉につけられた傷が癒えてないせいだ。するとその時、少尉のボールペンがまた緑色に輝く。これから何をしようとしているか読めた僕は一気に血の気が引いた。今陸ちゃんは空中だ、少尉はその状態で攻撃を仕掛けるつもりらしい。たかだか一発なら僕も心配はしなかった。けど少尉は一発陸ちゃんに攻撃を放つと更にボールペンを取り出しボールペンに緑色の魔力を灯らせる。
「ぐっ……っ!?」
「終わりだ陸飛、今放った攻撃を弾いたのは流石だ。だがその体勢ではもう一発は防げない。二流は一流には及ばないのだ、ペン技遠式……三の型……《緑貫》!!! 」
「陸ちゃん!? 」
陸ちゃんの得物は一発目の攻撃を防いだ所為で今二発目を受けている方とは反対の右手の方にある。これではこの攻撃は弾けない。しかも少尉のボールペンの軌道は確実に陸ちゃんの急所を捉えている、このままでは陸ちゃんはやられる。しかしそう思った時だった。陸ちゃんが空いてる方の左手で太もものホルダーにさしてあるボールペンに手をかけた。
「ハァ!! 」
「な、なに!? 」
僕達は驚いた、陸ちゃんは手にかけたボールペンを振り上げそのまま少尉のボールペンを弾いた。しかしそんなことは本来出来るわけがない。何故なら陸ちゃんの利き腕は右手だ。その辺の魔導師の攻撃ならそれでも防げるかもしれないが少尉のあの攻撃はSランクの砲撃クラスの威力がある。だからそのまま押し切られる筈だ。
「陸飛……お前……何をしたんだ…………」
「……使う気は無かった、あんたが本当は心のどこかで自分は間違っていると思ってくれてるのだと信じていたから。俺はあんたの言うように二流だ。心構えも技も未熟。俺は今ですらあんたを諦めきれていない。これだけ大切な仲間を傷つけられているのにも関わらずだ。本当……愚かな人間だよ。でも……ここまで打ち合って分かった。俺の知っている……尊敬している師匠は、もういないのだと。だから……もう諦めた」
「諦める? 私に勝つ事をか? フフフ、馬鹿な弟子だ。昔の私などとうの昔に死んだ。今の私はお前の憎むべき敵だ! それ以上の感情などいらない」
「……ああ、その通りだな。それ以上の感情はいらない……ところで師匠……俺が勝つ事を諦めた? それは違う。俺が諦めたのは貴方を救う道だ」
「何?」
そう言った陸ちゃんは両手にボールペンを持ちながら半身になった。この行為に僕も少尉も驚きを隠せない。ペン技とは一本の得物に力を集中させて放つ技。それを両手に持って行うなど不可能。それは少尉が昔散々言っていた事だ。その状態ではペン技の技を放つ事はできない。だから僕は陸ちゃんの意図が分からなかった。
「なんの真似だ陸飛、技を捨てると言うのか? 確かに魔力のないお前のペン技は私のペン技の半分の威力しか出ていない。だがそれでも魔力なしでそこまで出力を出せている事は賞賛に値する。それを捨てるという事は僅かにあった勝ちの目を潰す事になるぞ? 」
「余計な心配は不要。勝ちの目は潰してない。それどころかもう俺が負けることはない。あんたは俺が二流と言った、それは間違いない。でも二流には二流にしか出来ない技がある。それを教えてやる」
その瞬間陸ちゃんの目から光が消えた。この陸ちゃんの雰囲気は『筆箱』時代のものだ。それも最初の頃の陸ちゃんの。という事は陸ちゃんは本気で殺しにかかる筈。私達『筆箱』の中でれ誰よりも人を殺す事に躊躇の無かった僕の大嫌いな陸ちゃん。そうだ……僕は昔陸ちゃんが一度嫌いになった事がある。最初はクールでカッコいいと思っていた。でもいざ戦場に出てその戦いを見た時それはクールとかそんなもんじゃなかった。ただ全てを諦め、人を平気で殺すが故に感情が乏しい。そんな大嫌いな陸ちゃん。
「俺は今、もう一度諦める……元特殊鎮圧部隊『筆箱』、剛殺のボールペン。……いくぞ? 2ペン流ペン技……双式……一の型…………」
「2ペン流……ペン技……だと? ば、馬鹿な……本来一本で行う筈の技を二本でだと? あり得ん、そんなのはこけ脅しだ!? ペン技近式……一の型…………」
陸ちゃんは両手をクロスさせそれぞれ反対の腰にボールペンを添える。少尉もボールペンを持った右腕を左腰に添え技放つ為に集中する。互いに動きが止まり集力を高めているようだ。そして瞬間二人は前に飛び出す。
「《赤破》!!! 」
「《双破》!!! 」
互いにすれ違い技が弾けた。少尉が何事もなかったように陸ちゃんの方に振り返り陸ちゃんはそのまま動かない。まさか……と不安にかられた。しかしその時少尉が膝をつきその手にあったボールペンは粉々に弾ける。そして少尉は吐血し始めた。
「ごほっ!? ごふっ!? ば、馬鹿な……何故だ、何故こんな事が可能なのだ!? 」
「俺は魔力を失ってから自分の腕力を上げることに全力を注いだ。そしてある時、担当医からある事実を告げられた。それが俺がリンカーコアを取り除いたことによる後遺症」
「え……後遺……症? リッ君……それって」
陸ちゃんの後遺症は僕も知っている。陸ちゃんがなのりんを助けた時僕は陸ちゃんにどんなに感謝したか。と言うより陸ちゃんがそれをしたのは僕の所為でもあるのだけど。
「……その所為で俺の筋細胞は異常をきたしていた。ただそれは悪影響を及ぼす後遺症じゃない。俺の筋細胞は鍛えれば鍛える程限界を超えてなお上がり続ける筋肉を構成する細胞へ変質した。人を超えてしまった腕力。それが俺の異常な腕力の訳だ。俺が魔力なしでペン技が使えるのはこの技……2ペン流を習得した副産物に過ぎない」
この技の存在は僕ですら知らなかった事。もう誰も傷つけたくない、殺したくないと願った陸ちゃんだからこそなのりんにリンカーコアを譲った。そしてその後、陸ちゃんは守る為の力を鍛え続けていた。それは僕も知ってるし協力していた。しかしそれは魔力なしでペン技を使えるようになったのと極式までだ。けどこんな技は知らない、いつも間に会得していたのか…………
「くっ……お前を甘く見ていたようだ。だが、ここからはそうはいかんぞ? お前に教えていない技が一つだけある。それを今度はお前に教えてやる。ペン技近式……零の型……《白光》!!!」
その瞬間辺りは光で包まれる。それは前の戦いで僕が見切れなかった少尉の技だった。
次回もよろしくお願いします。