セイバーとトランセイザーの戦いは、ステータスで劣るセイバーが優勢だった。対人の訓練と実践を積み重ねてきたセイバーに対し、トランセイザーは経験で大きく劣り、戦ってきた相手も殆どが人の姿をしていない。故にどう見ても人間にしか見えないセイバーとの戦いに迷いが生じていたのだ。
「……どうした。私が女だからと舐めているのか」
そしてその迷いを感じ取ったセイバーは怒りを露わにする。トランセイザーはそれを見てライトセイバーを構え直した。
「……そうね。正直迷ってたわ。でも、それじゃあ失礼だから本気で行くわっ!」
トランセイザーの振るったライトセイバーを受け止めたセイバーは魔力放出で高めた力で押し返すs。それでもトランセイザーが押すが、セイバーは技巧の差で剣を弾いた。
「お強いですね。名前に聞き覚えがありませんが、どこの英霊ですか」
「あ、私は日本人よ。え~と、貴女は?」
「……貴方ばかりに名乗らせるのは卑怯ですね。申し遅れました。私の真名はアルトリア・ペンドラゴン。アーサー王と言えば分かるでしょうか?」
「あっ! 聞いた事があるっ! すごい有名人じゃないっ!」
有名な王に会った事で嬉しそうにするトランセイザーに対し、セイバーがあくまでも真剣な眼差しを向けていた。
「さて、勝負は此処からです」
「そうね。じゃあ、行くわよっ! トランスマジカルブリザードっ!」
トランセイザーはライトセイバーの刀身を消すと鍔の先をセイバーに向ける。すると、途轍もない冷気が発射された。だが、その冷気はセイバーの体に触れた途端に消え去る。
「惜しかったですね。私の対魔力はA。今の冷気は魔術の類だったようですね」
セイバーは一気に詰め寄り、トランセイザーがライトセイバーの刀身を出す前に切り掛る。セイバーの手には手応えが伝わりトランセイザーは切り飛ばされた。地面に激突したトランセイザーは土煙に包まれる。
「……今度こそっ!」
セイバーが手応えを感じたその時、セイバーとアイリスフィールの耳に音楽が聞こえてきた。それは言うならばヒーロー物のテーマ曲。具体的に言うならドラマCDに収録されてそうな音で、間違いなくトランセイザーのテーマ曲だった。
「……すっかり忘れてたわ。この戦い、ソーダライト達との戦いと同じ命懸けの戦いだって事をね。さぁ、私の本気を見せちゃうんだからっ!」
其処に立っていたトランセイザーは先ほどまでの銀色のボディスーツではなく、赤を基調としたボデイスーツを身に纏い、手には柄のみの剣を持っている。その柄から巨大な刀身が出現した。
「来たぁぁぁぁっ! 行くっチよ、トランセイザー!」
「さぁっ! 此処からが本当の勝負なんだからっ!」
トランセイザーの隣にいるチーポはラジカセを仕舞うと遠くに避難する。トランセイザーから放たれる力が格段に上がった事を察したセイバーは油断なく構えた。その時、彼女の耳に切嗣の声が聞こえてくる。
『令呪をもって我が傀儡に命じる。直様アイリスフィールと共に帰還せよ』
次の瞬間、アイリスフィールを抱えたセイバーはチーポが固定した空間から姿を消した。
「どういう事ですか、マスター!」
切嗣の下に転移したセイバーは抗議の声を上げるが切嗣は反応すらしない。まるでセイバーなどこの場にいない様な態度だ。
「……アイリ。作戦を変更する。キャスターでさえ予想以上に力を持っている。その上、召喚した英霊が役に立たないなら、他のマスターを殺して英霊と再契約するしかないからね」
「マスター!?」
「僕は他のマスターを探す。……幸いキャスターのマスターの居場所は分かった」
切嗣が指差したテレビには連続殺人犯逮捕に関するニュースが流れていた。
『なお、生き残った少年も容疑者と同じくヒーローが助けてくれたと証言しており、現場周辺でヒーローの目撃証言も多発している事から警察はヒーロー姿の人物を探しているとの事です』
「……おそらくコイツがキャスターのマスターだろうね」
「切嗣、貴方本気なの!?」
「僕は使えない道具だけで戦おうとする程愚かじゃないさ」
ぐっと拳を握り締めるセイバーを無視した切嗣はそのまま銃を持って出かけて行った。
「セイバー、気にしないで。切嗣は焦っているのよ」
「……分かっています」
「……なぁ、ライダー。こんな事していてどうすんだよぉ。これは命懸けの戦いなんだぞぉ。僕はこの戦争で死んでも良いと思って参加したのに、一回も戦ってないじゃないか」
ウェイバーは両津が作った借金を返す為、バーの皿洗いのバイトをしていた。その後ろでは両津がツマミを作っている。
「あのなぁ、坊主。お前さんは物事を暗く考えすぎだ。大体、最近の若者は悩むと”生きる”か”死ぬ”の二択だけになる。儂はまず”生きる”モードに切り替えるっ! んで、どう生きるか考えるっ! 人生は楽観的に生きるに限るぞ、ウェイバー。ライフ・イズ・ポジティブだぁっ!」
「うぉ~いっ! ツマミが来てねぇぞぉ」
「おっと、いかん。直ぐ持っていく。……何だ、本官じゃねぇか」
「……んあ? 何だ、両津じゃねぇか。
酔っ払った目玉繋がりの警察官は両津の顔を見るなり手を振ってきた。
「大体よぉ、最近の若もんは大先輩の俺達に敬意が足りないてんだよ」
「そうだよな、本官よぉ。中川や麗子も儂に金を貸さないし。おい、坊主。聞いてんのか?」
「き、聞いてるよ」
バイト後、ウェイバーを連れて飲み屋に来た二人は大酒を喰らいながらウェイバーに絡む。既に瓶を何本も飲み干しており、アルコール臭が凄い。ウェイバーは辟易としながらも二人の姿を眺めていた。
(……この二人、楽しそうだよなぁ。なぁんにも悩みがなさそうでさ。なんか悩んでいるのが馬鹿馬鹿しく感じるよ)
「お会計一万五千三百円になりま~す」
「坊主、払っといてくれ」
「馬鹿馬鹿馬鹿ぁ~!」
ウェイバーの聖杯戦争資金が大幅に減った……。
「んじゃな、両津。また飲もうや」
「おうっ! またな」
目玉繋がりのお巡りと別れた両津は鼻歌を歌いながら夜道を歩く。匂いだけで酔っ払ったウェイバーは口を押さえながらその横を歩いていた。その時、ウェイバーに向かって手裏剣が飛んでくる。
「伏せろっ!」
「うわぁっ!?」
両津は手裏剣を全て撃ち落とす。手裏剣が飛んできた方向を見るが誰も居らず、後ろから声が聞こえてきた。
「……遅い」
声の主は関節のパニッ……音速のソニック。彼は刀を出すとウェイバー目掛けて突き出した。
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