遠坂時臣は困り果てていた。うっかり寝タバコをしてしまい貴重な英霊召喚のための触媒を焼失。仕方無くに何も無しで召喚して呼び出せたのは、何の変哲もない……いや、殆どの能力が一般より劣っている”少年”だった。
「せ、戦争っ!? そんなの無理だよぉ」
なぜか聖杯戦争の知識もなしに呼び出された彼は、詳しく話を聞くなり震えて泣き出し、良く分からない変な名前を呼びながらヘナヘナと崩れ落ちた。彼がどの位使えないかというと、英霊の能力は最低がEなのだが、彼はほとんどがEどころか前代未聞のF。試しに走って貰ってみても小学生低学年の娘より遅い。学力も小学生二年生程度。
「……落ち着け。常に優雅たれ、だ」
今は英霊なのに真昼間から部屋のベットでグゥグゥ寝ている己が呼び出した『アーチャー』の効果的な運用を必死に模索する時臣。だが、余りにも使えないので次に託そうかとさえ考え出していた。
だが、彼は勘違いをしている。彼が呼び出した英霊の宝具は
彼は知らない。己が呼び出した存在が、地球を、他の星を、他の世界を、仲間と共に何度も救った大英雄である事を。彼の射撃の腕は他のアーチャーでさえ凌駕する可能性がある事を。彼の持った宝具は既に魔法の領域に達している事を。
衛宮切嗣にとって虫唾が走る思いをするのは、これは初めてではない。少年時代から何度も世界の紛争地帯を回り、様々な所で人間の汚い部分を見てきた彼からすれば虫酸が走る光景など見慣れている程だ。故に『恒久的な世界平和』などを聖杯に願おうと思ったのだ。
だがこの日、それを上回る虫唾が走る思いを味わっていた。
「私がジョニーと出会ったのは肌寒い冬の朝。いや、木枯らし吹き始める秋の昼だったか? いや、希望に満ち溢れた顔が溢れる春の夕方だ! 夏真っ盛りだけあってその日は非常に暑かった。思わず喫茶店に飛び込んだ私の前に彼女は現れた。”止めて下さい!”、そう叫ぶ彼女に絡む破落戸達。私が得意の空手で全て撃退した時の彼女の瞳と言ったら。それから彼女と共に同棲を始めた私が住むアパートの管理人がジェシファーと言って中々の好人物な老婆でね―――これが私と契約するにあたって守って欲しい千の項目・第三百三十六番『オムレツは半熟で味付けは胡椒オンリー』の理由だ。分かったかね、セニョリータ?」
「「虫唾ダッシュ」」
(ああ、
「私の伝説は十二世紀から始まった」
「一度聞いた」
「所でマスター。君の願いは何だったかな?」
「ああ、勿論恒久的な世界平……」
「私の朝はモーニングティーから始まる。この帽子が何か知っているか? コック帽は長いほど偉いんだ」
「その様な事など、どうでも良い。それより僕の願いを聞いたんじゃなかったのかい?」
「ヴァカめっ! 貴様の事などどうでもいい。まったくこれだから田舎者は困るのだ」
(……鞘が見つからないからってあんな本を触媒にするんじゃなかった)
切嗣が触媒に選んだのはアーサー王の時代に書かれたという貴重な本。それほどの古代に書かれたにも関わらず全く傷んでいなかった本にはアーサー王の持つ『エクスカリバー』について書かれていたのだが、呼んでみれば来たのは真っ白くズボンを履いていないウザイ生物。だがふと本を見てみれば著者の部分に今漸く気づけた。
『著者・エクスカリバー』
「お前かよっ!」
切嗣は思わず床に本を叩きつける。当の本人である
「アーチボルト様。ご注文のルームサービスをお持ち致しました」
「ルームサービス?」
「ええ、先程確かに『ステーキ三人前至急頼む。笑止笑止』と電話先から……」
「……ああ、よく分かった。確かに私の部屋から注文された品だな」
ケイネスは頭痛を堪えながらステーキを受け取る。そしてホテルの従業員が去った途端、横から伸びてきた三組の手がステーキの皿を掴んだ。
「これは美味い!」
「美味し美味し」
「また頼もう」
「いい加減にしろ、この鼠共っ!」
ついに感情が爆発したケイネスは大声で怒鳴る。触媒が飛行機事故で紛失したので仕方無しに触媒なしで呼び出したのは何故か三人……正確には三匹。一応クラスは三騎士の一角である『ランサー』らしいがそのステータスはとても低い。
「我々は只のネズミではない! 笑止笑止」
「正確にはタテジワネズミだ!」
「もっと正確に言うならばフィールドに出るテテジワネズミより少し強い”槍で突くタテジワネズミ”だ!」
「何処か違うというだっ! ……もう、帰りたい。武功とかどうでも良い。ソラウも此奴ら嫌ってついて来なかったし……」
鎧を着て槍を持った三匹のネズミの獣人に心労を溜めながら深い溜息を吐いたケイネス。彼の額がまた広がった。
言峰綺礼が困惑していた。アサシンといえばハサンが来るはずなのだが、彼が呼び出したのはどう見ても日本人だったからだ。
「アサシン、何をやっている?」
「あぁら、見て分からないかしら? 化粧よ、お化粧。うーん、この白粉のノリが悪いわぁ」
「いい加減にしろ。お前は男だろう、アサシン!」
「失礼ね、今は女よ。それと今の私の名前は山田伝子。伝子さんって呼んでぇ」
「誰が呼ぶかっ!」
非常に悍ましい見た目の女装に自信満々の『
「ねぇ。君って悪魔の存在を信じる? なんか蔵から悪魔を呼び出すぽい儀式が乗った本を見付けて試してるんだけどさー。これが中々出てこないのよ。もし出てきたら生贄になってくれよ」
少年は恐怖していた。目の前の青年こそが悪魔に見えていた。突如現れて両親を殺害した彼は、儀式が終われば縛って転がしている自分を殺すだろう。だから少年は青年が呪文を唱える間、必死に神や仏に願う。助けて、と。
「おっ! 成功したよっ! ……えっと、猿? 何処かで知っているような見た目だけど……」
呪文が終わった瞬間、少年の両親の血で書かれた魔法陣が光り輝き小柄な肉体の持ち主が姿を現す。その大きさは少年よりも小さいかも知れない。赤い服に頭に嵌めた金の輪っか。手には長い棒を持っている……猿だった。猿は少年と両親を見ると驚き、次に青年に目を向けた。
「これはお前がやったのか?」
「そうだけど? ほら! 悪魔への生贄的なあれだよ、悪魔さん! 遠慮なく食べちゃって……悪魔さん?」
「このやろっ! 僕は悪魔じゃないやい!」
次の瞬間、猿に殴り飛ばされて気絶する青年。彼は意識を失う前に一つの事を思い出した。
(ああ、そうだ。あの猿って確か……)
「うーん。君とパスが繋がってる様だけど……戦争とか無理だよな? 僕も、助けてって願いに反応しただけだし。でも、自害もな。……取り敢えずお釈迦様に頼もう」
少年は自分の拘束を解いた猿を不思議そうに見詰める。この猿は一体何ものなのだろう。なので率直に尋ねると大いに驚かれた。
「僕の事知らないのっ!? 結構有名なのにっ!? ……よし! だったら名乗ってやるよ。
石から生また石猿で、三蔵法師の一番弟子。数多の術を使いこなし、数多の妖怪変化を打倒して、師を天竺まで守り抜ぬく。そう、僕こそが……斉天大聖・孫悟空だ!」
『悟空。悟空や。余り驕ってはいけませんよ』
「あっ! お釈迦様っ!」
「お釈迦様……?」
突如神々しい光が差し込み現れたのはパンチパーマーの様な髪型の雲に乗った人物。その姿は流石に少年も知っていた。
『悟空。この聖杯戦争ですが、何か嫌な予感がするから調査してくれ。今の私に出来るのはその少年を保護する事と貴方に魔力を供給する事だけ。その姿に戻ったからには一からやり直すつもりで励みなさい』
「ははぁ!」
こうして少年は仏によって保護され、
ウェイバー・ベルベットは動揺していた。目の前の人物? が自分の英霊なのかと。
「ウ○コが来たっ!?」
そう。何故か召喚されたのはパーカーを着たウ○コだった。
「私はウ○コではない。私の名前はソフトン」
「チョ、チョコ味のソフトクリームだったのか。よかったぁ」
(さて、バビロンカー等は使えるが
色々ショックな事があって開き直ってしまったウェイバー。安心する彼の横では『
間桐雁夜は呆然としていた。己の身を削ってまで呼び出したバーサーカーが消えてしまったからだ。それも憎い爺を消し去り、助けたかった少女を助けてだ。よく分からない力を使って……。
「あら、くーちゃん。何処に行ってたの?」
『瞬間移動が暴走して異世界に行っていただけだ。……あの蟲はキモかったな』
今日も超能力者は押し寄せるΨ難に辟易していた……。
セイバー エクスカリバー(ソウルイーター)
ランサー 槍で突くタテジワネズミ(魔法陣グルグル)
アーチャー 野比のび太(ドラえもん)
キャスター 孫悟空(ぼくの孫悟空)
アサシン 山田伝蔵(落第忍者乱太郎)
ライダー ソフトン(ボボボーボ・ボーボボ)
バーサーカー 斉木楠雄(斉木楠雄のΨ難)
絶対に続かない……。
意見 感想 誤字指摘お待ちしています