マッケンジー宅の夕食はこの日も賑やかだった。息子夫婦が国に帰ってから塞ぎ込んでいたマーサは帰ってきた孫(だと思い込んでいる)ウェイバーと
「そうそう、アルちゃん。今度、一緒に料理を作りましょうよ」
「は、はい。……参りましたね」
ランサーはマーサ達に聞こえない様に呟く。その生涯から家事などした事がない彼女は世話になっている事と騙している負い目もあって断る訳にも行かず困てしまっていた。そんな中、ウェイバーは一人何処か浮かない顔をしている。
(何やってんだろ、僕……)
彼が聖杯戦争に参加した切っ掛けは魔術師の学び舎である時計台で教師であるケイネスに論文を馬鹿にされた事だ。魔術師の世界では代を重ねた家ほど基本的に優秀とされ、まだ三代しか続いていない家の出身の彼は扱いが悪かった。しかし、自分は天才だと自負してやまない彼は其れが気に入らず、馬鹿にされた腹立ち紛れに偶然手に入れたケイネス宛ての聖遺物を盗んで参加したのだ。
全ては自分の沽券を示す為に……。
(あれから探しても誰にも会わないし、だからと言って御三家に殴り込みをかける訳でもない。それにランサーの願いに比べたら……)
ランサーから聞いた聖杯に託す願いと夢で見た彼女の過去。それに比べると自分の願いが小さく思えて来たのだ……。
「……」
そんな彼の姿をランサーはローストビーフに齧り付きながら黙って見ていた。
「あたたたたたた! 奥義! プロトン斬りぃぃいいいいっ!」
迫り来る焼け石を全て竹刀で叩き落としたセイバーには息一つ乱した様子はない。実は彼女の剣の腕前は直視のナンチャラカンチャラを持つ少女と互角であり、英霊となった事によって更に磨きが掛かっているのだ。その後ろに控えていた時臣は口をポカンと開けていたが直ぐに我に返って優雅さを取り繕う。
「さて、ロードエルメロイ殿と戦えるとは光栄な事だな。どうですかな。ここは魔術師の誇りを賭けて……」
攻めてきた相手が今回の戦争で最強の魔術師とされるケイネスだと知った時臣は決闘を申し込む。だが、帰って来たのは機内からの予想外の返事だった。
『黙れ! 監督役と組んで不正をしている卑怯者との戦いにかける誇りなどないわ!』
「ありゃ~、バレてた。どうする? 時臣さん」
「……まさかバレているとはな」
『行くぞライダー! これは決闘ではなく懲罰だっ!』
『さあ! やーっておしまい!』
ソラウの指揮の下、石焼イモグラが動き出す。鋭い爪を光らせながらセイバーに襲いかかった。セイバーは慌てた様子で突進を避けると竹刀を振るう。たかが虎のストラップが付いただけの竹刀など金属製の機体に何のダメージも与えれる訳はない。
其のはずだった……。
「あれれ~? マスター、何故か効いてますよ~」
だが、僅かだが機体にダメージが響き操縦席が軽く揺れる。機外カメラを見ると僅かだが損傷が見られた。
「何やってるのよ、ライダー。とっととやっておしまいっ!」
「はいはい、それでは”焼き芋喰ったらガスが出るでがす攻撃”、ポチッとなっ!」
石焼イモグラはセイバーに背を向けると肛門部のシャッターが開く。其処から黄色いガスが吹き出してセイバーと時臣を包み込み、悪臭が二人を襲った。
「く、臭ーい」
「……ぐっ!」
セイバーは鼻を押さえ、時臣は転げまわっている。それを見たライダー達は勝利を確信……してしまった。
「やるじゃないのライダー。りゅうせきねぇ、ながれいしねぇ、
「えへへ~、僕ちゃん凄い?」
「ぐぬぬっ! おのれ、ライダ~」
ライダーに抱きついて頭を撫でるソラウの姿を見て嫉妬の表情を浮かべるケイネス、その時、操縦席から椰子の木と豚の模型が出現した。
「豚も煽てりゃ木に登る~」
「「「あぽ~!」」」
三人は見事な足ずっこけを見せる。その時、ソラウの尻の下に髑髏マークのスイッチがあった。
……お約束の自爆スイッチである。
「全国の女子高生の皆様、また来週~!」
石焼イモグラは髑髏の爆煙をあげて爆発した。
「……何しに来たのかしら?」
「……分からないな。だが、この勝負、我々の勝利だ」
「あれ? 時臣さん、鼻にティッシュ入れたままよ」
……お約束のうっかりである。
「「「えっほ! えっほ!」」」
そしてお約束の逃亡中、お約束の声が聞こえてきた。
『オメェら、あれだけ言ったのに負けたな~! さあ! お仕置きの時間だべぇ~!』
突然の閃光にケイネス達の目は眩み、次の瞬間には大勢のカメラマンの前で
セーラー服になっていた。
「な、なんだこの格好はっ!?」
「私、もう××歳よ……」
「僕ちゃん、似合ってるわね~」
カメラマン達はセーラー服姿の三人を激写し、ケイネス達は横から伸びてきたマジックハンドでセクシーポーズをとらされる。ソラウは兎も角、ケイネスとライダーは地獄絵図だ。
『なお、この写真は写真集として冬木市住人と時計台の生徒に無料配布だべぇ~』
「もう、こんな生活嫌だぁぁぁぁっ!!」
ケイネスが泣きながら叫んだ頃、アインツベルンの拠点である城の周囲の森に綺礼の姿があった。
「ハデに吹き飛べっ!」
森に設置された罠はアーチャーの大砲で木ごと吹き飛び、それによって出来た一本道を綺礼は進む。
「よっしっ! 城が見えてきたぞっ!」
「勝手に先に行くな、アーチャー」
アーチャーはマスターである綺礼を無視して先に進む。そして落とし穴に落ちた。
「ほげー!?」
巧妙に隠されていた落とし穴にハマったアーチャーは真っ逆さまに落ちて行く。穴の深さは数メートルは有り、アーチャーは必死にジャンプするが出られない。その姿を見て何故か笑みを浮かべていた綺礼は木の蔦をロープの代わりにしようと周囲を見回した。
「彼処か……」
ようやく蔦を発見した綺礼が取りに向かった時、アーチャーが落ちた穴の直ぐ傍から笑い声と土を被せる音が聞こえてきた。
「はっはっはっはっはっ! 平安京エイリアンの術ーっ!!」
背景と同じ絵柄の布を広げて姿を隠していたアサシンはアーチャーがハマった落とし穴に土を被せていく。やがて何とか脱出しようとしたアーチャーの顔と右手だけ出た状態で穴は完全に塞がった。
「テメー! この卑怯者!」
「勝てば官軍、卑怯でケッコー、メリケン粉ー! この戦い、横島忠夫様の勝利じゃー!」
「……あのライダーといい、アサシンといい、真名を平気で口にするとはバカしかいないのか」
「舐めんなよクソ野郎がっ! この道化のバギー様の恐ろしさ、ハデに見晒せっ!」
「……馬鹿一人追加、か」
それでも時臣のバーサーカーよりはマシだと自分に言い聞かせる綺礼であった……。
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