冬木市内を一組の男女が歩いている。女性の方は白髪の美女でどう見ても日本人ではなく、男性の方は凡庸な顔付きをした高校生程度の年齢の日本人。一見すると接点などなさそうな二人は観光でもするように街中を歩いていた。アイリスフィールと切嗣が召喚した英霊”アサシン”である。切嗣が隠密行動を取るため、アイリスフィールがアサシンのマスターだと思わせる作戦として二人は一緒に歩いていた。
「アイリさん、疲れてないっすか? ほら、あそこでいっぱ……一休み」
アサシンが指し示したのはカップルが利用する為の宿泊施設。この時の彼はまるで尻尾を振っている犬のようで下心が丸出しだった。
「あらあら、駄目よアサシン。切嗣に怒られちゃうわ」
「……うっ!」
アサシンが召喚されてアイリスフィールを見た瞬間、”生まれた時から愛してましたっ!”、と言いながらルパンダイブを行い、なぜか効かないはずの神秘が宿っていない弾丸を食らってのたうち回る。再び銃口を向けられ、”堪忍や~! 仕方なかったんや~!”、と情けない姿で命乞いしたので何とか助かったのだ。
「しかし中々見つからないっすね、他の英霊」
「しょうがないわよ。ほら、次は何処に行こうかしら。あっ、私,海が見に行きたいわ」
(……海。美人の人妻が人気のない所に俺を誘っているっ!?)
「あっ、変な事しようとしたら切嗣に言いつけるから」
結局、すべて読まれているアサシンであった。
「それにしても昨日の一件はなんだったんっスかね? ……もしかしたらこうやって悩ませる精神攻撃とか?」
「……そうね。正攻法で攻めて来る生粋の魔術師と思っていたけど搦手も使ってくるなんて切嗣も警戒していたわ。……遠坂時臣、恐ろしい男」
冬木市の郊外に居を構えるマッケンジー夫妻は日本が気に入って家族で越してきたのだが、二品での生活が気に入らなかった息子夫婦は祖国に戻り年老いた夫妻だけが日本に戻った。だが、最近若い男女がこの家で暮らしている。ウェイバー・ベルベットは
「お祖母さん、おかわりをお願いします」
「あらあら、アルちゃんは食欲旺盛ね。ウェイバーちゃんはお代わり要る?」
金髪碧眼の少女”ランサー”は四杯目のお代わりを所望し、マッケンジー婦人はニコニコ笑いながら大盛りを差し出すと黒髪の少年に話しかけた。
「僕は良いよ、お祖母ちゃん」
少年の名前はウェイバー・ベルベット。資金が乏しい彼は夫婦に暗示をかけ自分が戻ってきた孫だと思わせたのだ。だが、なぜランサーが此処に居るのか。それは彼女が何故か霊体化が出来ない事にあった。だから少ない魔力を使ってウェイバーの姉だと暗示をかけ、名前も彼女が提案した名前にしている。なお、なぜ恋人にしなかったかというと住まわせて貰いやすくする為と、気恥ずかしかったから、らしい。
「……なあ、ランサー。昨日の戦闘についてどう思う?」
食事後、ランサーの部屋に来たウェイバーは昨日使い魔を通して見た一件について相談する。昨日起こった戦闘について彼は訝しげに思っていたのだ。
「マスターの話を聞く限りフェイクなのは明らかですが……問題は
ランサーもウェイバーから聞かされた話を元に考察するも時臣の意図が掴めない。そして涼夜が悩む中、刻一刻と時間ばかりが過ぎていった。
「ええい! 遠坂めは何を考えておるのだっ! 全く意図が掴めんっ!」
「昨日遠坂邸であった戦闘の事? ……確かに不思議ね」
そして此処は冬木ハイアットホテルのスィートルーム。其処を借りているケイネスは婚約者のソラウと共に必死に考えるも相手の考えが読めず苦悩する。
「……とりあえず遠坂は後回しだ。まずは誘い出された陣営から倒して行くぞ。……ライダーはどうした?」
「彼なら港の方に行ったわ。ケイネス、貴方が”戦うなら人目の少ない湾岸倉庫あたりが良い”、って言ってたんじゃない。だから其処に合う様に宝具を使うそうよ」
各陣営が頭を悩ませる出来事、それは昨日の深夜に起きた。御三家の一角である遠坂邸には偵察の為の使い魔が各陣営から放たれており、使い魔達の目の前で其れは起きた。
「ハデに吹き飛べっ!!」
突如轟音と共に庭の一角が吹き飛び結界の一部が破壊される。破壊した犯人は英霊。付け鼻の様な鼻をした海賊を思わせる服装の男で、彼の真横には大砲が設置されている。恐らくアーチャーと思われる英霊は次々と大砲の導火線に火を付け砲弾を放っていく。だがその時、家の主である時臣と共に一体の英霊が姿を現した。
「タ~イム! それ以上はこのセイバーが見逃さないわっ!」
「さて、これ以上暴れて貰っては困るのだがね」
アーチャーは二人の姿を見るなりた砲門を向ける。だが火を付けるよりも早くセイバーを名乗った女が動きアーチャーの首を跳ね飛ばす。そしてそのままアーチャーは時臣の放った火の魔術の直撃を受け激しい煙に包まれる。そして煙が晴れるとアーチャーの姿は何処にもなかった。
そして、それを見た各マスターは同じ事を呟いた。
「「「「どうして首を跳ねたのに血が出なかったんだ?」」」」
こうして時臣の”うっかり”で破綻した計画は別の形で吉と出る事となった。なお、作戦の後で時臣は協力者である綺礼と璃正からは”え? アレって疑心暗鬼に陥らせる作戦じゃなかったんですか?”、などと真顔で言われたという。
そして、時臣のポカを見ても疑問に思えないほど追い詰められているマスターが一人居た。キャスターのマスターである雁夜である。彼の目の前にはキャスターが攫って来た子供の死体の山が有り、その前で二人は口論をしている。
「どういうつもりだキャスターっ! なんでこんな真似をしたっ!!」
「おやおや、私は貴方と桜ちゃんの為にしただけですが?」
血を吐きながら怒鳴る雁夜に対しキャスターは心底疑問そうに首を傾げる。まるで本当に善意だけで行っただけだとでも言いたそうだ
「貴方が時臣とやらを殺し、桜ちゃんを元の家に戻したとしましょう。……さて、桜ちゃんの母親は貴方をどう思いますかな? 全ての元凶である夫を倒し大切な娘を取り戻してくれた貴方に感謝し……もしかしたら好意を寄せてくれるかもしれませんよ? ……その時の為にも魔力は節約しないと貴方の体が持ちません」
「っ! だ、だが……」
此処で言い淀む時点で彼の精神は崩れかけていたのかもしれない。それは苦痛によるものかキャスターの影響によるものか。どちらにしてももはやマトモな精神状態ではないだろう。そしてキャスターは雁夜の背中を押す
「……それに、この子供達は桜ちゃんが苦しんでいる間ものうのうと幸せな生活を享受していたのですよ。実に不公平ではありませんか。……桜ちゃんを救い、貴方も幸せになる為の尊い犠牲だとお想いなさい」
「……桜ちゃんの為」
「ええ、だから気に病む必要はございません。貴方は悪くなどないのですから」
……いや、突き落とした。二度と這い上がれぬ奈落の底へと……。雁夜はキャスターの言葉に僅かに頷くと小さな声で呟いた。
「そうだ。これは桜ちゃんを救う為の犠牲なんだ。だから……俺は悪くない」
そしてその日の夕方、人気のない海辺にアイリスフィールとアサシン、そしてライダーの姿があった。ライダーは異様に長い鼻と出っ歯を持つ小柄な男で緑色の服と角の様な出っ張りのある緑色の服を着ている。
「……まさかこんな所で英霊に会うなんて」
「危ねぇから下がっていてくれ」
アサシンはアイリスフィールを下がらせると輝く籠手を出現させる。籠手からは光で形成された刃が出現していた。それに対しライダーは懐から小さな機械を取り出す。其処にはドクロマークのスイッチが有り、
「全国の女子高生の皆さ~ん! 揺れる瞳のアイドル、ボヤッキーよ~! それでは参りましょう! 今週の見せ場、ポチっとなァ~! 」
それを押した瞬間、海の中から巨大なメカが出現した。
意見 乾燥 誤字指摘お待ちしています