[凍結中]魔弾の王×戦姫×狂戦士×赤い竜   作:ヴェルバーン

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短めです。タイトルはバレバレかな。






第八話 ???の歓談

 ジスタート王国のライトメリッツ公国。

 

 その公宮のとある応接室で、三人の女性が歓談していた。

 

 

 一人は青眼に、白金の髪を横に纏めて流して、臍と背中を大きく開けた青い色調の服を身に纏っている。

 その豊満な胸が傍目にも判る程ぴっちりとしたその装束は、今すぐにでも鎧を纏えると言わんばかりだ。

 彼女は従者然とした姿勢を崩さず、主を立てるかのように、客人と対面する主の後ろに侍り、一歩引いて二人の会話に耳をそばだてている。

 時折、失礼にならない程度に相づちを打ち、話し自体には加わっているようだ。

 

 

 その彼女を侍らせている白銀の髪の少女は、従者と同じく青を基調とした、見るものに涼やかな印象を与える装いに、白い衣をを羽織っている。

 凛とした紅の瞳は、会話の内容が面白いのか楽しげな光を宿し、表情には笑みを絶やさない。

 側には、美しい銀の装飾がなされた、羽根を思わせる鍔の長剣が鞘に収まっていた。

 

 

 銀髪の少女の対面に座る女性は、覗き込む者を包み込んでしまう程の優しさを湛えた緑眼を細め、対面する少女達より大きい、ふくよかな胸を揺らして嬉しそうに微笑んでいる。

 祭事の際の踊り子でも通る服装は、清楚ながらも艶があり、その豊満な肢体に色香を漂わせ、その背に届く波打つ金髪を際立たせていた。

 傍らには、不思議な造りの金の錫杖が立て掛けられている。

 

 

 

 

 

 

 三人の歓談はそれから四半刻(三十分)程続き、銀髪の少女は話しの内容に興奮したのか、声を荒げてその時の様子を詳細に語る。

 

 

「……そうしたらサーシャが『君達は本当に懲りないね、同じ戦姫同士なんだから、少しは協調性を持ったらどうだい?』何て言うんだ!

私とあいつとの間に、そんなものが芽生える余地がない事ぐらい、サーシャだって分かっている筈なのに!」

 

「エレオノーラ様、アレクサンドラ様のおっしゃる通りです。

偶には、リュドミラ様に大人な対応をされてみては?」

 

「そうよ、エレン。合う度に角突き合わせていたら疲れてしまうわ。

そういう時は、貴女の方が大人にならないと」

 

「嫌だ!

私がそんな対応をとっても、あいつがあの態度を改めるとは思えない。

 

それになにより、大人な対応をするならあいつからするべきだ!

 

そうしたら私だって、今までのあいつの態度を寛大な心で赦してやらんこともない」

 

 

 従者と金髪の女性の最もな指摘にも少女───エレオノーラ=ヴィルターリアは耳を貸さず、相手の対応次第では、赦す『かも』しれないと言う旨の発言を二人に返す。

 主の発言に気付いた従者の女性はエレオノーラ──エレンに指摘する。

 

 

「赦すとは、断言なさらないのですね」

 

「当然だろう、リム。

 

まあ、私も鬼ではない。それ相応の謝り方をして、私の心が満足すれば赦してやるつもりだ。

 

無論、私の心は妥協しないがな」

 

「どんな謝り方なら満足するの?」

 

 

 エレンは従者の女性──リムアリーシャの言葉に憤然とした風情で腕を組み、言い返す。

 そんなエレンに、金髪の女性が困ったように笑いながら、どんな謝罪の方法なら赦すのか問い掛ける。

 

 エレンは腕を組んだまま少し考えて、最初はおもむろに口を開いた。

 

「そうだなあ。

 

まず土下座は欠かせないとして……」

 

 この時点で既に赦す気はないと判断した二人は、あれ得ない未来の光景を思い浮かべる必要はない、と判断しエレンの話を遮ろうとする。

 しかし、エレンは徐々に考えが纏まってきたのか、滑るように言葉を紡ぐ。

 

「これまでの非礼と、暴言の数々。

そして、私に手を上げた諸々をすべてを謝罪し、もう今後二度と私に対して不愉快な言動はしない、という誓約書を書かせた上で『エレオノーラ=ヴィルターリア様、今まで本当に申し訳ありませんでした』と言う書き取りを……」

 

「もう結構です」

 

「何故だリム、まだ続くぞ。

その書き取りを五十……いや、百枚だな。

それから、ソフィーやサーシャにも迷惑を掛けたし、この二人にも同じ様に……」

 

「だからもういいわよ。

貴女、それ絶対赦す気ないでしょう」

 

 金髪の女性──ソフィーヤ=オベルタスの言葉に、まだ言い足りないのか不満そうにするエレン。

 リムアリーシャ──リムはそんな主に非難の視線を送り、苦笑するソフィーヤに対し感謝の念を送る。

 

 味方はいないと判断したのか、エレンは不機嫌そうに鼻をならし、話題を変えた。

 

 

「それで、今日は何の用だ?

 

ルーニエなら厩舎にいるぞ。

 

私たちライトメリッツは、ブリューヌとの戦の準備で忙しいんだが」

 

 何処か拗ねたようにエレンが今日の来訪の目的をソフィーヤ──ソフィーに問う。

 主の態度はともかく、その発言にはリムも気になっていたのか、姿勢を正しソフィーの用件を聞く体勢に入る。

 ソフィーも雑談はここまでと判断し、今日の来訪の理由を話し始める。

 

「そうね、その戦に関係があることよ」

 

「なに?」

 

「どう言うことでしょうか?」

 

 思わず疑問の声が洩れる二人に、ソフィーは詳しい内容を最初から説明する。

 

「切っ掛けは四ヶ月前、ジスタートとブリューヌの国境のヴォージュ山脈で、竜を見たという話が上がった事なんだけど。

 

貴女達は知ってるかしら?」

 

「いや、私は知らないな。ルーニエのことじゃないのか?」

 

「私はルーニエとは別に、二度ほど侍女の数人から聞いています」

 

 

 ソフィーの問いに初耳だったエレンはそう返す。

 ルーニエとは、エレンがこの公宮で飼っている中型犬並の幼竜のことだ。時々、放して自由にさせているがそれが大袈裟に伝わったかと思ったが、自身の副官でもあるリムが話を知っていた事に驚く。

 

「リム! 何故、私に言わなかった!」

 

「二度目の時点で申し上げました。

 

最初は三月程前のことですが、噂話だと判断し報告には上げませんでしたが。

 

二度目の時である一月前も、エレオノーラ様は眠たげな声で『そうか』とおっしゃいましたので、それほど大事にはしませんでした。

 

それ以降は耳にしていないので、やはり噂話の類いかと結論していたのですが……」

 

 

 エレンは思い出した。そういえばその時、ルーニエと戯れて疲れていたが、確かに耳にした。

 山の方で竜の足跡を見た猟師がいるとの事だったが、噂話かもしれませんと言う彼女に自分は、ルーニエと同じ位の大きさなら飼ってもいいな、という旨の発言をした様な覚えがある。

 

 何処か咎める様なリムの視線は、気のせいではない筈だ。

 

 ソフィーはそんな主従の様子に苦笑して、話しを続ける。

 

「それで、わたくし興味が湧いてね。

ブリューヌに探りを入れたのよ。

勿論最初は、通いの商人や旅行者なんかに聞いてだけどね」

 

「お前が興味を持つのは分かるが……」

 

 ソフィーは竜が大好きだ。

 特にルーニエを気に入っており、エレンとソフィーが仲良くなれたのも、ルーニエの存在が一因と言ってもいい。

 最もルーニエは、ソフィーのことを好いてはいないが。

 

 情報収集を得意としているソフィーが、竜好きが高じて力を入れてもおかしくない、そう思い発言するエレンだったが、彼女は静かに首を振る。

 

「いいえ、そうじゃないわ。

確かに最初はわたくしの趣向が発端だったのは否定しないけれど。

 

初めの調査では、地方の領主の一人が竜を匿っている話し程度で、これについてはルーニエちゃんと同じ扱いなんじゃないかと判断したんだけれど、

 

途中から何だか胸騒ぎがしてね、もう少しブリューヌで詳しく調べてみたのよ」

 

 何処かすっきりしない、という風なソフィーに二人は顔を見合せ、どうやら只事ではないようだと感じた。

 

「それで、どうだったんだ?」

 

 エレンは微かに緊張を面に出しソフィーに問い掛け、リムも油断なく聞く。

 

「二人はテナルディエ公爵を知っているかしら?」

 

「ああ、知っている。

……あまり良い噂は聞かないが」

 

「私も、知っています。

此度の戦で、領民に重税と非道な行いを強いているようですが」

 

 ソフィーの口から出てきたのは、これから戦うブリューヌ王国でも、有力な諸侯の名前だ。

 知らず、その公爵の風評に、苦いものを噛み締めた様な表情が二人に走る。

 ソフィーも好意を懐いていないのか、同じ様な表情をして話しを続ける。

 

「そのテナルディエ公爵の元に、竜を調教出来る者が居るらしいの」

 

「っ!」

 

 二人は思わず息を呑んだ。竜を調教、つまり────

 

「それでは、ブリューヌ軍に竜が?」

 

 リムは愕然とした表情でソフィーに問う。エレンも唖然とした面持ちだ。

 しかし、ソフィーは首を振ってリムの質問に答える。

 

「いいえ、そこまでは分からなかったわ。

 

ただ、その可能性は低いと思う。

 

理由としては、テナルディエ公爵だって、少なからず喧伝する筈なのにまだそれをしないこと。竜が同道するのに、ブリューヌ兵の動揺が感じられないこと。

 

でも、絶対じゃないから、もしかしたら竜が出てくるという可能性も少なからずあるわ。

 

その可能性を、排除しないで欲しいのよ」

 

 その彼女の言葉に、幾分か冷静さを取り戻したエレンは、ソフィーに情報の提供を感謝する。

 

「ソフィー、教えてくれてありがとう。

もし、知らずに対峙していたら、兵の動揺は避けられなかっただろう。

感謝する」

 

「いいのよ、気にしないで。

また、詳しい事が分かったら連絡するわね」

 

「ああ、私たちも調べてみる」

 

 エレンには、竜具と竜技があるとはいえ、他の兵士には望むべくもない。確実に混乱しただろう。

 真摯に頭を下げるエレンとリムに、ソフィーは微笑し鷹揚に頷き、この話しはこれでお仕舞いとばかりに手を打つ。

 

「さあ、後はルーニエちゃんに会わないと」

 

 彼女はブレなかった。

 

 

 

 

 その後、嫌がるルーニエを一日掛けて可愛がったソフィーは、自身の領地であるポリーシャ公国に戻るべく、ライトメリッツの公宮を去ろうとしていた。

 

「じゃあね、エレン、リム。武勲を期待しているわ」

 

「ああ、期待していてくれ」

 

「恐れ入ります」

 

 ソフィーの腕には、別れを惜しむかの様にルーニエが抱き抱えられている。

 ルーニエは、この一日逃げ回り本当に疲れたのだろう、ぐったりして死んだ魚の様な目をしていた。

 

「くれぐれも竜に気を付けて」

 

「大丈夫だ、私にはアリファールがある」

 

 心配そうに声をかけるソフィーに、エレンと竜具アリファールは安心させる様に風を吹かせる。

 続けてリムも安心させるかのように、ソフィーに声をかける。

 

「ソフィーヤ様。

エレオノーラ様には、私が決して無理をさせませんので」

 

「リム、アリファール、エレンをお願いね」

 

 リムの言葉と、アリファールの微風に、少し不安が和らいだのか微笑を浮かべる。

 別れの言葉を紡いでいく三人だが、徐々に言葉が少なくなっていく。

 戦前ということで、少々湿っぽくなった空気を払うべく、エレンは二日前の歓談の中で、不思議に思っていたことをソフィーに質問する。

 

「ところで、竜を匿っている領地とはどこなんだ?

 

私は聞いたことがないのだが」

 

 不思議そうにしているエレンに、ソフィーは少し困ったように微笑して、自身の知っている、あやふやな情報を教えるべきか迷う。

 迷いを見せるソフィーに、リムは困惑し何か不味い事でも聞いてしまったのかと問う。

 

 しかしソフィーは変わらず困ったように微笑し、

 

「わたくしも旅人や、商人から聞いたから、ハッキリしたことは判らないけれど、」

 

と前置きして、

 

「なんでも、普通の竜の二倍以上の体躯を持った赤い竜がいるとかで────」

 

───その竜はこのジスタートよりも東から来た。

 

───竜の背にはいつも一人の男が乗っている。

 

───その竜は喋る。

 

 

 などと言った、自身でもあまり信じきれていない、情報を二人に伝える。

 

 エレンは、話の信憑性に疑問があるのか顔に苦笑を顔に浮かべ、

 

「まあ、本当ではないにしろ、用心だけはしておこう」

 

 とだけ返し、リムは訝しい視線をソフィーに向け、

 

「その吟遊詩人が歌ったかのような領地はどこなのですか?」

 

 とまるっきり信じていないのか、疑問の声を上げる。

 

「確か、ここからそう遠くないわよ。

山一つ隔てているかどうか、じゃなかったかしら?

名前は確か────

 

 

 

 

 ────────アルサスだったような。












このあと二三話挟んで原作軸なんですが、この後の第九話が悩みものであまり良い出来ではありません。

話の筋は決まっているのですが、描写が難しくて第十話が先に出来てしまいました。

次回の更新はそう遠くないとは思いますが、あんまり早くは期待しないでください。

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