けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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遅くなり申し訳ない。
こんな駄文で良いなら・・・どうか読んでやってください・・・。


第54話 yellow moon 流星群 涙なんかいらない

Side 梓

 

 

私は自分の目を疑った。

あの日、ライブハウスで初めて見た色鮮やかな花のマスクを被ったバンドグループ。

その演奏に憧れた。

初めてギターを買ってもらった日を思い出し、私は今まで恥ずかしくて言えなかった夢を今一度胸に抱くきっかけとなった、そんな憧れのバンドが目の前に。

夢でも見ているのだろうか。

本当はまだ寝ていて、お母さんに起こされるまでの幸せな、そんな幻なのではないか。

 

しかし、私の頭は今までにないくらい覚醒しているのがわかる。

目の前の光景を、演奏家たちの一挙一動を忘れないように見ている。

 

夢なんかじゃない。

ふわふわとした感じはするが、それこそがこれが本当のライブであることを伝えている。

知らず知らずのうちに力強く握ってしまっていた右手にようやく気付き、慌てて湯宮お姉さんのほうを見る。

にっこりと微笑んでいた。

そしてどこか寂しそうにステージを見ていた。

 

 

「あー・・・どうも軽音楽部、HTTです」

 

真っ赤な花が目立つマスクをしたドラムの女性がそう言う。

あぁ・・・やっぱり間違いなんかじゃない。

この人たちは本物のHTTなんだ。

 

「まずは入学おめでとう。ここにいる新入生諸君の高校生活が幸多いものであるように心を込めて演奏します」

 

あくまで最低限のことしか話さず、そして演奏は始まった。

 

 

「ルーズリーフ」

 

そしてここで私は気づいた。

ボーカルが違う、と。

百合の花から向日葵のボーカルへと。

私は今日何度目になるかわからない驚きを隠せずにいた。

 

 

 

楽器の演奏自体はやっぱり上手かった。

いや、海馬チャンネルで見たときよりも数段に上達していると思った。

だからこそ、ボーカルに違和感を感じた。

まるでここ一ヶ月しか練習していないようなそんな印象を受けた。

なぜ、あの人はいないの?

憧れのバンドを見つけて、けどそこには一人足りなかった。

結局私は、最後まで考えがまとまらず、演奏に集中することができなかった。

 

 

 

 

 

 

歓迎会の出し物すべてが終わり、私は軽音部へ向かった。

湯宮お姉さんにも来てほしかったけど、用があるらしく別れた。

用があったにもかかわらず、付き合ってもらって申し訳なかったなぁと反省をする。

 

校舎の最上階、長い階段を登りきったところに軽音部はあった。

扉の前に立つ。

緊張する。

この奥に私の・・・憧れが。

 

ノックしようとする手が止まる。

結局私はなんて言おうか、なんて聞こうかまとめることができないままここまで来てしまった。

新入部員は募集中なのか、とか。

どういう音楽路線で行くのか、とか。

どういう活動をしていくのか、とか。

 

あのボーカルはどこへ行ったのか、とか。

何故か、湯宮お姉さんの顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 

「軽音部に何か用事かしら?」

 

後ろから声をかけられて慌てて振り向く。

そこにいたのは眼鏡をかけた理知的な女性だった。

確か・・・生徒会長さんだ。

 

「えっと、その・・・」

 

「・・・入部希望者?」

 

「あ・・・えと、はい」

 

その言葉を聞いたとたん、にこっと笑う生徒会長さん。

そして軽音部のドアを開けて、中に入る。

 

「みんなお疲れさま。新入生、来てるわよ」

 

「本当か!?」

 

「和ちゃん、疲れたよ~」

 

「唯!シャキッとしろ新入部員が来たんだぞ!」

 

「お茶とお菓子の準備をしなきゃ!」

 

わいわいと一層騒がしくなる部室。

なんだか・・・思ってた人たちと違う・・・。

でもあの演奏は本物だった。

 

聞きたいことはたくさんある。

考えがまとまってないけど、それでもここは私の憧れた場所だ。

だから。

 

「中野梓と申します!ライブハウスで見たときからファンでした!私を入部させてください!!」

 

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

 

軽音部のみんなは・・・進化していた。

みんな、私のことは忘れていたけどそれでもプロになるために前に進んでいた。

そのことを嬉しく思ってこんなにも顔が緩んでしまう。

約束を覚えてくれているなんて、そんなありえないことを信じてしまいたくなるくらい。

軽音部のみんなが頑張ってくれているなら、私だって負けるわけにはいかない!

きっとすぐにみんなはプロになる。

その時に、私と一緒に演奏してくれるように有名になっておかなくちゃ。

 

校門前に、車が止まっている。

そこからゆのさんと磯野さんが出てくる。

 

「お疲れさまです、湯宮様」

 

「湯宮様、体調のほうはいかがですか?」

 

順にゆのさん、磯野さんが言う。

 

「はい、大丈夫です・・・すいません、わざわざ、迎えに来てもらって・・・」

 

「お気になさらないでください。社長から、湯宮様の身の回りのことは私と、阿澄に任せると言われておりますので」

 

「まぁ磯野さんは社長の秘書ですから基本的に私が湯宮様のサポートとなります」

 

「あ・・・えと、ありがとうございます・・・その、敬語・・・」

 

「・・・阿澄」

 

「わ、わかりました!んんっ!」

 

深呼吸。

 

「お疲れさま、千乃ちゃん。新学期は楽しかった?」

 

敬語から一転、ゆのさんは前みたいに砕けて話してくれた。

 

「ごめんね、立場上、千乃ちゃんとはビジネスパートナーだから必要以上に硬くなっちゃった」

 

よかった。

みんなから私のという記憶が喪失されて、当然私がプロテストに合格したという事実も失われた。

けどそれでも私にはみんなとの約束だけが全てだったから、一人で海馬社長とゆのさんに会いに行った。

そして一通り事情を説明したけど、普通は信じられない話だ。

だから私は歌った。

それしか能がない。

社長室で演奏も何もない、一人きりの演奏会。

いつもは軽音部の皆さんがいたから怖くなかった。

どんな所でも歌えた。

でもこれからは私一人だと思うと・・・歌い終わった後涙が流れてしまった。

海馬社長とゆのさんは私のことを思い出してくれた。

HTTのことも。

病気のことも。

海馬社長はオカルトと一蹴したけど、だからと言ってそれを理由に他の人と別のようには扱ってくれなかった。

嬉しかった。

病人だから、歌わせてくれないかと思ってた。

残りの時間が2年間だということも伝えたけど、

「それならば、2年の間に貴様は俺が投資した以上に役にたて」

と、それだけだった。

それから、私のデビューの日取りや演出をゆのさんと打ち合わせをする日々。

そして今日から正式に私は海馬コーポレーションの一員となる。

つまりは、今日が私のデビューの日、というわけだ。

だから、ゆのさんもかしこまった口調だったのだろう。

 

「・・・お友達はできた?」

 

ゆのさんが、言う。

HTTの皆さんと、と言う聞こえない言葉が聞こえた気がした。

 

「あ、はは・・・できま、せんでした、けど澪さんと、同じクラス、でした」

 

こんな話し方ですけど、歌うときになったらきちんと歌える。

きっと神様が、普段がこんな口調だからこそ、歌えるようにしてくれてるんだと勝手に思うようにしています。

そして、感謝も。

車に乗り込むとき、ゆのさんの顔が曇ってるようにみえた

 

 

 

 

 

車に乗って、向かってきた場所は海馬コーポレーションの所有する放送局。

後から知った話なのですが、海馬コーポレーションは本当にいろいろなことに手を伸ばしているということ。

変な話、この会社一つで世界は回る・・・かもしれない。

 

控室にてゆのさんの手伝いのもと、私は服を着替えたりお化粧をしてもらっている。

ゆのさんは美術大学出身で、だからというのか手先が器用でお化粧一つしたことのなかった私を、私じゃないみたいに綺麗にしてくれた。

でも、ゆのさんの顔は晴れない。

 

「・・・ゆのさん?」

 

「あ、ごめんね」

 

止まっていた手を再度動かすゆのさん。

やはり、どこか変だ。

 

「どうか、しましたか?」

 

「・・・千乃ちゃん、ごめんね、私がマネージャーで」

 

「なにを」

 

「もっと経験豊富な人が千乃ちゃんのマネージャーだったら・・・もっと千乃ちゃんを可愛くできるのに。

千乃ちゃんとHTTのみんなとも一緒にいさせてあげることもできたかもしれないのに」

 

「・・・・・」

 

驚きました。

まさかゆのさんはそんな風に思っていたなんて。

 

「ゆのさん・・・私は、ゆのさんが、隣にいてくれて、良かったと、思います」

 

当たり前のことだ。

私が今ここにいられるのもゆのさんが私を見てくれていたからだ。

あのライブハウスから。

 

「でも・・・思っちゃうの。ずっと夢だったこの舞台に千乃ちゃんは一人で立つなんて」

 

「・・・確かに、寂しいです。律ちゃんも、澪ちゃんも、紬ちゃんも、唯ちゃんもいない、から。

でも、皆さんは、ここにいます、から」

 

自分の胸に手を置く。

4人分の温かさが、ここにはある。

皆さんが私を忘れても、ここに、いる。

ゆのさんは、泣きそうな顔で私に抱き着く。

私も抱きしめる。

何度もありがとう、と言い合う。

 

「それに、頼りのなる、音楽隊も、います、から」

 

そう、さすがにアカペラじゃ寂しいからと、私は様々な音楽グループと契約をした。

そのグループの手の空いてるとき、私の歌のバックミュージックをお願いしているのです。

海馬社長が方々に声をかけてくださったらしく、またゆのさんも自分の足で見つけてきたりも知てくれた。

本当にお2人にはお世話になってばかりだ。

その恩を、少しでも返そう。

歌という形で。

 

化粧室から隣の控室へ向かう途中、中から声が聞こえた。

 

 

「まさかこの年になって、TVに出るとはのう」

 

「わしらがTVに出ると知ったらババどもはどんな顔するか」

 

「天国へ行く楽しみがまた増えたわい」

 

「あれだけ働けと言われてきたのに、それでも音楽を続けてきた」

 

「その芽が、やっと花を咲かすんじゃ」

 

「どんな花か、ババどもに束で渡してやるわ」

 

「びっくりしてもっかい昇天するんじゃないか?」

 

「ちがいない!」

 

わははと部屋の中がにぎわう。

年季の入ったそのしゃがれた4つの声は、聞いてるだでけ絆の深さを感じる。

きっとどんな時もこのメンバーで乗り越えてきたんだ

私も、今日はその一員になる。

何度も一緒に練習してきた4人のおじいちゃん達、その名を『ブレーメンの音楽隊』。

馬場さん、犬塚さん、猫山さん、鶏内さんら4人は子供のころからずっと音楽が大好きで上京してきたときにライブハウスで知り合い、結成されたグループで、結婚して子供ができてもずっと続けてきた。

奥さんからいろいろ言われてきても、それでも音楽を続け、半ば諦められて放置されてきたことからこのグループ名にしたのだとか。

皆さんは、派手な演奏を好む傾向があり、そのせいかなかなか地に着いた演奏をせず、今まで門前払いを食らってきていたらしい。

ある日、駅前でゲリラ的に演奏していた4人の前に、ゆのさんと私が通りかかったところから出会いは始まった。

みなさんは、高齢であり体力も衰えてきているらしい。

けれど、ついてきてくれた。

私のむちゃくちゃな歌にも、必死でついてきてくれた。

一緒に、音楽を作ってくれた。

感謝しなくちゃいけない人が増えすぎた。

今回の演奏が、成功すれば少しは恩返しになるのかな。

 

するとドアが開く。

 

「おう、誰かと思ったら我らが姫様だ」

 

「というより女神さまじゃな」

 

「わしらの夢を叶えてくれる神様」

 

「わしらが神様とか女神さまとかいうと、シャレにならんわ」

 

またもはじける部屋。

・・・ゆのさんじゃないけれど、私も思ってしまう。

本当に私でよかったのか、と。

 

『ブレーメンの音楽隊』はさっきは体力がないとか、派手好きだとか言ってしまったけど、老練された基礎に嘘はなく、どんな時もしっかりとした演奏をしてくれる。

安心感がある、というのか。

彼らの演奏は、大木のようにしっかりと根を張ったもので、さながら私はその枝で歌うなんか小さな生き物に違いない。

だからこそ思うのだ。

しっかりとしたプロデュースさえすれば、彼らはきっと成功する。

そのプロデュースに、本当に私とセットでよいのだろうか、と。

もちろん、私にも約束がある。

その約束を守るために一生懸命練習もしてきた。

おじいちゃんたちも、私が夢をかなえてくれたというけれど・・・けど・・・けれど・・・。

 

「どうした?」

 

・・・本当に、わたし、でいいの、でしょうか・・・

 

そう声に出そうとして、やめる。

その言い方は失礼であると、思ったから。

私のためにいろいろと手を尽くしてくれている海馬社長や、ゆのさんに。

そしてまだ短い期間ではあるけどともに音楽を作ってきた『ブレーメンの音楽隊』に。

だから、私が言うのは。

 

「みなさん・・・今日まで、ありがとう、ございまし、た。たくさん、無茶を言って、すいません、でした・・・」

 

一息、吸って吐く。

 

「一人で、歌うのは、寂しい、です。

でも、こんなに素晴らしい、音楽隊がいてくれたから、ここまで、来れました。

だから、今日は、私のステージ、ではなくて、にぎやかで楽しい、音楽隊をみんなに知ってもらいたい、ので一生懸命、頑張ります!」

 

私らしくもない大声を出す。

出そうと思ったのではない。

自然に出てしまったのだ。

そのことに、恥ずかしく思ってしまい頬が上気したのが分かった。

 

「ですので・・・みなさん、どうか私に力を貸して、ください・・・」

 

最後はもう消え入りそうな声に。

 

4つの手にわしわしと頭を撫でられる。

大きな手だ。

何年も楽器を握ってきた、音楽家の手だ。

何も言わず、ただ頭を撫でてくれる。

優しさに身をゆだねてしまう。

今から歌うというのに、鼻がつんとしてしまう。

 

「あー!ダメですよ馬場さん!せっかくお化粧したのに!髪もセットしたのにー!」

 

ゆのさんが大声を上げる。

 

「わはは!千乃ちゃんはそのままでも十分可愛いわ」

 

「そういう問題じゃないです!せっかくに晴れ舞台なのに・・・!」

 

「怖い怖い・・・うちのババどもを思い出すわ」

 

「きっとゆのちゃんも将来旦那を尻に引くタイプじゃ」

 

「いや~この小さな尻じゃ、あの社長はひけんわ」

 

「せいぜい、お馬さんごっこしてるくらいにしか見えんな」

 

「な、な、な何を言ってるんですか!女性に向かってそういうこと言わないでください!私だってまだまだ成長するもん!それに私は社長のことそういう風に思ってたりなんか―――――」

 

「そろそろ行くとするか」

 

「おう、いよいよわしらの夢が叶う」

 

怒るゆのさんをそのままに、私の手を引き歩き出す『ブレーメンの音楽隊』。

 

「夢が叶う・・・」

 

「千乃ちゃんの夢も叶うし、わしらの夢もな」

 

そう、『ブレーメンの音楽隊』の夢はプロになること。

私と同じだ。

そして、もう一つ彼ら音楽隊には夢がある。

 

それを思い出すと笑ってしまう。

 

「あの世でババどもの驚く顔を拝んでやるわ」

 

こうやって憎まれ口をたたくけれど、その実は優しい心であふれている。

『ブレーメンの音楽隊』の奥さんたちは、ほとんどお金にならない音楽をやり続けたおじいちゃん達にいろいろ文句を言ってきたけど、でも見捨てなかった。

呆れ、半ば放置という形だったけど、それでも本気で辞めろとは言わなかった。

最後の最後まで、支えてくれたそうだ。

だからこそ、天国で言いたいそうだ。

 

『お前の選んだ男は、最後まで音楽を続け、夢を叶えた。お前がいたおかげだ』と。

 

その言葉のために、音楽隊は今日まで楽器を手放さなかった。

今日、『ブレーメンの音楽隊』と演奏できることを誇りに思う。

 

 

 

「さぁ、皆さん。楽しい、音楽の時間です」

 

 

 

 

 

 

 

 

幕が上がる。

海馬チャンネルの番組が始まる。

生放送だ。

司会者のスピードワゴンさんが私たちの説明をしている。

なんでもスピードワゴンさんは海馬コーポレーションの元社員で、今はSW財団なるものを設立し様々な番組を監修しているそうだが大恩ある海馬社長とよく共同で番組を作ることもあるそうで。

そしてこの歌番組『題名のない音楽会』もその一つで、スピードワゴンさん本人が司会者を務める。

スピードワゴンさんの話し方や独自の説明の仕方はかなり人気があり、彼を見るためにこの番組にチャンネルを合わせる者も多い。

せっかく私たちのことを説明してくれているのに、頭に入ってこない。

緊張、夢が叶うその高揚感、様々な感情が渦巻いているからだ。

歯がガチガチと震える。

あふれだしそうなこの想いをどうすればいい?

 

 

 

あぁ・・・歌いたい。

 

 

 

「yellow moon」

 

これはAkeboshiという歌手の歌だ。

浮遊感ある曲調。

くせになるサビ。

そして切ない歌詞。

バイオリンやピアノの幻想的な音が、目を閉じるとそこには星いっぱいの夜空が広がる。

どことなく寂しい雰囲気があるが、『ブレーメンの音楽隊』の良さが出る曲である。

ごまかしの利かない、実力勝負の曲。

彼らの今までの音楽の歴史がここにはある。

背を向けながら、それでも目で見つめあう。

まるで、『ブレーメンの音楽隊』とそれを文句を言いながらも支えてきた奥さんたちのように。

伝えよう。

この胸にあふれる気持ちを。

感謝という財宝を。

愛してるという星空を。

 

 

 

 

「流星群」

 

鬼束ちひろという歌手の曲。

ピアノで始まるこの曲も落ち着いた曲調である。

一人きりの部屋で独白をするように歌い、誰に届くかもわからずに歌う。

現実の世界というよりも、夢のような曖昧な世界。

人は生きているだけで壁にぶつかるもので、時にはどうしようもなく身動きが取れなくなってしまう。

けれどそんな時こそ一度落ち着いて、奇跡に頼るのではなく周りも見渡して一呼吸をして。

そして自分のいる位置を確認してまた一歩ずつ歩いていこう。

 

 

 

 

 

 

「涙なんかいらない」

 

高鈴の歌。

答えなんか、涙なんか必要ないと歌うこの曲は、答えと涙を否定しているわけではない。

ただ答えと涙に振り回されないでと歌っているのだ。

誰かと比べるのもいい。

競争をして走るのもいい。

けどその結果に振り回されないで。

誰かを追い越そうとして必死になっている自分を見て、それが答えだと、醜いと思わないで。

そのための涙を流さないで。

誰かと比べて自分のいるその位置を自分の全てだと思わないで。

劣っていると、涙を流さないで。

今はまだ山を上っている途中で、長い道を走っている途中で、他の誰かとは違う道を進んでいるだけなのだから。

悔しいと、答えを出してしまって泣かないで。

その涙は明日、成長した時に流す涙なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

歌い終わる私に『ブレーメンの音楽隊』。

少しの静寂のあと、ゆのさんが観客席のよこから拍手をくれた。

それに続くようにぱらぱらと拍手が起こり、それは一つとなってスタジオを揺らすような音に。

『ブレーメンの音楽隊』の皆さんは涙を流しているような気がした。

疲れてもともと悪い視力が、さらに狭まってるように感じた。

それと同じように、達成感を好みに感じた。

 

澪ちゃん、律ちゃん、唯ちゃん、紬ちゃん、和ちゃん。

お父さん、お母さん。

 

私、プロになったよ。

 

 

 

 

 

 


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