Side 千乃
文化祭が終わってはじめての日曜日。
お昼時の公園前ということもあって、あまり人はいません。
いつもよりもオシャレをしているのですが・・・似合っているんでしょうか。
今日は和さんと遊ぶ約束をしており、楽しみすぎてちょっと早く集合場所に来てしまったようです。
昨日もあんまり眠れませんでした。
だって、和さんが文化祭の時に『デート』だって言ってたから・・・。
緊張してしまいます。
ちょっと早く来すぎたと反省しつつも、私は思い出します。
あの文化祭で私達軽音部の音楽を。
今までで最高の音楽、最高の演奏。
きっと一生忘れることはない、たとえ喪失病で全部失っても。
澪さんちゃんはあの時言いました。
『今日、あの演奏を出来たことでもっと自信がついたような気がする・・・辛い時、今日のことを思い出すだけで勇気が沸いてくるような』って。
私も同じ。
この思い出だけは絶対に忘れたくないし、きっと忘れない。
魂にまで刻み込むような、そんな思い出。
それにしても楽しかったなぁ・・・文化祭。
ヘトヘトになった後も私達は、色んな出し物を回った。
焼きそばも食べたし、皆で写真も撮った。
菊里さんはもう帰ってしまっていたけど、演奏だけはちゃんと聴いてくれていました。
一言、感動したと残して。
シンちゃん達も合流して、和さんも仕事を終え信代さんも一緒に回ってくれました。
そしてあれ以来・・・私達、軽音部は少しだけ有名になりました。
マスクや衣装の効果もあってクラスメイトで軽音部を知ってる人意外は、軽音部の正体について想像したり、友人同士の間で色んな話が飛び交っていたそうです。
律ちゃんの目論見どおり・・・さすが我らが部長です。
まあそれでも、高校での話ですのですぐに正体などはバレてしまいましたが。
おかげでよく話しかけられたりします。
確かに軽音部の皆さんは綺麗な人や可愛い人ばかりなので、有名になるのもわかります。
私も、よく紬ちゃんや和さんが可愛いと言ってくれるのですが・・・よくわかりません。
どうしても昔を思い出してしまって自分に自信がなくなってしまうのです・・・が、でも今の自分は好きです。
軽音部の私、信代さんの友達の私、和さんの友達の私。
好きです。
変わったことと言えば、澪ちゃんにファンクラブができました。
なんでもベースを弾く大人っぽいクールな印象が人気だとか。
わかります。
澪ちゃんは普段は人見知りで可愛いのですが、ベースを弾くときはピリっとしてて、かっこいいのです。
でも当の本人は、恥ずかしがっていました。
以前、唯ちゃんのお家で勉強会をした時、女子高では女の子同士のお話はよく聞くと言っていましたが・・・これもその一つなのでしょうか。
律ちゃんが澪ちゃんをその話でよくからかっています。
「澪お姉さま~」
って。
澪ちゃんは恥ずかしがって怒ったりするのがここ最近の2人のやり取りでみかけます。
多分、いつものやり取りだとは思うのですが・・・なんだか不安を覚えてしまいます。
過敏でしょうか。
あと、シンちゃん達が楽器を教えて欲しいとも。
私達の音楽を聴いて、自分達もやってみたいと思ってくれたみたいです。
ネネちゃんは澪ちゃんのようにかっこいいベースを。
ボーちゃんは律ちゃんのドラム、カザマくんは紬ちゃんのキーボード、シンちゃんとマサオくんは唯さんのギター。
そして、皆ボーカルをしたいと言ってくれました。
それぞれの楽器の使い方と、歌を教えて欲しいって。
誰かに何かを教えてと言われたことなんてなかったので、何故か涙が零れてしまいました。
今度から病院で少しずつ教えていくんだーって皆さんはりきってました。
こうやって受け継がれていくのが音楽で、私も何かを残せたらいいな・・・なんて漠然と思っています。
と、考えているうちに和さんがやってきました。
いつも制服姿でも綺麗でかっこいい和さんは、今日はその白い肌を肩から出しているいわゆるノースリーブに短めのパンツ。
お、大人です!
通りすがりの人も振り返っているのがわかります。
時間ぴったりに来るところも、和さんぽいです。
白杖を持っていないほうの手を振ります。
「こんにちは千乃。待たせちゃったかしら」
「こ、こんにちは和さん。今来たところです」
なんだかこのやり取り・・・本当のデートみたいです。
こんなに綺麗な人と今から一緒に歩くのだと考えて、緊張です。
その緊張のあまり。
「和さん・・・綺麗です」
などと言ってしまいました。
つい口が滑ると言いますか、緊張してしまうとポロっと口から零れ落ちるのは入学当初から変わりませんね・・・。
「ありがとう。千乃も可愛いわ」
大人っぽい笑顔で言われてまたドキっとしてしまいます。
きっと頭がくらくらするのは夏の日財のせいです・・・絶対そうです。
夏は過ぎたとか、そんな野暮なツッコミはなしです。
「じゃあ行こっか」
「はい」
「・・・っとその前に。白杖しまってくれる?」
「あ・・・すいません」
「謝ることじゃないわ」
白杖をしまう。
そして。
手が握られます。
「今日は私がずっといるから、それは必要ないわ」
ね?と笑いかける和さんの顔を、私は恥ずかしくて直視できませんでした。
何度目でしょうか。
和さんに手を握ってもらうのは。
握られるたびに私はあったかい気持ちになるのです。
「さ・・・まずはお昼ね」
「はい」
「何か食べたいものある?」
「えっと・・・なんでも・・・」
「そう?なら美味しいパンがあるんだけど、そこでいい?」
「はい!」
パン・・・楽しみです。
少し歩いたところにそのお店はありました。
店内は木の机に落ち着いた色つかいの壁、おしゃれというよりもシックな大人の隠れ家みたいな感じです。
落ち着いた雰囲気になれます。
そして店内に入った瞬間から、すごく美味しそうな匂いが・・・!
所狭しと色んなパンが机に置かれており、自分のトレイに乗せてレジへと持っていくシステム。
買ったパンをお店でも食べられるようで、イスとテーブルがあります。
レジの向こう側には今まさに出来上がったパンが宝石みたいに輝いています。
思わず、ごくりと。
「ふふ、千乃子供みたい」
「うぅ・・・」
和さんに見られていたみたいでからかわれてしまいます。
店内はそれほど広くないみたいで、パンの種類も多いこともあってすこし通路が狭く感じます。
だから、和さんは私と手を繋いだままトレイを持っていてそこに一緒に乗せていこうと言いました。
なんで手を繋いでるんだ?女の子同士なのに・・・みたいな視線は感じます。
パン屋さんに来る前からずっとです。
少し気恥ずかしい気持ちではあるのですが、でもそんなことは和さんと繋いでる嬉しさのほうが強いので、何とでも言って!です。
「いっぱい・・・種類がありますね」
「でしょ?いつも何を買うか迷うの。でもどれも美味しいわよ」
「・・・迷っちゃいます」
「・・・なら半分こ、しない?それなら種類もたくさん食べられるし」
「いいんですか!?」
「もちろん」
そう言われて、何にしようかと迷っていた私はあまり待たせても申し訳ないですし、それにはやくパンを食べたいのもあってセレクトしました。
お金は半分ずつ。
席に着いた私は、和さんにレモンティーを渡してわくわくしながら待ちます。
そんな私を和さんはおかしく思ったのか少しだけ笑いました。
「じゃあまずはこれから」
チョコのはいったパン。
デニッシュと書いてあったものですね。
和さんおすすめのものです。
「はい、千乃」
「ありがとうございます」
半分に割ってくれたものを受け取り。
「「いただきます」」
一口。
口の中に広がるチョコの香りとサクサクの生地。
「美味しい!」
つい思わずそう声に出していってしまいました。
周りのお客さんがくすくす笑ってるのがわかりました。
恥ずかしい・・・。
「美味しいでしょ?私も大好きなの」
そう言って口へ運ぶ和さん。
なんだか・・・今日の和さん、いつもと雰囲気が違うって言うか・・・着ている服のせいでしょうか?
いつもより凄く・・・綺麗です。
もちろんいつも綺麗でかっこいいんですけど・・・一段とそう思います。
「どうかした?」
覗き込まれ、目の前に和さんの顔が。
「いえっ!何もないんです!いつも以上に綺麗だなんて思ってないです!本当ですってばぁ!」
「・・・千乃」
はぁ、とため息をつく和さん。
呆れられたかもしれません・・・。
「そんなこと言われると・・・もう抑えきれないわ」
小声で何かを呟き、私の顔にその手を添えます。
・・・・え?
え、え、え、え、なななななんですか!?
「はい、あーん」
そう言われ2つ目のパン、苺のタルトを差し出してきました。
和さんは、今、『あーん』って言いました。
そして、私に苺タルトを近づけているのです。
・・・・これは、そのまま食べてっていう意味ですよね?
私が自分で持つのではなく、和さんに食べさせて貰う、と。
なるほどなるほど・・・あの和さんから・・・食べさせて貰うと。
色んな人に見られながらですけど、まるでこ、こ、こ、恋人のように食べさせて貰うと。
無理ですよぉぉぉぉぉ!!
だって、だって、和さんですよ!?
こんなに綺麗な和さん、大人っぽい和さんに!
これが仮に唯さんだったら、友達だからとか、そういうぽわぽわしてる雰囲気だからとかでわかるんですけど、少しイジワルな顔をしている和さんが相手だと心臓がはちきれそうなくらい緊張してしまいます!
いつもだったら、冗談よ、って言ってくれたりするのに、今日はずっとそのまま。
頭が真っ白になってしまいます。
多分、他の人から見たら頭から煙が出てたのではないかと思うほど私は赤かったと思います。
思考が・・・おかしくなってしまいます。
『・・・・・和さんとは友達ですし、普通のことなんじゃない?』
と私に似た黒い翼が生えた小さな妖精みたいなものが、私の耳元でそう囁いてきます。
「・・・たしかに」
『女の子同士だといっても、節度は守るべきじゃないかな・・・?』
今度は白い翼の妖精がそう囁いています・・・心なしか黒いほうよりも声が小さい気がします。
「それもそうですよね・・・」
『いやいや、考えてもみようよ。あの和さんだよ?かっこよくて綺麗で美人でクールビューティーな和さんが、いつも以上に綺麗なんだよ?そんな和さんがせっかくあーんってしてくれてるんだよ?こんなチャンスもうないよ?』
「一理あります・・・」
『それでも・・・人も見てますし・・・』
「それは・・・恥ずかしいです・・・」
『見せつけてあげればいいじゃない?大好きな和さんとのいちゃいちゃを』
「いちゃいちゃ・・・」
『・・・・・・』
白いほうが何も言わなくなりました。
『それに女の子同士って悪いことなの?』
「・・・普通じゃ、ないですし・・・」
『いやいや、確かにマイノリティなのは認めるけど、少数派が悪ってわけじゃないんだよ?外国じゃ普通なんだし。むしろこの国が遅れてるの。だから誇ろう?この国で女の子同士の先駆けとしてさ』
「・・・和さんのことは好きですけど、そういう好きとかじゃ・・・」
『今まで一回も恋愛した事もないのになんでわかるの?』
「それは・・・」
『わからないよね?和さんに対する気持ちを正確に言い表せないよね?今まで何度も感じたその気持ち、わざと考えないようにしてきたよね?その理由って、突き詰めてしまうのが怖かったからだよね?じゃあなんで怖かったんだと思う?少数派だって言うのがわかるからじゃない?』
一気にまくし立てる黒い私と私との間に、白い私が現れる。
言い返してくれるのかと思いきや。
『・・・・そうかも!』
一気に手のひらを返しました。
『でしょ?まったく・・・主は本当に自分のことをわかってないんだから・・・私がいないとダメね』
『目が覚めたよ・・・黒乃』
どうやら黒い私は黒乃っていうらしい・・・黒いから?
じゃあ白いほうは白乃?
『いいのよ白乃。これからも一緒にふがいない私達の主を支えて生きましょう?』
やっぱり白乃でした。
ていうか何を勝手に話をまとめているのでしょうか。
『そういうわけだからここは一気に和さんのあーんを受け入れなさい』
「いや・・・なにがそういうわけなのかわからないんですけど・・・」
『あなた・・・この期に及んでまだそんなことを・・・認めなさい!あなたは女の子が好きなのよ!』
え、えぇ――!?
『だから和さんを受け入れてきなさいって言ってるの!』
いや、でも・・・うぅ、うまく考えられなくなってきた。
女の子が好き、なんていう衝撃的な事実を告げられて正常でいられるはずがないのです。
『ちょっと待って黒乃!』
白乃・・・信じてたよ!
『ただ受け入れるだけじゃなくて、和さんの指をそのまま噛んだり舐めたりするのはどうかな?!最悪事故で済ませられるし、上手くいけばいっきに関係が進むと思うんだけど!』
駄目でしたー!
むしろ白乃のほうがアウトな気がするんですけど・・・。
『さっすが白乃ね!いいわ、その案でいきましょう!あーここがお店とかじゃなくて部屋とかだったらそのまま・・・』
頭をふって、そんな邪な考えを吹き飛ばします。(現実世界でこの間1秒)
和さんの顔をまじまじと見てしまい、一気に体温が急上昇です。
頭を振ったこともあってくらくらします。
だから正常な思考が出来ない。
気づいたら私は・・・和さんにされるままにタルトを食べて・・・そしてそのまま和さんの指を咥えていたのでした・・・。
周りの人達が
『キマシタワー!』
と叫んでいるのが、聞こえました。
Side 和
これは・・・なにが起こっているのかしら?
目の前で千乃が顔を真っ赤にさせて、私の指を咥えている。
だた咥えているだけじゃなくて、そのかわいい小さな舌で指をチロチロと舐めている。
ここは天国?
それともいつのまにか星の入った玉を七個集めて、龍が願いを叶えてたの?
あ、なるほど。
夢ね、これ。
じゃないと、こんなことが起こるはずがないもの。
自分からやっておいて言うのもなんだけど、千乃は恥ずかしがりやだからこんな行動に出れるはずがないんだもの。
それを知っててやった私は、少しでも千乃の可愛い顔を見れればいいなと思ってただけなのに・・・こんな夢みたいなこと・・・え?夢じゃない?
いままで見たことがないくらい真っ赤な千乃は、目をつぶりながら咥えてる。
一生懸命に。
そして、片目だけチラって開けて、目が合った。
頭が爆発したかと思うくらい、私も顔が赤くなった。
え・・・・え、どうしよう・・・。
もうこれは責任を取っていくところまで行くべきかしら?
日本じゃ同性婚は出来ないからとりあえず海外に移住ね。
どこがいいかしら・・・個人的にはメキシコとか興味があるけど、千乃はヨーロッパが似合いそうね。
海が見える町並みで毎日、お帰りって言って迎えて欲しい・・・って何を考えてるの私は!
そうじゃなくて、ここからどうするか考えないと!
とりあえず千乃を正気に戻す?
どうやって?
その指を引けばいいだけよね?
そう思って力を入れる直前、思う。
なぜ千乃がこんなことを?
さっきも考えたけど、普段の千乃なら恥ずかしがってこんなことは絶対にしない。
ならなぜ急に?
・・・・もしかして、千乃は・・・・千乃も私とムギと同じで・・・女の子同士・・・!
まさか、いやでも他に考えられない・・・!
ならここで指を引いて有耶無耶にして終わらせるのはもったいない!
千載一遇のチャンス、逃すわけにはいけない!
このままどこか落ち着ける場所、できれば部屋!
そうと決まれば・・・と瞬間。
背筋が凍るような気配が。
パン屋の外に見慣れた顔が。
般若のような形相で見ていた。
ムギ・・・いつからそんなオーラを放てるように・・・。
おもわず体が動いてしまい、千乃も気づく。
「紬ちゃん!?」
ん?
今、紬ちゃんって言った?
今まではさん付けだったのに?
「千乃・・・ムギのこと、ちゃん付けなのはなんで?」
「え?えぇと・・・文化祭が終わってから、皆さんにもっと砕けて話してって言われて・・・」
なるほど。
文化祭を乗り越えたことで一層、絆が深まったと言うわけね?
千乃が嬉しそうな顔をするのは私も嬉しい、けどちょっと面白くないわ。
私は、千乃の始めての友達なんだから。
「千乃、私はさん付けなのだけど?」
「ああああの、本当は和さんも、呼びたいってずっと思ってたんですけど・・・」ゴニョゴニョ
「あまり千乃ちゃんを困らせないでくれるかしら、和ちゃん?」
気づけば、ムギはいつのまにか店内に入ってきており、私達のテーブルのすぐ側にいた。
「・・・迷惑なんてかけていないわ」
「あら?さっき嫌がる千乃ちゃんに無理やり指を咥えさせていたのはどこの誰かしら?」
「無理やりじゃないわよ。千乃から咥えてきたの」
「あはは。千乃ちゃん、和ちゃんはちょっと錯乱してるみたいだから今日はもう家に帰らせたほうがいいみたい。それで良かったらだけどこれから私と一緒に私の家に行かない?この間みたいに、一緒にお風呂に入ったりしよう?」
「錯乱なんかしてないわよ・・・って千乃!あなたお風呂に一緒に入ったの!?」
「あの・・・えと・・・合宿の時に・・・」
「なんて羨ま・・・妬ま・・・嫉ま・・・!」
「さ、行きましょう千乃ちゃん」
「ま、待ちなさい!千乃は行くなんて一言も言ってないでしょう!?」
「勘違いしないで?千乃ちゃんを守るために連れて行くの」
「誰からよ!」
「心当たりがあるならきっと合ってるわ」
「・・・っ!千乃、今日は何の日だったかしら?」
「え・・・っと?」
「いよいよ錯乱状態ね。日にちも忘れるなんて・・・」
「デートの日、よね?」
「えぇ!?」
「あ・・・えと、はい」
顔を赤くする千乃。
かわいいし、ムギにかなりのダメージ。
「そう、私達デート中なの。申し訳ないけど部外者は席を外して貰える?」
「うそ・・・うそよ!だって・・・女の子同士でデートなんて!」
「つまり・・・千乃もそういうことよ」
ムギの耳元でそう囁く。
勝った、そう思った。
「あぇっと、ご飯食べたり買い物したりのデートに、和さんが誘ってくれたんです・・・文化祭で軽音部のことで迷惑をかけてしまったりもしたので・・・何かお礼をしたくて・・・まだお昼を食べただけなんですけど、何かプレゼントできたらなって、思ってて・・・」
その言葉にムギはピクンと。
「・・・そっかぁ。そういう意味のデートね・・・安心したわ。まだ勝負は決まってないのね・・・それに和ちゃん、まだ『さん』付けなのね・・・ふふふ」
「なっ・・・」
「千乃ちゃーん!私の名前、呼んでくれる?」
「え?紬ちゃん・・・」
「そう!もう一回!」
「・・・紬ちゃん?」
「わんもあ!」
「紬ちゃん・・・どうしたんですか?」
心底嬉しそうに笑うムギに私は。
「千乃、私だけ『さん』付けは寂しいわ・・・和って呼んで?」
「あ、しまった!」
ムギが何か慌ててるけどもう遅い。
「え、でも・・・」
「いいから」
指をモジモジさせ、俯きながら顔を真っ赤にし。
「の・・・のど・・・か・・・ちゃん」ボソ
「・・・千乃?」
「ご、ごめんなさい!呼び捨てにしたこと、なくって・・・ごめんなさい・・・」
「・・・いいわ、もう。そんなに謝らないで。ちょっとムキになっちゃっただけだし・・・」
「和さん・・・」
「でも『さん』付けは嫌」
「あぅ」
「だから、私もちゃん付け、お願い」
パァっと明るくなる千乃。
「和ちゃん!」
!
満面の笑みでそう言われると、すごい破壊力。
「・・・というわけでムギ、これで私も同じね、これからもよろしく」
固まってるムギに握手をする。
「・・・こちらこそ、仲良くして行こうね」
ギュっと本気で握り合う。
顔は笑ったまま。
千乃は気づいていない。
しかし今この瞬間にも戦いは行われている。
絶対に負けない。
「じゃ、私達はこのへんで・・・行こう千乃」
「ちょっと待って。さっき千乃ちゃんが軽音部がお世話になったからって言ってたわよね?私も軽音部、和ちゃんにお礼したいわ~。だからご一緒させて貰いたいんだけど、いいかしら?」
「!?」
ムギ・・・強かね!
どう断ったものか、そしてどう絡めて行くかと、私とムギの顔に出ていたのか、不安になった千乃が。
「和ちゃんと紬ちゃん、皆と一緒だともっと楽しいな・・・」
その一言で、私達はお互いに顔を見合わせ、息を漏らす。
「はぁ・・・千乃がそういうからどうぞ」
「ありがとう千乃ちゃん」
「・・・はい!」
ま、いっか。
千乃が女の子同士でも良いかも?と少しでも思ってるのがわかったし、それに千乃の悲しい顔は見たくないもの。
結局、夕方まで3人で遊びまわった。
千乃は私に何かをプレゼントしたがってたみたいだけど、それは2人のときに楽しみにしておくことにする。
「千乃とは私が手を繋ぐから」
「誰が決めたの?」
「今日のデートが始まったときからよ」
「今は3人なのでそれは無効でーす」
「・・・ムギ」
「・・・和ちゃん」
すると手にあったかい感触が。
見ると、私とムギの間に千乃がおり、その手にはそれぞれと重ねた手が。
「私を気遣ってくれるのは嬉しいですけど・・・喧嘩はして欲しくないです」
ちょっと頬が膨らんだ千乃が可愛すぎて何も言えず、心の中のシャッターを何度も押しまくって永久保存版に。
ムギのおんなじ気持ちなのか黙って千乃の顔を見ています。
そして。
3人で手を繋ぎながら歩いていく。
道行く人達からは、仲が良いねぇとか、羨ましいとか、キマシタワーとかいろんな事を言われてるけど、千乃は気づいてないみたい。
自分から手を繋ぐ、という慣れないことをしたからか顔が真っ赤だ。
・・・なんだかいつも顔が真っ赤になってる気がするわ。
でも今はきっと私もそうだ。
ムギでさえそうなんだから。
やっぱり・・・千乃はかわいいわ。
神様「白乃仕事しろ」
梅酒飲みながら書きました。
内容がないよう…なんちゃって。
次もなるべく早い更新頑張ります!
よろしくお願いします!
Maruwellさん、真理絵さん聞きました!めっちゃ綺麗な曲で好きになりました。
安全第一さん、桜流し、よかったです!高橋洋子さんの声はどツボですw
kurotonさん、BUMPはいい曲多いですよね!アルバム全部持ってます!AQUATIMESも好きなのでまた借りて聞いてみたいです!