けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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今回も若干のシリアスおよび、キャラ崩壊、ムギ暴走が入っております。
おk!という方のみよろしくお願いします。


第18話

Side 澪

 

 

今でもたまに夢に見る。

律と一緒に軽音部の部室へ行った時の日のこと。

ムギっていう新しい友達を得るきっかけになったあの歌。

まだまだ私と律は音楽に触れてから日が浅かったけど、それでも凄いってわかった。

だから千乃に入部して貰って、唯も加わって、これであの歌と一緒に演奏できると思ってたんだけど・・・千乃とムギが2人で演奏をした。

唯のギターを買った時、あの2人の演奏を聴いてしまった。

凄いと思ったのと同時に、悔しいと思った。

そりゃあムギはコンクールで賞をもらうほどの腕前だし、ピアノと向き合ってきた年月があるのはわかる。

でも、千乃は多分そうじゃない・・・と思う。

私の胸を嫌な思いが覆っていく。

千乃のあの歌と言うか声は、きっと才能って言うものなんだろうか。

それに、あの感情を爆発させて歌うやり方・・・。

普段の千乃からは想像もつかなかった。

私にないもの、才能を持っていることに嫉妬を覚えてしまう。

性格はおどおどとして何かに怯えているのだろうかって感じもするけど、最近ではそれも可愛いって思えるようになってきた。

ムギと喧嘩したって聞いたときは驚いた。

どっちもそんなことするような性格じゃないと思っていたから。

ムギはお嬢様でそんなこと歯牙にもかけないと、千乃は波風たてるようなことはしないと・・・そう勝手に思っていたから。

だから本当に驚いた。

そして大声で泣きあった2人は仲直りをして、以前にもまして仲良くなった気がする。

並んで笑う2人はかなり絵になっている。

・・・私たちは気づけなかったムギの声に、千乃はそれを真正面から受け止めた。

多分・・・私には無理だった。

正面からぶつかり合うなんて、律くらいのものだ。

もちろんムギのことは好きだし、大切な仲間だ。

だからこそ、まだその関係が壊れないように慎重になってしまう。

律だったらこんなこと考えないでいいのに・・・。

でも、同じくらいの付き合いの千乃はムギを受け止めた。

そのことにまた、自分でも嫌な感情がこみあげてくる。

『歌』って言う才能もあるのに、そんなこともできるのか・・・。

私にないものを一体いくつもってるんだろう。

もう、見せつけないでくれ・・・と思ってしまった。

 

こんな感情は嫌だ。

前まではこんなことを思ったことはなかったのに。

きっと、私と同じような性格の千乃が、仲間だと思っていた千乃が目の前で成長していくのを見せつけられて、あせっているんだ。

何か私もしなくちゃいけない、と。

でもその勇気を私は持てない・・・きっと自信がないからだ。

だから私は楽器を頑張ることにした。

何か一つ、自信を持てるものがあれば私だって変われる。

そのための合宿だ。

そして明日はいよいよその合宿。

いっぱい練習して、すこしでもムギと千乃に追いついて、私も堂々と軽音部だと言えるようになろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 千乃

今、私たちは電車に乗っています。

紬さんの用意してくれた別荘へ合宿をしに行くためにです。

電車に乗るのも久しぶりです・・・この揺れとか忘れていました。

律さんと唯さんはお菓子を食べながら外の景色を楽しんでいます。

澪さんはどこか引き締まった顔で、いつもみたいな感じがしません・・・。

紬さんは珍しそうにお菓子の箱を見ています。

いつも紬さんが持ってきてくれるケーキとかのように高級なものではないので、きっと珍しいんだと思います。

 

 

「紬さん、そのお菓子、食べますか?」

 

 

「え!?いいの!?」

 

 

子供のように無邪気に目を輝かせます。

あの喧嘩(?)の一件以来、紬さんは紬さんらしくなりました。

なんだか変な言い方ですね。

でも、今の紬さんは楽しそうで、きっとこれが本来の紬さんなんだと思います。

つられて私も楽しくなってしまうのです。

 

 

「たけのこの里・・・すごいお菓子ね・・・」

 

 

「あっちで律さんが食べてるのがきのこの山ですよ」

 

 

「まあ!お菓子なのにストーリーがあるのね」

 

 

「みたいですよ?」

 

 

「どっちが美味しいのかしら」

 

 

「一概には言えませんけど・・・私はたけのこさんが好きです」

 

 

「なるほど・・・確かに美味しいわ!律ちゃん、きのこ少しもらえない?」

 

 

「お、ムギもきのこたけのこ戦争に足を突っ込んだか!」

 

 

今の席は、4人席を2個使ってる感じです。

律さんと唯さん、澪さんの3人と通路を挟んで、私と紬さんの2人で別れています。

律さんと唯さんが窓際です。

私たちのほうは席が2つ余っているのでそこに皆さんのも含めて荷物を置いてある状態です。

結構このあたりになると乗客もいないようで・・・すいてて良かったなと思います。

紬さんもきのことたけのこが美味しかったのか、はしゃいでいます。

楽しそうでいいなと思っていたら。

 

 

「おい皆、あんまり羽目をはずすなよ・・・今回は合宿なんだから」

 

 

と。

澪さんが言いました。

その言い方はいつものようなものではなく、どことなく怒っているような・・・そんな感じでした。

 

 

「おいおい・・・そんなこと言うなよ澪。合宿たって遊びは必要だろ?」

 

 

「律はいつも遊びしかないだろ」

 

 

「まあな!」

 

 

「・・・今回はちゃんとしろよな」

 

 

そう言って澪さんは目を閉じてしまいました。

いつもと少し違う澪さんに、紬さんも違和感を覚えたようで、なんだか心配そうな顔をしています。

唯さんは変わらず、律さんとお菓子を楽しんでいます。

律さんは・・・意外にも変わりませんでした。

私たちが過剰に心配しているだけなのでしょうか・・・きっとそうなんだと思います。

一番付き合いの長い律さんが何も心配していないのですから。

紬さんと顔を見合わせて、そう結論付けました。

 

 

「それにしても・・・よかったんでしょうか・・・?」

 

 

小声で紬さんに話しかけます。

 

 

「なにが?」

 

 

「紬さんに別荘を都合して貰って・・・その、頼ってしまって・・・紬さんに迷惑をかけてしまうのではないかと・・・」

 

 

『琴吹』の力で何かをすることに、紬さんは抵抗を覚えてしまうと言うことを、教えて貰ったので今回のことも気乗りしないんじゃないかと。

けれど紬さんは笑ってくれました。

 

 

「気にしないで?みんなの力になれるなら私はそれが嬉しいの」

 

 

「そう・・・ですか」

 

 

無理な笑顔、ではなく幸せそうに笑う紬さん。

電車の窓から差し込む光があたり、女神様みたいに見えました。

やっぱり、綺麗だなぁ・・・。

 

 

「それに、海に近いところを取らなくちゃ・・・せっかく買った千乃ちゃんの水着を堪能できないもの!」

 

 

・・・綺麗な顔で笑う紬さんでした。

 

 

「千乃ちゃんは海、初めてだしね」

 

 

「お、千乃は行ったことないのか!?」

 

 

紬さんの声が律さんに聞こえてしまっていたようです。

申し訳なさそうな顔をする紬さん。

 

 

「えっと・・・はい、多分」

 

 

「まじか・・・ならいっぱい泳がなきゃな!」

 

 

「ゆっきーは泳げるの?」

 

 

「・・・大丈夫だと、思います」

 

 

「私が手取り足取り教えてあげるわ!」

 

 

「千乃・・・何かあったら大きな声出すんだぞ・・・」

 

 

「なにかって・・・なんですか?」

 

 

「いや・・・ほら、うん・・・」

 

 

紬さんのほうを向いて、ボソボソと言う律さん。

その意味を私はわかりませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

「「と―――――ちゃ―――っく!」」

 

 

駅のホームで、律さんと唯さんの声が響き渡ります。

それを澪さんが制します。

律さんの頭を叩いて。

 

 

「うるさい!他の人の迷惑になるだろ!」

 

 

「また・・・私だけ・・・」

 

 

澪さんがいつもどおりのツッコミをしてくれたことに安心しました。

けど・・・律さん痛そうです・・・。

 

 

 

 

皆さんと駅から歩き、紬さんの借りてくれた別荘へと向かう途中、綺麗な海が見えてきました。

規則的な波の音が私の耳をくすぐり、心地よい気持ちにしてくれます。

少しだけ、鼻に塩の香りが強かったですが、それすらも感動です。

なんと言っても青いです。

何故青いんでしょうか・・・海の原理なるものはわかりません。

塩辛い理由も・・・。

でもそんなものは些細なことでしかなく、いまはとにかく。

 

 

「綺麗・・・ですね」

 

 

そんな感想しかでてきませんでした。

見渡す限り、青色です。

砂浜には誰もおらず、軽音部の皆さんとだけというちょっとした独り占め、のような感覚が気分を高揚させます。

 

 

「本当だねゆっきー・・・こんな綺麗な海見たことない!」

 

 

「くぅ~・・・横須賀のとびうおの名が騒ぐぜ!」

 

 

「律ちゃんってそんな異名あったの!?」

 

 

「喜んでもらえて何よりだわ~」

 

 

「遊びに来たんじゃないからな」

 

 

「澪は硬いなぁ~・・・もっとリラックスしようぜ?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

澪さんはそのことに言い返すことなく。

 

 

「ムギ、はやく案内してくれないか?」

 

 

「あ、ごめんなさい・・・」

 

 

「えー、もっと海見て行こうよ~」

 

 

「そうだそうだー」

 

 

それらを無視するかのように、進んでいきました。

 

 

「なんだよ・・・澪のヤツどうしたんだ?」

 

 

「さぁ・・・」

 

 

そして別荘に到着しました。

お、大きいです。

こんな大きな家、入ることなんか初めてです。

 

 

「ごめんね・・・急だったからこんな小さなところしか借りられなくて・・・狭いと思うけど、我慢してね?」

 

 

「これが小さいんですか・・・!」

 

 

「っていうかこれ以上の別荘あるのか!」

 

 

「ムギちゃん・・・恐ろしい子!」

 

 

「よし、練習するぞ」

 

 

「いきなりかよ!」

 

 

「まずは探索からでしょ~」

 

 

「行くぞ唯隊員!」

 

 

「あいさー!」

 

 

「あ、コラ!」

 

 

「まあまあ澪ちゃん」

 

 

「・・・」キョロキョロ

 

 

「千乃ちゃんも気になるの?」

 

 

「あ、はい・・・こんなに大きな家、初めてで・・・」

 

 

「じゃあ一緒に行きましょう!」

 

 

手を握られて、紬さんと歩き出します。

急な行動だったので、びっくりしたのですがなんだかどきどきしました。

なんだかいつもの驚きのどきどきではなくて、こう、なんていうか胸がぽかぽかするようなどきどきと言うか・・・和さんと話している時のような感じと似ています。

 

 

「ムギに千乃まで・・・」

 

 

後ろから寂しそうな澪さんの声が聞こえました。

私はそれを、いつものような呆れつつもどこか許容したものだと勝手に思っていました。

 

 

 

 

 

「うおーーー!ベッドすげーーーー!」

 

 

「お姫様ベッドだぁ!」

 

 

律さんと唯さんのキャイキャイと嬉しそうな声がする部屋を覗くと、物語に出てきそうなベッドがあるお部屋でした。

しかもそのベッドの上に、お花が散らされており、なんだかあんまり見てはいけない、大人の世界だと思ってしまいました。

 

 

「千乃ちゃん、今日は私と一緒に寝ましょうね?」

「え・・・?皆さんで一緒に寝るんじゃなんですか・・・?」

「ブハ!・・・千乃ちゃん・・・いきなり5Pだなんて・・・大胆すぎ・・・」

 

 

鼻を押さえる紬さん。

意味が良くわからないので聞き返そうとすると律さんが私の耳を押さえました。

 

 

 

 

「ビ、ビリヤードがあるよ律ちゃん!」

「やったことないなぁ・・・けどせっかくだから夜やるか?」

「律はこういうチマチマしたの苦手だろ?」

「澪は得意なのか?」

「まぁ・・・それなりには」

「ちょっと!」

「ど、どしたムギ?」

「澪ちゃん!棒でつつくのが得意って・・・!」

「いつにもましてどうしたムギ!」

 

 

 

 

 

「冷蔵庫はいけーん!」

「ふおぉぉおお!でっかいお肉だ~!」

「これは今日の夜ご飯はバーベキューか?」

「切って、焼くだけだしいいかもな」

「お野菜も新鮮ですね」

「千乃ちゃん、ソーセージもあるのよ?」

「ソーセージ・・・ですか?」

「そうそう!私が食べさせてあげるからね!あ、他の人は触らないようにね!私の味を染み込ませて・・・」

「わー!わー!もういいから!」

「む、ムギが!」

「・・・・水着姿でソーセージを頬張る千乃ちゃん・・・興奮するわ」ハァハァ

「本当にどうしたんだムギ・・・!」

「ソーセージは細切れにして・・・お野菜と炒めちゃいましょうか」

「・・・・・」サァー

「ムギが気を失ってる!」

「想像しちゃったんだねきっと・・・」

「哀れ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「ここがお風呂・・・まさか露天風呂とは・・・」

「もう何があっても驚かないよね、律ちゃん」

「さすがに・・・ちょっと恥ずかしいな」

「あら、女の子同士で何を恥ずかしがることがあるのかしら?」

「一重にお前がいるからだよ・・・ムギ」

「いっぱい、Oっぱい、私元気」

「風呂はいる時は、ムギを縛ってからはいることにしよう・・・」

 

 

 

 

別荘の中を探検し終わって、荷物を部屋に置き、ちょっと一息です。

家を歩くだけでたくさん笑いました。

律さんと唯さんのはちゃめちゃが押し寄せてきたり、澪さんがヤンチャガールの2人を抑えたり、紬さんの暴走したり・・・。

友達と一緒にいるだけでこんなに楽しいんですね。

旅行だからか、普段よりも皆さんテンションが上がっていると思います。

 

 

「さ、もういいだろ?練習しよう」

 

 

澪さんがそう言って立ち上がりました。

けれど律さんと唯さんはいつのまにか水着に着替えており。

 

 

「遊ぶぞー!」

 

 

「律ちゃん、海に1番乗りは譲らないよ!」

 

 

言うが早いか、2人はすぐさま飛び出して行ってしまいました。

紬さんも水着になっていて。

 

 

「澪ちゃんも千乃ちゃんも行こう?」

 

 

楽しそうに笑う紬さん。

きっと早く遊びたいんだと思います。

私も遊びたいなぁと思っていたので、それについていこうとしました。

とりあえず、水着に着替えないとですね。

澪さんも行きましょうと言う前に。

 

 

「練習しないといけないのに・・・」

 

 

と、小さな声で言いました。

その言葉が、何かとても大事な言葉の気がして私の足は止まってしまいます。

 

 

「どうしたの2人とも・・・?」

 

 

「合宿に来たんだ。それなのに・・・」

 

 

「澪ちゃん・・・きっと遊び終わったら練習するわよ」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「律ちゃんも唯ちゃんも、やる時はやる子よ」

 

 

そう言って澪さんに笑いかける紬さん。

 

 

「ほら、千乃ちゃんも着替えて着替えて!」

 

 

押されるがまま、別の部屋に連れて行かれます。

この間、皆さんと一緒に買った水着を手に取り着替えようとするのですが、何故か紬さんが部屋から出て行ってくれません。

 

 

「・・・・・・あの、紬さん?」

 

 

「なにかしら~?」

 

 

あれ・・・なんでこんなに普通の顔をしてるんでしょうか・・・もしかしてこれって普通なんでしょうか・・・?

 

 

「さ、時間もないし、着替えちゃいましょう」

 

 

当たり前みたいに淡々と言う紬さんにおかしなところは何もありません。

女の子が着替える時は普通1人で着替えるのではないでしょうか・・・でも私は『普通』がわからないのでだから、ちょっと不思議に思いながらも私は水着を取り出して着ていた服に手をかけます。

 

 

薄手のカーデガンのボタンを一つ一つはずしていきます。

その時、いつも家でやってるように外していってるのですが、なんだか緊張してしまって、恥ずかしくなってしまいました。

なんででしょうか・・・。

紬さんという、普段はいない人がこの場にいるからでしょうか?

全て外し終わったカーデガンをハンガーにかけて、次はシャツのボタンに手をかけます。

このシャツの下はもう下着で、一つ、また一つとボタンを外す手が震えてきてしまいました。

上から3つほど開けたところで手が止まってしまいました。

どういうわけか、これ以上は手が動かず、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていると思います。

すると紬さんが。

 

 

「どうしたの千乃ちゃん?ボタンが外れないの?・・・私が外してあげようか?」

 

 

心なしか、息遣いがあらい紬さんが私に近づいてきました。

 

 

「あ・・・いえ大丈夫っです!」

 

 

「遠慮しないで?私、大切な友達のために何かしてあげたいの・・・ダメかしら?」

 

 

うぅ・・・上目遣いで涙目の紬さん可愛すぎます。

そんなこと言われたら、断れないじゃないですか・・・!

でもそのどんどん荒くなっていく息がちょっと怖いです。

あといつの間にかビデオカメラを手に持っているのは何でですか?

 

 

「・・・あ、これ?いや・・・記念にと思って」

 

 

何の記念ですカー!?

 

 

「大丈夫ヨ・・・優シク着替エサセテアゲルカラ」

 

 

そして後ろから抱きつくような形でボタンを外されていって、最後の一個のときに。

急にボタンではなくおへそ辺りを紬さんの細くて綺麗な指で撫でられ、無意識に変な声が出てしまいました。

でも、その声を出した恥ずかしさよりも・・・・・もっと触って欲しいような・・・。

 

 

「背中綺麗ね千乃ちゃん」

 

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 

「じ、じゃあ脱がすわね・・・!」ゴクリ

 

 

おなか辺りから込み上げてくるこのくすぐったい感覚で頭がどうにかなってしまいそうでした。

もう夏であり、着替えるために部屋を閉め切っていたのもありのぼせてしまったのかも知れません・・・。

もなんでもいいや、と思ってしまいました。

紬さんのいつもより大人っぽい声に、自然と私も紬さんに任せてしまおうと思い、思考を放棄しました。

体は固まるばかりで、首筋にかかる紬さんの吐息で更にどきどきしてしまいます。

しゅる・・・という音と共にシャツがめくられ・・・る瞬間に扉が勢いよく開けられます。

 

 

「千乃!大丈夫か!!!」

 

 

り・・・つさん?

どうしてここに・・・!!!!????

わ、わ、わ、わわわわわたあし今何を!!??

紬さんにボタンを外して貰って・・・触られて・・・へ、変な気持ちになって・・・!!

今になって自分はどうにかなってたと思いました。

 

 

「まって!律ちゃんお願い!あと少しなの!」

 

 

「ムギ!お前は自重しろ!」

 

 

「澪ちゃんに、ゆっきーとムギちゃんが2人で着替えにいったって聞いて様子を見に来てよかったね・・・」

 

 

「さすがにこれはまずいだろ・・・」

 

 

「やだー!千乃ちゃんの着替え終わってないのー!」

 

 

「ちょ、こら、暴れるなムギ!力強っ!!!」

 

 

3人がかりで引きずられていく紬さん。

その声は私が合流するまで、いつまでも続きました。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・いいかげん機嫌直せよムギ」

 

 

「うぅ・・・千載一遇のチャンスだったのに」

 

 

「千乃もちゃんとムギに言わないと」

 

 

「はい・・・でもこれが普通なのかと思って・・・」

 

 

澪さんにたしなめられ、答えます。

 

 

「千乃とムギの普通はちょっとずれてるからな」

 

 

「でもゆっきーの水着、可愛いね!」

 

 

「・・・ありがとうございます」

 

 

唯さんにストレートに言われ、照れてしまいます。

私の水着は皆さんが選んでくれたもので、オレンジ色の水着で、首の後ろで結ぶタイプのものです。

ちょっと布の面積が少ないと言うか、今までこういうものを身につける機会がなかったので、変な感じです。

でもそういう唯さんだって、フリルの付いた水着で、可愛いです。

いつもみたいにヘアピンじゃなくて横で2つに縛ってるのも新鮮です。

 

 

「あはは、ありがとう!」

 

 

ぎゅーって抱きしめてくれます。

 

 

紬さんはまだ落ち込んでいるみたいで、砂浜に座ったままです。

澪さんは、その顔はあまり優れてはいませんが、それでもカメラのシャッターをきって色んなものをとっています。

律さんと唯さんはビニールのボールに空気を入れて遊んでいます。

 

私は、恐る恐る足を海につけました。

冷たいです。

波に押されて、そして引いていくとき砂が私の足をなぞっていくのが気持ちよかったです。

 

 

「へい!千乃!」

 

 

後ろから律さんの声がして、振り返るとボールが飛んできていました。

とっさに動けるはずもなく。

 

 

「ばブ!」

 

 

と。

顔にボールが当たり、変な声を出しながら体制を崩してしまいました。

 

 

「見たか唯!凄い声だったぞ!」

 

 

「ゆっきーだいじょうぶ?」

 

 

いたた、と立ち上がり、ボールを掴んで私も投げ返します。

でも見当違いの方向へ飛んでいき、紬さんのほうへと転がっていきました。

律さんがにこやかに、紬さんのほうに向かって口をパクパクしています。

私に紬さんに何か言えってことでしょうか?

 

 

「・・・紬さん!」

 

 

結構な大きな声だったのか、紬さんはすぐこっちを向きます。

ちょっと前の私では考えられないくらい、最近の私は声を出します。

もう噛むことも少なくなってきました。

 

 

「一緒にボールで遊びませんか?」

 

 

その問いに、紬さんは少し間をあけて、笑みを浮かべてボールを投げ返してくれました。

そして私のほうへ歩いてきて小声で。

 

 

「さっきはごめんなさい・・・」

 

 

「あ、いえ・・・なんていうか・・・」

 

 

首をかしげる紬さん。

 

 

「ちょっ・・・だけ、気持ちよかったていうか・・・」

 

 

ってなにを言ってるんでしょうか私は!

 

 

「千乃ちゃん!」

 

 

訂正する前に抱きつかれて、2人して海の中に倒れこんでしまいました。

そして澪さんも混ざって、楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまいました。

海から上がり、簡単に野菜を切って、バーベーキューをしました。

こんなに美味しいお肉は食べたことがない!と何回も皆さんと言い合いました。

 

そしてお風呂の前に、汗をかくかもという事で、澪さんの提案の下で練習をすることになりました。

しかし、律さんと唯さんはおなかがいっぱいらしく、ごろごろと床に寝転がっています。

私も正直、今日は疲れてしまいました。

楽しかったのでついはしゃいでしまいました。

でも、澪さんは絶対に練習をすると言い、無理やり律さんを立たせます。

 

 

「もう遅いし明日にしようぜ~」

 

 

「なにを言ってるんだ律。散々お昼は遊んだだろ」

 

 

「でも疲れちゃったんだモーん」

 

 

「・・・だから先に練習しようって言ったのに」

 

 

「でも海があったら泳ぎたくなるジャン」

 

 

「遊びにきたんじゃ・・・もういいからやるぞ」

 

 

何かを言いかけて、やめました。

 

 

「その前にお茶にしようぜ」

 

 

「練習するぞっ!」

 

 

澪さんが大きな声を出しました。

こんなに大きな声、初めて聞きました。

唯さんと紬さんは驚いています、私だってびっくりしてしまいました。

 

「はいはい・・・」

 

 

なんとか体を起こす律さんと唯さん。

どことなく、いつもとムードが違います。

以前から練習している曲をあわしてみます。

最後にあわせた時よりも、バラバラでした。

言葉には誰も出しませんでしたが、皆さん気づいてるはずです。

軽音部の皆さんの演奏は、本当に揃ってると言いますか、一心同体な演奏なんです。

でも、今はバラバラでした。

 

 

「もう一回」

 

 

澪さんがそう言って、最初からはじめます。

けど、さっきよりも合わなくなってしまって、もう演奏なんて呼べるものじゃなくなってしまい、私は歌うのをとめてしまいました。

こんなの、いつもの皆さんの演奏じゃないと思い、つい止まってしまったのです。

 

 

「なんで止めるんだ千乃」

 

 

「・・・あの・・・」

 

 

「・・・・・・千乃は歌ってるだけでいいのかも知れないけど、私たち楽器隊は千乃に合わせなきゃいけないんだから、最初に止まるなよ。演奏してる私たちがバカみたいじゃないか」

 

 

私を見る澪さんの目が、いつもと違いました。

その言葉も、何故か私の胸に刺さりました。

 

 

「おい澪」

 

 

「・・・そりゃあ千乃は歌えれば何でもいいかも知れないけど、私たちの目標だって一応プロなんだ。私だって真剣にやってるんだ。皆ももっと真面目にやってくれよ。あの目標は嘘だったのか?」

 

 

誰も何も言えません。

 

 

「律、ムギと千乃に追いつきたいって言ってたのに、なんで率先して遊ぶんだよ。なんで練習しないんだ?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「唯だってそうだ。確かに上達スピードは凄いけどすぐ忘れちゃ意味ないだろ」

 

 

「澪ちゃん・・・」

 

 

「ムギは千乃にあわせ過ぎだ。そのせいで他の楽器とずれてる。こっちの音も聞いてくれ」

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

 

「千乃は・・・私のことバカにしてるのか?」

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 

その言葉で、私は頭を何かとても硬いもので叩かれたような気がしました。

 

 

「千乃は凄いよ。最初は私と同じで自分の意見を言うことが得意じゃないと思ってたけど、綺麗だし可愛いし優しいし、歌の才能だってあるし、何でも持ってるよ。

ムギのことだって千乃がいないと気づけなかったよ。・・・私は何ももってないんだよ。だから持ってる千乃が羨ましいんだよ。なのに何でもっと前にでないんだよ。何でいつも遠慮するんだよ。あてつけか?何ももってない私が惨めだから譲ってくださってるのか?」

 

 

そんなつもりもないし、譲ったこともなかった。

でも、澪さんはそう思ってたのだ。

ずっと思ってたのだ。

 

 

 

「・・・プロになりたいって言ってたよな?そんなに凄いんだから私みたいなレベルの低いヤツがいるところじゃなくてもっとレベルの高いところにいってくれよ」

 

 

澪さんの目からは涙が溢れており、今にも大きな声を上げて泣き叫びそうな顔でした。

でも私はそれを見ることは叶いませんでした。

急に私の視点は滲み、ぼやけてしまいました。

 

 

この感覚は覚えています。

私が1番怖くて、嫌いなもので。

何年間も背負ってきたものです。

 

 

 

喪失病。

その言葉が頭をよぎり、気持ち悪さと焦燥感でいっぱいになり、気づいたら口を押さえて洗面所へ走っていました。

 

 

 

私の、目が少しだけ色を失ったのです。

 

 

 

 

その事実に耐えられなくて。

なんだか、気持ち悪い・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 




神様「どーなるどーする・・・」



今回はちょっと長くなりそうだったので、2話くらいに分けようかと思いました。
作中の途中途中で細かいネタがあるのですがわかる人いたら凄いです。
澪ちゃんは今回と次回で、溜まってたものとか色々出してもらう予定です。
支離滅裂なこと言ってるのは、もう気持ちに余裕がないからです。
次もなるべく早く投稿できるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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