けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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けいおんの映画は何度見てもいいなぁと思う今日この頃です。
私は映画館派で、劇場まで足を運ぶ事も多いのですが、けいおんなど混雑が予想されるものはBDやDVDが発売されるまでガマンします。
そしてBDを発売日に買って家出見てびっくりしました。
最初のシーンで、ヘヴィメタを演奏するHTT。
何事かと。


第13話

Side 『10GIA』の店員さん

 

 

今日も今日とて、僕は楽器屋で働く。

このお店はあの琴吹系列の大手チェーン店である。

このお店に就職できたことは嬉しかった。

音楽の才能はなかったけど、音を出すのは好きだし聞くのも大好きだ。

だからこのお店で働けると聞いた時、音楽好きのお客さんのために一生懸命働こうと思った。

 

お、女子高生の団体だ。

あの子達、一昨日も来てたな。

察するに、バンドで新しいものを買おうとしてる子の付き添いかな?

ギターのところで長い時間止まってたし。

しかし、女子高生のお財布じゃなかなかポンとは買えないよねぇ。

それこそお嬢様じゃないと。

 

そんな僕の前に、綺麗な女の子がやってきた。

ん・・・と、どこかで見た気がするな。

なんて考えてると。

 

 

「値切っても良いですか?」

 

 

と言われた。

びっくりした。

値切られたことにではないよ。

そういうことは良くあることだし。

前だって、カチューシャをした活発な女の子に、中古だったけど結構良いドラムをこれでもかってくらい値切られたし・・・。

店長にはやりすぎだって怒られて泣いてしまったくらいだ。

でも、僕も音楽が好きだし、大人と比べて自由にできるお金が少ない子供には出来る限りサービスしたいって僕は思ってるから後悔はしてないけどね。

だから値切ることに関しては応相談だ!

でも驚いたところはそこじゃなくて、目の前の女の子が値切るような雰囲気じゃないってところだ。

見るからに良い育ちで、気品溢れる女の子。

値切らなくたってお金持ってるんじゃないのかな?ッて思ってしまった。

実際はどうか知らないけど。

 

 

そしてその子は手招きをする。

さっきの女子高生の団体だったみたい。

おどおどと呼ばれた女の子はこれまた可愛い女の子だった。

最初の女の子とは違って、恥ずかしいのかもじもじしてるのが個人的にプラスポイントだ。

この子のために値切ろうとしてるのかな?

ならサービスしちゃおっかな~なんて考えてしまう。

目の前にこんな女の子が2人も並ぶなんて・・・芸術とも呼べる精巧な人形を見てるみたいだ。

ポーっと見とれていると。

 

 

「今から私と千乃ちゃんが演奏しますので、その分おまけしてくださ~い」

 

 

なんて。

またびっくりした。

正直言って、なに言ってんだって感じだ。

これでも僕は結構長く音楽に携わってきた。

就職できてまだまだ日が浅いけど、その前から音楽はやってきた。

だからこそ、目の前の女の子の提案はわからなかった。

最近の子は、興味本位でなんにでも手を出す。

それは良いことかもしれないけど、すぐ辞めていくことも事実だ。

軽く手を出して、そしてすぐ辞めていく最近の若者と同じなんじゃないか?

そんな子達が何をナマイキな・・・と思ってしまった。

そして、僕は更に驚愕する。

目の前にいるこの女の子は・・・。

 

 

「そ、その眉・・・ごほん、あなたは社長の娘さん!!」

 

 

そう、僕が働いてるこのお店、それだけじゃなくてもっと多くの世界で活躍する琴吹社長の娘さんだったのだ!

これは・・・下手な対応したらクビが飛ぶ!

 

そしてその事実を知らなかったのか、手招きされた女の子がびっくりしてる。

そして、琴吹お嬢様の提案に言いたいところがあるのか僕のほうをチラチラ見てくるのだが、そのしぐさがまた可愛い。

 

お嬢様、ということでその提案を受けることにした。

機嫌を損ねたら本当に怖い。

 

 

「わ・・・わかりました・・・」

 

 

そう・・・仕方ないことなのだ。

でも。

 

 

「ですが、私も音楽に携わる1人の人間・・・いかに社長の娘さんといえども、私を満足させることが出来なかったこの話はなしという事でお願いします!」

 

 

これだけは僕の音楽人生にかけて譲れないとこだ。

お粗末な演奏だったらクビになろうがサービスはなし!

お嬢様となにやら打ち合わせをしている女の子はひどく怯えているようだ。

そりゃあ、お客さんが結構いるお店でなんて、普通は緊張するってもんだよね。

しかも、聞こえてくる会話でなんとこの女の子が歌うらしいのだ。

想像もつかないなぁ・・・。

 

そして、決心がついたのか、怯えた表情はなくなり。

お嬢様がキボードの前に立つ。

周りのお客さんたちが、僕と女の子達の空気に何かを感じたのか、視線が集まる。

 

 

「愛してる」

 

 

人形のような女の子が、そう呟き、歌い始めた時、僕は今日何度目になるかわからない驚きを味わった。

 

 

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

 

私が歌うのは、愛してるとただひたすらに伝えたいと葛藤する恋人達の曲です。

どれだけ話しても、どれだけ愛してると言っても言い足りない。

この世界がなくなってしまうまであなたのことを愛す、と。

そんな大きな事を、小さな私達が伝え合い、笑いあう日々。

このもどかしい気持ちを、本当に伝えられているのかな。

愛するあなたに、伝えられているのかな。

不安になるこの気持ちすらもあなたに伝えたくて、知って欲しくて精一杯抱きしめる。

そしてあなたも抱きしめてくれて、それだけで世界が輝いて見えるよ。

そしてもし、いつの日か別々の道を歩くことになっても、この思い出だけで私は幸せだ。

 

 

私は、歌う。

歌っていて、伝えたかった。

今はもう遠くすら感じてしまうあの病院で過ごしていた日々で聞いたこの曲を。

感受が爆発してしまう。

このすばらしい歌を、知って欲しいと。

そして今更ながらに思う。

紬さんがこの曲を知らなかったら私はアカペラで歌っているのだと。

今の今まで、集中していたのか自分の声だけしか聞こえていなかったのですが、紬さんはしっかりとキーボードで私を支えてくれていました。

よかった。

紬さんがこの曲を知っていてくれて、嬉しくなり歌に力が入ります。

 

 

愛す、ただ愛す。

何回でも言いたい。

伝わっても、まだまだ伝えたい。

この気持ちよ、どうか届いてください。

 

 

 

 

歌い終わった私は、ここでようやく歌とキーボードだけの世界から戻ってきます。

・・・周りが静かすぎます。

あまりにも下手すぎて、顰蹙を買ってしまったのでしょうか。

きょろきょろと周りを見渡すと、律さんがこちらに親指をたててくれていました。

 

そして、ぱちぱちと。

1人が拍手をくれました。

するとそれに呼応するかのように、たくさんの拍手を頂くことが出来ました。

紬さんが私に走りよってきて手を握ってくれます。

少し濡れていたのは、紬さんも緊張していたからでしょうか。

もちろん私だって。

でも、この拍手の功労者は紬さんです。

はっきり言って、私は紬さんの音をほとんど聞いていませんでした。

耳には入っていました。

むしろキーボードと歌しか聞こえていませんでした。

でも、私は好き勝手に歌うだけで、紬さんのことを考えていませんでした。

それなのに、紬さんはしっかりと私に合わせてくれて・・・凄いです。

そして罪悪感。

 

けれど今だけは喜びたいです。

紬さんとこの音楽を出来たことを。

 

 

そして店員さんが私達に言ってくれます。

 

 

「すばらしかった・・・」

 

 

そう、ただ一言。

そして何かを噛み締めるように黙ってしまいます。

 

 

「それで、お値引きしてくださいますか?」

 

 

紬さんがそう問いかけ。

 

 

「・・・あ、ああ!もちろんだとも!」

 

 

そう言って提示してくれたお値段はぴったし5万円でした。

やった!

これで唯さんがこのギターを買える!!

 

 

「いやしかし・・・本当に凄かった。あの曲は聴いたことがなかった。もしかして君達が作ったのかい?」

 

 

その問いに私は少し驚いてしまいました。

まあそうは言っても知らない曲なんて人によって違うなんてわかっていますので。

紬さんが訂正してくれるかな?と思ってたら。

 

 

「私も気になるわ~。千乃ちゃんあれはオリジナル?」

 

 

・・・っ耳を疑ってしまいました。

だって紬さんは、演奏してくれたじゃないですか!

 

 

「え、演奏してくれたから・・・知ってるんじゃない、ですか?」

 

 

「それが・・・聞いた事はないんだけど、千乃ちゃんが歌い始めた時、自然とこうじゃないかしら、って指が動いたの」

 

 

なんと。

紬さんは天才でもありました。

なんとなくで、完璧に伴奏してくれるなんて。

 

 

「高鈴さんっていう・・・歌手さんです」

 

 

「高鈴・・・聞いたこともないな」

 

 

そう言ってなにやら機械をいじって、調べているんでしょうか?

 

 

「ネットにもそんな歌手の情報はない・・・インディーズでもない、と」

 

 

「千乃ちゃん、本当にオリジナルじゃないの?」

 

 

多分・・・私はお医者さんにそう聞いてます

 

 

「うーむ・・・こんないい歌ならインディーズでも有名になってると思うし、まずネットで検索にひっかからないなんて・・・」

 

 

うんうんとうなっています。

結局、私の歌った曲は存在していませんでした。

 

私は不思議でしょうがなかったです。

ちゃんとこの耳で聞いていたのに。

 

 

「まあでも、唯ちゃんのギター、手に入りそうでよかったわ」

 

 

そう・・・ですね!

唯さんたちに報告しにいくためにみんなのところへ向かいます。

 

 

「みんなー、ギターのお値段、まけてくれるって!」

 

 

紬さんのその言葉に。

唯さん、律さん、澪さんは何故か一瞬渋い顔をしました。

なぜでしょうか。

 

けどそれは本当に一瞬で、すぐに嬉しそうな顔になって。

 

 

「ありがとうゆっきー、ムギちゃん!」

 

 

「千乃、ムギ。すごい演奏だったぞ!」

 

 

「うぅ~、なんかドラム叩きたくなってきた!!」

 

 

喜んでくれてます。

嬉しいです。

 

 

「本当にありがとう~・・・私ぜったいいっぱい練習してうまくなるね!」

 

 

「唯・・・」

 

 

「そしてさっきみたいなゆっきーとムギちゃんみたいに人を感動させる演奏したい!」

 

 

そう言った唯さんは照れくさそうに笑った。

その言葉が嬉しすぎて。

何もいえませんでした。

 

そして唯さんはギターを手に入れました。

さっそく帰ったら練習をするといって先に帰ってしまいました。

それを4人で見送って、ほほえましい気持ちになります。

 

 

「それにしても・・・千乃にムギ。さっきのあの曲は誰の曲なんだ?」

 

 

「あ、それ私も気になってたんだ」

 

 

どうやら澪さんも律さんも知らないようです。

 

 

「あの・・・高鈴さんていう方の曲なんです」

 

 

「高鈴?」

 

 

「インディーズバンドか?」

 

 

「それが、千乃ちゃんはそう言うんだけど、ネットには情報がないの」

 

 

「なんだそりゃ・・・っていうかムギは知らなかったのになんで弾けたんだ?」

 

 

「それが・・・千乃ちゃんが歌い始めた時、急に指が動いてっていうか・・・頭にこのメロディーが浮かんだっていうか・・・不思議だったけど弾けちゃったの」

 

 

「まじか・・・」

 

 

「千乃、オリジナルなんじゃないのか?」

 

 

・・・こうまで言われてしまうと、なんだか本当に皆さんの言うとおりに思えてしまいます。

黙ってしまった私。

 

 

「・・・まぁいいか。何はともあれこれでやっと軽音部らしい活動が出来るな!」

 

 

何かを察してくれたのか、律さんはそうまとめます。

 

 

「明日から楽しみだな!」

 

 

「そうね~。でもそろそろテストも始まるわ」

 

 

「げ、もうそんな時期か?」

 

 

「まあ中間だからそんなに難しくはないさ」

 

 

「また澪に教えてもらおー」

 

 

「自分でやれ!」

 

 

そんな会話を聞きながら、解散となりました。

明日から、きっと練習もできるようになったから厳しくなるのでしょう。

頑張っていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

Side 律

 

 

唯のギターを手に入れるために、またバイトをしようかと提案したけどムギに何か秘策ありだったようで任すことにした。

なにか、店員さんに話しかけてるみたいだ。

・・・多分値切ってるんだろうなー。

そう考えてると、千乃を手招きしてる。

まさか・・・。

 

とりあえずムギのその案にのるべく、千乃を送り出す。

するとどうやら思ったとおりで、千乃と演奏するみたいだ。

かなり力技だなぁ・・・と思いながらも面白い考えだとも思った。

 

 

そして千乃が歌いだす。

優しい声で、愛していると。

結構、離れているんだけど、耳元で囁かれた気がして、どきどきしてしまった。

千乃の魔法。

単なる歌じゃなくて、聞くもの全てを魅了するその歌は、どうやらこのお店にいる人間全員を虜にしてしまったようだ。

すごいよ。

そして、悔しいとも思った。

私はあの演奏に入れない。

ムギはピアノのコンクールで賞を貰ったこともあるほどの腕前だ。

だからあの歌について行ける。

今、歌ってる曲はスローテンポではあるけど、あの歌の邪魔にならず、寄り添いながら音楽を作るのは私にはまだまだ無理だって思った。

それは澪も唯も感じ取ったようだ。

部室に一緒にいたはずなんだけど急に2人が遠い存在に思えた。

この2人ならこのままプロにだってなれるかもしれない。

悔しいなぁ。

 

 

歌い終わった後、周りの客は多分感動して声も出ないんだと思う。

私達だってそうだ。

近寄れない。

でも

千乃は不安そうな顔で周りを見渡す。

知ってる、可愛い千乃だ。

だから安心させるために、私は合図を送る。

客は思い出したかのように拍手をして、絶賛をしている。

ムギは慣れているのか普通にしているけど、千乃は気づいていないようだ。

周りの目が明らかにキラキラしてることに。

やっぱり千乃の声はすごいぜ。

澪と唯はまだ放心している。

仕方ないさ。

でも、私達はあの2人とバンドをやるんだ。

いつまでも遠い存在だと思ってちゃ駄目なんだからな。

 

そして唯がギターを手に入れて練習したいといって先に帰ってしまった。

その気持ちはわかるぜ。

明日からは練習が始められる。

最初はゆっくりお茶でもしながらゆっくりしようかと思ってたけど、そんな悠長にはしてられないな。

すぐに追いつくからな!!!

 

そして、近づくことが出来れば・・・。

初めて皆と来たときに手にしてすぐに鞄にしまったこのチラシ。

近くにあるライブハウスでブッキングライブの出演者募集と書かれている。

せっかく千乃っていう最高のボーカルと、ムギっていう完璧なキーボード奏者がいるんだ。

私達もうまくなって、これに出場してやる!

そしていっきにメジャーデビュー・・・うぷぷ。

普通なら自分で言って笑ってしまうくらいの夢だけど、なんだか本当に出来そうな気がするな。

 

帰ったらまた練習だ!

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

 

はぁ~・・・恥ずかしかったです。

いきなり歌うことになってどうしようかと思いましたけど、やっぱり歌うこと自体は大好きです。

それに、紬さんの演奏・・・すごかったです。

知らない曲をいきなり合わせることが出来るなんて。

私ももっと頑張ろうと思いました。

歌の練習ってどうすればいいんでしょうか?

 

そうだ、気になることがあったんでした。

私の歌った曲。

それを皆さんが知らなかったこと。

いや、さっきも思ってたんですけど、知らない曲があるのは普通だと思うんですが、店員さんのあの言葉。

『ネットにもそんな歌手の情報はない・・・インディーズでもない、と』

つまり、私の知ってる曲はこっちの生まれ変わった世界では存在していないということでしょうか?

だとすれば・・・その歌を歌うのは良いんでしょうか?

だって、その人の努力の結晶とも言える曲を・・・。

我が物顔で歌うことになるのですから。

でも、歌いたい。

私の知ってるすばらしい歌を、皆にも知って欲しいんです。

もちろん、私の知ってる曲全てがこの世界に存在していないわけじゃないと思います。

たまたま、今回歌ったものが存在してなかっただけという事かも知れません。

とりあえず、良い歌を知ってもらいたいという理由と、私がいた世界を忘れないためにこれからも歌い続けたいと思いました。

 

 

 

そして翌日。

昨日の興奮も冷めやらないまま、学校へと向かいます。

今日から練習・・・どんなことをするんでしょうか。

 

 

「千乃、おはよう」

 

 

「和さん!」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「あ・・・いえ・・・」

 

 

和さんに会えたこと。

それが嬉しかったなんていえないです。

だって普通に昨日も会ってるのに、そんな事言われても困ってしまうと思いましたから。

 

 

「おはようございます・・・」

 

 

ちょっと反省です。

生まれてはじめての友達に、変な子だなんて思われたらその瞬間に消えてなくなってしまいそうです。

 

 

「そういえば千乃、軽音部の申請まだだけど?」

 

 

「・・・!!」

 

 

「忘れてたのかしら?」

 

 

「あえっと・・・忘れてました・・・」

 

 

「はぁ・・・今週いっぱいまでは大丈夫だけど、しっかりしなさい」

 

 

「うぅ・・・本当にすいません」

 

 

せっかく前に教えてくれてたのに、それを忘れてたなんて。

私はいったい何様なんでしょうか。

最低です。

 

 

「・・・誰だってミスはするものよ。大事なのはその後」

 

 

和さん・・・。

 

 

「だから落ち込むのもいいけど、それから学ぶこと」

 

 

ね?と言って。

私を励ましてくれます。

私のために叱ってくれる友人。

そして道を示してくれる。

本当に私は、和さんに出会えて良かった。

あまりにも嬉しくて、そして昨日人前で歌ったことから、感情が高ぶっているのでしょうか。

普段ならそんなこと絶対にしないって言いきれるのですが。

つい、私は、和さんに抱きついていました。

和さんの首に顔をうずめるように。

それは無意識に、当たり前のように。

 

それがおかしいということに気づいたのは、クラスが静まり返ってからでした。

 

 

「ゆ、千乃?」

 

 

「和さん・・・っ!?」

 

 

気持ちの良い日向から急に目が覚めたように、私は和さんから離れようとします。

 

 

「すすすすすすすすすいません!!!!!!!!!!!」

 

 

うわ!

どうしよう!

私は何をしていたんでしょうか!

あばばばばばっば。

頭がまわりません。

えっと、とりあえず和さんに土下座して、そして急いでタイムマシンを捜して、それからえっと、えっと・・・。

 

 

「はいはい、よしよし。軽音部の部長によろしくね」

 

 

和さんは、何事もなかったかのように、抱きついてる私の背中をぽんぽんと叩き。

赤ちゃんをあやすように。

そういいました。

和さんがこういう対応をしたために、周りのクラスメートも。

『なんだ冗談か』と思ってくれたようです。

和さん・・・本当にありがとうございます。

そしてすいません・・・。

 

けど、和さんはこういう対応が板についてるような・・・。

まさか、和さんにはそういう相手、つつつつつまりは恋人なんてものがいるんでしょうか・・・!

ありえます。

だって和さんはかっこいいし、美人だし、頼りになるし、お母さんみたいだし。

良いところを挙げれば切がありません。

そして悪いところなんて一切ないです。

断言できます。

 

そっか・・・和さんにはそういう相手がいてもおかしくないんですか・・・。

なんだか胸がいやな感じです?

なんででしょうか・・・。

この胸ももやもやは・・・?

 

 

「おっはよー!」

 

 

「あら唯、おはよう。どうしたのその背中の荷物は」

 

 

「じゃじゃーん!ギターを買っちゃったんだー!・・・ていうか和ちゃんはなんでゆっきーと抱きしめあってるの!?」

 

 

・・・わ、あまりに動転しすぎて離れるのを忘れてました!

和さんはきっと優しくて、自分からは離れられなかったんだと思います。

 

 

「和さん、すいませんでした!」

 

 

ばっと離れます。

その時、小さく。

『あ・・・』

と聞こえた気がしますが、きっとてんぱってるがゆえの幻聴だと思われます。

 

 

「むー・・・ゆっきー私も!」

 

 

そういって唯さんが抱きついてきます。

なるほど、私が私らしからぬ行動をとったのは唯さんのこれが原因ですか。

 

 

「ゆ、唯さん・・・恥ずかしいです」

 

 

「まあまあ~よいではないか~」

 

 

うぅ・・・唯さんはほっとしてしまうので眠くなってきます。

 

 

「ほら唯も千乃も。そろそろ席に着きなさい」

 

 

そう言って唯さんを席につかせます。

朝から失敗してしまったお話です。

このことは唯さんには内緒にしといてもらいたいです。

軽音部の皆さんに笑われたくありませんのだ。

 

 

 

 

 

 

Side 和

 

 

この状況は・・・私は夢でも見てるのかしら。

千乃が私に抱きついている。

首あたりに顔をうずめているからか、千乃の息がくすぐったい。

そして、良い匂いがする。

香水とかそういうものじゃなくて、女の子の匂いって言うか。

ってそれは今どうでもよくって。

いきなり千乃が抱きついてきた。

最初は貧血で倒れたのかと思ったけど、耳元で。

『和さん』と、熱っぽく囁くように言ってるので意識はある・・・はず。

あやうく私が意識を失うところだったけど。

 

けど、なんでいきなり?

千乃はこういうコミュニケーションは苦手だったはず・・・。

思い当たる節は私の幼馴染ね。

唯ならこういうことも平然とやってのけるから、その影響かしら。

まあ・・・なんというか驚いたのはもちろんだけど、それを受け入れてる自分にも驚いた。

そりゃあ千乃のことは嫌いじゃない。

むしろ好感が持てる。

こんな言い方だと、硬いと思われるかも知れないけど、私は今まであまり、なんていうか、人と過度に触れ合う経験が唯以外になかった。

もちろんお付き合いの経験なんてものも。

それなのに、まだ知り合ってから少ししか経ってないのに、千乃に触られるのは嫌じゃないわ。

何でかしら。

教室内は、千乃の行動に驚いてる反応しかない。

当然よね。

千乃は、自分では知らないと思うけど、クラス中から興味をもたれてる。

あの容姿で、あの性格だもの。

まるで子供のまま成長したかのように純粋で。

お人形みたいに整った見た目。

どんな風に育ったのか、何に興味があるのか。

ひっそりとクラスで噂になってる。

社長令嬢だとか、外国人の血が混じってるとか。

私も気になるといえばそうだけど、そんなの知らなくても千乃は良い子だし。

そして、そんな千乃と仲良くしたい子は多いみたい。

そんな事を何故か思い出した私は、本当に何故か、千乃を抱きしめ返した。

周りに見せ付けるように・・・じゃなくって、千乃のフォローのために。

だって、このままだと千乃は『女の子が好きな女の子』というカテゴリー、いわゆる『百合』だと認識されてしまうからよ。

そうすると、色んな子が千乃にそういう意味で付きまとうかも知れない。

そう、だからこれはあくまでも千乃のフォローなんだから。

決して、他意はないのよ。

 

 

そして、フォローは成功したみたいで周りの目は普通に戻った。

ほっとしたのはなんでかしらね。

唯も登場し、ギターを抱えてる。

どうやら昨日、千乃たち軽音部で買いに行ったらしい。

今日から本格始動だというので、もう一度、申請の件を千乃に念を押しておいた。

 

 

胸の鼓動が収まったのは家に帰ってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




神様「和ちゃんキマシタワー」


久々に和ちゃんを出したかったので、そういう回です。
和ちゃん万歳。

次からちょっと駆け足で進めていこうかなぁなんて思ってたりします。
また良かったら見てください!
よろしくお願いします!

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