【習作】黒子のバスケ、神速のインパルスを持つ男。   作:真昼

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一話にするつもりだったんですけど、いつもより長くなったんで切りました。


第4Q

 桐皇学園と霧崎第一の選手たちが整列し礼をする。互いのチームのキャプテン同士が握手を交わす。通常バスケではキャプテンの選手は4番の背番号がついたユニフォームを着る。桐皇学園は今吉が4番の背番号をつけており、霧咲第一では二年生である花宮がそのユニフォームを着ている。インターハイ予選は通常三年生の引退試合になる可能性が高い。その為、二年生でキャプテンというのは非常に珍しい。しかし、無冠の五将という肩書きを持つ花宮がキャプテン番号を背負っていることに違和感はなく、寧ろ何処かしっくりくるものだった。それも当然の筈で、選手名簿を見ると霧崎第一の選手に三年生は居ない。

 

「おっ、花宮久しぶりやな。性格少しはよーなったか?」

 

「ふはっ、性格云々でアンタが言うかぁ? でもまぁ、嫌らしさって部分ならアンタよりはマシな性格してるっていう自信はあるな」

 

「よぉ言うわ。まぁよう考えればお前と戦うんは初めてやな。コッチは実績も何もない出来たてホヤホヤやからな、一つお手柔らかに頼むわ」

 

「どの口が言ってんだよ。まぁ、そうだな正々堂々と戦いましょうか」

 

 握手を交わし、互いのキャプテンがまずはとばかりに舌戦を繰り広げる。それを見る他の選手達はどっちも滅茶苦茶性格悪そうだな、という思いで統一されていた。

 

 『試合開始(ティップオフ)!!』

 

 審判から投げられたボールに飛びつく両陣営の選手。桐皇学園は背番号6番の若松が、霧崎第一は背番号5番の瀬戸が。

 

「どっせーいっ!」

 

 気合の掛け声の共にティップオフから最初にタップしたのは若松だった。しかし、不運なことにボールは霧崎第一の選手の近くへ弾む。そこにボールの行方にどの選手よりも早く反応した克樹が確保に動く。一秒にも満たない攻防。最初にボールを確保したのは桐皇学園側、克樹だった。

 

『まず最初の攻撃は桐皇だ!』

 

 東京屈指の攻撃力を持つと既に噂されている桐皇学園にボールが渡ったことで観客が騒ぐ。

 

「さてと、早速いきますか……、ねっ」

 

 そう言って、克樹は確保早々に目の前に居た霧崎第一背番号10番の原を抜いてゴールへと向かう。原も必死に対応しようとするが、試合が始まった直後でまだ克樹の動きに目が追い付かない。

 

「おいおいおいっ! 190cmクラスが何でそんなに低く速く動けるんだよッ!?」

 

 一気にゴールへと向かいたいが、流石にここまでトーナメントを勝ち上がってきたチーム。ボールを奪われてからの戻りが非常に速い。すでにゴール前に三人戻っており、青峰に一人マークがついている。お構いなしといった感じにゴールへと突き進む克樹。すでに3Pラインの内側に入り込んでいる。このままペネトレイトするかと思いきやいきなりパスを出す。

 

「まずはウチの特攻隊長にお任せしますかねっ」

 

 完全に虚を突かれた形になった霧崎第一。パスの行先にはフリーの桜井がすでに待ち構えている。そして桜井のクイックリリースから放たれる3Pシュート。しかし、惜しくもリングにぶつかり、ゴールには入らない。

 

『リバウンドッ!』

 

 両陣営の選手が叫ぶ。

 

 ボールはリングに二回ぶつかり跳ねる。互いのセンターがゴール下のジャンピングポジションを確保しに走る。しかし、ポジションを確保しようとする二人を嘲笑うかのようにゴールへと跳ぶ選手が居た。

 

「オイッ良、何外してんだ。詫びとして今度堀北マイちゃんのポスター買ってこいよ」

 

 ボールがリングから跳ねきる前に、青峰がボールをゴールへ戻れとばかりに叩き込む。普通の高校生からすればとんでもないプレイなのだが、ゴールを入れた青峰は眠そうな表情をしていた。さも詰まらなそうな表情でDFへと戻る。

 

『ウッオォッ!!? いきなりダンクで決めたぞっ! やっぱりキセキの世代レベルがちげぇっ!!』

 

 

 

 

 いきなりの派手なパフォーマンスで体育館が盛り上がる中、静かに試合を見つめる者が居た。

 

「やっぱり、緑間っちも来てたんスね」

 

「……黄瀬か。このまま突き進めば最大の障害となるのだから当然なのだよ。むしろお前こそ何故いる?」

 

「桃っちから連絡があって来たッス。今日の試合は青峰っちが出るから見に来たらって。緑間っちもきっと見に来るよって言ってたッスね」

 

「それで『やっぱり』だったのか。桃井が予測していたのだったら納得なのだよ」

 

 会話をしつつも目線はコート上から離さない。黄瀬と緑間の視線の先で行われている戦いは、青峰の派手なプレイのおかげか桐皇学園側が優勢となって動いていた。

 

「それでいきなり派手なプレイが出たッスけど、緑間っちはこの試合どう思うッスか?」

 

「どう思うも何も無いのだよ。桐皇には青峰が居て光谷が居て、さらに桃井まで居る。この状況で桐皇が負ける筈がないのだよ。始まってからのプレイを一つ一つ見ても桐皇の方が地力が上。何より霧崎第一が勝つには決定的に欠けているものがあるのだよ」

 

 緑間に言われて黄瀬は試合を見つつ考え込み始める。

 試合を見ている限りでは桐皇学園が優勢だ。しかし、桐皇学園としては珍しいぐらいにゆっくりとした遅攻で攻めている。しかし、それでも得点をしっかり決めている辺りは流石と言えるだろう。パッと見た所の差としては主に先ほど緑間が言った地力の部分が一番大きいように見える。このままでは霧崎第一が逆転するのは中々難しいだろうと黄瀬は考える。そこでハッと気付いた。

 

「……ここぞっていう時の得点力ッスか?」

 

「その通りなのだよ。確かに花宮のスティール率は普通に見れば目を瞠るものがある。でも結局はそれだけなのだよ。バスケは得点しなければいけないスポーツ、得点しなければ勝つことは無い」

 

「まぁスティールなんて結局光谷っちが居れば条件五分になるッスもんね」

 

「それにしても、まったく気に食わん試合なのだよ」

 

「何がッスか? って聞くまでも無いッスね。花宮のラフプレイのことッスよね?」

 

「正確には花宮が指示するラフプレイなのだよ。……それだけが気に食わないというわけじゃないのだけどな」

 

「あぁっ、今のも普通ならファールになってもおかしくないプレイッスねぇ」

 

「審判がちゃんと見ていれば間違いなくファールになるプレイなのだよ」

 

「青峰っちに言わせればコスい試合ってところッスね。あっと、もう第一クォーター終了ッスか。なんか、ダラダラやってて思った以上に差は開かなかったッスね」

 

「それほど桐皇側がラフプレイに警戒してるということなのだよ。万が一この試合で怪我をされたら、後々の決勝リーグやインターハイ本選に響くかもしれないからな」

 

 

 

 黄瀬と緑間は視線の先を桐皇学園のベンチへと向ける。

 桐皇学園が第一クォーターでいつものようにお得意のラン&ガンで攻めずにゆったりと攻めていたのには理由があった。

 桃井が集めたデータによって花宮のスティール率は後半になればなるほど上がるとわかったのだ。桃井はそれを試合中にデータを集めていると判断した。データの収集を遅らせる為に、第一クォーターだけでもいつもとはまったく違うプレイをさせたのだ。

 

「アイツらっフザケタ真似しやがって!!」

 

 桐皇学園のベンチでは若松がイライラしながら吠えていた。無理もないだろう、この第一クォーターで一番ラフプレイの被害にあっていたのはセンターの若松なのだから。

 

「まぁまぁ、そんなワメクなや若松。ラフプレイしてくるんは事前にわかっとったことやろ」

 

 今吉が宥め、若松も渋々ながら一旦矛を収める。若松の腕には既に痣らしきものが浮かび上がりかけていた。原澤監督は湧き出る苦々しい思いを隠しながら若松の腕の状態を確認していく。

 

「しかし、思ってた以上にやっかいですね。今吉君はアレをどう見ますか?」

 

「多分ですけども伏線や釣りってとこちゃいますか?」

 

「やはり、そうですか」

 

 原澤監督自身の考えと今吉の返答は一致していた。霧崎第一が何故ここまでラフプレイに拘るのか、そこを考えればある程度の予想はついていた。

 

「ワシらがラフプレイで潰れるんならよし。潰れんでも頭に血上らせたら儲けもんってとこちゃいますか。『悪童』まったくエゲツいもんやな。若松もわかったら一年見習いやー? 一年の三人はわかっとったみたいやで?」

 

「「ぇ?」」

 

 今吉が自身の考えを話し、そこから急に振られた話題に一斉に疑問の声を上げる一年トリオ。

 

「ぇ? って……、わかっとってラフプレイなりそうなとこ避けとったんちゃうんか?」

 

「いや、単に痛いの嫌だし」

 

「面倒くさそうだなっと」

 

「す、スイマセン!」

 

 花宮がどういった思惑でラフプレイを行っているとかを全く考慮せず、ただ単に痛いのが嫌だ、面倒くさいという理由で危険地帯を避けていた三人。それを見て若松がキレそうになるがそこでインターバルが終了し、第二クォーターが始まる時間となった。

 

「とりあえず、皆さん。怪我だけは注意して戦ってください。ここが終わりではありませんからね」

 

 

 第二クォーターが始まり、先ほどと打って変わって徹底的に外から攻撃をしかける桐皇学園。中にはセンターの若松一枚だけ置いてある。外の四枚でボールを回し、誰かが3Pシュートを放つ。青峰もわざわざラフプレイが蔓延る場所へ突っ込みたくないのか素直にボールを回している。非常に珍しい光景とも言えるだろう。

 霧崎第一もワンパターンな外からの攻撃に慣れてきたのか、徐々に対処のスピードが速くなってきている。

 桐皇学園も霧崎第一も何処か攻めきれずに第二クォーターはこう着状態が続いていた。

 

 キセキの世代のシューターである緑間真太郎でもない限り、本来3Pシュートを常に決め続けるのは非常に難しい。それでも最低二本に一本は決め続ける外の四枚の布陣。桐皇学園の日々の練習量が垣間見える。

 

 派手な序盤から始まった割には両陣営及び観客までもフラストレーションの堪る試合展開となっていった。

 

 

「ふはっ。それで俺たちを攻略出来るつもりか?」

 

 花宮がマークを行いつつ嘲笑うかのように克樹に話しかけてきた。霧崎第一は第一クォーターでは青峰に一人マンマークをつけるボックスワンで守っていた。しかし、第二クォーター入って克樹にもマークが付きトライアングルツーの形に変わった。ゴール下に若松一人しか来ないなら、もう一人ゴール下から外しても大丈夫という判断をしたのだ。

 

「さぁ? でも結局コッチが勝ってますし」

 

「あのうるせぇセンターが怪我しないといいな。怪我したら崩れそうだもんなぁソッチはさ」

 

 挑発を続ける花宮。

 霧崎第一のラフプレイは審判に露見しないように、しかし大胆に行われていた。ひどいものは若松の鳩尾に肘打ちを入れたりしているようだ。

 

「そういえば、わざわざ第一クォーターでは手加減してくれてありがとよ。残念ながらお前らの動きはさっきの試合で見てんだよ。既に頭の中に入ってるのさ」

 

 人の精神を逆なでするような笑みを浮かべながら花宮が指でトントントンと頭をつつく。桐皇学園が第一クォーターでわざとゆったり攻撃していたことも、その理由にも気づいていたようだ。それどころか花宮の言う事を信じるなら、既に桐皇学園の大半の動きは予測されていることになる。

 

 ―――腐っても無冠の五将の名前は伊達では無いといったところか。っつか隣で試合やってたんじゃなかったのかよ。

 

 嫌になるなとばかりに顔を顰めながら克樹がそんなことを考えている際にもゲームは続いていく。

 

 ゲームが動き始めたのは、いやある意味で止まったのは第二クォーターがそろそろ終わる頃だった。

 今度は桜井から今吉キャプテンへとボールが渡り3Pシュートを放つ。

 

「しもた! 少しずれたか」

 

 シュートを放った瞬間に指先の感触でわかったのだろう。その言葉から若松と霧崎第一の三人がゴール下でポジション争いを始める。

 単純な身体能力のパワーだけで言うならば若松は青峰や克樹に勝るとも劣らない。霧崎第一のセンター瀬戸はパワータイプのセンターではない。一対一なら間違いなく若松がゴール下での体のぶつけ合いには勝利することだろう。そもそも、この体育館の中で若松と体のぶつけ合いに張り合えるのは青峰と克樹の二人だけだ。

 しかし、若松が一人に対して霧崎第一は瀬戸の他に二枚ゴール下についている。流石に若松でも三対一では勝ち目が薄かった。

 それでも何回かに一度は若松がオフェンスリバウンドを勝ち取るのは流石と言えるだろう。

 

 ボールの落下地点を予測して若松を囲みながらゴール下の選手達が一斉に跳ぶ。

 

 何処からかパチンと鳴らす音が聞こえる。

 

 三人の選手に挟まれながらもボールを確保した若松。しかし、選手が重なりもつれ合うように落下する。

 

「ぐぁぁっ…………!!?」

 

 若松のどもった叫びが体育館に響き渡る。ボールがコートの外に転がる中、ゴールの下で若松がうずくまっていた。その様子を見て、審判が笛を鳴らし時間を一度止めた。

 

 若松の様子を見るにすぐにプレイ再会は不可能だろう。何処からか囁くように小さい笑い声と共に「まずは一人目」という声が聞こえた気がした。

 

 




バスケ一口メモ
背番号4番:バスケではチームのキャプテンがユニフォームの4番をつける。

ティップオフ:試合開始時のジャンプボールの事。試合開始という意味でもある。サッカーでいう所のキックオフ。

試合時間:バスケの試合は1クォーター10分で行う。第一と第三の後にインターバルとして2分間の休憩があり、第二の後にはハーフタイムとして10分間の休憩がある。ハーフタイム前の第一第二クォーターを前半と呼び、ハーフタイム後を後半と呼ぶ。第四クォーターが終わった時点で同点の場合、5分間の延長戦(オーバータイム)を行い、それでも同点の場合インターバル2分を挟んで再び延長戦となる。


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