【習作】黒子のバスケ、神速のインパルスを持つ男。   作:真昼

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チラ裏でこっそり投稿開始。
以前、にじファン時代に活動報告で上げていた作品です。っていっても一話分しかないので、少し改稿して投稿しました。
基本的にネタです。血霧よりは力を入れてませんのでご了承ください。



第0Q

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 谷沢正人はバスケを生き甲斐として、今までの人生を過ごしてきた。

 

 正人の身長は日本人としては高い方の188 ㎝。そんな身長であるが、トレーニングを欠かさずに行ってきた為、筋肉がしっかりとついている体格だ。日本の選手で背の高い選手は俊敏性が失われがちだが、正人は克服するために何度も反復練習を繰り返し、身に付いた筋力でカバーする事に成功した。

 

 最初にバスケというスポーツに触れたのは、家族でアメリカに行った時だ。バスケットボール界の世界最高峰であるNBAの観戦。これは正人の琴線に触れた。帰国後、正人は夏休みを利用して近くのスポーツセンターで行われていたスポーツチャレンジでバスケットを体験する。それを経て、ミニバスのチームに入る事になる。

 

 正人の目標は幼い時に見た、あそこの熱きプレイの数々。あの場所でのプレイに少しでも近づくために、只管練習を繰り返してきた。

 

 結局、努力はむなしく高校の時は、インターハイに出る事さえ叶わなかった。しかし、それでも県のベストプレーヤーに選ばれる等それなりの評価は受けていた。

 正人自身、才能があるかと言われれば人並よりは上と言ったところだ。小さい頃から只管に努力を重ね続ける事で着実に力を付けてきたのだ。

 

 そんな評価の為、決して多くは無いが幾つかの大学から推薦で来ないかと誘われた。

 そんな正人だがバスケ選手としては幼き頃に見た本場アメリカのNBAでプレーをするのが夢である。勿論、叶わない可能性が高いことはわかっていた。しかし、それでも夢を諦めきれなかった正人はアメリカの大学に行くことを決心する。

 

 そして、そこで才能の差に人生で初めて絶望する事になる。正人より背が高いのに俊敏性に長けた人達。特に黒人の選手のしなやかさは努力という言葉が安っぽく感じられる程だ。

 

 

 正人は絶望の淵のギリギリに立ちながら、足掻いていた。自分より速いなら、相手を只管研究し、相手の好きなように動かさない練習を繰り返した。

 正人は良い意味で日本人だったのだろう。そう、同じことを何度も何度も飽きもせずにやり続け繰り返していた。

 

 相手を研究し、常に相手チームの動きを阻害し、自チームの勝利に貢献した。その研究力は大学内という括りになるが、一定の評価を受ける事になる。評価されたのは選手としてではなく、研究力という点ではあったが。それでも正人は諦めずに努力を続けていた。

 

 そんな中、正人の大学の友人がある提案を持ってきた。

「正人! 息抜きにアメリカンフットボールを見に行かないかい?」

「アメリカンフットボール? ルールは知っているが詳しくは無いけど、それでもいいのかい?」

「ああ! 勿論さ! しかし、折角アメリカにいるならアメリカンフットボールを一度ぐらいは見た方が良い! 野球は日本でも流行っているようだけどね!」

「野球はした事あるけど、アメリカンフットボールは無いなぁ」

「なんて勿体ない! まぁいいさ! 実は見に行く試合なんだけどな、決勝戦なんだよ! ユースのワールドカップさ! しかもだ! 君の母国の日本とアメリカなんだよ! これは見に行くしかないだろう!?」

 

 結局、正人は友人に連れられて決勝戦を観戦していた。そして、人生二度目の絶望に陥る。

 

 アメリカの選手も日本の選手も才能の塊に見えたのだ。所詮凡人は何処まで行っても凡人なのだろうか。

 正人はある一人の選手の動きに注目していた。

 

「なぁ、あのドレッドヘアーから坊主になった選手は誰だい?」

「ああ、チョーッと待ってくれよ? えぇっと日本の金剛阿含っていう名前だな。何でもものすごい反射神経を持っていて神速のインパルスなどと呼ばれているらしいぜ! 確かにさっきからの反応速度はすごいな!」

 

 ああ、やはり才能なのだろうか。正人は目の前が暗くなるような気がした。自分があれだけの反射速度を持ってさえいればと……。金剛選手は見てから反応しているのだ。そして、その超絶な反射速度で戦っている。まさに天から愛された才能だろう。

 

 

 観戦終了後も正人の心はあの反射速度にあった。

 神速のインパルスか……、俺があの反射速度を持っていたら……。もっと色々と出来た筈なのにな。無い物ねだりだとはわかっている。しかし、正人は考えずにはいられなかった。

 

 その時、一台の車が猛スピードで正人に突っこんできている。そして衝突。正人は最後の際まで、神速のインパルスさえ持っていたら今のも避けれたんだろうな……。そんな事を考えていた。意識はそのまま沈んでいく。

 

 

 

 

 正人は気づいたらベッドの上だった。ベッドのサイズは病院のものとは思えない。どう見てもベビーベッドだった。

 

 正人の思考は現実には追い付かない。生まれ変わりというものだろうかぐらいしか考えられないのだ。そして、心の中は安堵していた。それはまたバスケをやれるという気持ちでいっぱいだったからだ。

 

 

 

 小学校に上がり、ミニバスのクラブに入る。正人はもう、正人ではない。生まれ変わったのだ、当たり前だが新しい名前が付けられた。

 

 光谷克樹(ミツヤカツキ)それが新しい名前だ。

 

 ミニバスに入り、練習を重ねる事で気づいた事があった。前世、正人の時よりも反射神経が良いのだ。それはまるで神速のインパルスのようだった。

 克樹は前世の自分が死ぬ前に願ったからかもしれないと考えていたが、結局は考える事を辞めた。何にせよ、昔と違ったように動ける、克樹にとってはその事が大事だった。

 

 

 克樹は中学生になった時、克樹が住んでいた近場ではバスケが強いと言われる中学に入れる事になった。その為に、多少の勉強をして中学受験までしたのだ。しかし、あくまで近場という限定だったが克樹にはそれで十分だった。なにせよ、克樹はバスケ選手として二つの強い武器を持っていたからだ。

 

 勿論、一つ目は神速のインパルス。人間の限界の反射神経だ。弱い武器な筈がない。しかし、それ以上に強力な武器を克樹は持っていた。それは前世から続くバスケの経験だ。例外なくスポーツというものは経験という物に左右される。正人として生きてきた時の経験、特にアメリカでプレイしていた時の経験は克樹にとって圧倒的なアドバンテージとして存在していた。

 

 そして、その二つの武器を持って克樹は独自のスタイルを作り上げていく。神速のインパルスと経験。克樹はこの強力な武器で中学一年生ながら、レギュラーを勝ち取った。そして、この二つが融合する事で、克樹のディフェンスを抜ける者は全国区でも居なかった。

 

 

 全中決勝に行くまでは。

 

 

 全中決勝の相手は帝光中学。元々全国の中でも屈指の強さを誇る中学だ。克樹は驚きを隠せなかった。なにせレギュラーの殆どが一年生だったのだ。克樹も一年生だが、それだって異例中の異例だ。最初は自分を棚に上げつつ舐めているのかと克樹は思ったほどだ。

 

 そして、試合が始まり克樹は二度目の驚きにあう。

 

 

 原因は相対した青峰という選手だ。青峰は克樹の神速のインパルスでさえ追い付く事が困難な加速、つまり俊敏性を持って克樹を抜こうとする。しかし、速さだけでいうならアメリカの黒人選手を思い出せば何とかなる筈だった。青峰は、そこからさらに普通では考えられないようなトリッキーなプレイスタイルで襲い掛かってくる。絶対的な俊敏性と見た事も無いトリッキーなプレイスタイル、この二つで克樹を抜こうと襲い掛かってくる。

 

 驚きを隠せないでいたのは克樹だけではなかった。帝光中学側も青峰が一度に抜ききれないディフェンスに眼を見開いていた。

 勿論、青峰も克樹のディフェンスに驚きを隠せないでいた。それも当たり前だろう。初見で自分の動きにここまで追いすがってくる選手と戦うのは初めてだからだ。

 今までも試合中で目が慣れていき、動きを止められることはあった。しかし、初見は全国区でもいなかったのだ。

 

 青峰の目に喜悦の色が浮かぶ。車の最高速度を少しずつ上げていくように、克樹と相対する度に青峰のギアが上がっていく。 

 

 青峰は抜こうとするが、克樹のとんでもない反射神経で先回りされ前に立たれる。無理に抜こうとして、ぶつかってしまうと青峰のオフェンスファールになる可能性がある。

 正攻法で抜こうとすると、まるで予測済みの様に立ちはだかってくる。青峰はストリートバスケで身に付いた変則的な動きで対応する。

 

 こう着状態が続く。青峰がフェイントを織り交ぜながら抜こうとする。それを、ギリギリながらも防ぐ克樹。ギアが二人とも上がっていき、二校ともアイソレーション気味に中学一年生ながらエース対決となっていく。

 

 第一クォーターまではそんな形で拮抗をしていたが、第二クォーターから決着はすぐについた。それは克樹と青峰の余りにも速いスピードに克樹の味方選手がついて来れずに克樹とぶつかりかける事が多くなってきたのだ。その隙を逃す青峰ではない。確実にゴールを決める青峰。

 

 青峰以外の帝光中学の一年もまた異常だった。前世のバスケではありえないような才能の塊達。

 

 

 結局、試合は帝光中学がダブルスコアの大差で勝利を収めた。

 

 

 勝利のカギは、帝光中学には青峰以外にも異常と思える才能を持った選手が居た事。克樹の中学には、克樹と同レベルの選手は居なかった。たったそれだけの事だった。

 

 克樹と帝光中学の選手の出会いはそれが最初だった。

 

 

 その後、克樹はトレーニングをさらに増やす。神速のインパルスを十全に使いこなせるように。また、攻撃面での練習も絶やさなかった。ドライブインからのクイックモーションでの3Pシュート。左右に振りながらのターンアラウンドをしつつラインに流されつつのジャンプシュート。

 

 徐々に身長が伸びる中、少しずつ自分の役割を変えていきながら色々なポジションの経験を積んでいった。ポジションが身長につれて変化して行くため、克樹はオールラウンダーとしての才能が開花していく。最終的にはポイントフォワードの役割を果たす為にトレーニングを積んでいった。

 

 

 そして次の年も、その次の年も全中決勝戦は克樹の中学と帝光中学であった。戦う度に青峰の動作速度は上がっていく。それに負けじと克樹もディフェンスの腕前を上げていく。

 

 帝光のメンバー達はキセキの世代と呼ばれるようになっていた。たまに記者の間違いなどで克樹も含まれる事もあった。

 しかし、それ以上に克樹の反射神経やディフェンスの腕前を持って『反射鏡』、『ただ一人からなる絶壁』などと呼ばれる事があった。

 

 克樹としては恥ずかしいから辞めてほしかったのだが……。

 

 

 克樹の中学も帝光中学も準決勝では圧勝と言ってもいい結果で相手を下してきた。克樹は中学三年生、せめて最後の大会ぐらいは勝ちたかった。

 

 

 しかし、結局届かなかった。ダブルスコアではない。帝光中学と戦い、ダブルスコアにならなかったのは大会を通じても克樹の中学だけであった。

 

 

 

 こうして、克樹は一度もキセキの世代に勝てないまま中学を卒業した。

 

 

 

 

 




バスケ一口メモ、転載ウィキペディア

アイソレーション:能力の優れた1人の選手をわざと孤立させて、1on1による得点を狙うプレイ。

ターンアラウンド:ゴールに背を向けた状態からターンしてゴール方向へ進む動き。

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