まあ、思いついたら付け足していきます。
*内容追加して変更しました。
第四話
ラングラン新暦4954年神聖ラングラン王国内の某神殿
ラングラン国内に存在する神殿の地下にある儀式場。そこには二人の物影が居た。
「それではサフィーネ。後は任せますよ」
その影とはシュウ・シラカワとサフィーネ・グレイスの二人だった。この神殿ではシュウが地上に行く為のゲートが開かれようとしている。
「畏まりましたわ、クリストフ様」
サフィーネ・グレイスは熱を帯びた目でシュウを見る。何処の世界であれ、彼らの本質が変わらない限り彼女の思いは変わらないであろう。
「・・・私が地上で活動するときの名前はそれではありませんよ」
シュウはサフィーネの自分の呼び名に違和感を感じた。それゆえにプライベートネームで自分を呼ぶように促す。それがただの感傷に過ぎなくても・・・。
「申し訳ありません、シュウ様」
シュウはサフィーネに自身の地上での名前を教えていた。これもまた感傷であろう。
ちなみにこの時点でサフィーネの本性をシュウの前で曝け出していないが言葉の端々からシュウの知るサフィーネと性格は同一らしい事が伺えれる。
「ふっ・・・では、連絡は通信機で行います。定期的に行いますので任せますよ」
「シュウ様、お任せください」
シュウはサフィーネに地上とラ・ギアスとの通信を可能とするエーテル通信機を持たせているのだ。
『クリストフ様、もうまもなくです。ご準備を』
神殿の中に機械的な音声が響く。シュウを地上に送り出す準備をしていた神官たちからのものだった。
「どうやら時間のようですね」
「シュウ様・・・いってらっしゃいませ」
サフィーネがそう言うとゲートが開かれた。そして、シュウはゲートの中に消えていく。
その姿を見て彼女は何を思ったのか、誰も知る由が無かった。
***
西暦1996年地上世界
地上の情勢は芳しくなかった。
アジア各国がオセアニア、オーストラリア各地に臨時政府を樹立し東南アジアでは大東亜連合が設立された。人類はBETAにユーラシア大陸から押し出されようとしていたのだ。
シュウ・シラカワが地上に現れたのはそんな情勢の時だった。
「以上が、地上の状況です。ご不明な点はありますか?」
一般的な地上人の格好をした男がシュウに地球の情勢を説明していた。男はラ・ギアスの人間で地上調査員の一人だった。
「いえ、現状は、把握できます。お役目ご苦労です」
シュウは冷静に言葉を返す。シュウが冷静なのは『もう一つの記憶』による知識から地上の事はある程度予想がついていたからだ。もっとも異星人の侵略に慣れている記憶も持っている彼にとっては簡単に予想できただろうが。
「ハッ、それでは私はラ・ギアスに戻ります。御武運を」
そう言うと男はシュウの目の前から去っていく。この後、男を回収する為に再びゲートが開かれ、男はラ・ギアスに帰るのだろうが、シュウにとってはどうでもよい事である。
「・・・さて、まずは地上での下地作りですね」
男の姿が見えなくなると、シュウはこれからの予定を口から零す。独り言のように見えるが聞いている相手はちゃんと居た。
「下地作りですか?」
シュウの影から青い鳥が文字通り飛び出してきた。シュウのファミリアのチカである。チカはシュウの影に隠れる事でシュウに同行していたのだ。
「ええ。地上の学会に論文を提出して、世間に私という人間を認知させます」
シュウは以前と同じように論文を学会に提出し、博士号という社会的信頼度が高い身分を手に入れようとしているのだ。
「論文ですか~・・・今から書くんですか?」
「ふっ、そのような事はありませんよ。この9年で書き溜めておきましたからね」
ラ・ギアスで行っていた事はグランゾンの整備調整だけでなく、このような事もシュウは行っていたのだ。母ミサキを地上に送り返した時の地上の様子から技術水準を推測し、それに適した論文をシュウは書いていたのだ。
「なるほど!あの時、ご主人様が書いてる物って論文だったんですね!アタシゃってきりご主人様がポエムでも書いてるのかと・・・」
「・・・ふぅ」
だがチカの的外れな言葉にシュウはため息をつくことになった。ファミリアは術者の無意識から作り出される。つまり、シュウの一面にチカと言う要素があるのだが、本当にそんな要素があるのかは疑問が耐えない。
どうしてこうなった。
***
シュウは学会に論文をいくつも提出した後、結果が出るまで出来るだけ魔装機操者の探索を行うことにした。自分の知る地上とは異なる情勢、そこにシュウの知る彼らはいるのか?それを知る為にシュウは世界を回った。
そして、一番最初の対象がいる地に向かった。
向かう先は、日本。
因縁の地であり因縁の相手がいる国でもある、この国にシュウは訪れた。
「あれは・・・間違いありません。マサキ、マサキ・アンドー・・・」
そう、シュウが最初に選んだのは彼にとってのライバルと呼べる存在マサキ・アンドーだった。この世界のマサキもまた天涯孤独であったが、シュウの知識だとテロにより親を失ったのだが、この世界だと父親がBETAに喰われ、母がテロに巻き込まれて死亡したのだった。
シュウが知識との差異に考えを巡らせているとマサキが振り向いた。
「ん?気のせいか・・・」
マサキは視線を感じて、後ろを振り向いたがそこには誰も見えなかった。もっとも見えないだけだったが。
「私に気付きますか。やはり、片鱗と呼べるものはこの時からあったようですね」
毎度おなじみ《かくれみのの術》でシュウは姿を隠していたのだ。そんなシュウの気配をマサキは感じ取った。それは、因縁ゆえだろうか、それとも魔装機神操者の資質ゆえだろうか・・・。
「でも現時点じゃただの子供ですよねえ」
チカの言うとおり、この時のマサキの年齢は13歳だった。まだジュニアハイスクールに通っているような年だ。
「確かに・・・。私と相対した時のマサキにまで至れるか。中々難しい物です」
同時にシュウにはある懸念があった。サイバスターの力を考えるとマサキが成長してくれる方がシュウにとっては都合が良いのだ。ヴォルクルスと契約していない自分というファクターがマサキにどのような影響を及ぼすか。
それがどう転ぶか、そしてどう修正するか。地上だけで無くラ・ギアスの事情もまたシュウの頭を悩ませていた。
***
マサキ発見後、シュウは東アジア周辺とアメリカ周辺から操者を探した。統一中華戦線の
まだ、ヨーロッパやアフリカなどは探していないが、シュウは別の用事により捜索を中断せざる終えなかった。
今、シュウは多くの学者の前で講義していた。いや、正確には自身の論文の発表会みたいなものだ。彼が提出した論文は審査委員会の審査を突破したが、シュウの提出した論文の数はおよそ10。
それにより、学会からシュウに疑惑が起き、シュウ自らが論文の発表する事で身の潔白を証明しなければいけなくなったのだ。
「であるからして、この鋼材は従来の数倍の強度を持ちます」
シュウの講義は滞りなく進んでいた。時折、浴びせられる質問も難無く答え、参加者を感心させた。
何よりもシュウの発表内容は、現在の技術に比べて画期的なものが多く、しかも分かりやすく説明されている為、参加者たちはシュウの解説に引き込まれていったのだ。
「以上で、この結果が導かれる訳です。ご清聴ありがとうございました」
そして論文発表会は問題なく、終了した。その後、シュウは発表会に参加していた学者と交流を深めていた。
シュウが彼とであったのは、その交流会の時だ。
「ふむ、ちょっと良いかの?」
小柄な老人がシュウに話しかけてくる。その老人をシュウは知っていた。正確には別の世界の、この老人だが。
それゆえシュウは、こう言った。
「・・・貴方は?」
「ワシの名はエリック・ワン。まあ、よろしく頼むでの。シーちゃんや」
それは、数少ない地上におけるシュウの理解者の一人エリック・ワンだった。
「・・・・・・その呼び方は、止めていただけませんか?」
同時にシュウが苦手とする人物でもある。というか、後にも先にもシュウをシーちゃんと呼ぶのはこの男だけだろう。