武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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今回時間が少し飛んでますが、シュウの幼少期をダラダラやってたら作風が別の物になってしまいますんでご了承してください。


第三話

ラングラン新暦4954年

 

少年がシュウ・シラカワとなって9年の刻が過ぎた。今、シュウは王都ラングランの王宮にある図書室に居た。

 

ある事を調べる為に図書室の書籍を漁っていた彼に話しかける物が居た。

 

 

「やあ、クリストフ。調子はどうだい?」

 

 

彼の名はフェイルロード・グラン・ビルセイア。現国王アルザール・グラン・ビルセイアの長子であり、第一王位継承権保持者だ。そしてシュウの従兄弟である。

 

 

「フェイルですか。まあ、中々難航しているとだけ言って置きましょう」

 

 

シュウは本から顔を上げ、フェイルに肩を竦めて答える。

 

 

「ほう、君が梃子摺るとは珍しい。どれどれ・・・これは、調和の結界か?」

 

 

あのシュウ・シラカワが梃子摺るモノ、それに興味を引かれたフェイルロードはシュウが呼んでいた本に視線を落とす。だが、その本の内容は自分が良く知る物だった。

 

 

「ええ。貴方には態々説明する必要もありませんが、これは調和の結界についての研究書ですよ」

 

 

調和の結界、それはラ・ギアス全土を覆う結界であり、これによりラ・ギアスは邪悪なる力は抑えられている。そして、調和の結界を維持する為にラングランの王族は結界に魔力を供給する義務があるのだ。

 

 

「ふむ、何故態々調べているんだ?」

 

 

フェイルロードにとってシュウが態々調べるような代物とは思えなかった。何せあって当たり前の常識の存在だったからだ。また、ラ・ギアス人は世界の成り立ちについては敢えて深い追及をしないメンタリティを有しているのも理由の一つだろう。

 

 

「単純な疑問ですよ。ラ・ギアスそのものを覆う大結界。如何に仲介装置や王族の魔力を持ってしても、それだけの規模の結界を展開できるのは普通では考えられませんからね」

 

「だがそれは結界の特性では無いのか?」

 

「だとしてもあまりにも都合が良すぎますよ」

 

「なるほど・・・」

 

 

かつてのシュウが持つ疑念の一つだが、それシュウでないシュウの記憶によってある程度の答えは出ていた。今回の調べモノは自身の持つ知識と現状とのすり合わせの一環だったのだ。

 

 

「それよりもフェイル。魔装機計画の方はどうなっているのですか?」

 

 

シュウがフェイルロードに逆に質問をした。それは、シュウにとって最大の関心ごとの一つだった。

 

魔装機計画、「ラングランを魔神が襲う」「魔神には魔神をもってしか対抗できない」という王室アカデミーの予言と進言を受け取った神聖ラングラン王国が、その対抗策として建造した人型機動兵器の開発計画だ。

 

 

「ああ。機体の方は順調なんだが・・・」

 

 

魔装機の開発事態はフェイルロードの言っている通り順調だ。来年には16機の魔装機が全てロールアウトする予定である。

 

 

「問題は操者ですか」

 

「ああ。あまりにもプラーナ要求量を満たす者が少なすぎてな・・・」

 

 

だが、魔装機の動力機関として搭載されているプラーナコンバーターはパイロットのプラーナ、すなわち人間の感情の激しさでその流れを活発にし、魔装機の性能をフルに発揮させるエネルギーを動力として活用している。

それゆえ、生来穏やかな気質を持つラ・ギアス人のプラーナ量では魔装機を起動させるに至らないのだ。

 

 

(となると、そろそろですか・・・。この9年間、ラ・ギアスでの拠点作りやグランゾンの調整はある程度出来ましたが、問題は地上ですか・・・)

 

 

そしてシュウは知っていた。この事態に対応する為にラングランが行うことを、そしてそれが自分に深く関わっている事を・・・。

 

 

「クリストフ?どうしたんだ?」

 

 

魔装機計画とこれから起きる事柄に思考を逸らしたシュウにフェイルロードが話しかける。

 

 

「いえ、少々考え事をしていただけです」

 

「そうか・・・。そうだ、クリストフ。モニカには会ったか?」

 

 

シュウの返事に釈然としなかったフェイルロードだが、彼は自分の妹の事を思い出す。

 

 

「モニカですか?いいえ、会ってはいませんが・・・」

 

 

モニカ・グラニア・ビルセイア、シュウの従姉妹でありフェイルロードの妹そしてシュウに憧れている一人の乙女でもある。

 

 

「せっかく王宮に来たんだ。会ってやったらどうだ?モニカも会いたがっている」

 

「そうですね、せっかくですから顔を見せに行く事にします」

 

 

フェイルロードの申し出にシュウは答え、席を立つ。そして、モニカの所へ向かおうとした時彼はあることを思い出した。

 

 

「・・・フェイル」

 

 

シュウはフェイルロードに振り向き話しかけた。

 

 

「ん?なんだ?」

 

「体には気をつけてくださいね」

 

 

シュウの言葉を聞くとフェイルロードは顔を一瞬顰めた。

 

 

「・・・ああ。わかっているよ」

 

 

それを聞くとシュウはモニカのところへ向かった。フェイルロードの道先がシュウの知る物と異なる事を願いながら・・・。

 

 

 

***

 

 

 

フェイルロードとの邂逅からしばらくして、シュウは再びラングランの王宮に居た。今回シュウが王宮にいる理由はラングラン政府から呼び出しを受けたからだ。

 

 

「今日は態々お越しいただきありがとうございます。クリストフ様」

 

 

シュウの対面のソファーに座っている男はシュウに話しかけて来た。彼はラングラン政府の外務卿すなわち外務大臣の立場にある人間だ。

 

 

「いえ・・・それでグラム外務卿、私に何か御用ですか?ラフィット中将も一緒のようですが・・・」

 

 

シュウは今回の呼び出しの理由が既に分かっていた。だが以前(・・)と同じように彼に質問した。

 

 

「今回、クリストフ様をお呼びしたのは他でもありません。貴方にラングラン政府からお願いしたい事があった次第です」

 

 

その言葉からシュウはやはりと思った。これは自分の待ち望んでいた機会が来たのだ。シュウはそう確信していた。

 

 

「・・・続けてください」

 

「わかりました。単刀直入に言います。此度、ラングラン政府は地上から魔装機操者候補を召喚する決定をしました。その為クリストフ様には、地上で候補者の選定をお願いしたいのです」

 

 

ラングラン政府は、プラーナ不足で起動しない魔装機の為に地上人を使う事を決定したのだ。地上人はラ・ギアス人に比べて感情の動きが激しくプラーナも多いのだ。

 

 

「地上ですか・・・それは私の血が理由ですか」

 

「隠しても意味はありませんから正直に言いましょう。貴方の地上人の血、そして優れた魔術師としての能力を期待しての人選です」

 

 

そして、シュウが選ばれた理由、それは彼の母ミサキが大きな原因なのだ。

 

 

「・・・ラングランでの私の扱いはどうなりますか?」

 

「表向きには行方不明となります。操者が全て揃った後は公職に復帰していただく形になります」

 

「つまり、操者選定後は魔装機計画に戻れと?」

 

「その通りです」

 

 

今まで沈黙していたラフィット中将がシュウの疑問に答えた。

 

 

「軍といたしましては予言の魔神をヴォルクルス教団によるものだと推測しています。連中は狂信者の割には油断できない戦力を持っています。正直、現状の戦力では不安しかないのです」

 

「そうですか・・・」

 

 

この世界においてシュウは自身の持つ知識を利用して魔装機計画にある程度関与していたのだ。もっともその身の上からあくまで外様としての扱いであったが。

 

そして軍としては少しでも戦力を増強したいのだ。もっともこれは何処の世界でも同じ事だろうが。

 

 

「さて、どうでしょう?クリストフ様。この話、お受けしていただけますか?」

 

「・・・わかりました。お受けしましょう」

 

 

シュウは逡巡したように見せかけ、外務卿の申し出に是と答えた。

 

 

「おお!ありがとうございます」

 

「いえ。これもラングランの為引いてはラ・ギアスの為、国を愛する一人として当然の事です」

 

 

他の人間が聞いたら何をいけしゃあしゃあと言われるような事をシュウは言う。もっとも紛れも無いシュウの本心である事は昔から変わっていないのだが・・・。

 

 

「それは心強い。そうだ、クリストフ様に紹介したい者がおります」

 

「私にですか?」

 

 

ラフィット中将の言葉にシュウに疑問が浮かんだ。今までの他の世界のシュウはこのようなことを経験していない。世界ごとに多少の差異はあれど今回の事は初めてだった。

 

 

「ええ・・・少尉、入れ」

 

「失礼します」

 

「!?」

 

 

部屋に入ってきたラングランの軍服を着た女性の姿を見たシュウは言葉を失った。シュウは彼女のことを知っていたのだ。そして本来ならこのようなところで会うよう人物ではない。

 

 

「彼女はサフィーネ・グレイス。地上で活動されるクリストフ様のサポートとしてこの者付けます」

 

「サフィーネ・グレイスです。クリストフ様、お会いできて光栄です」

 

サフィーネ・グレイス、こことは異なる世界でシュウの仲間であり、また家族のような存在の一人だった女性だ。

 

 

 

***

 

 

 

 

サフィーネと自己紹介した後、シュウは自宅に戻りチカに今回の事を話していた。

 

 

「まさか、サフィーネとこのような形で会うことになるとは・・・」

 

 

シュウにとって今回の邂逅は予想外の事だった。マサキのポゼッションの次の次くらいには彼は驚いていた。

 

 

「サフィーネ様がラングラン軍の人間でご主人様の副官ですか~」

 

 

チカもまたサフィーネの予想外すぎる立場に驚いていた。

 

 

「問題はグレイス家の方です。あの家には二通りのパターンがあります」

 

 

シュウの知識にあるグレイス家には二通りのパターンが存在する。それはシュウにとって眉を顰める物だ。

 

 

「・・・やっぱり、サフィーネ様は教団の人間なんですかね?」

 

 

そう、サフィーネの家はヴォルクルス教団と深い関わりがある家なのだ。ある世界では代々ヴォルクルス教団を信仰する家で、また別の世界では彼女の姉がヴォルクルス教団の大司祭にまで登り詰めているのだ。

 

 

「その可能性は高いとしか言いようがありません」

 

 

そして、シュウはサフィーネにヴォルクルス教団の影を見た。あのような場面でサフィーネと出会う。それは出来すぎとしか言いようが無かった。自分が本来の流れと違った行動をした事による修正力だとしても怪し過ぎるのだ。

 

 

「あのご主人様、サフィーネ様のことは・・・」

 

「この世界のサフィーネについては何とも言えません。ですが警戒する事に越した事はないでしょう」

 

「そうですかぁ・・・なんか複雑ですね」

 

「・・・同感ですよ」

 

 

シュウはチカに同意する。こことは別の世界での仲間、サフィーネと出会えたことは喜びよりもまず不安しか沸かなかった。

 

この時、シュウの勘は一抹の不安を告げていたのだ。




ようやく次で地上編です。といっても暗躍が主で戦術機はまだまだ先ですが。

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