武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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第二話

森の中に佇むグランゾン。シュウはグランゾンに乗り込み機体のチェックをしていた。

 

 

「・・・チカ、先程あなたは試作型縮退砲は万全と言いましたね」

 

 

シュウはモニターから目を上げ、難しい顔をしながらチカに話しかける。

 

 

「ええ、そうですけど・・・」

 

 

チカはそんなシュウの雰囲気に圧され、言葉尻が小さくなっていった。

 

 

「これを見なさい」

 

 

そんなチカにシュウはモニターを指し示した。そこにはこう書いてあった。

 

《Prototype-Degeneracy-Cannon ERROR》

 

それの意味する事は試作型縮退砲に何らかの問題が発生して使用できないということだった。

 

 

「ええ!?どういうことです、これ!?」

 

「このグランゾンのコア部分は確かにα世界のモノ・・・ですが機体の各部は違います」

 

 

そういうとシュウはコンソールを操作してグランゾンのシステムチェック画面を呼び出した。そこに映されたグランゾンの像は各部が赤く染まっていた。

 

 

「これは・・・!?」

 

「部品の一つ一つは問題ありませんが、総合的に見ると異なる技術系を使用していることによりそれぞれが干渉しあっています」

 

 

そう今彼らが乗っているグランゾンは複数の世界のグランゾンが融合した存在なのだ。同じグランゾンとはいえ様々な違いがある。動力機関、部品精度、勢力の異なるEOT、それぞれの要素が干渉しあい魔神は本来の力を発揮できない状態にあるのだ。

 

 

「そ、それはつまり・・・」

 

「ええ、今のグランゾンでは戦闘どころか、歩く事しか出来ません」

 

 

武装関係は全滅、歪曲フィールドやネオ・ドライヴすらも使用不可能。歩く事は可能と言ったがそれでも装甲や部品に斑があるため機体のバランスもずれており歩行させる事もマニュアル操作で行う必要があるのだ。

 

 

「うわー・・・ここまでの弱体化は類を見ないですよ」

 

以前、グランゾンの象徴とも呼べる兵装ブラックホールクラスターが使用不可能となった時があったが、今回のはそれ以上だった。今のグランゾンは、せいぜい硬いだけのルジャノール程度だった。

 

 

「とりあえずはシステム側で調整します。そうすればギリギリ3ヵ月後には歪曲フィールドぐらいは使えるようになるでしょう」

 

 

そういうとシュウはキーボードにコマンドを入力し始める。モニターには文字の羅列が流れていく。バランスの崩れたグランゾンのバランスをソフトウェア側から解決しようと言うのだ。

 

 

「三ヵ月後ですかー、大丈夫ですかね?」

 

 

チカはそんなシュウを見ながら言葉を零す。運命の日まで残り三ヶ月。そこまでにグランゾンは当日必要とするだけの性能を取り戻せるのか。

 

そんな疑問を持ったチカにシュウはモニターから目を離さずに言った。

 

 

「間に合わせますよ、無理をしてでもね」

 

 

彼の目には決意があった。ソレと同時に彼の感情は複雑に絡み合っていたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

運命の日は来た。

 

シュウは様々な策動を裏で行い、表では辛い環境で生活している母親を慰めたりしていた。

 

そして、ある日、シュウはミサキに外でピクニックをしようと提案する。

それは、彼の計画が動き出す事を意味していた・・・。

 

 

「今日は、いい天気で最高のピクニック日和ね」

 

「うん、本当にそうだね」

 

 

ミサキとシュウの親子は、草原でシートを広げ、寛いでいた。彼らの周りには王族であるにもかかわらず、護衛の影が一人たりとも見えなかった。これはミサキが地上人である、シュウがその血を引いているが故、地上人を蔑視する者達から嫌がらせを幾度と無く受けてきたからだ。そして、それこそがミサキ・シラカワが心を病んだ一因でもある。

 

 

「ねえ・・・母さん」

 

「ん、なあに、愁?」

 

 

ミサキは話しかけて来たシュウに笑みを伴いながら答えを促した。自分の愛息との日常、今の彼女にとって数少ない安らぎだった。

 

 

「母さんは、地上に帰りたいの?」

 

「っ!・・・愁、どうしてそう思ったの?」

 

 

ミサキはドキリとしてシュウの言葉に息を呑む。

 

 

「だって、母さんはいつも寂しそうな顔をしていたよ。そして、いつも地上の写真を見てた事も知ってるよ」

 

「愁・・・。母さんは、大丈夫よ。私は貴方のことを置いてかないから」

 

 

ミサキは、シュウが自分を置いて地上に行くのでは無いかと不安に思っていると推測した。だから、己の愛する息子を安心させる為、彼を慰めようとした。“そう、現時点での彼女の思惑は彼と共に地上へ行く事なのだから。”

 

 

「でも、母さん。本当は一度でも良いから地上に帰りたいんじゃないの?」

 

「それは・・・」

 

 

ミサキは、シュウの言葉に詰まる。本当は彼女も帰りたいのだ。長年、異星人に侵略を受けているとは言え、地上は彼女の故郷なのだから。

 

 

「シュウ・・・私、は・・・あ・・・れ・・・?」

 

 

ミサキはシュウに言葉をかけようと話すべき事を探すが、急に睡魔に襲われた。何とか起きていようと抗うが、抵抗むなしくミサキは睡魔に飲まれてしまう。そして、意識を失う瞬間、彼女はある言葉が聞こえた気がした。〈ごめんなさい〉というシュウの言葉が。

 

 

「・・・眠ったようですね」

 

 

シュウが母ミサキが自分が掛けた魔術により眠ったことを確認した。そして、彼が念じると周囲の空間が歪み、蒼色の魔神グランゾンが現れる。シュウは隠形の術でグランゾンの姿を隠していたのだ。

 

 

「ご主人様~、こちらの準備は万端ですよ!」

 

 

グランゾンからチカの声が聞こえる。グランゾンのコクピットから外部に通じる外部拡声器を利用しているようだ。

 

 

「そうですか・・・。では、始めるとしますか。例え運命と呼ばれる存在であろうとも私に命令する事は出来ないのです」

 

 

そう言うとシュウはグランゾンに乗り込んだ。そして彼は事を進める。

 

 

「では行きます。・・・ゲート展開、目標座標軸JPK2045643」

 

 

グランゾンの上空に穴が開く、それは漏斗のような形をしており、ありとあらゆる物を飲み込むような緑が目立つ空間の渦巻きのようなゲートだった。

 

ゲートから光の膜のようなカーテンみたいな物が降りてきてグランゾンを包む。そしてグランゾンは浮上していく。グランゾンの手にミサキ・シラカワを持ちながら・・・。

 

 

 

***

 

 

 

そこは、木々の葉が綺麗に紅葉した10月の山なか見事な紅葉が見受けられた。だが、そんな風情の溢れる山に異変が起きた。ラ・ギアスからのゲートが開いたのだ。

 

そしてグランゾンが歪曲フィールドで周囲の物を押しのけながら出現する。グランゾンの周囲は歪曲フィールドで押しつぶされた木々が見られた。

 

 

「これがこの世界の地上ですか・・・」

 

 

グランゾンの中からシュウは周囲の状況を確認する。知識には地上に出たことはある、だがこのシュウ・シラカワにとっては初めての地上であり、地上の現時点の情勢についても詳しくなかったからだ。

 

 

「えーと、現在位置は日本の近畿地方山中みたいですね」

 

 

そんな、ある種の感慨に浸っているシュウにチカは現在位置を報告する。

 

 

「そうですか。・・・では、適当に街の病院前に母を置きましょう」

 

 

そう言うとシュウは隠れ蓑を使用し、グランゾンを人里に向けて発進させた。

 

 

(転移座標に若干の誤差がありますね。コレが意味するところは・・・)

 

 

シュウが転移座標決めた場所は本来関東地方だった。別のシュウの知識よりも誤差は少ない。だが、それでもこれほどの距離の誤差、それは彼に一抹の不安を与えたのだった。

 

そして、シュウはミサキを病院前に置いて、退散した。その後ミサキは保護された。だが、その際色々な問題が発生した。当然だろう二十年近くにもわたって行方不明になっていたのだ。とっくに死亡判定になっていもおかしくない人物が現れたのだから当然だろう。

 

だが、シュウにとっては母の事はそれ以上関わるつもりは無かった。これからの彼の道には多くの苦難が待っている。それから逃げる事が出来ないのだから・・・。

 

この日は、こことは異なる時間軸においてシュウにとっての運命の日だった。だが、今を持って運命は本来の流れからずれ始める。そして、世界線により淘汰されたかつての世界線に移動するのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 

ラ・ギアスの古代遺跡の地下の妖しい人物たちが集まっていた。そしてローブを着込んだ集団の中で人際目立つ人物がいた。その人物は見るからにこの集団において高い地位にいる人物だと判断できるだろう。

 

 

「・・・まだ来られないのか?ミサキ殿は」

 

 

身なりの良い青みがかった髪の男は近くに居るローブの男に話しかけた。

 

 

「はい、今だ連絡がつかめません」

 

「ふむ・・・」

 

 

男の名はルオゾール・ゾラン・ロイエル、闇の貴族とも呼ばれ、破壊神ヴォルクルスを信仰するヴォルクルス教団の大司教だ。

 

ミサキを地上を餌に誑かしたのは何を隠そう、この男なのだ。

 

 

「た、大変です!」

 

 

本来、この日はシュウとミサキを利用して彼を己の目的を達成しようと企んでいたのだ。だが、彼の思惑は崩壊した。

 

 

「・・・どうした騒々しい。何事だ?」

 

 

ヴォルクルス教団の信者であるローブの男が儀式場である遺跡の地下祭壇に走りこんできたのだ。

 

 

「ラ、ラングラン軍の連中が、この遺跡に!」

 

「何ですと?」

 

 

その報告にルオゾールは眉を顰める。

 

 

(謀られた?いや、ミサキ殿の精神は確実に病んでいた。それにカイオン大公が興味の失った大公妃を気にかけるはずも・・・)

 

「ルオゾール様!ここはお逃げを!!」

 

 

信者の言葉でルオゾールを思考を中断する。

 

 

「止む負えんか・・・」

 

 

ルオゾールは、この場を引くことにした。途中ラングラン王国軍とも遭遇したが何とか難を逃れることが出来た。

 

 

そしてこの事件は、公式には以下のように発表されたのだった。

 

ラングラン王国に大きな衝撃が起こる。大公妃ミサキ・シラカワ行方不明。大公子クリストフ・グラン・マクソードと共に外に出て、長時間帰ってこなかった事から調査隊が編成される。その結果、近くの遺跡で魔術で眠らされていた大公子を発見する。ラングラン当局は、大公子が見つかった遺跡の捜索中にルオゾール・ゾラン・ロイエルと遭遇した事からヴォルクルス教団の犯行と見て調査をしている。世論では、地上人を厭う一派に誘拐されたのでは無いかと噂されたりもした。その後、ミサキ・シラカワの消息は掴めず、ラングランは死亡と宣言した。この事件は、日本ブームが起きていたラングランの茶の間を騒がした。だが、この事件がたった一人の少年の手によって起こされた事を知る者は、誰一人としていなかった。

 

 

後日、ルオゾールはこの事件について親友にこう語ったという。

 

 

「解せぬ」

 

 

 

***

 

 

 

シュウはマクソード邸にてラングラン政府の公式発表を聞いていた。彼は行方不明になったことやミサキの事などの調査の為、缶詰状態にされていた。

 

だが、そんな状態でありながらも彼はほくそ笑んでいた。なにせ、自分の謀がうまくいったのだから、そしてそれは世界の筋書きからの逸脱をも意味していた。それこそが彼の本当の目的だったのだ。

 

 

「全てが私の想定通りですね。・・・むしろ問題は地上の方ですか」

 

 

だが、全てが順調と言うわけではなかった。シュウは、地上の新聞を持ちながら、憂いに顔を染める。

 

その新聞の見出しには、こう書かれていた。

 

 

〈BETA西進により欧州各国政府が、英国領やグリーンランド、カナダなどに首都機能を移設〉と。




次は渇望巨人IFです。

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