武装機甲士Alternative   作:謎の食通

36 / 37
第六章:聖十字の旗を掲げよ
第三十四話


西暦1999年の冬アメリカ合衆国ネバダ州

 

 

グルーム・レイク空軍基地、通称エリア51。

 

アメリカの本土に存在する基地の中でもかなり機密レベルの高い基地でその広大な敷地面積にも関わらずアメリカは、存在を公式には認めていない。基地の敷地周辺の立ち入りは、もちろん、撮影も一切禁止されており、場合によっては警告無しに発砲される場合もある。周辺空域も飛行禁止空域となっているアメリカでも屈指の警戒態勢だ。

今、その基地は通常よりも厳重な警戒態勢に置かれていた。基地周辺には数多くの戦術機が周囲を哨戒している。まるで今にも何者かが襲撃してくるのがわかっていて、それの警戒をしているようだった。

 

「・・・周辺の状況はどうかね?」

 

その様子を基地の司令室のモニターで見ていた人物は、隣に居る側近に問いかけた。スーツ姿をした男性に対し軍服の男は姿勢を正し答える。

 

「はっ、二個旅団を基地周辺に配置し、警戒をしていますが、それらしき影を見かけたとの報告はありません」

「同じくこちらの諜報員も周囲に不審な人物を確認できていませんね」

 

左胸ポケットに多くの略綬を着けた軍人の隣の眼付きの鋭いビジネススーツ姿の男も同じくスーツの男、アメリカ合衆国大統領に答えた。

 

「本当に来るんですかね?」

「わからん。だが、ジョンとビルから会ってくれと言われたら無視する事も出来ないからな」

 

大統領は補佐官の言葉に肩を竦めながら答える。シュウ=シラカワが作り出した人脈、それは大統領という国のトップの知り合いにまで及んでいた。政財界の有力者と接していたからある意味、必然とも言えるが。

 

「・・・今回の件でわかりましたが、シラカワ博士は、我が合衆国の政財界にいくつかのコネクションを築き上げているようですね」

「うむ、彼が学会に登場してからステイツにおける新技術発表が増加しているのは、明らかだな。それにともない業績を上げている企業の数から考えると決して無視できない影響力だな」

 

この頃になるとアメリカだけでなく世界各国が知るところとなる。シュウ=シラカワが希代の天才科学者であることが、だ。

 

「それにエンドングループの件もあります。個人で大きな組織を潰す手腕は恐ろしくもあります。いくつかの汚職事件にも彼の関与があった可能性もあります」

「情報局としましては、彼自身のスキルが恐ろしいですね。こちらの諜報員が何度か彼を補足しようとしましたが、その全てが撒かれました。他国の諜報員も同様のようですが・・・」

 

その余りの多才ぶりや彼の真実に気付いた日本帝国等の諜報員が彼の周辺を調査しているが、彼の足取りを掴むことは出来ていなかった。それも当然だろう。だれが、魔術などという超常の力を科学者が使うなどとわかるだろうか。

 

「まったく、彼は本当に人間か?悪魔か何かじゃないのかね?」

「しかし、Mr.シラカワが今我々の元に来ると・・・どうされます?」

 

補佐官は、暗にこう言っている【ここで拘束するべきではないか?】と。

 

「拘束は無しだ。それに極東の諺に窮鳥懐に入れば猟師も殺さずと言うだろう?」

「閣下・・・それは意味が微妙に違うかと」

「そうかい?」

「どちらかと言うと金の卵を産むガチョウでしょう。・・・もっとも飛び込んで来るのは、狡猾で獰猛な鷲のようですが」

 

組織の影を見せずたった一個人でこれほどの事をして見せた人物、それが自分たちに協力すると言ってきても諸手を上げて賛成は出来ない。むしろ、警戒か恐怖を掻き立てるだけだろう。と言っても目の前にあるあまりの大きな利益を見逃すことは、彼らには出来なかった。

 

「良いじゃないか。鷲は我が国の国章だ。縁起が良いでは無いか」

「しかし、もうそろそろ約束の時間ですが未だに影も形もありませんが・・・」

 

シュウはグルーム・レイク空軍基地を会談の場所に指定した。それ故に厳重な警戒態勢で基地を囲んでいる。いざという時には、周囲の戦力が問題に対処する事になっている。このような所に乗り込むのは多数の人型機動兵器を所持するコルシカ基地に攻め込むような馬鹿だけだろう。

 

「ふむ・・・報告にある人物像から約束を守らない人間とは感じなかったが・・・」

 

シュウ=シラカワ自身が捕捉出来なくても論文や商談など少なくない彼の足跡から、シュウの人間性の解析は、行われていた。その結果、自身の自由に強いこだわりを持ち、約束は守り、嘘は言わない人物だと推察できていた。ただし、重要な事は、曖昧に誤魔化すだろうとも推測されていた。

 

「これは・・・所長!」

 

大統領が考えに耽っているとオペレーターが声を上げた。そのオペレーターは、この基地のスタッフでは無く、今回の為に第五計画のメンバーを連れてきていたのだ。

 

「どうした?」

「基地中央部上空に重力場異常が発生しました!」

 

そのオペレーターの使用している機器は、G弾などにより発生する重力場異常を観測するための装置だ。ちまたで噂の蒼き魔神が重力を操る可能性が高い故に持ち込まれたのだ。

 

「何!?モニターにだせ!」

 

モニターには、基地のど真ん中の空に闇色の円盤が発生していた。そして、その円盤は、徐々に大きさを増していた。

 

「これは・・・どうみる?」

 

大統領は自身の側近たちに紛れている白衣の男、第五計画の主任だった男に話しかける。目の前の事象の説明を求めたのだ。

 

「・・・もし本当にシラカワ博士が蒼の魔神の関係者ならあり得ない話だとは、思いますが・・・」

「つまり?」

「観測された重力場異常から擬似的なマイクロブラックホールが形成されている事が推測できます。それにより空間に穴を開けている、すなわちワープホールを作り出していると思われます」

 

あまりにもSFチックな内容にその話を聞いていた人物たちは動揺でどよめいていた。その中でいち早く落ち着きを取り戻した大統領が再び主任に問いかける。

 

「それは、人類に可能なのかね?それともBETAなのか?」

「いえ、そのどちらも無理と言えます。現在の人類の技術ではアレを作り出すのは不可能です。だからと言ってBETAとも言えません。技術の方向性が違いますし、ロスアラモス研究所で解析した恒星間航行システムにはワープ機能は存在していませんでした。・・・まあ、調査不足と言う可能性もありますが」

 

主任は言葉を濁しながら、推測する。

かつてカナダのサスカチュアン州アサバスカに落ちたBETAの降着ユニットその残骸から解析された技術は、オルタナティブ計画にも当然使われている。そして、G元素を用いた地球脱出船団が60数年で約6光年離れているバーナード星系に到達出来るのもそれが理由だ。

もっとも第四計画のようにBETAそのもの諜報を行っている訳では無いから全てを解析できている訳では無いそれでも1光年を4000年以上かける必要があったのが数十年に短縮できている時点でかなりのモノだろう。

 

「いや、それは無いだろう。空間転移が出来るなら現在の戦況を維持出来る筈がない。連中の増援はあくまで月や火星方面からだ。ワープで突然出現した等の報告は宇宙軍からも上げられてきておりません」

「なるほど・・・参考になったよ。国防長官に主任。・・・となると第三の技術(ExtraOverTechnology)か」

 

大統領が側近たちと話していると、モニターに変化が現れる。重力で形成された闇色の円盤の真ん中が発光したのだ。外から見るとただ光っているだけに見えるが、観測機器は確かに重力の変化を捉えていた。

 

「ワープホールから質量現れます!」

「遂にか・・・む?あれは!?」

 

アメリカ首脳陣の予想に反し、現れたのは三機の人型機動兵器だ。

 

「紫色の機体に通常の戦術機の二倍の大きさの青い機体、そして深い蒼色の機体ですか」

 

濃い紫色の標準的な戦術機の大きさのスマートな機体、ツインアイとツインブレードが特徴的だ。

明るい青色を基調とした50M級の機体、およそ戦術機と呼称するのがためらわれる機体だ。戦術機というよりはXG-70に近いものがある。

そして、最後の一機は・・・。

 

「形状的に蒼い機体が蒼い魔神でしょうな。しかし・・・日本人が紫の機体を持ってくるか?」

 

シュウの特殊な(魔術)欺瞞技術(隠形の術)により簡単な形状しか知りえなかったが、それが蒼き魔神、グランゾンだと言うのは一目でわかった。

 

「どういうことだ?」

「いえ、閣下。日本で紫色は、将軍専用機を意味するものでして、日本人ならあのような色の機体をこの場に持ち込むとは・・・」

 

日本の戦術機の色は飛鳥時代の冠位十二階の色と同じだ。すなわち紫は、戦術機を駆る者たちの身分の中では最上位を意味する。そんな色をした機体を日本人がアメリカ合衆国のど真ん中に持ってくるとは、考えずらい。

この事から、グランゾンの蒼いカラーも日本とは関係無い事が推測できる。もっとも日本の青い戦術機カラーに比べるとグランゾンの蒼は闇とも表現されるので並び立つと一目瞭然で別物だとわかるだろう。

 

「となると日系人の可能性が高いのか」

「名前だけならいくらでも偽れますが日本に介入したことを考えると日系人の可能性が高いですね」

 

メディアなどで露出しているシュウの写真は、どう見ても白人の要素が強い。それでもシュウが日本に介入したのは事実なので日本と何らかの繋がりがあると想像できる。もっとも、その日本からも諜報員で調査されている事から単純に日本に所属している訳ではないことは、アメリカ首脳陣もわかっている。

 

「それすらもブラフと言う可能性があるがね。・・・しかし、あれだな僚機が居るならCIAから提言されていたプランFは却下だな。さて、迎え入れるとするか、シュウ=シラカワを」

 

 

 

***

 

 

グランゾンのコックピットから周囲の状態を見て、シュウは感嘆の息を漏らす。未だ生産数の少ないF22ラプターやF15イーグルがグランゾンの周りを取り囲んでいるのだ。未だ前線ではF4ファントム系列の機体が主力な現状を考えると何とも豪勢な布陣だ。

もっとも、たった三機でも攻略可能だと、シュウ自身は判断している。何よりも事実だ。

 

「さて、問題無く着いたようですね」

『ここがアメリカのエリア51・・・』

 

紫の機体ヒュッケバインに登場している武は、顔を強張らせる。白銀武と言う男にとって、アメリカは、敵地とも言える場所だからだ。いくらシュウが事前に言い聞かせていても完全には納得できていないのは必然だろう。

 

「その通りです。新兵器の開発や実験が行われている施設ですよ」

『でも、本当に行くんですか?』

「ええ、何か問題でも?」

『だって、あいつら第五計画の連中ですよ!?あんな奴ら信用できるんですか?』

 

武の脳裏に浮かぶのはクリスマスの時に酒におぼれている恩師、脱出船団で地球を去る仲間、そして、海に沈む世界だ。それらが第五計画によって引き起こされた。

 

「別に彼らだって世界を滅ぼしたい訳ではありませんよ。自国民の被害を出したくないがゆえにMAPWによるBETAの駆逐。脱出船団もどちらかというと他国からの賛同を得る為の餌という側面が大きいですからね。それにアメリカ人、全員が第五計画に賛同している訳ではありませんよ。やりようは、あります」

 

だが、別に第五計画に参加した人間とて地球を滅ぼすつもりなどなかった。彼らは彼らで地球を救おうとしていたのだ。もっとも、その善意が母国を滅ぼし、地球滅亡のカウントダウンを早める事となるとは想像できなかったようだが。

 

『けど、シュウさん一人で会いに行って大丈夫なんですか?捕まったりしません?』

「ふっ、問題ありませんよ。それでは後を頼みます」

 

グルンガストがこてんと首を傾げながらグランゾンの方に顔を向けるのにシュウは内心苦笑する。中の人がそれを行うならかわいらしいが無骨なスーパーロボットがやるとシュールなだけだ。

 

「貴方がシラカワ博士ですね?」

 

コックピットからタラップで降りると少し離れたところに止まっている車両からスーツの男が降りてきた。

 

「ええ、お初にお目にかかります。ソートン大統領次席補佐官」

「・・・こちらへ、プレジデントがお待ちです」

「ほう、大統領自らですか。それはそれは」

 

シュウが車に乗ると基地中枢に向けて車が走り出す。シュウの両脇には次席補佐官以外にも完全装備の兵士が居たがシュウはそれを気にもせず悠然と座席に体を沈めていた。

中枢の入り口の前に車が止まる。周りには警備の兵が居るがシュウを拘束しようとする姿勢は見せてはいない。だが、さしものシュウも車から降りて目に入った人物には、目を白黒させた。

 

「初めまして、ミスターシラカワ。私がアメリカ合衆国大統領、ビル・ゴアだ。君の事は友人たちからよく聞いてるよ」

「こちらこそお会いできて光栄です、大統領。まさか、このタイミングで貴方と会えるとは思っていませんでしたよ」

 

紫髪の貴公子シュウ・シラカワと世界の警察、否、世界の防衛軍、アメリカ合衆国大統領ビル・ゴアが出会ったのだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。