南米沖の大西洋に浮かぶ孤島、そこにシュウ・シラカワの地上の隠れ家の一つが存在していた。
地上に出た、シュウと武に純夏はこの島に潜伏していた。シュウは情勢を見極めるために世界に目を向け、武たちはヒュッケバインとグルンガストに慣れる為の訓練を重ねていた。
「地上の様子は、中々興味深い状況になっているようですね」
シュウは、世界の現状を見て呟く。BETA大戦こそは未だ進展はないが、政治の世界では大きな動きがあった。アメリカが推進するオルタネイティブ第五計画。それに致命的な欠陥が発見されたのだ。当初、動揺を抑える為に常任理事国のみが知っていた、他の国には知らされていなかった。だが、国連職員に紛れ込んでいたキリスト殉教派の手により、その内容は世界中に暴露されてしまった。これによりアメリカは政治的に苦しい立場に立たされ、それと同時に人類は確実な勝利を約束する手形を失った。残ったのは、戦術機等の通常兵器と核兵器などの戦略兵器のみだ。
『おう、そうだな。っていうか、アンタの存在に世界中が気付き始めているぞ。そろそろ指名手配されるんじゃねえか?』
シュウの目の前のモニターに映っている男は、肩を竦めながら語る。彼は、地上におけるシュウの協力者の一人だ。
「おそらく、手配されるとしても先の事ですよ。それよりも先に暗殺や拉致の方が先に来ることになりそうですね」
『おっ、ということは・・・』
指名手配されない、それはすなわち身柄が既に把握されているという事だ。それは、シュウが何らかの組織に属することを意味していると察した。何せ、目の前の男は神出鬼没、接触しようとしているモノたちも彼の足取りを掴めないでいるからだ。
「ええ、近日中に行動を移します」
その言葉にモニターの男はニヤリと笑う。
『やっとか・・・俺を含めてほかの連中はアンタの頭の中の金の卵に期待してるんだ。よろしく頼むぜ。・・・で、200でどうだ?』
指を二本突き出す守銭奴に無表情にシュウは指を一本立てる。
「100ですね」
報酬の値切りである。
「おいおいけち臭い事言うなよ・・・150だ」
「フッ・・・いいでしょう」
苦虫を潰した男と微笑む男どっちがどっちなのかは、ご愛敬である。ちなみに単位は円では無い。
「ならいつもの口座によろしく頼むぜ。グレイには、こちらから伝えておいてやる」
そういうと要件は済んだとばかりに通信を切った。シュウは通信が切れるのを確認すると振り込む為に手元の端末を操作し始める。
「さて、次は・・・ん?」
ドアからノックの音がする。シュウは、手元の端末に扉の向こう側にいる人物を監視システム経由で確認すると、自分の保護している人物だったので、ドアを開ける。
ドアがいきなり開いた事でノックした少年は目を白黒させているが、気を取り直して部屋の中に入る。
「失礼します」
「武、何のようです?」
武が入ってくる。その表情には、不満の色が浮かんでいた。地上に上がったのは良いが、ひと月以上もこの拠点の島から彼らは出ていなかった。
「あの、シュウさん。地上に戻って数週間経ったんですけど、まだ日本に行かないんですか?」
時折、シュウがふらっと居なくなったりするが武たちは、島に置き去りにされていた。やる事と言ったらシミュレーターで機体の習熟に努めるだけだ。それ故、焦燥に駆られ、直談判に来たのだ。
「日本?ああ・・・香月博士の元に行くつもりはありませんよ」
「なっ!?どうしてですか!夕呼先生のオルタナティブ4が世界を救う・・・」
シュウの言葉を聞いて詰め寄る武だったが、シュウは片手で制す。
「彼女の研究成果だけでは世界は救えませんよ。良いところ延命が精々ですね」
「っ!けど、第四計画こそが唯一の手段ですよ!」
シュウの言葉に前の世界で最後に聞いた言葉を思い出す。あんたのお蔭で人類は30年と言う時間を手に入れる事が出来た。そう決して人類は救われたとは言っていないのだ。
「それは地上の人間が独力で行った場合です。いえ、平行世界の人間の干渉を受けなければそれすらも儘ならないのは、貴方が何よりも理解しているでしょう?」
「うっ!それは・・・」
武の脳裏に浮かぶのは一番目の世界の聖夜でやけ酒をしていた香月夕呼の姿だ。つまらないゲームから発想を得た因果量子論の新理論、それは戦争により娯楽が発達していない、この世界では、独力での発想が難しい事を示している。
「それに何も完全に彼女と道を違えるという訳ではありません。いずれは手を結ぶつもりですよ」
「いずれって・・・いや、あの時よりもまだ時間があるか」
「それにある程度、力を得ないと彼女に利用される事になりますからね。協力や契約関係なら問題ありませんが、利用されるとなると私もそれ相応の対応をしなければなりませんからね」
「・・・それってお互いで利用しあうって言うのは駄目なんですか?」
ここ数か月、シュウと一緒に暮らしていて、武もある程度、目の前の青年の人間性を知ったつもりになっている。故に内心無駄だと思いながら問いかけるが・・・。
「駄目ですね。暗黙の了解ではなく、前もって注意事項を打ち合わせた上での共闘では、いけませんよ」
「・・・我慢するとか」
「無理ですね。これは私のアイデンティティですので」
「は、はあ・・・」
取りつく島もなく却下された。シュウによって煙に巻かれた武は気が抜けたかのように呆けた顔をする。シュウはそれを見計らって武が忘れていた問題点を示す。
「それに忘れていませんか?」
「?・・・何をですか?」
「00ユニット・・・それの被験者はどうするのですか?」
「どうって・・・あっ!?」
武の顔から血の気が引く。BETAにより辱められ、脳髄だけになった純夏。人間では無く、ロボットのようになった純夏。それらは武の脳裏を過ぎ去った。
「念のために言っておきますが、今の純夏では不可能ですよ。そもそもあれは念動力者としての魂と貴方への思い、そしてBETAへの憎しみによって出来た奇跡です。今のままではただ徒に命を落とすだけですね」
更にシュウの理性的な説明による追い打ちが武を襲う。
(・・・そうだ。00ユニットになるっていうのは、人間としての命を殺すって事だ。俺には、そんな事は出来ない・・・!!)
俯き、手を握り締める武。その手は血の気が引いて白くなっており下手したら皮膚を突き破って出血しそうなぐらい強く握りしめられていた。
「まあ、代案は用意していますがね」
ただ、シュウがボソッと溢した言葉に顔を上げる羽目になる。
「え?」
そこには不敵に笑うシュウ=シラカワの顔が見えた。
***
武に計画の一部を教えてからしばらくした後、シュウはアメリカ合衆国ニューヨーク州マンハッタン島にあるさる高級レストランで知人と会っていた。
「やあ、ミスターシラカワ。久しぶりだね」
シュウの対面に灰色のスーツを着こなした男が座っていた。彼はかつてシュウが第五計画にコロニー等に採用されている循環システムを提供した時の相手、すなわち第五計画に属するエージェントだ。
「ええ、お久しぶりですね、グレイ」
「それでどういう風回しかな。君が私を呼ぶなんて」
かつて第五計画に参画を促したが少しの技術提供だけで本格的な参加を拒んだシュウ。そのような人物からコンタクトを受けたのだグレイは警戒を強めている。それどころか目の間の男は謎の技術で各国の諜報員の眼を誤魔化し、所在を掴ませず逃げおおせているのだ。シュウの報復などの鮮やかの手腕(企業を潰す等)も裏世界ではある程度、知れ渡っており、今や非常に厄介な人物とその手の筋の人間に認識されているのが目の前の紫髪の男なのだ。
「以前、打診されていた貴方の要請を受けようと思いましてね」
「
グレイは片眉を上げながらシュウに聞き直す?
「第五計画参加の要請を受けると言ったのですよ」
シュウの言葉に思わず手に持っていたカップを取り落としそうになる。慌てて机に置きなすと改めてシュウの顔をマジマジと見つめる。
「いや、その申し入れは嬉しいが・・・」
慌てながらも表情を取り繕うとするグレイ。自分が所属する派閥には今ある種の問題が発生しているのだが・・・。
「今、第五計画の抱えている問題については承知していますよ。そもそも私の専門は重力についてですからね」
「・・・君は知っていたのかい?G弾について」
視線に危険な色が宿る。本来ならそのような態度はNG行為だ。だが、魔人の言葉には、それほどの力があった。
「さあ、どうでしょう。ただ、BETAという存在との接触によりその手の技術の一部は手に入れても可笑しくは無いと思いますがね」
「そう思うのは、余程の夢想家か、天才だけだ」
シュウの揶揄う様な言葉にグレイは吐き捨てるように返答する。
「なら天才らしくG弾の技術的問題を解決しますか?それとも夢想家らしく常軌を外れた科学技術についてでも語りますか?」
「おいおい・・・本当に解決できるのか?」
「ええ。私のグランゾンにも搭載されている機能ですが、重力崩壊における空間への影響を抑え、破壊力だけを活用できるようにするために特殊な重力場を使用することでG弾による重力災害は防げるでしょう」
「は?何を・・・グランゾン?」
グレイはシュウの言葉が理解出来なかった。目の前の男は晩年の二コラ=テスラの様に少しネジが外れたのかと思い浮かべた。だが、そんな妄想は次の言葉を聞いた瞬間消し飛んだ。
「私が設計した機体ですよ。世間一般では、蒼い魔神と呼ばれていますが」
「っ!?やはり、お前が・・・」
思わず、席を立ち上がる。目の前の男が今、世界の一部を騒がしている謎の戦術機を作ったと言ったのだ。
ただ、男はこの時気付かなかった。周りの一般人どころか周囲に手配していた同僚たちも突然立ち上がった自分に何の注目をしていなかった事に。
「その通りです。日本帝国の動きにCIAもようやく気付いたようですからね」
「・・・君は、日本人なのかい?」
「いいえ、日系人ですね」
日本帝国に協力する姿勢から日本に関わる勢力だと思われていた蒼い魔神。しかし、当の本人は否定する。
「そうか・・・しかし、何故、このタイミングで第五計画に参加を?」
ドカッと椅子に体を沈み込ませて、シュウに問いかける。何せ、第五計画は現在中止の危機にある。初っ端から躓いたのだ。アメリカだけでない世界各国の科学者がG弾の問題点に気付き始めている。特に極東の某女狐など盛んに裏工作をしているのだ。
更に泣きっ面に蜂の、国連職員の暴露により結構な範囲でG弾の問題点は知れ渡っていた。
今や身内からも見切りをつけられつつある。一言でいうと崖っぷちだ。そんな第五計画に今の時期に参加するメリットは普通なら無い。あるとしたら地球脱出船団への乗り込みチケットぐらいだ。
「先ほども言った通り私ならば問題点を改善することも、新たな第五計画に再構築することも出来ます。ただし、条件がありますが・・・」
「条件?それは何だい?」
条件と聞いて体を起こして、経過するグレイ。シュウの突きつける条件、それは・・・。
「ふっ、第五計画。その全ての権限を私に預けて欲しいのですよ。香月博士の様にね」
これがやりたかった。
地上世界に技術提供して、戦力を向上させると共に重力系論文を紛れ込ませて、G弾の問題に早期に地上人が自分で気付く様に差し向る。
そして、面目丸つぶれの第五計画に手を差し伸べて、自分の都合の良い組織にして乗っ取るという計略・・・!
グランゾンと言う超兵器、ラ・ギアスの魔術と言う超常の技術による錯乱、そして何よりもシュウの頭脳!これらのチートを用いて陰謀渦巻く地上世界を個人の手で動かす。これは、他の介入主人公では殆ど無理で、ラスボス系&ダークヒーロー系主人公のシュウ=シラカワにしか出来ない・・・!(ガンダム等の技術提供系や個人・組織としての協力系はあっても、こういう乗っ取り系は、自分の記憶見たことないですね、マブラヴじゃ)
そう、これがやりたくてこの作品を書きました。後はチートなグランゾンの活躍で書きたいのは終わりですね。(まだまだ陰謀は続くけどネ!)