武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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ようやく今回からシュウの策略の一端を出すことが出来ました。


第三十二話

シュウがラ・ギアスに戻っている間、地上では世間が炎上していた。

G弾の威力を目の当たりにした世界各国は、その力に脅威論が噴出していた。逆に第五計画を支持していた国々は威力の実証により、積極的な使用を主張し始める。・・・当事者の米国を除いて。

 

「それは・・・本当なのかね?計算違いという事は・・・」

 

ワシントンに存在する白亜の屋敷、ホワイトハウスの主は、アメリカ合衆国の中でも有数の科学者たちから提出された報告書に示された結果に顔を青ざめていた。

 

「プレジデント・・・残念ながら・・・30回にわたる演算は全てこの結果を示しています」

「おぉ・・・ジーザス・・・」

 

アメリカ合衆国大統領は、思わず天を仰ぎ見る。

執務机の上に放り出された報告書には、こう書かれていた。

 

『G弾の使用に伴い発生する重力場異常が一定の割合を超えた場合、未曽有の大災害が起きる』

 

それはアメリカの推進する第五計画の致命的な欠陥を示していたのだ。大規模な重力偏差により起こる地殻変動による大地の沈没、大気の流れの変動による一部地域の窒息の危険性、最悪の場合は宇宙からの放射線を阻害するバンアレン帯の消失や通信網の崩壊等が可能性として記されていた。

 

「主任、G弾の使用をオリジナルハイヴのみ絞ることで何とか出来ないかね?」

「・・・難しいかと。オリジナルハイヴを無力化するほどのG弾を使用すると何らかの災害を誘発する可能性はかなり高くなります」

 

大統領の一縷の望みを掛けた質問は、否と返された。

 

「そうか・・・」

 

大統領は、椅子に体を深く沈めた。米国の利権、世界の未来、滅亡への絶望、さまざまな思いが彼の頭の中で錯綜する。

 

「ただ・・・」

「うん?」

 

主任の言葉に瞑目した目を開ける。まだ、可能性があるのか、と。

 

「重力場異常を何とかすることが出来れば、あるいは・・・」

「そんな事が出来るのかね?」

 

しかし、主任の述べた内容はまだ現在の人類の科学力では夢物語の様な内容だった。思わず胡乱げな目でどことなく投槍に問いかける。

 

「可能です。先日我々に解析を依頼された例のモノの開発者の協力が得られれば」

 

主任の言葉にポンと手を打つ。だが、すぐさまため息を吐くことになった。

 

「蒼い魔神か・・・。まさか戦場の迷信に頼らざるを得ないとは、な」

 

蒼い魔神が実在するなら、確かに可能だろう。だが、光線を弾いた。光学兵器を使った。ワープみたいな事が出来る。サイズは戦術機サイズ。などなどの眉唾モノばかりだ。前半は、ある機動要塞で開発はされているがとても実用化できる代物でないし、そして、そんな代物を作れる技術力を持つ組織など寡聞にして聞いたことが無かった。

 

「ですが、閣下。もしかしたら、迷信では無いかもしれませんよ?」

「ふぅむ?」

 

大統領の隣に控えていたCIA局長ホワイトマンは、提言する。

 

「例の魔神が登場してから日本帝国の一部のモノが活発に活動しています。更にはあの怪人も動いているかと」

「なるほど、実際に動いている以上、実在する可能性は高くなるという事か」

 

ホワイトマンの言葉に考え込むプレジデント。そんなプレジデントにホワイトマンは自身の推測を語る。

 

「それと同時に蒼い魔神が日本帝国の管理下に無い事もわかりますね」

「しかし、ホワイトマン局長。それはあの女狐にも関わりの無いモノだという事の証明ではないかね?なら、あれほどのモノを一体どこの組織が作り上げたというのだ?そのような兆候があるとは報告されていないが・・・」

 

ホワイトマンの推測に大統領補佐官は、言葉を挟む。今まで何度か情報収集を行っていてるのに、それについての報告書が一度も政府に提出されてないからだ。

 

「組織、ではありませんが・・・兆候とも呼べるものが今回の件で判明したかと」

「何?それは何かね」

 

興味深そうに大統領は聞く。それに対し、複雑そうな顔で言う。

 

「・・・日本帝国が探りを入れているのは、ステイツのある科学者です」

 

ホワイトマンが言いよどんだ理由はそれは、組織ではなく個人だった。誰が蒼い魔神が作ったのはたった一個人みたいですと報告できるだろうか。そんな事をした日には肩を叩かれるのは必然だろう。だが第五計画が頓挫しかけている現在、それでも報告する必要があると判断したのだ。

 

「我が合衆国のだと?いや、待て。科学者?」

 

当然、大統領も訝しめ顔をするが、科学者と聞いてある男の顔を思い浮かべていた。近年が学会だけでなく、政財界にも色々な影響を及ぼしているあの男を。

 

「ええ。彼らが調べていた人物、それは『メタ・ネクシャリスト』シュウ・シラカワです」

「シラカワ博士!確かに彼の重力に関する論文は素晴らしかった!今回のG弾による影響を計算するのにも大変参考になりましたが、まさか、彼が!?」

 

話に割って入るように主任は、興奮したように声を上げる。それに片眉が上がるが、落ち着くように促す。

 

「主任、落ち着きたまえ。確かに、彼の知識は我々米国にかなりの利益を与えている。その才能は疑いようがないな。・・・ただ、ミス香月とは別の意味で厄介だがな」

「こちらでも何度かシラカワ博士とコンタクトを取ろうとはしておりますが・・・」

 

シュウ・シラカワは、世界各国の支援で落ち目な米国経済を支えていた。合成食料の改善、リサイクル技術の確立、エネルギーシステムの効率化、各製造業のコスト削減など様々な分野に影響を及ぼしている。おかげでF-4ファントム20機分の値段がすると言われたF-22ラプターは大幅なコストダウンを実現することが出来た。

だが、彼を掌中に収めようとした者たちは、ことごとく失敗し、強引な手を使おうとしたものは何故か不幸な事故や不祥事が発覚し、社会的に抹殺されていった。更に、各企業に技術提供を行っているが、その代償である政治への舞台参加補助についての要請はいまだ来ていない。合衆国の二大政党にもそれらしき人物が接触したと言う話は無いのだ。

 

 

「例の宇宙船の循環システム以外、接触は出来ず、か。一体、彼は何が目的で何者なのだ?」

 

合衆国政府ですら、その手綱を握ることが出来ない謎の人物。合衆国に敵対する訳でもなく逆に利益を与えている点からスパイの可能性は低い。しかし、それならいったい何者なのか。そればかりが疑念として湧き出てくるのであった。

 

 

***

 

 

横浜ハイヴ跡地に建設が行われている横浜白陵国連軍基地の仮設研究所で香月夕呼は、A01から提出された報告書を読み直していた。

 

「・・・」

 

G弾の重力衝撃波を防ぎフィールドを発生させた蒼い魔神についてだ。G弾の爆心地から無事帰還したあの二人からの報告書だ。そこには、グランゾンの異質さが克明に示されていた。京都防衛戦では、噂程度の情報しか知りえなかったが、今回の事で実際の目撃者の情報を得ることが出来た。それは京都防衛戦に参加した衛士にグランゾンとサイバスターについて緘口令が敷かれていたからだ。

 

「なるほど、ね。平行世界の記憶が流れ込んできた、か」

 

だが、何よりも気になるのは自身の秘密兵器とも言える少女から得た報告だ。鳴海孝之から提出された報告書には記載されていなかったが本人は、此処とは異なる記憶を得ていたのだ。本人は錯覚だと判断していたが、香月夕呼にとっては違う。

 

(やはり、シュウ・シラカワがここよりも遥かに発展した平行世界の住人だと言うのは、間違いなさそうね。問題は、奴も記憶を得たのか、それともやってきたのか・・・)

 

この世界から異質な技術を齎したシュウ・シラカワ、異質な技術の塊とも言えるグランゾン、夕呼はその二つを結び付け、己の提唱する理論から平行世界の来訪者だと推測していたのだ。もっともシュウがどのような人物かは、まだわかってはいないようだが。

 

「と言っても完全に蒼い魔神の正体がアイツって決まったわけじゃないしね。斯衛あたりが探りを入れてるから私の勘も良い線言ってると思うんだけど・・・」

 

夕呼が思考を続けていると、背後のドアが突然空いた。胸元に手を入れながら、振り返る。侵入者の顔を確認すると脱力するとその豊満な胸から手を放す。

 

「ご機嫌麗しゅう、香月博士。相変わらず、キツイぐらい美しいですね」

「鎧衣・・・何の用よ」

 

トレントコートの微妙の怪しいおじさん(自称)は、知り合いだった。彼は帝国情報省外務二課課長鎧衣左近だ。飄々としていて掴みどころが無いが切れ者で香月夕呼に協力している人間の一人だ。

 

「古代アガルタの伝説を書いた古書を手に入れましてね・・・」

「な・ん・の・よ・う・か・し・ら?」

 

リーディング防止という名の無駄話をしようとするが、眉間にしわを寄せた夕呼に本題に入るように言われた。

 

「・・・G弾爆心地の観測データが暴露されました」

「何ですってっ!?」

 

立ち上がった。急に立ち上がった衝撃で体を揺らしながらも、その顔は驚愕に染まっていた。

 

「下手人は国連職員ですが、どうやらキリスト殉教派の者だったらしいですね」

「・・・これは追い風になるかしら?でも・・・」

 

彼女は顎に手を当てながら、第四計画に及ぼす影響を考えるが、影響はそれだけに留まらないのに気付いた。

 

「G弾と言う圧倒的な力の庇護を失う国にとっては、お先真っ暗でしょうね。汚染されても国を取り返せると思っていた方がたも居るようですからな」

「G弾が使われてから数か月たった、このタイミング。幸いと見るべきか、今更でと言うべきかしら・・・」

 

G弾の威力に恐怖したものたちも、心の底ではG弾にある種の期待を持っていた。それは、たとえ国土を破壊されてもBETAを排除することは出来るから人類は滅ばないという希望だ。だが、それが失われたということは先の見えない第四計画のみがBETAに対する希望なのだ。すなわち未来への見通しが見えなくなったのだ。

 

「どっちにしても世界は動くわ」

 

世界は、動く。ある男の策謀の通りに。

 




計画、第一段階。
技術をばら撒くことで戦力や経済の増強を図りつつ、重力関係の論文を広め、G弾起爆時の悪影響に一部の天才だけでなく、普通の研究機関でも気付けるようにする。
これが計画の起爆装置である。

第二段階は次の話の予定です。

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