武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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リカルド+マブラヴ=今回




第三十話

モニターには、BETAの巣、ハイヴの映像が映し出されていた。その中には通路を埋め尽くすかのような大群のBETAが密集していた。そのBETAの頭上を一つの影が飛び去っていく。ヒュッケバインだ。

 

「すげえ・・・!機体が思ったように動く!それにXM3より動かしやすい」

 

武はヒュッケバインの慣らし運転としてシミュレーターに乗っていた、地上でのBETA戦、そして今はハイヴ攻略戦をデータの中で駆けていた。

ヒュッケバインは、道中のBETAを無視して進んでいく。テスラドライヴが搭載されたヒュッケバインをBETAは、補足する事が出来ず、天井から落下してくる奇襲行動も武の巧みな操縦テクニックによる三次元行動で回避していった。

 

「ほう、さすがはBETA大戦の英雄。中々のものですね」

 

その映像をモニターから観察しているシュウは、感嘆の言葉を漏らす。さすがに物量&質がトンデモナイ敵と戦ってきたαナンバーズや鋼龍戦隊に比べれば見劣りする部分があるが、才能は決して負けていないと診ていた。実際、BETA戦における武の立ち回りは、かなりのもので宇宙怪獣などに対応するMS部隊と比べても遜色なかった。(あくまで立ち回りで、質は除く)

 

「何か、武ちゃんの動き、益々凄くなっている。みんなが見たら、ド変態っていう位に凄いなあ」

「(ド変態・・・)ヒュッケバインにはTC-OSとテスラドライブを搭載していますからね。それにコックピット自体も戦術機に近づけてありますから、慣れるのも早かったようですね」

 

純夏の感想をスルーしつつ、シュウは解説を行う。このヒュッケバインは、新西暦のモノと全く同じと言う訳では無い。機体自体は、この世界のエリック・ワンが手掛けており、ある程度は戦術機とパーツが共通出来るのだ。

もっとも、それはシュウが技術を地上に拡散したからこそ出来る事なのだが。

 

「ところで純夏、聞きたいことがあるのですが、いいですか?」

「はい?なんですか?」

 

ヒュッケバインが、フォトンライフルで大型種を打ち抜き、左手に持たせたチェーンガンで小型種を掃討している姿を映しているのをしり目にシュウは純夏に問いかけた。それは彼が武と純夏が記憶を得た時から聞きたかった事があったのだ。

 

「貴女には辛い事を思い出させますが、あなた達が横浜ハイヴに囚われていた時の事を聞きたいのです」

 

その言葉を聞いた瞬間、純夏は、顔を強張らせる。あの時の事は、彼女にとって最悪と言っても良い出来事だ。この世界ではシュウに救出された。だが、本来の歴史では、目の前で武はバラバラにされ、自身は辱められ、体すらも弄繰り回され、更には脳髄だけにさせられたのだ。トラウマにならない方がおかしい。

 

「私があなた達を救出した時、生き残っていたのは、あなた達二名だけでした」

 

シュウがグランゾンでハイヴに転移した時に生き残りは武たち以外、存在しなかった。

 

「それは前の世界でも同じでしたか」

 

だが、それこそが引っかかっていた事だ。何故、この二人が最後になったのか、態々つがいで残していたことが腑に落ちない。機械的に考えるBETAが特別なのは、最後のお楽しみなんて考える訳無いのだから。

 

「・・・いえ、前の世界だとまだ他にも人がいて、私たちは最後の方じゃなかったです」

「なるほど・・・」

 

純夏は、眉を寄せ、顔色を少し悪くしつつもシュウの問いかけに答える。

 

(やはり、細かい差異は存在しているようですね。なら他にも・・・)

 

ループする世界と言えど、多少の差異は存在する。白銀武が鎧衣美琴の服を剥いた時、気絶させられた方法が違ったように、異なる道筋が存在するのだ。

シュウが純夏の返答に思考を巡らせようとした時、目の前からアラームがなる。武が反応炉に到達し、それを破壊したようだ。ヒュッケバインは背中に背負っていた特殊兵装型ライフルを使い、反応炉を破壊したのだ。

 

「さて、そろそろグルンガストの調整に移りますか。純夏、付いてきなさい」

「・・・はい!」

 

思考を中断し、純夏とグルンガストの調整に移る。これから先、少年たちには働いて貰わないといけないからだ。

彼にはやる事がたくさんある。ラ・ギアスを救う為にも、地上を救う為にもだ。

 

 

 

***

 

 

 

BETAが出現したトロイア州に少数の魔装機部隊による中枢破壊作戦が行われていた。動員された戦力は全て魔装機神で、質による蹂躙と言う俗に言うスパロボお家芸を行おうとしていたのだ。

本来なら、その作戦は悪くない。問題は相手がBETAだったことだろう。

 

「ちぃ!カロリックミサイルだ!」

 

サイバスターから光球が放たれ、BETAの群れに着弾して破壊する。近場にいるBETAをディスカッターで切り裂きながら、マサキは光線属種を優先的に排除していた。

 

「マサキ、前に出すぎよ!」

 

もっともそれは敵陣深くに切り込む事になり、下手すれば孤立しかねないのでたびたびテュッティらがマサキに注意を促していた。

 

「しかし、きりが無いな」

「物量が最大の武器だからな、やっこさんは。それに中核となるのがハイヴくらいしか存在しないから、指揮官倒して撤退なんて事が起きねえからなあ」

 

ヤンロンは、度重なるBETAの襲撃に辟易していた。敵の陣地に近くなればなるほど接触する数は多くなるのもわかるが、あまりにも回数が多かった。そんなヤンロンに同調しつつもリカルドはある疑念を持っていた。いくらなんでも普通のハイヴに比べて出現数が多くないか、と・・・。

 

「莫大な物量に死を恐れない兵士・・・いくら個々の性能が高くないとは言え、キツイものがあるわね」

 

テュッティもBETA戦のめんどくさい状態をよく知る事が出来たが、代わりに得たのはその美貌を歪ませただけだった。

瞬間、地面が揺れた。地震では無い。

 

「BETAの地下侵攻か!?」

 

リカルドが気付き、声を上げた瞬間、地面が爆発、大穴が空き、大量のBETAが湧き出してきた。いきなり、周囲をBETAに囲まれれば、いかに魔装機神と言えど回避に専念するしかない。だが、魔装機神にはこの状況をひっくり返す武装が搭載されていた。

 

「ここは、俺に任せろ!」

「私も行くわ!」

 

ザムジードとガッデスがBETA群の中心部すなわち出現した穴の近くに向かっていく。そして、その力を解放した。

 

「レゾナンスクエイクッ!」

「ケルヴィンブリザード!」

 

ザムジードはそのこぶしを地面に打ち付けることで力を解放した。ザムジードの周辺は揺れた。局所的な地震により地下のBETAそのものを巻き込む。さらには地震の共鳴現象により、地上の空間も揺れ地上のBETAを粉砕する。

咒文が唱えられた瞬間、ガッデスの周りが凍結した。その温度は絶対零度。原子の振動を完全に止める。魔術により起こされたその現象は、量子力学を凌駕した。そして、周囲の状況が凍り付いたソレらを戻す。だが、そのあまりにも急激な変化により、全ての敵は、氷として砕け散った。

 

「ふう、MAPWがここまできついとはなあ。魔術兵装が少ないザムジードでコレか。なるほど、マサキが気絶するわけだ」

「ああ、正直あの時の俺じゃあ、サイバスターの武装の全ては使えなかった。おっさんに鍛えて貰って今はマシになったがよ」

 

マサキが地上からラ・ギアスに戻ることになった理由もプラーナの消耗が原因だ・MAPWは効果は絶大だがその反面消耗も大きいのだ。もっともゼオルートの下で本格的に修行を始めたマサキはその才能を開花させつつあった故に前ほど使いづらい兵装では無くなっていた。

 

「とりあえず、先は長い。少しでも進もう。」

「ええ、そうね・・・。うっ・・・」

 

ヤンロンが先を進もうとしようとすると、テュッティが、ガッデスがひるんだ様に立ち止まる。

 

「?どうした、テュッティ?」

「だ、だいじょうぶ、ちょっと気分が悪いけど」

「プラーナの使い過ぎだな。・・・よし、周囲に敵の反応は無い。ここらで休憩しよう」

 

リカルドがテュッティの様子を聞く。本人は強がっているがプラーナを消耗しすぎているのだが分かった。それを見たヤンロンは流石にこのまま進むことを出来ないと考え、精霊レーダーに目をやる。幸い、先ほどの攻撃で敵を一掃したらくBETAの反応を感知できなかった。よって休憩することを提案した。

 

「BETAの勢力圏だけど良いのかよ?」

「さっきのMAPWで粗方片付いたから今のところは大丈夫だろ。見張りとして一人が魔装機神の乗ってりゃ、いざという時にも対処できるだろうしな」

 

マサキは不安がるが、リカルドは休憩に賛成した。テュッティを休ませたいのだ。

 

「なるほど、なら僕が見張りをやろう。マサキやテュッティ、リカルドは休んでくれ」

「了解、じゃあ機体を降りるか」

 

サイバスター、ザムジード、ガッデスは一か所に集まり、その周りをグランヴェールが警戒するように陣形を組んでいた。

 

 

「マサキ、カップ麺があったよな?お湯を沸かしておいてくれないか?」

「ああ、わかったぜ。少し待ってな」

 

リカルドがマサキに食事の準備を頼むと、マサキは少し離れた場所で携帯コンロに火を付けてお湯を沸かし始めた。そのマサキの様子を確認した後、リカルドは疲れて座り込んでいるテュッティの元に行く。

 

「具合はどうだ?テュッティ?」

「ちょっと怠いわね・・・」

「よし。何なら口移しで俺のプラーナを分けてやろうか?」

 

プラーナとは人間の意思から発する生体エネルギーで、これにより魔装機に搭載されているフルカネルリ式永久機関の稼働をするために必要なプラーナ・コンバーターを動かすことが出来るのだ。ちなみに修羅の国の覇気と同等の存在である。

そして、弱ったプラーナを補給するには、他者から口移しを行うのが最も手早い方法である。

 

「何バカな事言ってるのよ。貴方もプラーナは、消耗したでしょうが」

「本気だぜ、俺は?それにザムジードは実弾兵器の方が多いからプラーナもそこまで消費しないしな」

 

そこには、確か絆があった。リカルドはテュッティを思い、テュッティも憎からず思っていた。だが、因果を巡る。そこに干渉する因子が無い限り。

 

「!?危ねえっ!!」

「きゃっ!?」

 

リカルドはテュッティを突き飛ばす。そして、腕を食われた。

 

「ぐああぁぁぁぁ!?」

 

右腕が根元からとれていた。いや、もげたと言った方が正しいだろう。テュッティの背後にいつの間にかBETAの兵士級が接近していた。リカルドはそれに気付き、テュッティを突き飛ばしたのだ。その代償は、己が右腕だ。白いキノコのような頭部についている口がソレを嚙み千切る。そして、その剛腕でリカルドを弾き飛ばす。

 

「畜生、兵士級かよ・・・!」

「リカルド!?」

 

兵士級が二人に迫る。2mを超す巨体が迫る。生半可に人に似た姿が恐怖心を煽る。だが、跳梁もそこまでだった。

 

「セイヤッ!」

 

グランヴェールの蹴りが兵士級を蹴り潰したのだ。

 

「リカルド、テュッティ!大丈夫か!?」

「ええ、私は・・・。でも、リカルドが!」

 

ヤンロンは、二人の安否確認をする。テュッティは、リカルドの機転により救われたが、問題はリカルドだ。右腕があった場所からドクドクと血が流れ、口からも血を溢していた。内臓にもダメージがあるようだ。まさに致命傷と言える状況に、更に訃報が続く。

 

「くそっ!何時の間にか兵士級に囲まれた!早く機体に乗り込むんだ!」

 

兵士級に囲まれていたのだ。BETAは、その性質上、プラーナが非常に低く、群れならともかく、単体だと精霊レーダーでも探知が難しかった。マサキは、ゼオルートに習った剣を振りつつ、サイバスターに向かう。そのマサキの姿を見たヤンロンは叫ぶ。

 

「マサキ!サイフラッシュだ!サイフラッシュならこの状況を打開できる!」

 

味方を巻き込まずに敵のみを倒すサイフラッシュならこの混戦状態も対処できる。そう判断したのだ。

 

「ああ!今、行く!テュッティたちも急げよ!!」

「え、ええ・・・。リカルド、行くわよ」

 

マサキは、リカルドを気にしつつも急いでサイバスターに乗る。テュッティもマサキに続こうとリカルドを促す。だが・・・。

 

「ダ・・・ダメだ・・・俺を置いて・・・行け・・・テュッティ」

「リカルド!?しっかりして!!こんな所にいたら死んでしまうわ!早く治療しないと・・・!」

「・・・わりいな・・・けど、もう遅いみたいだ・・・さっきので・・・肋骨の骨が・・・肺に・・・」

 

致命傷だった。出血多量、内臓破損、今も息をするだけで、いや呼吸も難しい状態で苦しそうだ。

 

「な、何言ってるのよ!待っててすぐに救急セットを・・・」

「行くなっ!・・・行かねえでくれ・・・ここに・・・居て欲しい・・・んだ。すぐに・・・おわるから・・・よ」

「リ、リカルド・・・わかったわ・・・私はここにいる・・・どこにも行かないわ・・・」

 

治療しようと離れるテュッティを引き留める。己がファミリアであるフレキとゲリが周囲のBETAを撃退していた。ヤンロンもハイファミリアなどでBETAを抑え込んでいたので、リカルドとテュッティの周りに一時的な空白地帯が出来ていた。

 

「す・・・すまねえな・・・この忙しい時によ・・・?・・・この光は・・・」

「これはサイフラッシュね・・・リカルド、もう大丈夫よ?」

 

優しい青の光が辺りを包んでいく。その光に触れたBETAは次々と破裂していった。サイバスターのMAPWサイフラッシュだ。BETAは、爆発物を内蔵していない故、破裂するように潰れるだけで済んでいたので爆風でリカルドたちが傷つくようなことは無かった。

 

「そうだな・・・けどテュッティ・・お前も・・・早く乗るんだ・・・」

「貴方も一緒に行くのよ、リカルド!!」

「ああ・・・テュッティ・・・?・・・いるのか?」

 

テュッティはリカルドを促そうとするが、彼の眼はもう光を映していなかった。

 

「ええ・・・ええ!!ここにいるわ!リカルド!!」

「そ、そうか・・・天使に看取られて逝けるなんざ・・・幸せもんだな・・・俺も・・・よ・・・」

 

テュッティの腕の中でだんだんと冷たくなっていくリカルド。右肩から流れ出す血の勢いも弱まっていた。無論、傷口が塞がったからでは無い。

 

「も、もう一度・・・お前と・・・・・・」

 

テュッティが掴んでいた手が滑り落ちた。

 

「・・・!?リカルド!?リカルドッ!!!ダメ、目を開けてっ!!」

 

リカルドを揺する。リカルドを呼びかける。だが、彼は目を開けることは無かった。そう二度と・・・。

 

「リカルドォォォォッ!!!」

 

涙が溢れ、魂からの慟哭が響く。その様子をマサキとヤンロンは認識した。認識してしまった。

 

「・・・ウソだろ・・・リカルド・・・嘘だと言ってくれ・・・リカルドッ!!」

「リカルド・・・まさか、こんな形で・・・ッ!?この振動は!?」

 

目の前で起きた仲間の死、それは致命的な隙となる。

 

「BETAの地下侵攻!やばい!!テュッティ、早く乗り込め!」

 

マサキがテュッティを促す。しかし、テュッティは身じろぎすらしなかった。リカルドを失ったことで茫然自失となっているのだ。

なっているのだ。

 

「テュッティッ!!!」

 

振動は、ますます強くなる。そして、動かないテュッティと仲間の亡骸。マサキは焦った。このままでは、テュッティまでもが、と。

瞬間、BETA出現予想地点は闇に包まれた。いや、正確には光が脱出不可能なフィールドが発生しているのだ。

 

「な、何だこれは・・・!」

「マサキ、これはマイクロブラックホールだにゃ!」

 

立て続けに起きる異常にマサキは動揺するが、シロは先の攻撃を分析することで現状を把握するよう促したのだ。

 

「マイクロブラックホール・・・!?」

「超重力で作り出された擬似的なブラックホールの事にゃ」

 

クロは、マサキに簡易的な理論を説明する。

 

「超重力・・・ッ!」

 

気付いた。重力をこのような武器に転用できる相手を重力の魔神とも呼べる機体を駆るあの男を。

 

「シュウ、居るんだろ!出てこいっ!!」

 

そこに、ソレは居た。重力の魔神、究極ロボ三号機、そして武装機甲士と称される機体、グランゾンが悠然と滞空していたのだった。

 

 

 




この組み合わせでこうなるのは、最初から決めてました。自分としては、リカルドは嫌いなキャラじゃないんですが、マブラヴでなおかつ、ああいう境遇のキャラならこうするしかなかったかなって。
設定的に言うなら平行世界の記憶、すなわち観察者の立場の連中の干渉が薄かったので運命を覆すことは出来なかった的な話です。
まあ、シラカワ博士も多忙で武たちも記憶を取り戻したばかりですからね。それでも少しずつ変わってはいきますが・・・。


ちなみに負傷シーンは、まりもちゃんとオルタ世界の武ちゃんを参考にしました。と言っても参考もとよりは多少救いがあるはず・・・メイビー、多分。

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