武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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今回、ダークプリズンつーよりも魔装機神って感じです。


第二十八話

家政婦が慌ただしく部屋にBETA襲来の報を知らせた後、彼女の上司であるクレインが入室し、改めて詳細な情報がシュウにもたらされた。

 

「・・・よって、ラングラン国境警備隊は壊滅。シュテドニアスは、ラングランへの開戦準備の為に国境付近に戦力を集中させて居た為、国土への侵入を最低限に抑えられていますが・・・」

「ラングランは、逆に国土に侵入された、と」

 

トロイア州から溢れ出たBETAは、周囲を縦横無尽に食い尽くしていった。ラ・ギアスは地上よりも技術力が進んでいるとは言え、いきなりの奇襲という混乱に即座に対処することは難しく、BETA戦のノウハウも無い為、国土を失陥する羽目になってしまったのだ。

 

「はい。トロイアで合同研究されていた超魔装機の試作型や火の魔装機神によりカラタミーフィ州で辛うじて防いでいますが・・・」

「ですが、出現地点もトロイア州、持ち出せた超魔装機の数は?」

「・・・わずか一機です。魔装機神たちの招集も掛けられておりますが、防衛線から零れた化け物どもの駆除に手間取っているようでして」

「前線を押し返すには至らず、ですか」

 

難しい顔をしたクレインの前で思案にふけっているシュウに声がかけられる。

 

「あ、あのシュウさん、その化け物って・・・」

 

鑑純夏だ。彼女と武は、シュウに同席させられていたのだ。

 

「まだ、現物を見た訳ではありませんが、アレでしょうね」

「まさか・・・」

「ほぼ間違いなくBETAでしょうね」

 

シュウの予測に顔を青くする純夏。武は、好青年な顔を怖いモノに変え、手が白くなるほど握りしめていた。

 

(そう、かつてと同じように・・・)

 

そして、このBETA襲来はかつても起きた事だった。

 

 

 

***

 

 

シュウがBETA襲来を知ってから数日後、ナザン大陸北東部でBETAに対する防衛線が繰り広げられていた。その戦いには、火の魔装機神グランヴェールだけで無く、他の魔装機神の姿も見えた。

 

「受けよ、メギドフレイム!」

 

元教師の中国人、ホワン・ヤンロンの駆るグランヴェールは目の前に火球を発生させると、その火球に掌打を叩き込んで火柱を発生させる。火柱はそのまま波状に前進していくBETAの群れに向かって、対象を燃やし尽くしていく。火柱が消えるまでに進撃を続けるBETAが居るため、それなりの数が処理できている。まさにMAPW(Mass Amplitude Preemptive-strike Weapon)、大量広域先制攻撃兵器の面目躍如だ。

 

「くっ、きりが無いわね!」

 

手に持つ三叉の槍から超高圧の聖水を発射して敵を粉砕するハイドロプレッシャーで敵を蹴散らすガッデスの中で操者であるテュッティ・ノールバックは、BETAの数に辟易する。

 

「おいおい、これでもまだマシな部類だぜ?俺が地上で衛士をやっていた時なんて、もっと大量のBETAを豆鉄砲で相手してたんだからよ」

 

ザムジードの両肩に備え付けられている小型のリニアレールガンを撃ちながら、現状がまだマシなモノだとリカルド・シルベイラは告げる。

そもそも防衛線でBETAに押される一方だった地上に比べて、戦線をわずかにでも押し上げられているラングラン軍は地上よりはるかに恵まれているだろう。

 

「だな。地上で俺が戦ったときに比べりゃ戦力の質もだいぶマシだからな」

 

地上でBETA戦に参加していたマサキは、周りの様子を伺いながら述べる。主力であるガディフォールは、その高機動性能と戦術機をはるかに上回る火力を持ち、機動性では、ガディフォールに劣るものの火力では若干高いブローウェル。地上の第三世代に比べれば鈍重なブローウェルでさえ第二世代戦術機に匹敵するだろう。

ラ・ギアスと地上の技術格差それが如実に目の前の結果を表していた。

 

「まさか、マサキがそのような含蓄を含んだ言葉を述べるとは、な」

「おい!どういう意味だ、ヤンロン」

「それはさておき、こうも進撃が続くと持たないわよ」

 

ヤンロンの溢した言葉に食って掛かるマサキを尻目にテュッティは戦況を分析する。

 

「ああ。魔装機は永久機関を搭載していても最低限のプラーナは必要だからな。いくら性能が高くても衛士の持久力や航続距離という点だけは戦術機に劣るからな」

 

実弾兵器などの魔力やプラーナの消費が少ない兵器を多用しているリカルドはそう述べる。魔装機は、戦術機のように支援砲撃のための時間稼ぎを主目的とはしていないからだ。あくまで想定される敵は、同じ魔装機かヴォルクルス教団の妖装機などである。

 

「ふむ、敵の策源地をどうにかできれば良いのだが・・・」

「策源地って言ってもよ。ラ・ギアスには、まだハイヴは無いんだぜ?というかどこから現れたのやら」

 

敵の増援を防ぐために本拠地を落す、そのヤンロンの言葉にマサキは、ふとBETAがどこから現れたか気になりだす。

 

「BETAが現れたのはトロイア州からよ。あそこは古い遺跡が多い地域だったわ」

「というと何らかの遺跡が地上とのゲートを開き、そこをBETAどもが通って来たつー訳か」

「ったく、めんどーな・・・」

 

テュッティやリカルドが仕入れた情報による推測、それは地上に大量にいるBETAが地上に流れ込んでくる、そういう推論に至った。それを聞いたマサキはゲンナリする。

 

「だが、何故いきなり地上と繋がったのだ?」

「そうね。考えられるとしたらヴォルクルス教団だけど・・・ん、通信だわ」

 

BETAを掃討している彼らに通信が入ってくる。その通信を確認したテュッティは仲間に告げる。

 

「みんな、いったん後退して」

「後退だって!?この局面でか!」

 

マサキは、声を荒げる。まだ、自分はやれると、仲間を置いては下がれないと。

 

「無茶を言うな、マサキ。我々も消耗しているんだぞ」

「ええ。後は、マドックさんとレベッカが支援砲撃をしてくれるわ。その隙に私たちは本陣へ後退するわよ」

 

だが、魔装機神たちの消耗も馬鹿にならなかった。それには、マサキも閉口するしかない。

 

「・・・」

 

マサキの脳裏に京都防衛線の時の事が思い出される。助けた少女たちの涙、地上ではムカつかなかったがラ・ギアスに来てからムカつくようになった胡散臭いインケンヤロー、そして消耗して戦場を離れる自分と違い離れることのできなかった戦友たち。様々な思いがマサキの中でぶつかっていた。

 

「おい、マサキ」

「ちっ、分かったぜ」

 

リカルドに急かされて、マサキは撤退に賛成する。

 

 

 

***

 

 

前線は文字通り激戦だったが、後方の司令部もまさに戦場と称するほどの修羅場だった。

 

「そうだ、ラングラン東部の全てのゾディウム級移動要塞をカラタミーフィ州に集結させるんだ!」

 

怒鳴るように通信機に命令を伝える端麗な相貌を持つ、緑の長髪の青年が居た。彼こそがフェイルロード・グラン・ビルセニア、このBETA奇襲事件の対処を仕切っているのだ。

 

「殿下、魔装機神隊が来ました」

「ん?ああ、良く来てくれたね」

 

幕僚参謀のラシル・ザン・ノボスは、上司であるフェイルロードに来客を伝える。それを聞いたフェイルロードは、マサキたちに微笑みかける。その笑みは彼の人柄の良さを伝えるが同時に彼の疲労も教えることになった。

 

「殿下、俺たちの次の出撃は何時なんだ!」

「こら!いきなり食って掛からないの!」

「落ち着いてくれ、マサキ。その為に君らを呼んだのだからね」

 

戦場に意識が完全に向いているマサキはフェイルロードに問い詰めようとする。それを止めるのはテュッティだ。もろ保護者である。

 

「ふむ、どういうことですか?」

「それは私から説明させていただこう」

 

ヤンロンがフェイルロードの言葉の意味を問いただしたら、横合いから声がかけられた。いかにも武人とした老人だ。ケビン・ザン・オールト少将、防衛戦の名手で魔装機の設計にも詳しい人物だ。(ただしブローウェルに限る)

 

「オールト将軍?」

「リカルド殿、君の地上での事を・・・いや、地上のBETA大戦について知る限りのことを話して欲しい」

「なるほど、確かに地上から来た魔装機操者の中で目立った軍歴があるのは、俺ですからね」

 

リカルド・シルベイラ、彼は、ブラジル人の元国連軍戦術機衛士だった。そして、地上でBETA戦を経験しており、マサキと違い対BETA戦における軍事ドクトリンを知っているということだ。

 

「うむ、地上軍に属するものは他にいても前線に出ていたのは貴公だけだからな」

「そんじゃまあ、代表して俺が説明させていただきますか」

「リカルド・・・良いの?」

 

リカルドがオールト将軍の要請を快諾するとテュッティは心配そうに問いかける。

 

 

「テュッティ、だからこそだ。あんなことがこのラ・ギアスでも起きない為にな」

(確か、リカルドは・・・仲間に命を・・・)

 

リカルドがテュッティへの返事をする。その内容を聞いてマサキは思い出す。リカルドと共にデモンゴーレム掃討戦を行っていたときザムジードが移動不能になったとき、自分を見捨てろと言ったのを思い出す。

BETA戦で仲間が言った『だいじょうぶだ』という言葉を信じて、救援を呼びに行った。そして、彼は仲間を犠牲にして生き延びてしまったのだ。そして、リカルドは自分を助けてくれた奴の命を背負うのに疲れたと言っていた。その後、マサキの叱責で立ち直ってはいるが、それでもリカルドの心の傷である事には変わりがない。

 

「そんじゃまあ、説明するとしますか」

 

リカルドは、BETA大戦の概要を話し始める。火星で初めての異種起源生物との遭遇、月基地へのBETA襲撃、そして地球落着。

チベットに落着したハイヴの技術を独占するために中国は他国の干渉を跳ね除ける。これが地球を覆う悲劇の始まりだった。

 

「欲の皮が突っ張った連中のおかげでBETAは地上の橋頭保を確保しちまったのさ」

 

その後も東西冷戦を引きずりつつの大戦突入、足並みの揃わない各国。

 

「国土の大半を失いながらも、内輪もめばかり、その行き着く果てはユーラシア大陸のほとんどが失陥しちまった」

 

ある程度、連携が取れ始めた時には崖っぷちに追いやられていた。

 

「俺は国連軍の衛士として参加していた。酷いものだった。魔装機と違い戦術機はBETAを倒すためのモノじゃない。後方の火力で殲滅するために敵を引き付ける囮みたいなものだった」

 

そして、戦術機の運用法など、BETAの軍勢の構成などをオールト将軍を初めとするラングランの仲間に伝えた。ちなみに旅団規模、すなわち3000~5000体の場合の構成は要塞級が1%、重光線級1%、光線級1%、突撃級7%、要撃級15%、戦車級45%、闘士級15%、兵士級15%である

 

「まあ、こんなところだな、少しは参考になりましたかね?」

「ああ、十分だ。君の情報を元に防衛線を練り直そう」

 

深い息を吐きながらリカルドは説明を終える。

 

「ああ、それと君たちは、奪還部隊について欲しい」

「奪還?」

 

オールトの言葉に続くようにフェイルロードが魔装機神操者たちに要請する。

 

「ああ、神官や錬金術師たちの話によるとトロイア州にあるかなり昔に破棄されたゲートが何らかの原因で誤作動を起こしたらしい。君たちには、そのゲートの存在する古代遺跡を抑えてほしい」

「古代遺跡、やっぱり・・・!」

 

フェイルロードの告げた内容は、マサキたちの推測した内容の肯定だった。

 

「あいにく、まだ戦時体制に移行できていないので通常戦力で戦線を押し上げるのは困難だ。だからこそ特化戦力である君たちに頼みたい。無論、魔装機神の操者には拒否権があるが・・・」

「受けるぜ。第一、殿下はこう言ったはずだぜ。魔装機神操者に唯一課せられた義務、それは世界存続の危機に際しては、すべてを捨てて立ち向かう事。なあ、そうだろ、皆!」

 

マサキの言葉にヤンロンは、テュッティはそしてリカルドは力強く頷く。今、此処に反撃の狼煙が上がったのだ。




一方、地上では反撃の狼煙どころか火種が確保できない模様。むしろ、確保したのは有害ガスを発生させる物質だった始末である。

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