第二十六話
ラ・ギアスでもっとも大きな国、神聖ラングラン王国の首都ラングランの郊外に品の良い屋敷がある。だからこそ、誰もが想像もしないだろう。まさか、先日、ラングランにテロ行為を仕掛けた王族がこんなところに潜伏しているなどと・・・。
「おつかれさまです、シュウさま。地上は如何でした?」
屋敷の地下に密かに作られた格納庫にグランゾンから降り立ったシュウに話しかけてくる人物がいた。ラングラン政府の文官服をキッチリと着こなした男と扇情的とも呼べるほど改造が施された軍服を着る赤い髪の女だ。
「ああ。サフィーネにクレインですか」
それはラングランにおけるシュウ=シラカワの協力者たちだった。前世と違って背教者では無く、王族として活動しているシュウにはある程度のシンパが今世では存在していたのだ。その一人がサフィーネ・グレイスの隣にいるクレイン・ゾラン・ミスティルという男だ。
「地上の方は問題ありませんよ。後は、時を待つだけで彼らは死に物狂いで藁を掴むでしょう」
「クリストフ殿下が差し出した藁を、ですか?」
シュウの言葉に真面目な印象を一変させニヤリと笑うクレイン。シュウに従うだけあって一癖も二癖もありそうだ。
「ふっ・・・。それで私が留守にした間の様子はどうでしたか?」
クレインの答えにあえて答えず、自分が地上に行っていた間にラ・ギアスで起きた出来事を聞く。
「はっ。ラングラン政府はクリストフ殿下の王位継承権の凍結を決定しました」
「凍結、ですか。剥奪とまで、いかなかったのですか。それについて何らかの行動は?」
シュウは意外そうな声を出す。王都に正体不明の機動兵器で乱入し、サイバスターや剣聖ゼオルートを下したのだ。これだけも立派(?)なテロリストだが、マサキ経由で地上の情勢に介入するというラ・ギアスの国是に反する行動を取っている事が知られて居る筈なのだ。これで指名手配されない方がおかしい。まあもっとも、前世の方がもっとトンデモナイ事をしでかしているのだが・・・。
「私どもの派閥は、静観しておりましたがフェイルロード殿下の方で剥奪に待ったを掛けたようです」
「フェイルが、ですか。他には?」
「そうですね。やはり、殿下の予想通り、シュテドニアスの対ラングラン感情は悪化の一途を辿っております」
魔装機神による軍事力増大、来るべき魔神に備えるべくして建造されたそれらは、他国にとって魔装機神こそが災いを齎す魔神にしか見えなかった。それゆえにシュテドニアス連合国だけでなくバゴニアも魔装機開発を促進、ラ・ギアスの情勢は不安定なものとなっていた。
「ふむ、小競り合いはどのように?」
「・・・最近、数は減少しております。ですが、シュテドニアスの軍事関係の動きやロビー活動などから判断して、嵐の前の静けさかと・・・」
少し前まで活発に起きていた小競り合いレベルの小さな紛争や破壊活動、それが減少した。その代わりにシュテドニアス連合国の軍需企業複合体トリニティは、魔装機の更なる増産を、
シュテドニアス大統領であるグレイヴ・ゾラウシャルドや特殊工作隊デオシュバイルのラセツ・ノバステらは議会に対し精力的に働きかけを行っていた。
「やはり、事は起きますか。ヴォルクルス教団は?」
超魔装機開発計画のシュテドニアス連合国との合同化などの手で対ラングラン感情を緩和しようと画策したこともあるが、やはりもともと仲の悪い国同士だから焼け石に水だろう。もっとも本来の開戦時期よりも時間が稼げているだけマシなのだろう。
「奴らは、デモンゴーレムによる散発的なテロを行うだけですが・・・」
「なるほど、わかりました。貴方は、軍の関係者に首都の防衛ラインの見直しをするよう手回ししてください。私が白昼堂々と侵入した事からある程度は強化されているようですが、事が起きた場合、それでは足りませんからね」
「はっ、了解しました」
「次にサフィーネ。貴方の報告をお願いできますか?」
矢継ぎ早に部下のクレインに指示を出し、仲間のサフィーネが集めた情報を聞く。
「わかりましたわ、シュウ様」
サフィーネは、魔装機神操者たちの情報を収集していた。前の世界の知識から、いろいろな騒動は主人公と呼べる彼らの周辺で起きる可能性が高い故に彼らの動きに着目するのは、ある種の必然だった。
「なるほど、マサキは本格的にゼオルート大佐に師事した、と」
「ええ。シュウ様に手も足も出なかったのが、よほど堪えたのかと」
シュウはサフィーネの報告について考え込む、今まではヴォルクルスに操られたままラングランに反旗を翻し、更にはゼオルートの命を奪っていた。今世では、その流れと異なる行動をしたからか、マサキもまた以前とは違う行動をしていた。
「ありがとうございます、サフィーネ。貴女やクレインには負担を掛けますね」
マサキやシュテドニアスへの干渉がどのような結果を起こすか気になる所ではあるが、とりあえず部下や仲間たちにねぎらいの言葉をシュウはかけた。
「いえ!シュウ様の為なら火の中、水の中!そして、最後はベッドの中に・・・」
シュウの言葉に体を捩りながら、トリップしつつあるサフィーネを隣にいるクレインとシュウの肩にとまっているチカは冷たい眼差しで見つめる。
(ま~た、始まったよ。サフィーネ様のいつものアレが。まあ、この世界のサフィーネ様は、比較的おとなしいようですけど)
そうしてサフィーネがトリップしていると、何かを思い出したのかハッとした顔になる。
「あっ!?忘れるところでしたわ」
「どうしましたか、サフィーネ?」
「シュウ様が保護されているあの二人が突発性の頭痛で倒れました」
「ほう・・・」
シュウが保護した二人、それは地上から連れてきた子供達。すなわち白銀武と鑑純夏の二名だ。その二人が倒れたのだとサフィーネは言う。
「医師に診せたところ、特に異常は見られないとの事でしたが、念のため上の屋敷の方で安静にさせておりますが・・・」
「いえ、おそらく彼らの肉体は健康そのものですよ」
サフィーネの報告を途中で遮る。その顔は御世辞にも倒れた二人を心配しているようには見えなかった。
「どういうことですか、殿下?使用人によると突然叫びを上げたりしたそうですが・・・」
クレインは、シュウの態度に疑問を持ち、問う。自分の奉じる主人が他人の気分を害するような発言をしつつも、その本性は思いやりのある青年である事は知っているからだ。もっとも、それに気付くのにだいぶ掛かったが・・・。
「それは、おそらく精神性のモノですよ。虚憶によるね」
さらっと原因を述べる。彼ら二人の症状、そして地上で観測できた事例、何よりも自分自身に起きた事からその原因を殆ど把握していたのだ。
「は?キオクですか?」
もっともそんな事を知らないクレインに取っては、誤魔化されたようにしか感じなかったが、シュウがこういう時はたいてい何らかの考えがある時なので詳細を聞くのは控えた。それが部下としての彼の立ち位置だからだ。
「ふっ・・・。さて、会いに行くとしますか。魔女によって生み出されたメシア達にね」
そういうとシュウは格納庫にあるエレベーターに乗り込む、向かう先は地上の屋敷、二人が居る場所だ。
***
シュウは自分が用意した屋敷の廊下を歩く。この屋敷は、複数ある隠れ家の一つで特徴としては複数の魔装機を格納することが出来る格納庫を地下に持つのが特徴だ。以前、武に約束していた品を準備するために、ここに住居を彼らは移していたのだ。
静かな廊下にシュウの足音のみが響く。この屋敷にはシュウだけでなく武に純夏の他にも使用人が数人いるがそれでも屋敷の大きさに比べれば人は少ない
「ご主人様・・・いい加減教えてくれても良いんじゃないですか?」
「何についてですか?」
静寂に我慢が出来なくなったのか、チカが口を開く。
「いや、ご主人様の推測とかG弾とか頭痛とか正直何が何だかさっぱりなんですが」
「それなら彼らに会った時に説明しますよ」
そうこうしている内に目的の部屋の前につく。入室しようとドアをノックすると音が鳴り響いた。
ドスン、と。
『武ちゃん、早く早く!!』
『ちょっと待て!そんなせかすと・・・うヴぉあー!?』
部屋の中からドタバタと音が鳴り響く。例えるならば親に見られちゃ拙いモノを急いで隠す学生の部屋の音、そしてそれが男女一組なら言わずもがなである。
「・・・どうやらお楽しみはこれからだ、という所みたいでしたね」
「タイミングが悪かったようですね」
「まあ、若い二人が家の中で二人っきりならこんなこともありますよ!丁度思春期でしょうし」
「・・・他にも要因はあるとおもいますがね」
「・・・?」
そして、シュウとチカは部屋が落ち着く20分後までドアの前で待ちぼうけを食らったのであった。
書きたいモノ作りたいモノはたくさんあれど筆が進まない、動画作成も進まず・・・。
今回は早くできたが、このスピードが続くかは不明。