武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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だれかやすみくれ。


第二十四話

白人の男達、そして少数の有色人種で構成された集団は薄暗い部屋で闇色に輝くモニターの光点を見ていた。その画面には画面の大半を占める赤い点が消しゴムをかける様に消えていくのが映った。

 

「ポイントB21のBETA群処理率60%を超えます」

 

薄暗い部屋――CICに配属されているオペレーターが上官に戦況を伝える。その内容は、彼ら米軍にとって最も興味がある地点・・・帝国軍による電磁投射砲試験部隊の担当区域だ。

 

「レールガン・・・まさか、我が合衆国では無く日本が先に実用化するとはな・・・」

 

米軍太平洋艦隊第七艦隊の長は旗艦のCICにて肺から息を吐き出す。米国も電磁投射砲すなわちレールガンの開発を行っていた。だが、それよりも早く帝国は実戦試験を行えるようなモノを今回の戦場に出してきたのだ。実際は、不具合も多く、本来なら戦場に出せる様な代物ではないのだが・・・。

 

「本国は例の新兵器のご執心のようですからな。その差でしょう。それに全てが日本の技術と言うわけでもないようですからな」

「噂のメタ・ネクシャリストか・・・。確か、日系らしいが?」

 

参謀がそう零す。今回、艦隊に搭載された新兵器の開発、それこそが現時点で米軍がもっとも注力している兵器開発だ。兵器は開発するのも生産するのも兎に角お金がかかる。しかし、そんなお金がかかる兵器開発がある男の存在ひとつでだいぶ節約及び短縮されたのだ。当初は新鋭の科学者として界隈を賑わせ、今では神出鬼没、敵対する者には破滅を齎す怪人、いや魔人として、その男は恐れられていた。そう、シュウ=シラカワだ。

シュウが世の中に出した技術は当然のことながら地上では画期的なものばかりだ。故に虫が砂糖水や火に誘われるがごとく様々な人々が群がってきた。中には金の卵を産む鶏を殺してでも手に入れたいと思う人間も少なからず居た。もっとも、そういう人間に限って、突然の不幸や不祥事に見舞われていたが・・・。

 

「ですが、日本との関係は見つけられないと聞きますが」

「ソレを言うなら、何処の国とのつながりどころか、痕跡すら一切見つけられないと言うべきだろう」

 

シュウ=シラカワ。彼の見た目は白人、そしてその名前から日系人と思われたが、彼の痕跡を見つけることは出来なかった。

それも当然だろう、彼の痕跡が地球にあるはずがないのだから。しかし、世間一般の認識ではBETA大戦のごたごたで避難してきた日系欧州人と思われている。というか、誰が想像できるだろうか、異世界、それも地下世界からやってきたなどと。

 

「提督、本国からの電文です」

 

兵士が話しかけてくる。参謀と話し込んでいる内に時間が経っていたようだ。

 

「見せろ」

「こちらです」

 

兵士から受け取った電文に目を落とす。

 

「・・・なるほどな」

 

紙から顔を上げた提督の顔は、何とも言えないような微妙な顔をしていた。

 

「部隊を引き上げさせろ。それと他の連中にも教えてやれ。・・・命令通りの時間にな」

「了解しました、提督」

 

軍人はどんなに理不尽な命令でも非人道的な行いでも、それが上層部からの命令ならば従わなければならないのだ。

 

そして、彼の命令でこの戦場で多くの命が失われることが決定してしまったのだ。

 

 

***

 

 

まだ辛うじて町並みが残る横浜の地を青い影が飛翔する。戦術機だ。その青く染められた塗装は、その機体の所属が国連軍に属していることを示している。

数は二、機種は驚くことに不知火だった。まだ、日本帝国で正式配備が始まったばかりの機体であるにも拘らず、その不知火は国連カラーに染まっていたのだ。

しかし、その最新鋭機も戦場の理から逃げることは出来なかった。

 

「孝之!大丈夫か!?」

 

二機の不知火は、この激戦で損耗していた。その内の一機は、片腕しかなかった。BETAに肉薄され、左腕を持って逝かれたのだ。だが、それは搭乗者の未熟を示す訳ではない。むしろ、そこまで接近されながらも戦闘能力を保持したまま生き残れるのは、衛士の技量と運の良さを示していると言えるだろう。

 

「ああ・・・なんとか・・・」

 

鳴海 孝之、平 慎二。香月夕呼直属A01デリング中隊に所属する衛士だ。彼らも明星作戦に参加していた。もっとも香月夕呼が主導した作戦だから彼らがいるのは必然だった。だが、ここに偶然が起こった。いや、鳴海 孝之により偶然という事象が引き寄せられたのだ。

 

「お、おい!?あれを見ろ!!」

 

戦況を確認しようとメインカメラを持ち上げさせると自身の網膜に映った映像に孝之は驚愕する。

彼らが視線を向けた先には、国連軍のUNブルーよりも深い、蒼い色の人型兵器が存在した。この地上で蒼い色の戦術機の枠に当て嵌まらない機体など一つしか存在していない。そう、アーマードモジュール、グランゾンだ。

 

「あ、あの機体は・・・!?」

 

彼らがグランゾンに気を逸らした瞬間、周りのBETAが殺到する―――グランゾンに。

だが、瞬く間にBETAの姿は消えた。正確には、グランゾンの周囲の地面ごと、沈んだのだ。グラビトロンカノン、グランゾンに搭載されているMAPWで周囲に高重力を発生させるか、もしくは重力球により複数の敵を圧潰する兵器だ。今回は、前者の方でBETAの分子間力ですら耐えきれない重力で細切れにしているのだ。

 

「ご主人様、戦術機ですよ!」

 

一瞬で周囲をBETAの血で染めたグランゾンの中にうっとおしい甲高い声が響く。シュウのファミリアのチカだ。

 

「おや、このポイントに来るとは・・・。ほう、これは、なるほど」

 

グランゾンのパイロット、シュウはチカの報告により、目を移す。シュウが選んだ、このポイントは彼の予測では現地の軍が進軍出来ないであろうエリアであり、なおかつハイヴからもある程度離れた場所だったからだ。しかし、その戦術機の所属を確認した事により、その疑問は氷解した。

 

「どうしたんですか?」

「いえ、確かに悪運が強い、と思っただけですよ」

 

チカの疑問にシュウははぐらかしながら答える。

 

「はあ・・・?ところで向こうから通信がきてますけど、どうします?」

「・・・いえ、ここで彼らに構う暇はありません。それに、まだ彼女とは接触するつもりがありませんからね」

 

そして、グランゾンの向きをハイヴに向けさせる。彼は、戦闘に参加するつもりではなく、研究の為に来たのだ。これから起きるある現象の検証を行うために・・・。

 

グランゾンの周囲に群がっていたBETAの無残な残骸、いや、分子間力の限界を超えた力で引きちぎられ、残骸すらも判別できないその有様に孝之と慎二は絶句していた。

 

「い、今のは、一体・・・?」

「あ、ありのままに今起きたことを言うぜ。京都の魔神にBETAが群がったと思ったら、グッと握り拳を作ったら潰れていた。お、俺には何が起きたか、さっぱりわからねえ・・・。孝之、お前はわかるか?」

 

自分の常識からあまりにもずれたその光景に慎二は何やら妙な電波を受信したような言葉を溢すほど困惑していた。

 

「無茶言うなよ・・・博士のような天才と違って凡才の俺に、あんな非常識な事がわかるわけがないだろう。それより、どうする?」

「博士からは接触した場合、情報を収集するように命じられていたが・・・」

 

グランゾンに視線を移す。そこには群青の魔神が静かに佇んでいた。まるで自分らなど路傍の石にしか感じていないかのように。

 

「あれとか・・・。一応、通信でも送ってみるか」

「まあ、どうやら見られたから殺す、と言うような人物では無いみたいだしな」

「だな・・・・・・・駄目だな。こちらの呼びかけを無視している。回線がつながらない」

 

しかし、グランゾンはそれに答えようとはしなかった。時折、接近するBETAを額から放つグランビームで数を減らし、接近したものは圧殺する、それ以外の行動を取ろうとはしていなかった。

 

「どうする?」

「どうするって言っても」

 

戦場に突如として現れ、自らの正体を明かさない不審な存在。普通だったら捕縛もしくは排除するべき対象だ。だが、二人の頭に浮かぶ光景は逆に自分たちが排除される風景だけだった。

しかも、現在は日本帝国の興亡を賭けた一大作戦の真っ最中、ここで何もせずに、ぼさっとしている訳にはいかなかった。そんな時だ。天からソレが落ちてきたのは。

 

「な、何だ、あれは?」

 

相棒の狼狽した声に孝之は空を見る。そして、今日二度目の絶句するほどの衝撃を受けた。天から黒い膜のような物を纏った物体がハイヴ目掛けて落ちていた。しかも、肉眼ですら確認できる強力なBETAのレーザーを弾いていたのだ。

 

「あれは、貴方方の競合相手である第五計画の新兵器ですよ。」

「ッ!?」

 

そして、ダメ押しとして今まで沈黙を守っていた未確認機が回線を繋げてきた。この立て続けに起きた事柄に混乱している彼らの状態を省みることなく、シュウは言いたい事を言った。

 

「ここは、アレの効果範囲です。死にたくなければ、グランゾンの傍によりなさい」

 

いきなりの一方的な申し出に二人は困惑する。

 

「・・・どうする?」

「どうするもなにも時間は無さそうだぞ」

 

孝之は慎二にシュウの言葉に従うべきだと言う。自分でも何故こうも即断したか、わからない。だが、本能が悟ったのだろう。このままだと死ぬ、と。

グランゾンの傍に寄る不知火らを横目に見ながら青いファミリアは主人に問う。

 

「・・・良いんですか、ご主人様?」

「彼女と繋がりを得る、切欠にはなりますよ。それに彼もまた、極めて近く、限りなく遠い世界にて、選ばれた役者ですからね」

「ま~た、ご主人様の思わせぶりなセリフが出ましたよ。・・・本当は適当に言ってるだけじゃないんですか?」

「失礼な。確かな根拠はありますよ。・・・まあ、このG弾が起こす現象にもよりますがね」

 

そして、G弾は臨界点を超えて、世界は破砕される。


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