後、グランゾン無双を期待されてた方には悪いですが、まだ先なんですよ。
・・・アームロックはしないでくださいね?
地球1999年
ラ・ギアスで魔装機神操者達との顔見せを済ませたシュウ・シラカワは、地上に出ていた。
「見事な物ですね。ここまで再現できるとは・・・」
シュウはエリック・ワンの研究所のガレージに鎮座しているソレを見上げた。その言葉には純粋な賞賛が込められていた。
「とは言っても重要なパーツはシーちゃんが持ってきた資材で作った物だからの。現状の基礎技術のみではとてもじゃないが、完成は無理だったの」
ソレを見上げるシュウにエリック・ワンが話しかける。エリック・ワンによって作られてソレはシュウ・シラカワから渡された設計図から作られた。だが、シュウの要求する技術水準は、現在の地上の科学力では満たすことが出来ず、一部の構造材をラ・ギアスから搬入してあるのだ。
「さて、ワン博士。これが例のブラックボックスです」
シュウはエリック・ワンの言葉に苦笑を浮かべると、グランゾンの傍に置いてあるコンテナを指し示して言った。このコンテナの中身こそ現時点でシュウしか作れない超技術の塊なのだ。
「ほう・・・こいつがの・・・。よし、早速こいつを機体に取り付けるとするかの」
「では、兵装の方への組み込みは私が担当しますね」
「うむ、キャノンの方ならあっちでの。・・・ところでシーちゃんや」
「なんでしょうか?」
コンテナの中身をソレに取り付ける作業に取り掛かろうとした時、エリック・ワンはここ最近の事をシュウに説明した。エリック・ワンは、その顔を硬くしながら語る。
「最近シーちゃんの身の回りが騒がしくなっとるのでの。この前なんてワシの元にまでシーちゃんの事を聞きに来た人物がおったでの」
「ほう、貴方に辿り着くとは、どのルートか分かりますか?」
エリック・ワンの言葉を聞いたシュウは感嘆するように呟く。しかし、シュウの眼差しには賞賛の色は見えず、ただ冷たい視線が存在するのみだ。
「それがの、どうやら最初に出会った頃の話を聞かれたからの。どうやら知り合いを虱潰しにしとるようだからの、シーちゃんの危惧するような事にはなってないでの」
もっともシュウが危惧する状況にはなっていなかった。神出鬼没なシュウを様々な諜報機関が追っている。だが地上とは異なる理を持つシュウの足取りを掴むのは困難だったのだ。
「なるほど・・・。まあ、地上では起爆装置が点火するまで活動する気はありませんけどね」
「起爆装置のう・・・。そういえばもうすぐだったの」
「ええ、まもなく起爆装置は作動しますよ。その時が楽しみですね、くくく・・・」
シュウの妖しげな嗤いがガレージの中に響く。彼の巡らした策謀、その起爆装置、それは一体何なのか? 少なくとも被害者たちにとっては碌でも無い事だろう。
「・・・しかし、良いのかの?そうなるとシーちゃんに恨みを持つ者が出てくるでの?」
「その程度、大した問題ではありません」
シュウのその様子を見て、エリック・ワンはシュウに待ち受ける困難を心配する。だが、シュウはそのような事を問題視していなかった。己の巡らした策謀のツケは自らが背負う物、そう認識しているからだ。
「やれやれ・・・。ワシはシーちゃんの企みに乗った身、最後まで付き合うでの」
「ふっ・・・ありがとうございます」
そういうと二人は準備に取り掛かった。その水色の機体に火を・・・否、闇を灯すために・・・。
***
8月5日日本帝国領神奈川県横浜
この作戦の目的は新帝都東京へのBETA侵攻を阻止するために横浜ハイヴ制圧及び本州奪還を行うことだ。この作戦に参加しているのは国連軍・日本帝国軍・日本帝国斯衛軍・米国軍・大東亜連合軍で、立案はオルタネイティヴ第四計画司令部で行われた。
太平洋側と日本海側からの艦砲交差射撃による後続の寸断が始まった。
「さて、始まりましたか」
「いやあ、凄い規模ですねえ」
戦場に本来存在しない異物が佇んでいた。重力の魔神グランゾンだ。
「規模ではパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦ですからね。さて、重力の井戸の底で観察させて貰うといたしましょうか」
「あれ?チートなグランゾンであの気持ち悪い蟲共を一網打尽にするんじゃないんですか?」
使い魔のチカは自らの主人の言葉に首を傾げる。傍から見ると青い鳥が首を傾げる様は大層可愛らしい。もっとも、チカの性格を知る人にとっては素直に見れないだろうが・・・。
「いいえ。今回はあまり目立ちたくはありませんのでね」
「あらら・・・。どうしてですか、ご主人様?京都ではあんなにヒャッハーしていたのに」
「・・・本当に何処から、そのような言葉を覚えてくるのですか? 今回、使われる予定の兵器が齎す結果、それこそが私の疑問を解決するやも知れないのですよ」
シュウはチカの語彙に呆れつつも返答する。
「疑問、ですか? まーた、思わせぶりな伏線を・・・。でも、良いんですか?」
「何がですか、チカ?」
チカはシュウの思わせぶりな言い草に呆れつつも、ふと雰囲気を真剣な物にすると言った。
「たくさん
「戦争ですから人が死ぬのは必然ですね」
「いや、良いんですか?」
これほど大規模な作戦なのだ。戦死者の数もかなり多くなるだろう。そして、もっとも血を流すのは日本人、シュウの母の故郷なのは明らかだ。
「今ここで過剰に介入するメリットは余りありません。それに本番を間近に控えたこの時期で、無理は避けたいのでね」
「まあ、ご主人様がそう言うならアタシは構いませんけどね・・・」
だが、シュウは効率を優先する。大局の為には、情よりも理を優先する。その例外は、己の身内と自身の自由という少ないモノ、それがシュウ・シラカワだ。シュウは、砲弾を撃ち込む人類軍、それを迎撃するBETA達を横目で見ながらグランゾンをワームホールの中に潜らせるのみだった・・・。
***
かつて、海外への窓口の一つとして栄えた横浜は今や荒野となっていた。BETAはハイヴを建設すると周囲の土地を地ならし、更地にしてしまう。そして、新たにハイヴが建設された横浜は、かろうじて廃屋などが存在しているが人が住めるような環境では無くなっていた。
今、その横浜の地に鉄と血と砲火が飛び交っている。ハイヴを攻略する為に横浜の地に布陣している帝国軍にBETA群が接近する。
「中佐!BETA群、連隊規模で接近!」
帝国の戦術機部隊、それはあるモノを護衛していた。それは、傍から見ると自走砲のようにも見える。だが、その砲身と、それを支える車体が普通の自走砲とは違う。一回りも大きい大きさ、コードや基板らしきものが露出する外装、それはお世辞にも兵器とも呼べず、未完成品としか形容しようがなかった。
「よおし、戦術機は玩具のお守りだ。悪餓鬼共に横取りされるなよ」
巌谷榮二は部下にBETAの足止めを命じる。その自走砲らしきものも所詮は車両なのでBETA相手にはすこぶる相性が悪いのだ。
「了解!」
巌谷の命令により陽炎を始めとした戦術機たちはBETAに向かって攻撃する。BETAは高性能なCPUを持つ機体を優先する習性を持つ。それを利用し、BETAの進軍速度を軽減しようというのだ。
「発射シークエンス開始・・・4、3,2・・・行けます!」
「撃ェ!!」
瞬間、光が走った。マズルフラッシュでは無い。砲弾が光速で発射されたため、大気との摩擦で輝いて見えるのだ。砲弾は突撃級の甲殻を容易く貫き、BETAを駆逐していく。更に砲弾は断続的に放たれ、BETAはその数を減らしていく。
「BETA群、第一波撃破!」
「こいつは・・・凄いな」
「強制冷却及び充電モードに移行。次弾発射まで9分!」
「そうか。・・・今の我々の技術力では、これが限界か。もっとも技術の発祥元が協力してくれれば・・・」
そう言って、巌谷中佐が脳裏に思い浮かべる男。その人物は何を隠そうシュウ・シラカワだった。シュウが発表した論文は、さまざまな技術的ブレイクスルーを起こしている。MSやPTに採用されるチタニウム合金、それよりも一段も二段も下の物でもこの世界では画期的な発明だ。これにより戦術機の製造コストの削減どころか今回のような新兵器を純地球製の技術で作り出せるようになりつつあるのだ。
(風の噂で五摂家がシラカワ博士とコンタクトを取ろうとしているらしいが・・・。何はともあれ今は目の前の作戦に集中しなければな。だから・・・)
「死ぬなよ、裕唯。唯依ちゃん達が悲しむからな」
巌谷榮二は同じ戦場で戦う友を思う。ただ、運命とは容易く人の生き様を変える。そして、その結果を只人である彼は知ることが出来なかった・・・。
明星作戦は次回あたりでサクッと終わらせたいと思います。