今回は原作から乖離してもライバル関係を崩したくなく、かつその状態で組める王道的な展開とは何か?という感じで書いてみました。
ラングラン新暦4957年
突如、王都ラングランを襲撃したグランゾンとシュウ・シラカワ。
彼らの目的は地上への本格介入の通達とマサキ・アンドーとの決闘だった。マサキはサイバスターを駆り、グランゾンに果敢に挑む。
だが、現在のマサキの力量ではグランゾンの歪曲フィールドを突破する事は出来なかった。結果、サイバスターの右手を切り落とされてしまう。
このまま、決着が付くかと思われたとき、剣皇ゼオルート・ザン・ゼノサキスがシュウ・シラカワの前に立ちはだかったのである。
「おやおや、ゼオルート師範、決闘に水を差すとは無粋ではありませんか?」
シュウは、マサキとの戦闘中に割り込んできたゼオルートを揶揄する。
「・・・あなたの乗っている機体、邪悪な気を感じますよ、クリストフ。何があったかはわかりませんが、野放しにはできませんね」
ゼオルートの乗るギオラストは、剣を構える。今のグランゾンからは邪の気が感じられるのだ。これは、シュウが使っているある術が原因である。
「お父さん、やめて!!」
「心配しないでいいよ、プレシア。お父さんを信じなさい」
王宮グランパレスの防衛指揮所でゼオルートの娘、プレシア・ゼノサキスは叫ぶように父を止める。先程、自分の義兄も成す術が無く、一方的にやられたのだ。だが、父の身を案じる娘に自分を信じるようにゼオルートは言う。その言葉には娘を落ち着かせようという優しさも含まれているが、他人に気付かれないぐらいの緊張も少々含まれていた。
「およしなさい、ムダな事は」
「・・・剣で分かる事もありますからね」
「・・・なるほど、良いでしょう。貴方なら相手にとって不足はありません」
シュウはゼオルートの言葉から何かを悟ったのか、グランゾンにグランワームソードを構えさせる。単純な剣技ならゼオルートの方が圧倒的だろう。だが、グランゾンの力はあまりにも隔絶していた。
「ゼオルート師範、あなたならわかるでしょうに・・・この、圧倒的な力の差が」
「確かに・・・しかし、手をこまねいているわけにもいきませんからね」
「殊勝ですねぇ・・・ククク」
ギオラストは、グランゾンに切り掛かる。その一撃は正に刹那。剣皇の名に恥じぬ一撃だった。
「む、これは・・・」
しかし、ギオラストの剣は、グランワームソードで受け止められていた。だが、そんなことよりも、今グランゾンが使った技をゼオルートは知っていた。それを邪気を発するグランゾンに乗っているシュウが繰り出した事に違和感が発生したのだ。
「その構え・・・堅忍不抜ですね、クリストフ」
「ええ。神祇無窮流の奥義です。もっとも私の技量では守勢に回った時でしか使えませんが・・・」
シュウが使ったのは、堅忍不抜と言う神祇無窮流の奥義だ。この技は敵からの攻撃を最小限に抑えるモノだ。もっともシュウの技量では防御に専念した時でしか使用できず、常時発動と言う訳にはいかない。
「さて、今度はこちらからいきます」
グランゾンはグランワームソードでギオラストへ斬りかかる。鈍重な見た目に反し、軽快に大剣を振るうも相手が剣皇と呼ばれる人物では届くはずも無く、それどころかカウンターの一撃を受けた。もっとも歪曲フィールドを突破できる訳が無かったが・・・。
「くっ・・・やはり・・・」
「そう、調整が完了したグランゾンには、いかなる攻撃も無意味です」
(なんとまあ、凄まじい物です。しかし、剣に邪なモノは感じませんね・・・)
ゼオルートは自身の予想通りの結果に臍を噛む。プラーナの低い自分では、魔装機に歪曲フィールドを突破出来るほどの力を出させる事が不可能だと、分かっていた。
それと同時に分かった事もあった。グランゾンはともかくシュウから邪悪なモノは感じないという事だ。そもそも神祇無窮流はただの剣術でなく、魔術とも密接的な関係にあり、それを極める要素の一つに精霊への信仰心があるのだ。目の前のクリストフからは、精霊への信仰心が欠如しているという訳では無いのだ。
ゼオルートは油断はしていなかった。だが、あえて言うならシュウ・シラカワを見極める為に意識を割いていた事とグランゾンの機能を知らなかった事がそれを招いたのだろう。
「何処を見ているのです」
突如、グランゾンが消えた。いや、違う。ワームホールを展開して、体を潜り込ませたのだ。
「ッ!?」
「逃がしませんよ、ゼオルート師範」
グランゾンは背後からギオラストに襲い掛かる。ゼオルートは、すぐさま防御の姿勢になる。だが、一瞬とは言え隙を付かれた彼ではグランゾンの性能を止める事は出来なかった。
「す、すみません、マサキ・・・力及びませんでした・・・」
ギオラストの頭が切り落とされたのだ。グランワームソードを防ごうとした剣もプラーナ密度が薄い事もあり圧し折られてしまった。
周りは、先程よりも驚愕に包まれるだろう。風の魔装機神は疎か、ラ・ギアス最強の剣士とも呼べる男が敗れたのだ。ギオラストは、まだ一応動く。だが、頭部が破壊され、剣も折れ、更には受け止めようとしたことにより腕部の負荷も見逃せないものになっていた。
「おっさん!・・・シュウ!!てめえェ!」
グランゾンとギオラストの戦いを横で見ていたマサキは左手に持ち替えたディスカッターをシュウに向ける。
「ふ、今のあなたと勝負したところで、結果は目に見えていますよ」
グランゾンはサイバスターに向き直る。側にある破壊されたギオラスト、立ち向かうは、右手を失ったサイバスター。そして、向かい討つは無傷のグランゾン。正に絶望とはこの事だろうか。フェイルロードもセニアもウェンディも目の前のことが悪夢としか思えなかった。自分の親戚もしくは知人が、このようなことを仕出かしたのだから。
「第一、今日は、ただの手合わせだけのつもりでしたからね。まあ、どうしてもと言うのでしたら・・・」
シュウは激昂するマサキに呆れつつも何処か楽しむかの様に語りかけようとした。だが、グランゾンのモニターにある事が報告され、それが表示された。
「!? こ、これは・・・」
「どうかしたんですか、ご主人様? あーっ!? また、歪曲フィールドが!?」
チカはモニターに表示されていた結果に驚く。あの時とは違い自分の主人も成長していたはずなのに、かつてと同じ轍を踏んだのだ。
「・・・神祇無窮流、真・虚空斬・・・」
息を切らしながらゼオルートはコクピットの中で呟く。
「さすがはゼオルートですね・・・虚の空間を剣に纏う事で歪曲フィールドを突破しましたか」
グランゾンの左腕の宝玉に剣撃の痕が見られた。ゼオルートは己の少ないプラーナの全てを一撃にかけ、その剣技により歪曲フィールドを突破したのだ。
(一度までならず二度までも・・・。やはり、私では貴方に遠く及ばないようですね)
シュウは心の中でゼオルートを賞賛する。彼の在り方、彼の技量、どれもが尊敬に値し、いずれ自分もその領域に届きたいとシュウは、改めて心に刻み込んだ。
「シュウっ!行くぜっっっっ!!」
サイバスターが切り掛かってくる。先程とは異なり、堅忍不抜を使いサイバスターの攻撃を防ぐ。
「・・・ここは、いったん下がりましょう。今の状態では多少不利になってしまいますからね・・・」
サイバスターのディスカッターを跳ね除けると、その勢いでサイバスターは後退した。グランゾンも慣性を制御し後ろに下がっていた。
「グランゾンは完成したばかりです。ここで無理をする必要はありません」
(それに目的は達しましたからね・・・)
シュウは、この演劇の終わりを告げる。全てはシュウにとっては劇でしなかった。
そもそも、このグランゾンはかつての時と同じく実体では無い。かつて別の世界で起きた火星での決戦、そこで使われた魔術の応用によりグランゾンの虚像を作り上げていた。長時間は使用できないが、この状態のグランゾンを倒すには普通の手段では不可能なのだ。もっとも、それがゼオルートの言う邪気であり、マサキの態度が硬化した原因なのだろうが・・・。
「てめえっ!! 待ちやがれ!!」
グランゾンはネオ・ドライヴを起動させ、王都から離れる。
「ダメ、マサキ!!」
「!? ウェンディ・・・」
マサキは、シュウを追跡しようとするがウェンディに止められてしまう。
「それ以上無理をしたら、あなたもサイバスターもボロボロになるわ。お願い!!」
ウェンディは今のサイバスターではグランゾンに勝つ可能性が極小でしかない事を開発者としてわかっていた。だからこそ、マサキを止めた。ある意味甥っ子とも言えるクリストフの変貌、その変化がマサキを殺すのでは無いか? 彼女の中の姉も又、マサキがシュウを追うのには反対であった。
「あ・・・くっ、わ、わかったよ・・・」
飛びだそうとしたサイバスターは浮いた足を地面に着ける。コクピットの中でマサキはグランゾンを忌々しげに見送っていた。グランゾンが見えなくなるまで・・・。
***
グランパレス格納庫
格納庫の中では工員が走り回っていた。サイバスターにギオラスト、調整が終わったばっかりの機体がズタボロで戻ってきたのだ。それも当然だろう。
「おっさん、無事か!?」
マサキは、ギオラストから降りてきたゼオルートに駆け寄る。彼の顔色も心なしか青かった。
「いやあ、やられてしまいましたよ。やっぱり、私じゃ魔装機は上手く扱えませんね」
ラ・ギアス人は地上人と比べてプラーナが低い。それにも関わらずグランゾンに傷をつけた男は謙遜しながらマサキを出向かえる。
「おいおい・・・」
「あははは」
マサキはそんなゼオルートに肩を下ろす。まさに心配して損したと言った感じだ。だが、マサキはすぐに頭を上げ、真剣な目でゼオルートを見つめる。
「・・・ゼオルートのおっさん、頼みがある」
「何でしょう、マサキ?」
何やら真剣な雰囲気のマサキにゼオルートも身構える。マサキは何かを言い出そうとしているが言葉に出来ず、自身の中で言葉を捜していた。
そして、数瞬後、マサキは意を決したのか余計な言葉は着けず単刀直入にゼオルートに言う事にした。
「俺を・・・俺を鍛えてくれ」
「ふむ・・・」
ゼオルートはマサキの申し出に対し、顎に手を当て考え始める。マサキには、ある程度剣を教えている。それがこのように頼み込んでくるとは彼の中で何かがあったのだろうか?ゼオルートは、クリストフがマサキに与えた影響、それが何なのか知りたいと思った。
「初めて会った時はそれほどでもなかったが、今回現れたあいつは何か気に食わなかった。俺の中の何かが言ってるんだ・・・あいつを、シュウをこのままにしてちゃいけねえって」
何も言わないゼオルートに業を煮やしたのか、それともいざ話す段階になって心から言葉が浮かび上がったのか、先程の戦いで感じた事をゼオルートに語る。
「だから、おっさん。俺は・・・魔装機神操者として、その誇りにかけて、あいつが仕出かそうとしてる事を止める必要があるかもしれないんだ」
マサキの声にだんだんと熱が篭ってきた。そして、彼は自分の思いを義父にぶつける。
「その為には俺の力が足りねえ。だから、あいつの邪悪な衣を振り払う為にも、おっさん!!俺を鍛えてくれ!」
「・・・わかりました。そこまで言うなら今まで以上に貴方への鍛錬を本格的に行うことにしましょう」
「おっさん・・・!」
ゼオルートは、マサキの願いを受諾することにした。彼としてもクリストフ本人はともかくグランゾン自体からは良くないものを感じていたのだ。マサキが魔装機神操者として、クリストフを止める必要がある言うなら自分が出来る事で彼を助けようと決めたのだ。
「お父さ~ん!お兄ちゃ~ん!」
「この声は・・・」
「プレシアですね・・・マサキ、行きましょう」
「ああ・・・」
シュウにコテンパンにやられたマサキとゼオルートの事が心配になったプレシアが彼らを呼びに来たのだ。戦場から彼らは日常に戻る。背後にジワジワと迫り来る暗雲を感じながら・・・。
自分を遥かに上回るライバル。それに対抗する為にある程度抵抗できた師匠に師事する。
いやあ、マサキが主人公してますね。あれ、主人公誰だっけ?