武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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第二十一話

ラングラン新暦4957年

 

 

 

神聖ラングラン王国王宮

 

 

今ここで、ラングランの治安に対しての会議が行われていた。

 

未然に防がれたサイツェット州のバナン市でラングラン解放戦線の残党により起こされた大量殺戮兵器『降魔弾』を使用した無差別テロや度重なるヴォルクルス教団による破壊活動。

 

予言の魔神こそ、まだ出現していないが今のラングランの治安はお世辞にも良いとは言えない。この会議は、一連の事件を反省し、新たな警備体制を構築する為の話し合いだった。

 

 

治安局次長フェイルロード・グラン・ビルセイアは、会議参加者一同を見渡して、口を開く。

 

 

「さて、ではさっきの続きだが・・・」

 

 

昼休みで一旦休憩となった会議の再開を宣言しようとした瞬間、それは起こった。

 

 

「何だ!?」

 

 

突如、会議室を地震が襲った。いや、地震ではない。何かが破裂する音が聞こえたことから、これは爆発だ。ざわめく会議場に兵士が慌てて入室して来た。

 

 

「敵襲です!!」

 

「まさか・・・この王都に侵入して来たのか!?」

 

 

フェイルロードは兵士の報告に驚く。大胆不敵にもこのラングランの王都を襲撃してきた者が居ると言うのだ。フェイルロードは慌てて部屋を飛び出す。行き先は、王都防衛指揮所だ。

 

廊下を慌しく走る兵士たちを一瞥しながらフェイルロードは指揮所に入る。

 

 

「殿下!?」

 

「状況はどうなっているか!」

 

 

入室したフェイルロードに指揮所の兵士は慌てて敬礼をするがフェイルロードは、それを気にせず状況を兵士に聞いた。

 

 

「はっ、敵性体は王都の結界と防衛ラインを突破。まもなく、このグランパレスに到着します」

 

「結界が破られただと!?以前のテロを省みて、強化したばかりだぞ!」

 

「目標が最終防衛ラインを突破!まもなく王宮前に到達します!!」

 

 

兵士は悲鳴を上げる様に報告する。その報告にフェイルロードはモニターに目を向ける。彼は、ソレを見た。

 

深い青色の厳つい外見の人型機動兵器。魔装機とは異なる印象があるのに何処となく魔装機を思わすソレ。正に予言の魔神の具現化とも言う圧力。

 

そして、目の前の魔神から通信が指揮所にかけられた。

 

 

「お久しぶりですね、みなさん」

 

 

モニターに一人の男性の顔が映る。高貴を意味する紫の色の頭髪、見るものの魂を見抜くような眼差し、自らの力と才覚に絶対の自信を持つ相貌。フェイルロードは彼の名を知っていた。それも当然だろう、なぜなら彼は彼の従兄弟なのだから・・・。

 

 

「!? クリストフ!? 一体今までどこに・・・」

 

 

フェイルロードは驚く。公式には諸国を漫遊しているとされており、実際は行方不明になった彼が王都に機動兵器を持ち下げやってきたのだから。

 

 

「な!? シュウか!?」

 

「え? マサキ、今なんて・・・」

 

 

指揮所で待機していたマサキも彼の顔に驚いていた。ソレも当然だろう。地上で共闘した戦友が王都ラングランに進入してきたのだから。そして、マサキの言葉にセニア・グラニア・ビルセイアも思わず、聞き返した。その名前は、ラ・ギアスでは知る人ぞ知るものであったからだ。

 

 

「クリストフ・・・その名で呼ばれるのは久しぶりですね。しかし、今の私は、シュウ・シラカワという名前が気に入っていますからね。そちらを名乗らせていただきましょうか」

 

「クリストフ、一体どういうつもりだ!?」

 

 

モニターに映った青年、シュウは彼らの驚きを風のように流す。フェイルロードはそんなシュウに食って掛かる。ラングランの王族である彼の突然の蛮行、色々と問い詰めたくなるのも当然だろう。

 

 

「本日はみなさんにごあいさつと宣戦布告のために参りました」

 

 

シュウは、ソレを気にせず慇懃無礼に自らの目的を話す。その内容は物騒な言葉を含んでいた。

 

 

「今日をもって私は地上で本格的に活動を開始いたします。無論、この行動がラングランの求める所から外れるのは承知の上ですが・・・」

 

「何!? 正気か!?」

 

 

フェイルロードはシュウの宣言に驚愕する。ラ・ギアスは地上との接触を最低限に抑えている。それはラングラン新暦1959年頃にラングランの主導のもと、ラ・ギアス各国が自国管理下にある地上への「ゲート」施設を破棄する事を決定したからだ。

 

 

「ええ。正気ですよ。そうでもないとしないと世界は救えませんからね」

 

 

しかし、シュウはソレを気にしていない。いや、正確には慣習より効率を重視しているようだ。彼が言う世界を救うとは一体・・・?

 

 

「それと宣戦布告・・・と言うよりも決闘の申し出ですが」

 

「決闘だと!?」

 

「はい・・・ランドール・ザン・ゼノサキス。先の御前試合の優勝者である彼に決闘を申し込みます」

 

「何、マサキと・・・!?」

 

 

シュウ・シラカワの目的、それはマサキ・アンドーとの決闘だった。それを聞いたフェイルロードは、眉を訝しげに歪める。

 

 

「先日の試合は中々の物でした。ですので、私は挑戦者として彼に勝負を挑みに来たのですよ」

 

 

シュウは先の御前試合を見ていた事を彼らに告げる。彼の物言いは一見謙った様に見えた。

 

 

「このグランゾンの相手をするならある程度の実力が必要です。ですので、優勝者程度ならある程度は戦いになるかもしれませんからね」

 

 

だが、実際は自身の勝利を疑わぬ態度を隠さなかった。マサキは、その慇懃無礼で尊大かつ不遜な物言いに腹を立てる。沸点の低い彼にとっては、この程度の挑発でも効果的だろう。

 

 

「あの野郎・・・ウェンディ、サイバスターで出る!!」

 

「待って、マサキ!後、少し時間を頂戴!まだ、調整が終わらないのよ」

 

「く・・・!後、どのくらいだ!」

 

 

マサキはシュウの挑発染みた挑戦に乗り、サイバスターで出ようとする。だが、サイバスターは今調整中だった。

 

 

「5分・・・いや、3分で仕上げるわ!」

 

 

ウェンディはマサキと共に格納庫に行く。サイバスターを整備する為だ。

 

 

 

***

 

 

 

「さて、フェイル。返答は?」

 

 

シュウはフェイルロードに自分の挑戦状が受理されるか、どうか聞いた。

 

 

「・・・今、ウェンディがサイバスターの調整をしている。少し待て」

 

「なるほど・・・了解しましたよ」

 

 

フェイルロードは苦虫を噛んだように答える。

 

そして、それからしばらくもしない内に格納庫から風の魔装機神サイバスターが姿を現した。

 

 

(ほう・・・出て来ましたか。タイミングをずらしたから多少はマシだとは思いますが・・・)

 

「シュウ!! てめえ、どういうつもりか知らねえが、てめえの好きにはさせねえぜ!!」

 

 

シュウは『前』の時と意図的に時間をズラした様だ。それが何を意味するのかだろうか?

 

 

「フフフ・・・血の気の多い人ですね。私はただ、世の中には上には上がいる事を、身を持って知って欲しいだけですよ」

 

「その言葉、そっくりてめえに返してやるぜ、インケンヤロー!!」

 

 

シュウ・シラカワの意図、それは一体何処にあるのだろうか?

 

 

「初めて会った時から、どうも気に食わなかったが、やっぱりこういう事になったな、シュウよ!」

 

 

サイバスターの持つ両刃剣ディスカッターをグランゾンに向けながらマサキはシュウに吼える。

 

 

「ふ・・・無謀な」

 

(今の私は『アレ』と契約していない筈ですが・・・今、グランゾンの状態を維持する為の力の性質を本能的に察したと言う所ですか。実際、地上で降りて会った時は、態度が軟化していましたからね)

 

 

シュウはマサキの在り方を嘲るように言いつつも心の内側では、別のことを考えていた。マサキの今のシュウに対する態度に考察を巡らしているようだ。

 

 

「このやろうっ!!」

 

 

マサキは、地上でグランゾンの力を見ていたので最初は様子を見ていた。だが、余裕綽々と言った様で悠然としているグランゾンに業を煮やしたのか、サイバスターはディスカッターでグランゾンに切り掛かる。

 

 

「効きませんよ」

 

 

だが、グランゾンの展開する歪曲フィールドに阻まれ、サイバスターの剣戟は弱められ、グランゾンの超抗力チタニウムで出来た装甲を傷付ける事は出来なかった。

 

 

「先に手を出したのは貴方ですからね・・・ククク」

 

 

シュウの嘲笑と共にワームホールが生成される。グランゾンはワームスマッシャーを使おうというのだ。それを見たマサキは咄嗟にサイバスターを屈める。

 

 

「ぐぅ、やってくれるぜ!」

 

 

風の魔装機神の周囲を空間の穴から出た無数の光線が突き刺さる。サイバスターが咄嗟に屈んだことで直撃を受けることは免れた。だが、サイバスターの背中に着いている羽に周囲から降り注ぐ光線がかすってしまったのだ。

 

着弾の衝撃で揺れるコクピットの中でマサキはグランゾンを睨みつける。そして、マサキはグランゾンの異変に気付いた。いや、正確には何も変わっていない事態に気付いたのだ。

 

 

「バカな・・・全然効いてねえ!?」

 

 

グランゾンは無傷だったのだ。

 

 

「だから言ったでしょう? 無謀だとね。今の私には、一切の攻撃は通用しませんよ」

 

 

歪曲フィールド。

それは分かりやすい様に言えば、衝撃を緩和するバリアである。だが、このバリアはありとあらゆる攻撃に対し効果を発揮し、それがグランゾンの堅牢さを際立たせるのだ。

 

 

「調整の完了したグランゾンの前では、魔装機神など恐るるに足りません。もっとも魔操機神がその真価を発揮できれば、別ですが・・・」

 

 

シュウはコクピットの中で軽く肩を竦めながらマサキに講釈する。その言葉には嘲りの中に若干の期待が含まれていた。だが、それに気付いたモノは一人、いや二人しか居なかったが・・・。

 

 

「今の貴方では全くお話になりませんね」

 

 

そう言うとグランゾンはいつの間にか持っていたグランワームソードをサイバスターに向けて振り下ろす。

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

マサキは、その攻撃を咄嗟に防ごうとするが、構えようとしたディスカッターは間に合わず、サイバスターの右手は切り落とされてしまった。

 

音が止まった。グランゾンとサイバスターの戦いを見ていた者達はそう感じた。静寂の中にサイバスターの腕が地面に落ちた時に生じた騒音が響き渡る。

 

 

「優勝者などと天狗になっているからそうなるのですよ、マサキ。貴方の攻撃では歪曲フィールドを突破出来ません。所詮、井の中の蛙なのですよ」

 

「シュウっ・・・!!」

 

 

マサキはシュウの何処までも人を舐め腐った態度に更に怒りを募らせる。隻腕となったサイバスターに右手ごと落ちた剣を拾わせようとしたサイバスターの前に影が差す。

 

それは風系低位精霊・竜巻のギオリックと契約した魔装機ギオラストだった。マサキはそれの操者を知っていた。なんせ、自分の養父だからだ。

 

 

「マサキ、下がりなさい!!今の貴方ではクリストフに敵いません!」

 

 

彼は、マサキに撤退するように促す。神祇無窮流の剣士である彼はシュウとマサキの力の差を正確に悟っていた。故に今のマサキではグランゾンに勝てない事を見抜いたのだ。

 

 

「ゼオルートのおっさん!?し、しかし・・・くっ、わかった!」

 

 

彼の声にマサキはサイバスターを下がらせる。なお、ディスカッターはちゃんと回収していた。

 

サイバスターが撤退したのを見届けるとギオラストはグランゾンに向かい合う。

 

 

「さあ、クリストフ、私が相手です」

 

 

グランゾンの前にギオラストは立つ。そして、剣皇ゼオルート・ザン・ゼノサキスはシュウに向かって剣を構えた。今、ここにラングラン最高の剣士と蒼い魔神の戦いが始まろうとしていた。

 

 


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