武と純夏は居候しているシュウの隠れ家で、武は何らかの装置からコードを付けられていた。
「どうですか、シュウさん」
武は緊張した表情でシュウに話しかける。シュウは装置から送られてきたデータをモニターに映し検分していた。
「ふむ・・・やはり地上人なだけはあってプラーナ指数が高いですね」
(それにテレキネシスαも高いレベルを示しています・・・やはり、彼らは・・・)
シュウは武の生体データを取っていたのだ。
「と、と言う事は・・・!!」
武はシュウの言葉に顔を輝かせた。それは、彼が年頃の少年だと言う事を嫌でも思い出させた。
「ええ。貴方なら魔装機を動かせるでしょう」
「お、おお!!」
思わず立ち上がる武。その顔は歓喜の色で塗られていた。
「もっとも魔装機を扱うのは、まだ先ですがね」
「がっくし・・・。そりゃないですよ、シュウさん!」
シュウの言葉にずっこける武ちゃん、すぐに顔を上げシュウに不満げな顔を見せる。
「何、しばらくしたら量産機よりも良い機体を手配しますよ」
「本当ですか!?・・・約束ですよ?」
一瞬嬉しそうな顔をする武、だが、本当に手配してくれるか、不安になる。まあ、シュウの独特な雰囲気がそう思わせるのだろうが・・・。
「ええ、約束しましょう」
(まあ、渡す機体が魔装機とは限りませんがね)
シュウは嘘はついた事は無い、嘘をついた事は・・・。
「武ちゃん武ちゃん!!」
元気な声と共に扉が開かれる。純夏だ。彼女はいつもの様に天真爛漫な笑みを浮かべ、武の元に駆け寄ってきた。
「おや、純夏では無いですか」
「あっ、シュウさん!お邪魔します!」
武目当てに一目散に部屋に入ってきた純夏はシュウの事に気付いてなかったのだった。そして、シュウに話しかけられて、彼の存在に気付いて元気良く返事をするも、すぐに武に向かって振り向く。
「おい、何のようだよ、純夏」
「これ!これ見て、武ちゃん!」
元気が有り余っている純夏に呆れるように武は問いかけた。すると純夏は武の顔に一枚の紙を突きつける。どうやら何かのチラシのようだ。
「何々?王宮の闘技場を舞台に魔装機神操者と魔装機操者による御前試合が開催される?・・・って事は魔装機神とか見れんの!?」
そのチラシは魔装機によるトーナメントだった。武は、その内容に心躍らされる。彼もまだ少年だからか、正義の味方みたいな魔装機隊に憧れを抱いているのだ。まあ、メディアに露出してる分は、まだまともだからだろう。実際の彼らは色物揃いだが・・・。
「ほう・・・」
そして、シュウもその内容が興味深いのか、目を細める。
「武ちゃん、こういうの好きでしょう?今度一緒に行こうよ!!」
「純夏・・・チケット買う金が無いだろうが」
「はっ!?」
武と純夏はシュウにより救出され、保護された身である。つまり身も蓋も無い言い方をすれば、居候でしかない。ラ・ギアスでは成人として見做される年齢だが、地上出身の彼らが職に付けるはずも無く、シュウに養われているのだ。
「それぐらい出してあげますよ」
「えっ、良いんですか?」
お金が無い事に気付き落ち込んでいる少年少女にシュウが手を差し伸べた。
「構いませんよ・・・私も魔操機神には興味がありますからね」
「ありがとうございます!武ちゃん、デートだよ!デート!!」
シュウの言葉に感激した純夏は武に抱きつく。年齢や日本人離れした発育の良い体が武に密着する。
「ちょ、引っ付くなよ」
武は思わず、鼻の下を伸ばしながら顔を赤める。極限状況から生き残った彼らの関係は、ただの幼馴染の関係では居られなかった。お互いがお互いを意識し、助け合おうとする。それが彼らの関係だった。
「青春してますねー・・・」
そして、そんな甘酸っぱい彼らを見て砂糖を吐きたくなったチカちゃんであったとさ。
***
ラングラン新暦4957年
神聖ラングラン王国 王都 闘技場
王宮グランパレスの闘技場には多くの人が詰め寄り、盛況だった。
「それでは、ただ今より第一回魔装機操者による勝ち抜きトーナメントを行います」
そして、司会を務める近衛兵により開催の宣言が行われる。
「まずは、今回の出場選手を紹介しましょう」
兵士の紹介と共に12体の魔装機と12名の操者の事が解説される。解説と同時に、魔装機が闘技場を横断していく為、観客たちもボルテージが高まっていく。・・・まあ、一部色物が居たが。
「わあぁ、凄い・・・」
「おおぉ!!」
少年少女は、場の雰囲気に圧倒される。純夏は力強さだけでなく美しさも備えた魔装機に驚き、武は魔装機の格好良さにより男の子心がくすぐられていた。
「以上、12名によって競われます。ルールは、時間無制限一本勝負。先に相手を倒した方が勝ちとなります。なお、魔装機神操者には、ハンデとしてマップ兵器、ファミリアの使用は禁止されます」
兵士は試合のルールを説明する。魔装機神の代名詞とも呼べるMAP兵器とファミリアは、他の魔装機に対し、優位に働く為制限されたようだ。
「第一回戦は、サイバスターのランドール・ザン・ゼノサキス対、ラ・ウェンターのレベッカ・ターナーです」
闘技場の門から白銀の騎士サイバスターと砲撃特化魔装機ラ・ウェンターが入場する。
「おお、サイバスターだ!かっけぇ!」
武はサイバスターの登場で興奮する。なんせサイバスターは魔装機の中で一番主人公っぽい見た目だからだ。いや、実際主人公だけれども・・・。
「綺麗だよねえサイなんちゃらって」
「サイバスター、だ!なんちゃらってなんだ。なんちゃらって」
武は、ビシッと純夏に突っ込む。こういうところは男女の差が出るのだろう。シュウは彼らのじゃれ合いを微笑ましく見ながらも目の前の試合に、いや、サイバスターに注目していた。
(さて、見せてもらいましょうか。あの時からどれほど成長をしたか)
シュウにマサキの成長を見極めようと見つめられながらもマサキとサイバスターは並み居る強豪を打ち倒していった。
「いよいよ決勝戦です! 果たして優勝は誰の手に!?」
そして、遂に最終決戦となった。サイバスターの向かい側の門から現れたのは黄の巨人、ザムジードだった。
「サイバスター対ザムジード!!」
風の魔装機神と大地の魔装機神。属性的にはサイバスターが有利だが、操者の力量ではザムジードの操者リカルド・シベイラの方が上だ。地上に居た頃は戦術機の衛士だった彼はマサキよりも戦いなれているのだ。伊達に最初に魔装機神に選ばれていない。
「おお!魔操機神同士か!・・・俺もあんなのに乗れたら、純夏を・・・」
武は、この好カードに興奮するが、ふとある事を思い出した。
「ん?武ちゃん、何か言った?」
「い、いや、何でもないぞ。なんでも・・・」
「? 変な武ちゃん・・・」
武の心は何を望むのか?力か?守ることか?それに答えが出ないまま戦いは続く。
サイバスターはザムジードのプラズマソードをディスカッターで受け止める。だが、攻撃を防いだと安心したマサキの隙を突き、リカルドはブーストナックルを起動する。
ザムジードはブースターでサイバスターごと押しやり、その勢いでぶん殴った。その攻撃によろめくサイバスター。リカルドは追撃をかけようとする。
だが、マサキも一方的にやられるだけでなく、風のごとく軽やかに宙を舞い、ザムジードの後ろに降り立つ。リカルドは慌てて振り向こうとするが、それよりも早くマサキの一閃がザムジードを襲う。
(プラーナの密度は上がっているようですが・・・剣技はそこまで向上してないようですね)
マサキとリカルドの戦いを見て、シュウはマサキの成長を確認する。サイバスターが纏うプラーナの鎧は以前地上で合間見えた時よりも密度が上がっていた。
「なら、舞台を用意する必要がありますか・・・」
だが、現時点のマサキの技量はシュウの望む水準ではなかった。これに対しシュウは何やら一計を考えていた。
「優勝は、サイバスターのランドール=ザン=ゼノサキスに決定しました!!」
歓声が響く。シュウが意識を目の前に戻すと、試合の決着が既についていたようだ。
そして、全試合が終了したことで、神聖ラングラン王国第287代国王アルザール・グラン・ビルセイアからお褒めの声が魔装機神たちにかけられた。
「見事な試合であった。優勝したものも、できなかったものも、みな素晴らしい操者達である。その力、ラ・ギアスを守るために役立ててもらいたい」
アルザール国王は、立派な体格に逞しい口髭を蓄えた威厳あふれる好人物だ。その声も威厳と優しさに溢れていた。
「ランドール・ザン・ゼノサキスよ。卓越したその力、存分に見せてもらった。その技量、気合ともに大いに賞賛すべきものである。さすがはサイバスターに選ばれた操者だ」
(さすが? この程度ではまだまだですよ、私にとっては)
アルザールは見事優勝したランドール・ザン・ゼノサキスことマサキ・アンドーを称える。
だが、シュウにとっては今の彼では足りない。かつて、シュウの前に立ったマサキのサイバスターは、あのマジンカイザーを超える堅牢な装甲に圧倒的なアストラルエネルギーを発揮した。それを識るシュウにとっては不満だった。
「これからも、ラ・ギアスの、いや、地上を含めたすべての人々のために、がんばってくれ」
「ええ、頑張ってもらいたいですよ。地上でもね」
しかし、シュウはアルザールが最後に述べた言葉には同調した。彼が何を考えているのか、何故サイバスターを必要とするのか、それが明らかにされるのは、最後の刻を待つしかないだろう・・・。