武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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第十八話

ラ・ギアスに幾つか存在しているシュウの隠れ家。

 

そこでシュウはモニターに向かい、コンソールを叩いていた。先日の帝都防衛戦で得た戦闘データをグランゾンにフィードバックしているのだ。

 

 

「・・・・・・」

 

 

流れるように文字列がモニターの中を流れる。シュウは一瞥しただけで内容を理解し、最適な数値を入力していた。そのようにシュウが作業に没頭していると、ドアをノックする音がする。誰かがシュウの部屋に来訪したようだ。来訪者は、部屋のドアを勝手知ったると言ったように開けて、部屋の中に入ってきた。

 

 

「失礼しまーす!」

 

 

それは十代半ばの少女だった。彼女は元気良く声を出し、シュウの部屋に入った。シュウは、一旦作業を中断し、彼女に振り返った。

 

 

「おや、どうしましたか?」

 

 

シュウは優しげに少女に何事か用事を聞いた。

 

 

「シュウさん、お昼ご飯の時間ですよ!武ちゃんなんてお腹と背中がくっ付くなんて言ってるんですよ!」

 

 

天真爛漫な少女は己の番に呆れつつもシュウに昼食が出来ている事を知らせる。それを聞いたシュウは時計を見るが、確かに時計の針は昼を過ぎていた。

 

 

「もうこんな時間でしたか。待たせたようですね、純夏」

 

「いえいえ、武ちゃんが大人気ないだけですよ」

 

 

少女、鑑 純夏は、朗らかに笑う。しばらく前に彼らを襲った悲劇が嘘の様だった。

 

 

「ふっ・・・では、行くとしますか。彼を待たせ過ぎる訳にもいきませんしね」

 

 

シュウと彼らの出会いを語るにはしばらく時を遡る必要があるだろう。

 

 

 

***

 

 

 

1998年日本帝国横浜上空

 

 

シュウは、帝都防衛戦後における地上の情勢の調査の一環として、横浜に建造されつつある甲22号目標、通称横浜ハイヴを見に来ていた。

 

 

「あれが事の始まり・・・横浜ハイヴですか」

 

 

グランゾンのコクピット内のモニターには、「モニュメント」と呼ばれる塔のような地表構造物が映っていた。

 

 

「へえ、あれがBETAの巣なんですか。なんか蟻塚みたいですね」

 

 

ハイヴの地上部分であるモニュメントは、積層型の構造になっており、チカの言うようにどことなく蟻塚を想起させた。

 

 

「確かにそう見ることが出来ますね。『彼』によると、どうやら採掘した資源の発射装置も兼ねているようです」

 

「資源ですか?」

 

 

ハイヴはフェイズ5以上のハイヴになると宇宙へ"物"を打ち上げる機能が付加されるのだ。この宇宙へ打ち上げている物に関しては、打ち上げが不定期なことと太陽系を脱出する軌道に投入されていること程度しか解明されていない。ただ一説によるとG元素を打ち上げているのではないかと言う者もいる。

 

 

「ええ。もっともある程度成長しないと射出は出来ないようですが・・・《助けてっ!!》・・・ッ!?」

 

 

シュウはチカへ解説してる途中、突如として頭の中に声が響き渡った。

 

 

「どうしました、ご主人様?」

 

「・・・チカ、TP反応をサーチしてください」

 

「はい?りょ、了解しました」

 

 

チカは主人の突然の命令に戸惑いながらも周辺をサーチする。

 

 

「これは・・・ご主人様!あの蟻塚の中から強力なTP反応が!!」

 

 

結果は黒だった。強力なTP反応、すなわちレベルの高い念動力者があのハイヴに居る事を示していた。

 

 

「そうですか・・・と言うと・・・。チカ、座標はわかりますか?」

 

「はい、少々お待ちを・・・トレース出来ました!」

 

(さて、私の、いえ『彼』の知識が正しければ・・・)

 

 

 

***

 

 

 

青白く光る坑道の中に一組の少年少女が居た。

 

 

「武ちゃん・・・」

 

「大丈夫だ、純夏。俺がお前を守ってやる」

 

 

少年の名は白銀 武。少女の名を鑑 純夏と言う。彼らを含めた横浜市民は、BETAに囚われ、ハイヴの中に拘留されているのだ。

 

本来ならBETAはこのような行動を取らず、全てを食い尽くすのみだった。にも関わらず何故彼らは捕虜にしたのだろうか?

それが分からぬまま囚われた人々は、一人、また一人とBETAに連れられて帰ってこなかった。

 

そして、終いには武と純夏を残すのみとなり、遂に彼らの元にも死刑執行人がやってきた。

 

 

「ひっ・・・!?」

 

 

兵士級BETAを始めとした小型種がやってきた。以前連れて行った人々のように今度は武または純夏を連れてゆくのだろう。

 

 

「へっ、とうとう俺たちの番ってか・・・。来るならきやがれ!純夏は、やらせねえぞ!!」

 

 

武は、拳を握り締め、BETAを強く見つめる。更に純夏を庇うかのように前に出た。

 

 

「うおりゃああああ!!」

 

 

身構える武に対し何のリアクションもせずただ距離を詰めるBETA。近づいてきたBETAに武は殴りかかった。

 

 

「ぐぁぁ!?」

 

 

「た、武ちゃん!!」

 

 

だが、15歳の少年の拳でBETAが怯むはずも無く、腕の一振りで武は吹き飛ばされる。純夏は吹き飛ばされた武の元に駆け寄るが、そうしてる間にもBETAは彼女たちの元に迫っていた。

 

 

「い、いや・・・やめて・・・武ちゃんにひどい事しないで・・・」

 

 

純夏は武に駆け寄る。どうやら気絶しているようだ。そして、彼女の耳に聞こえてくる死神の、BETAの足音が・・・。

 

 

「誰か・・・・誰か・・・誰か助けてっーーーー!!」

 

 

その瞬間、虚空に穴が開いた。

 

 

「えっ・・・な、何あれ?」

 

 

漆黒の円、それは空間に開いた穴、ワームホールだ。そして、ワームホールから深い蒼の魔神が現れる。グランゾンだ。

 

 

『ふむ、少年と少女が一人ずつ・・・なるほど、貴方達が・・・』

 

 

グランゾンは、目の前の武と純夏の存在を確認した。しかし、ここはBETAの巣だ。彼らが突然の闖入者を前にして怯む筈が無かった。

 

 

「あっ、危ない!」

 

 

BETAたちがグランゾンに群がっていく。空中に浮いている故に、すぐさま取り囲まれはしないが、それでもBETAがBETAを踏み台にし、いずれはグランゾンに取り付くだろう。

 

 

『面倒ですね・・・歪曲フィールド出力全開』

 

 

もっとも、それを許すシュウでは無い。

 

 

「べ、BETAが・・・」

 

 

歪曲フィールドの出力を一定時間増幅させる事でフィールドを強化、フィールドでBETAを押しつぶそうと言うのだ。接近するBETAたちは歪曲フィールドごと降下するグランゾンに踏み潰され、天井から落ちてくるBETAもまたフィールドに弾き飛ばされてしまった。

 

BETAの攻撃の無効化を確認するとグランゾンの右手を少年少女に向ける。その瞬間、彼らの体は宙に浮いた。

 

 

「わっ、わっ、か、体が・・・!?」

 

 

グランゾンに内蔵されている重力制御装置で武と純夏は回収された。

 

 

『さて、このまま行きますか・・・ゲート展開』

 

 

そして、蒼い魔神は再び地上から姿を消したのであった。

 

 

 

***

 

 

 

木漏れ日の差す一室、そこの寝台に白銀 武は横になっていた。

 

 

「う、うう・・・純夏・・・ッ!純夏!!」

 

 

武は、大切な幼馴染の事を思い出し、まどろみの中から覚醒する。そして、純夏を探そうと周りを見渡そうとするが、その必要は無かった。

 

 

「くぅ・・・」

 

 

そこには自分が横になっていた寝台に寄り掛かって眠っている鑑 純夏の姿があった。

 

 

「純夏!・・・無事で良かった、本当に良かった・・・」

 

 

武は、純夏の無事な姿を見て、安堵の息を吐く。

 

 

「でも、此処はどこなんだ?確か俺たちはBETAの巣の中に居たはずじゃ・・・」

 

 

武が眠っていた部屋を見渡す。見た感じ、清潔感に溢れ、どことなく品の良さも漂う西洋風の一室だった。その光景に困惑しながら見回している武。そんな、彼に話しかけるモノが居た。

 

 

「あっ目覚めたようですね」

 

「っ!?誰だ!」

 

 

何処からか聞こえた声に思わず、辺りを見渡す。だが声を発したと思わしき人物を見つけることは出来なかった。

 

 

「ここですよ。ここ」

 

「ここ?・・・鳥?」

 

 

武は、声がする方向に振り向く。するとソコには家具に止まっている青い鳥が居た。

 

 

「はい、あたしはローシェンって鳥のファミリアで、チカって言います。コンゴトモヨロシク」

 

「と、鳥がシャベッタァァァァ!!??」

 

 

武は、絶叫する。彼の常識では喋る鳥なんぞ存在しないからだ。

 

 

「うーん。同じ反応しますねー、あなた達」

 

 

青い鳥、チカは、そのリアクションを見て、呆れる。武の相方も、彼と同じ反応をしたからだ。

 

そして、ベットに寄りかかっていた純夏の体が少し動き始める。武の絶叫で目覚めようとしているのだ。

 

 

「う、ううん・・・あっ、武ちゃん!目が覚めたの?怪我は大丈夫?」

 

 

純夏は、武に抱きつく。そして、武を上目使いで見つめながら怪我の状態を聞く。

 

 

「お、おい、純夏・・・って怪我?そういや俺はあの時BETAに吹っ飛ばされた筈なのに・・・」

 

 

自分の体に押し付けられる柔らかい感触に赤面する武。だが、純夏の言葉で思い出す。自分はかなり強い力でBETAに吹き飛ばされた事を。

 

 

「ちっちっちっ、ラ・ギアスの医学力は地上のそれを凌駕してますからね。その程度の傷なんてチンカラホイですよ」

 

「あっ、チカちゃん」

 

 

ラブフィールドがうっとおしかったのか、話にチカが混じってきた。

 

 

「純夏・・・こいつがなんなのか知ってるのか?」

 

「うん、私たちを助けてくれたシュウさんって人の使い魔だよ」

 

 

武の疑問に純夏はニコヤカに答える。だが・・・。

 

 

「使い魔ってお前・・・まさか、BETAに!?」

 

 

武は最初は残念なモノを見る目で、しまいには純夏を案じる目で見ていた。

 

「違うよ!・・・そうだ、窓の外を見てみて武ちゃん」

 

「窓の外・・・はぁぁぁぁぁぁっぁぁ!?」

 

 

純夏の言葉に武は、ふと窓の外に視線を移す。空の下には一見普通の町並みが移っていた。可笑しいのは空だった。

 

 

「何なんだ、この世界は・・・まるでボールの内側みてえじゃねえか!」

 

 

空がまるでスペースコロニーのようになっていたのだ。さすがに天頂方面は太陽の輝きで大地は見えないが、水平線の見えない世界に、武は驚くしかなかった。

 

 

「ここは地球の裏側の空洞に存在する位相の異なる世界・・・ラ・ギアスです」

 

 

武は声がしてきた方に振り向く。そこには紫の髪をして痩身の男性が居た。彼はドアから武たちの方に足を進める。

 

 

「・・・あんたは?」

 

 

突然現れた謎の男に武は警戒心を抱く。武が彼を警戒するのは彼から放たれるある種のオーラが関係しているのかもしれない。

 

 

「おっと、申し送れました。私はシュウ、シュウ・シラカワ。この世界の住人ですよ」

 

 

これがシュウ・シラカワとの出会いだった。

横浜侵攻の際に両親を失った彼らをシュウは庇護下に置く。もっとも、保護した理由の何割が善意であろうか?実際シュウが彼らを助けたのは打算もあった。

 

というよりも彼らこそ(・・・・・)がシュウの目的に対する重要な鍵であったのだ。




次から不定期更新に戻ります。
後、次の話はシュウがメインでは無く、シュウが関わった人たちをメインにしたいと思います。

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