もっとも全てを語ったわけでもありませんがね。
第十七話
帝都防衛戦においてマサキが遂に倒れてしまった。それを受け、シュウはかねてからの条件によりサイバスターを連れて戦線を離脱したのであった。
グランゾンの重力制御装置でサイバスターを牽引していた、シュウは、ふと東の方角を見つめた。
「・・・・・・」
「ご主人様、どうしたんです?」
「いえ、なんでもありません」
シュウは頭を振るとグランゾンとサイバスターを人目の付かない所に移動させた。ラ・ギアスへのゲートを開く為に。
***
シュウが見つめた先には近畿地方からの避難民の群れがあった。それは、殿を務める将軍家と武家の者たちで構成された集まりだ。
その中に西の方角を見つめる女性が居た。
「・・・・・・」
「どうしたんじゃ、ミサキよ?」
老年の男性にミサキと呼ばれた女性は、男の方を振り向いた。
「お父様・・・いえ、ただ・・・」
「ただ?」
娘は父の返事には直ぐ答えず、再び西の方角を見ながら彼に言った。
「あの子が居たような気がして・・・」
「そうか・・・」
男と女、父と娘は、西の空を見つめる。そして、偶然か、その視線の先にはほんの少し前に居たのだ、彼女の息子が・・・。
***
地下世界ラ・ギアス
神聖ラングラン王国の人の居ない荒野にサイバスターとグランゾンは居た。
本来ならサイバスターは、シュテドニアスとバゴニアの間に挟まれた海に出現するはずだった。
シュウのグランゾンはサイバスターのゲート開閉機能よりも高性能で、自らが設定した場所に出ることが出来たのだ。それにより正史とは異なる場所にサイバスターは出現したのだ。
そしてシュウはラ・ギアスに到着した事をマサキたちに告げる。
「さて、着きましたよ、マサキ」
「マサキは今気絶してるニャ」
「命には別状はニャいぜ」
疲労によりマサキは意識を失っていた。だが、それはシュウにとって好都合だった。
「そうですか・・・まもなく、ラングランからの救援も来ますので私はここで失礼しますよ」
そういうとシュウはグランゾンのネオ・ドライヴを稼動させ、速やかに離脱して行った。引き止めるクロとシロの声も無視してグランゾンはサイバスターから離れた。
今、ラングランに自分の存在を知られるわけにはいかなかったからだ。地上人のマサキならともかくラ・ギアスの人間なら自分の正体が露見してしまうからだ。
「ところでどうするんです、ご主人様?これで完璧に地上の連中にグランゾンの存在が知られちゃいましたよ?」
マサキたちに存在を知られない為、今まで沈黙していたチカはシュウに問う。お喋りな彼にとってずっと黙っていたのは苦痛だったがサイバスターから離れた事をこれ幸いと喋りだしたのだ。
「謀は密を持ってよしとすると言いますが・・・存在を知られることもまたカードになるのですよ」
「さっすがご主人様!ただでは転ばない!」
「ふっ・・・」
シュウはチカの賞賛を笑い一つで流す。彼の目は次の目的を捉えていたからだ。
「さて・・・地上の情勢は、後は時を待つだけですね。そうして、世界は動き出すのです。新たな可能性にね」
***
神聖ラングラン王国王都ラングラン
マサキ帰還から二日後
地上から戻ったマサキはラングラン軍に保護され、その後は病室に搬入される事になった。命に別状は無かったが、プラーナを大量に消耗していたので、二日たった今でも彼は目覚めて居なかった。
しかし、ある人物が見舞いに来ていた時、彼の意識がほんの少し回復したのである。
マサキは意識が朦朧としながらも目を薄っすらと開ける、するとそこには彼の見知った人物が居た。
「あ・・・ウェンディ・・・?」
「む、起きたのか・・・じゃなくて、起きたの、マサキ?」
マサキが声を掛けるとウェンディらしき人物は振り向いた。確かにその顔はウェンディのモノだった。
「ああ・・・俺は・・・?」
「お前は、ラングラン郊外で動けなくなっていたところを保護されたのだ・・・たのよ」
「そうか・・・?ウェンディ、なんか、お前の髪の色、赤くないか・・・?」
マサキは疲労のせいで意識がハッキリしていない。そのせいか、ウェンディの髪の色が赤く見えた。
「!?き、気のせいだ。まだプラーナも十分に回復して無いだろう?まだ、寝ていろ・・なさい」
「ああ・・・その言葉に甘えるぜ・・・」
だが、まだ疲労が抜けていないマサキは眠りの園へと、その意識を誘われ、事を明らかにする事は叶わなかった。
「ふぅ・・・」
ウェンディらしき人物は、マサキが眠りについたのを確認すると大きく息を吐いた。そして、この病室に居た、もう一人が彼女に話しかけて来た。
「どうですか、マサキの様子は?」
「・・・クリストフか。別に命に別状は無い」
彼女は、その男をクリストフと呼んだ。そう、クリストフ・グラン・マクソード、シュウ・シラカワだった。
「それは結構。疲労した状態で長時間の戦闘をこなしていましたので、少々気になっていましたからね」
「ふん、お前がマサキを気にするとはな。・・・何を企んでいる?」
女性はシュウをウェンディのイメージからかけ離れる鋭い目つきでシュウを睨みつけていた。その目には不信感がありありと宿っていた。
「・・・なんのことでしょうか?」
「とぼけるな。そもそも貴様の行動は色々と可笑しいのだ。積極的に人脈を築いていたお前が行方不明などと・・・極めつけは、これだ」
そう言うと彼女は自らの額の装飾品を指差した。その装飾品は銀で出来ており、どことなく高貴なイメージを漂わせている。
「キサマ、どうやって私の存在に気付いた」
「さて・・・覚えの無い記憶とでも言っておきましょうか。それに貴女にとっても悪い事では無かったと思いますが? おかげでウェンディと和解できたのですからね、テューディ」
シュウはウェンディらしき人物、テューディに煙を撒くように答えた。
彼女の名前はテューディ・ラスム・イクナート。
ウェンディの双子の姉である。だが、出産を迎える前、母体内にいた時点で肉体的に死を迎えた存在なのだ。しかし、魂はウェンディの中で思念という形で生き続けており、現在はウェンディの体に共生しているのだ。
そして、共生に至る大きな原因となったのは、シュウが渡した額の装飾品だった。これによりウェンディはテューディの存在に気付き、彼女と幾度と無く対話を行った。無論、衝突する事もあったが、肉体の支配権が完全に奪われる事は無く、今では完全に和解している。そして、テューディとウェンディは体をたまにテューディが使ったりなどの仲になっているのだ。
「話を煙に巻くな」
「やれやれ・・・あえて言うなら実験ですよ」
「実験だと!?」
テューディは言葉を荒げる。自分と妹を実験体扱いした事に腹が立ったのだろう。
「ええ、精霊交感装置のね」
「・・・貴様が開発し、魔装機神にのみ搭載されている、アレか」
シュウ・シラカワのラ・ギアスの活動の一環として、彼は王国アカデミーにも関わっていた。その時の研究成果が精霊交感装置なのだ。
「ええ、精霊と対話し、操者の心を重ねる事により、力を増幅させる。一つの体に二つの魂と言う貴女は良いデータが取れましたよ」
精霊交感装置。
これはシュウの虚憶であるサイコフレームやオーラ力、そして『彼』の知識から得たプラーナ増幅装置の概念を元に作り出された装置なのだ。
もっとも現状では本来の性能を発揮する事は無く、あくまで魔装機神のプラーナの補助機能と言う役割しか果たせていない。
「・・・お前がコレを渡したのは、まだ子供の頃だぞ」
そして、シュウがその技術の試作品と言うべき装飾品をウェンディに送ったのは、11歳の頃だったのだ。ウェンディはシュウの母と交流を持っており、その縁でシュウとも繋がりがあった。そして、シュウは、ウェンディの誕生日を利用してソレを渡したのだった。
「ええ、それが何か?」
「・・・答える気は無いと言う事か」
シュウの返答にテューディは更に気を高ぶらせた。彼女の性質は闇ゆえにかなりの圧迫感がシュウを襲っているだろう。だが、それすらもシュウはそよ風でも吹いてるかのように受け流していた。
(姉さん・・・もう、その辺で)
シュウと姉の険悪な雰囲気に、今はテューディの意識の裏に居るウェンディが姉を諌めようと話しかけて来た。
(ウェンディは黙っていろ。こいつが何を企んでいるか、触りだけでも把握しなくては・・・。マサキに何かあっても良いのか?)
(それは・・・)
しかし、テューディはマサキの事を持ち出し、ウェンディを抑える。なんだかんだでガチで惚れてるのだ、この姉妹は、あの朴念仁に。
「答えるも何も既に答えは言っていますよ」
「何・・・?」
妹との会話に意識を向けていたテューディにシュウは隙を突くかのように返答した。そして、その内容もまたテューディを混乱させるのに一役買っていた。
「では、私はそろそろ失礼します。まだ他にも用事がありますのでね」
「クリストフ!」
彼女が呆けているうちに部屋を出ようとしたシュウをテューディは咄嗟に呼び止める。
「ああ、それと私のことはシュウ・シラカワとお呼びください。そちらの方が気に入ってましてね」
しかし、シュウはそれだけを言うと、部屋を出て行った。急いで部屋を出ようとするも周囲には自分がテューディである事を知られていない事を思い出した為、ドアの前で戸惑ってしまう。
そして、ウェンディに変わって外に出た時には、もうシュウの姿は存在していなかった。
***
「超魔装機をシュテドニアスに売り渡すですと!?」
ラングラン王宮の会議室に大きな声が響き渡った。
声の主はカークス・ザン・ヴァルハレヴィア将軍だった。その風貌からも「将軍」としての風格を漂わせる一方、気の抜けた言動が目立つところもあり昼行灯とも呼ばれる事のあるカークス将軍であったが、今の彼の激昂している姿を見ると、その認識を改める必要があると感じるだろう。
「売り渡すのではない。あくまで共同開発を申し込むだけだ」
カークス将軍の向かい側に座っている文官の男性がカークスを宥める様に言った。
「同じ事です!そんなもの我が国の軍事機密をくれてやるようなモノではありませんか!」
超魔装機計画。
カークス将軍が推進する計画で魔装機神を越える魔装機を目指して開発されている計画だ。しかし、ラングラン政府は、これをシュテドニアスとの共同開発で進めようとしているのだ。
「ですがね、将軍。君も知っているだろう?近年シュテドニアスの我が国への感情は悪化する一方だ。それどころか破壊工作まで行っているのは当然知っているだろう」
「もちろんですとも!なのに何故!!」
「シュテドニアスの暴発を防ぐ為にも軍事的なバランスは取らなければならんのだよ。その為の超魔装機の共同開発だ」
魔神への予言に対し開発された魔装機。それは周辺諸国に大変強い警戒心を与えている。此処最近のいくらかのテロ活動も諸外国が関わっていないとは言い切れないのだ。
「超魔装機は、魔装機神にも劣らない兵器ですぞ!それを・・・!」
「劣らないと言うが本当にそうかね?」
「・・・なんですと?」
文官の言葉にカークス将軍は眉を顰める。
「プラーナ次第で性能を底上げできる魔装機に比べると機能が変わらないだろう?それではいずれ性能不足になるのは目に見えてるではないか」
「魔力やプラーナに頼らない超魔装機なら誰でも安定した力が出せるのですぞ!」
「だが、ラングランの、と言うよりはラ・ギアスの採用方針とは異なりますな」
そうラングラン政府がわざわざ超魔装機をシュテドニアスとの共同開発の題材にしようとしたのは此処だ。地上とは異なり、発展性が他の魔装機と比べて乏しい超魔装機は、ラングラン政府にとっても重要視されていなかったのだ。
「とにかく、私は反対ですぞ!」
もっとも計画の推進者であるカークス将軍にとっては納得のいくモノでは無かった。
***
「と言う訳でして、カークス将軍の頑迷な抗議を受けておるのですよ」
「それはそれは・・・あなたも大変ですな」
先程会議に参加していた文官たちの一人は、目の前の男に会議の内容を説明していた。
「ええ、全く・・・。魔装機神だけで十分なのに、超魔装機なんてものまで用意するなんて、貴国を始めとした諸国への配慮に欠けますな」
「いえいえ、こうして貴方方が私たちに歩み寄ってくれたのは、大変感謝しておりますよ」
両者はお互いに笑みを浮かべつつ、だが目は全く笑っていなかった。
「ははは、ありがとうございます。・・・では、今後とも活動は続けておきますので」
「ええ。大統領やトリニティには、しっかりと伝えておきます。実際に戦争するよりも冷戦構造の方は金ももうけられますしな」
「全くです」
大統領とトリニティ、ラングランの人間にとってある意味聞き逃せない単語を目の前の男は言った。
「では、私はこれで。次は良い話をお持ちしておりますよ」
「こちらこそ、吉報をお届けしたいと思ってますよ」
文官と男は、お互いに握手した。そして、男が部屋を退出した後、文官は後ろに振り返り、自らの信奉の対象者に報告した。
「・・・・・・如何ですか?クリストフ様」
「結構です。貴方は、このまま活動を続けてください」
そこにはシュウ・シラカワが居た。そう、この文官はシュウ・シラカワの協力者だったのだ。ラングラン政府が超魔装機をシュテドニアスに売り渡すよう働きかけたのは、シュウの意図を受けた、この文官だったのだ。
「はっ、承知しました」
「それと、彼の件については?」
「はい、クリストフ様がおっしゃった通り、ラセツ・ノバステは精力的に活動しているようで、こちらもカウンターとしてロビー活動を展開しております」
そして、シュウは、後の騒乱の原因となる人物に対しても注視しており、文官を始めとした協力者たちに働きかける事により、ラ・ギアスのバランスが崩れないように謀っていたのだ。
「そうですか・・・くれぐれもラングラン、そして私が関わっている事を気取られないように」
「無論、承知しております」
そういうと文官はシュウに恭しく頭を下げる。シュウに対し、このような態度を取る人間が居るのは、幼少よりシュウが活動してきた結果だろう。
地上人のハーフと言うハンデがあるにも関わらずシュウにここまで協力するのは、彼の才能と経験だろう。かつて、此処とは別の世界で、反動勢力を纏めたビアン博士、世を乱そうと扇動するヴォルクルス教団、シュウはそれを間近で見てきたのだから・・・。
シュウは、ラ・ギアスの混乱を抑えようとしていた。それを行うことは引いては、彼女に対する抑制になるのだから・・・。
王族の血とDCと破壊神教団の経験を悪用して暗躍するシュウ様の回でした。これ以外にも活動はしていますけどね。