武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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マサキ回後編


第十五話

シロが真田と和泉を助けてた一方

 

 

 

施設の中に墜落した瑞鶴は、殆ど動くことが出来ない状態になった。もはや、機体を破棄するしかなかった。瑞鶴の衛士、篁唯依は、コクピットハッチを強制排出すると瑞鶴から降りた。

 

 

「瑞鶴・・・よくもってくれたけど。・・・ここまでか」

 

 

壊れた瑞鶴を見ながら唯依は呟いた。彼女の父と叔父が関わっている機体の痛ましい姿を見て彼女の胸に過ぎったもの。それは哀愁だろうか?それとも力の不足であろうか?

 

色々な思いを胸に自分と同じく吹き飛ばされた仲間たちの捜索を開始する。

 

 

「山城さん・・・和泉・・・聞こえてたら応答して・・・」

 

 

唯依は、施設を慎重に歩いてゆく。歩いてゆくと唯依の目の前に開けた場所が見に入った。どうやら、ガレージの内部のようだ。そして、唯依が部屋の中に足を運ぼうとした時だ。その鉄塊が降って来たのは・・・。

 

 

「ッ!?」

 

 

そこには戦車級に集られた山城の瑞鶴の姿があった。コクピットハッチは無惨にも剥がされ、いつBETAの兇刃に襲われても可笑しくは無かった。

 

 

「山城さん!!」

 

 

唯依は、思わず声を上げる。すると耳に装着している通信機から機械音が響きだした。通信を受信したのだ。

 

 

「・・・お願い・・・」

 

 

それは目の前の山城からだ。彼女は頭から血を流し、更には手足を骨折しているというありさまだった。これでは到底逃げる事はできない。

 

 

「・・・お願い・・・私を・・・撃って・・・」

 

 

だから、彼女が戦友に頼んだ願いは残酷な物だった。

 

 

「コイツラに・・・喰われる前に・・・!」

 

 

BETAがじわじわと彼女に近寄ってくる。

 

 

「・・・撃ってよおぉー!!唯依ィィ!!」

 

「・・・!」

 

 

山城の慟哭に唯依は・・・。

 

 

「うああぁー!山城さんから離れろぉー!!BETA-ッ!!!」

 

 

手に持った拳銃でBETAを撃った。だが、手持ちの拳銃では戦車級を駆逐する事は出来なかった。そして、拳銃の弾が切れた。

 

 

「・・・貴方だけにはカッコ悪いところ・・・見られたくなかっ・・・え?」

 

 

絶望。それが頭に過ぎった時、奇跡は起きた。BETAたちが突如として一斉に上の方に視線を移したのだ。まるで、上により重要な目標があると言わんばかりに・・・。

 

 

「BETAが止まった?」

 

 

BETAの突然の行動に困惑を隠せない、唯依と山城。そんな時だ。それが降りてきたのは。

 

 

「くぅ・・・!?あれは、サイバスター」

 

 

屋根を突き破って魔装機神サイバスターが唯依たちの元に駆け付けたのだ!そして、BETAたちはサイバスターに殺到する。

 

 

『ッ!?ヤロウ!いくぜ、サイフラァァァァッシュ!!』

 

 

サイバスターに群がってくるBETA、そして山城機の惨状を見て、マサキは咄嗟にこの状況を打破する武装を使った。

 

サイフラッシュ

敵味方識別型のMAPWだ。サイバスターから放たれる青い光は波打ちながらBETAを飲み込み粉砕していく。

 

 

「これは・・・BETAだけが・・・」

 

 

唯依は、自分たちに影響を与えず、BETAだけが弾け飛ぶ、この現象に息を呑んだ。

 

 

「たす・・・かった・・・?」

 

 

そして、山城は瑞鶴のコクピットの中で悟った。自分が助かった事を・・・。

 

 

「篁!山城!」

 

「唯!山城さん!」

 

「教官・・・和泉・・・」

 

 

そして、シロに先導されていた真田や和泉も彼らと合流する。

 

 

「ふぅ・・・、ちと疲れたな・・・」

 

 

彼らの無事を確認した、マサキはサイバスターのコクピットの中で息を漏らす。マサキの顔色は心なしか青ざめていた。

 

 

「マサキ!無茶しすぎだニャ!」

 

「ホントニャ。まったくアカシックバスターを使ったばっかりニャのにサイフラッシュを使うニャんて・・・」

 

 

短時間における二度の大技によりマサキのプラーナは激しく消耗していたのだ。今の彼の力量では、そう何度も大技を使う事は出来なかった。

 

 

「しょうがねえだろ・・・四の五の言ってられなかったんだから」

 

 

マサキはシロとクロに言い返すと、外部スピーカーを起動させた。

 

 

「おい、お前等聞こえるか!俺のサイバスターで運ぶからコッチ来い!」

 

 

マサキはサイバスターを屈ませながら唯依たちにサイバスターの手を差し伸べた。

 

 

「あ、あの・・・!山城さんが負傷していて・・・」

 

「何?仕方がねえな・・・」

 

 

だが、唯依から山城の負傷を聞くとサイバスターの腕を山城の瑞鶴の方に向けてコクピットから飛び出した。

 

 

「あれは・・・!声から想像は付いていたが、本当に子供じゃないか」

 

「あれが・・・マサキさん・・・」

 

 

その飛び出したマサキの姿を見た唯依たちに驚きが走る。なぜなら圧倒的な力を発揮したサイバスターの操者が唯依たちと然程年齢の変わらない少年だったからだ。

 

 

「おい!大丈夫か?」

 

「は、はい・・・ッ!」

 

 

瑞鶴のコクピットに辿り着いたマサキは山城に怪我の具合を聞く。山城は顔を歪めながら弱くもハッキリした声で返事をする。

 

 

「こいつは、折れてるな・・・。それに頭も負傷してやがる」

 

 

マサキは、彼女の様子を見ると彼女の腕と足が骨折していることを知った。

 

 

「よっと・・・。マサキと言ったな、包帯だ」

 

 

マサキがどうしようかと悩んでいる時、下から真田が瑞鶴を這い上がってきていた。そして、真田はマサキに包帯を手渡す。

 

 

「おっさん!」

 

 

マサキは這い上がってきた真田の為のスペースを開けると、真田はすばやく体を滑り込ませ、山城の前に立った。

 

 

「良くぞ、生きて・・・」

 

「教官・・・」

 

 

真田の声は震えていた。

 

その後、マサキと真田は協力して山城をサイバスターの手に運んだ。唯依と和泉も別の方の腕に乗って待機していた。

 

 

「よし、シロ、クロ、上げてくれ!」

 

 

マサキはサイバスターの中に置いて来たシロとクロに自分たちをコクピットに誘導させる事を命令した。また、コクピットの広さからコクピットにはけが人の山城と唯依、和泉が乗る事になった。真田はサイバスターの手の平に捕まって運ばれる事になった。これは彼の乗機がまだ稼動するのも原因だ。すみやかに乗り移るには手に乗ってた方が効率が良いからだ。

 

 

「これって・・・」

 

「外の様子がこんなに鮮明に・・・って、あれ?」

 

 

サイバスターのコクピットに入った唯依たちは、その内装に感嘆していた。通常、戦術機は外の様子を網膜投射という技術で知覚する為、このようなコクピットの壁に画面を映すのは、新鮮だからだ。

 

興味深くサイバスターのコクピットを見回していた唯依は、ある者に気付いた。

 

 

「どうしたの・・・ネコ?」

 

 

和泉が唯依の視線を追うとそこには白と黒の猫が居たのだ。そして猫たちは自分たちが見られていると認識し、彼女たちに話しかけた。

 

 

「始めまして、オイラはシロだニャ」

 

「あたしはクロよ。よろしく」

 

「「ね、ネコが・・・喋ったぁぁぁぁ!?」」

 

 

コクピットに少女たちの甲高い声が響く。当然だろう。地球の何処に言葉を話す猫が居るだろうか。

 

 

「って、その声ってさっき私たちを助けてくれた・・・」

 

 

和泉は気付いた。白い猫の声は先程自分を助けてくれた浮遊体のモノと同一だという事を。

 

 

「そうニャ、あれはオイラなんだニャ」

 

「おい、無駄話してないで行くぞ。早い所、こいつを休ませなきゃいけねえしな。サイバスターの手に乗ってるおっさんも戦術機の所に届けなきゃな」

 

 

使い魔たちに注目している少女たちにマサキは告げる。サイバスターの予備シートに乗せられた山城はある程度の処置はされているが、本格的な治療を受けたほうが良いのは明らかだった。

 

 

「は、はい・・・。ごめんなさい」

 

 

少女たちが静かになると今度は怪我人にマサキは話しかけた。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「・・・っ、大丈夫・・・ですわ・・・」

 

「よし、行くぞ」

 

 

山城はマサキの返答に疲労を滲ませながら返事をした。それを確認したマサキはサイバスターを動かし、真田を不知火に乗せ、真田の不知火と共に先行した友軍の元へ向かった。

 

 

「あのマサキさ・・君。顔色悪いけど大丈夫?」

 

 

和泉は、マサキの年齢が自分に近い事から言葉が少し砕けたものになっていた。

 

 

「へっ、こんなのなんて事ないぜ」

 

「全く、やせ我慢して・・・あら?」

 

 

マサキのやせ我慢に呆れたクロはある事に気付いた。何者かがサイバスターに接近してきているのだ。

 

 

「あれは戦術機か?」

 

 

接近してきたのは黒い瑞鶴を同伴した青色の見たことの無い機体だった。

 

 

「あれは、武御雷!?」

 

 

その姿を見て、唯依は思わず、声を上げる。彼女の知識では、目の前のソレはまだ量産されていないはずの機体だった。

 

 

「知ってるのか?」

 

 

正体を知っているっぽい唯依にマサキは問いかける。

 

 

「うん・・・父や叔父が戦術機に関わっていたから・・・」

 

 

唯依が知っている理由をマサキに話そうとした。だが、目の前の戦術機から通信が掛かってきたため詳しい話を聞く流れではなくなってしまった。

 

 

『そこの不知火と未確認機、聞こえるか?私は、崇宰 恭子です』

 

「げっ!?崇宰って五摂家じゃねえか!」

 

 

通信相手に思わず、マサキは声を上げる。

 

 

「知ってるの、マサキ君?」

 

「知ってるも何も俺は日本人だぜ?」

 

 

ラ・ギアスに来る前のマサキは日本に住んでいた。だから、五摂家がどういう存在なのか、一日本人としてしっかり知っていたのだ。

 

 

「・・・やっぱりそうだったんだ。シュウさんも?」

 

「いや・・・あいつはちょっとわかんねえな」

 

 

唯依たちは、名前からして彼らが日本人、または日系人かも知れないと思っていた。だから、マサキが日本人と知れたのでシュウもまた日本人なのかと疑問に思ったのだ。

 

もっともマサキにしてもシュウとは会ったばっかりでラ・ギアスと日本にかかわりのある奴としか知らなかった。

 

 

『おい、聞こえるか?』

 

「ん?おっさんか、どうしたんだ?」

 

 

マサキと唯依たちが話していると、真田の不知火からも通信が来た。

 

 

『あの方は、どうやら救難信号を探知して、救援に来たらしい。あいつらの声を聞かせてやってくれないか』

 

 

今まで真田は目の前の武御雷の応対をしていたようだ。それで確認のために唯依たちの声を崇宰 恭子に聞かせるよう頼んできた。

 

 

「なるほどねえ。おし、通信を繋いでくれ。シロ、クロ」

 

「「わかったニャ」」

 

「よし、何か言ってくれ」

 

 

マサキは少女たちを促す。唯依たちは顔を見合わせると、小隊長である唯依が通信にでる事に決めたようだ。

 

 

「えっと・・・五大武家の方だとお見受けしますが、こちらは嵐山補給基地所属の第二小隊小隊長の篁 唯依少尉と申します。他にも能登 和泉少尉と山城 上総少尉の合計三名です。ですが、山城 上総少尉が負傷しています」

 

『なるほど・・・確認しました。そなたらが先程の者たちの言っていた衛士たちか。そなたらの仲間も無事だ。皆、そなたらを心配しておったぞ。しかし、負傷者か・・・早めの治療が必要だな。未確認機の衛士、付いて来て貰えるか?』

 

「ああ、かまわないぜ・・・っと、構いません」

 

マサキは咄嗟に普通に答えたが、なんとか直す。一日本人として生きてきた彼の常識だからだ。もっとも敬語を使ってるだけで、敬うかどうかは別だが。

 

 

『子供?・・・いや、承知した。私たちの後を付いて来てくれ』

 

 

マサキの返答を聞いた、崇宰 恭子は部下と共にこの場を離れる。真田の不知火もそれに続き、マサキもサイバスターを飛ばし彼らを追わせた。

 

 

「ふぅ・・・やっと、一息着けそうだぜ。つか、そろそろヤベえな・・・」

 

「全く後先を考えずプラーナを使うからそうニャるのよ」

 

 

マサキがクロの小言に多少うんざりしていると、ふとある音が聞こえた。涙の音だ。

 

 

「良かった、生きてる・・・私たち生きてる・・・」

 

「怖かった・・・死にたくなかった!」

 

 

BETAに喰われそうになった和泉と山城、友軍と合流できた事で緊張の帯が緩んだのだろう。彼女たちは泣いていた。

 

 

「和泉・・・山城さん・・・」

 

 

唯依も彼女たちに連られ涙ぐんでいた。もしマサキが駆け付けてくれなかったら、目の前の仲間たちが死んでいた。自分は仲間の介錯も出来なかった。そんな思いが唯依の中で吹き荒れていた。

 

 

「・・・泣いとけよ。ここにはお前らを傷つける連中なんていねえ。居たとしたら俺とサイバスターでぶっ飛ばしてやるよ」

 

 

マサキは、そんな彼女たちに優しく言葉をかけた。京都駅の物資集積所までの道中、サイバスターの中で乙女たちの啜り泣きの音が響き渡っていた。


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