街中を翔る巨人たちが居た。
シュウのグランゾンと別れた、1機の不知火と12機の瑞鶴そしてサイバスターは、京都駅の物資集積所を目指していた。
退避するために飛行する瑞鶴の中で唯依は、サイバスターに注意を向けていた。父や叔父という、技術畑の高名な親族を持つ彼女にとっても、未知の人型機動兵器サイバスターは興味の対象だった。
(兵器と思えないぐらい凄い綺麗・・・。どうやったら、あんな機動性が出せるのかしら?それにあの衛士の声、まだ私たちとそう変わらないぐらいよね・・・?)
「唯依、大丈夫?」
「えっ・・・志摩子?」
甲斐 志摩子が唯依に通信してきた。サイバスターに見惚れていて、注意力が散漫になっている唯依の状態を心配したのだ。
「なんか心ここに在らずだけど・・・」
「大丈夫よ、うん・・・」
「物資集積地点まで、もう少しだ。最後まで気を抜くなよ、篁」
「りょ、了解!」
中隊長である如月佳織もまた、部下である彼女の様子を気に掛け、注意した。
そうこうしている内に彼らは、京都駅の近くまで接近していた。そして、如月中尉は、補給地点に合流する為に友軍に通信を送る。
「コマンドポスト、こちら嵐山中隊。補給のために西からのアプローチを願い・・・」
それが現れたのは、そんなときだった。
「ッ!?でけえ!」
「要塞級!?」
ビルの陰から要塞級が現れたのだ。全高66mの巨体は、特機を想像させるくらい圧巻だった。
「くっ・・・!!」
更に、悪いことは続く。突然現れたBETAに嵐山中隊は、回避するも新兵の何人かは回避しきれず、要塞級に衝突、跳ね飛ばされてしまった。
「くそっ!!これでも食らえ!!」
吹き飛ばされた戦術機たちを見たマサキは、プラーナを高める。するとサイバスターの右手に緑色の光で描かれた六芒星魔法陣が出現する。
「アァァァカシックバスターッ!!」
そして、マサキの放った言霊と同時にサイバスターが魔法陣に腕を突き立てる。すると魔法陣から炎で出来た鳥が飛び出してきた。
アカシックバスター、サイバスターの必殺技である。対象をアカシックレコードから抹消するとも言われており、サイバスターの必殺技でも良く多用される武装だ。もっとも現時点のこの技には、まだ発展性が残されているわけだが。
「ひ、火の鳥!?」
だが、そんな事を周囲は知る由も無い。それよりもサイバスターの力に驚くしかない。グランゾンはかろうじてなんとか理解できる武装だが、サイバスターのソレは常識外れだった。
「なんだあれは、まるで魔法ではないか・・・!?そうだ、篁、能登、山城!!」
火の鳥が要塞級を貫く様を呆然と見ていた如月だったが、要塞級に吹き飛ばされた部下の事を思い出した。
「こんな所で墜落するとは・・・!」
如月は歯噛みする。目的地を目前にしての墜落。だが、重要なのはソレでは無い。BETAの勢力圏で墜落した事だ。
「如月中尉!あいつらは俺が連れ帰る!貴官らは、先を急げ!」
状況が落ち着いたと見ると真田 晃蔵は如月に提言する。その声に多少の焦りが含まれるのは教え子の安否を気遣っての物だろう。
「真田大尉!?・・・了解しました、彼女たちを頼みます」
如月は彼の申し出を受諾する。今、ここには彼女の部下たちが居るのだ。それを放って置く事は指揮官として出来なかった。
彼女は部下に先を急ぐ事を告げると、瑞鶴を飛ばす。そして、飛んでいく瑞鶴の数機から真田へ通信が繋げられる。
「教官・・・唯依たちをお願いします!」
「ああ!任せておけ」
それは、甲斐 志摩子、石見 安芸の二名だった。彼女たちは同期の事を真田に頼む。真田は、網膜に映る不安そうな彼女たちの不安を払拭する為あえて力強く答えた。
そして、嵐山中隊が飛び去った後には、不知火とサイバスターが残っていた。
「お前は行かないのか?騎士さまよ」
真田は、サイバスターに話しかける。正体不明の未確認機ゆえに警戒はしている。それでもその言葉には、どことなく温かみがあった。
「俺もおっさんに付き合うぜ。そんな有様で残していけるかよ。それに言ったろ、最後まで面倒見るってな」
「子供が良く言う・・・。すまんな」
それは、乗っているのが自分の教え子と同じくらいの子供だからだろうか。彼はそこまで露骨にマサキを警戒してはいなかった。それよりも自分のすべき事に、子供を付き合わせると言う事により、彼は若干の罪悪感すら持ったのだろう。
「マサキ、墜落した戦術機は、あそこニャ」
マサキのファミリア、シロは墜落していた彼女たちの場所をトレースしていた。そして、判明した結果をマサキに報告した。
「あれは・・・倉庫か?おっさん!」
「ああ、こちらでも確認した」
それは、ガレージのような施設だった。そこには、いくつかの損壊の後があり、その大きさは丁度戦術機くらいだった。墜落した戦術機たちの軌跡や施設の損壊からソコが墜落地点の可能性が極めて高かった。
「俺は、戦術機から降りて、あいつらの捜索をする。お前は周囲の警戒を頼む」
不知火を付近に降着させると真田はマサキにそう言った。まだ子供と言ってよいマサキに白兵戦の可能性がある捜索よりも付近の警戒を任せたほうが良いと思ったのだ。
「ああ、任されたぜ」
真田はマサキが了承したのを聞くと、火器を持ち不知火を降りていった。マサキは、サイバスターからその姿を見送った。
しばらくするとマサキは、何かを思いついたようだ。そして、己の分身である二匹に自身の思い付きを説明したのだった。
***
「うっ、ううん・・・」
不時着した瑞鶴の中で能登 和泉は目覚めた。彼女は目が覚めると、機能しない網膜投射に背筋に冷たい物が流れ、すぐさま仲間と連絡を取ろうとした。
「こ、ここは・・・唯依!?山城さん!?みんな!?駄目、通信機が・・・」
だが、墜落の影響か、通信が繋がる事は無かった。
「確か、こう言うときは・・・」
和泉は、92式戦術機管制ユニット内に備え付けられていたある機能を作動させた。それは89式機械化歩兵装甲だ。92式戦術機管制ユニットは緊急時に緊急脱出システムの中核となる軽強化外骨格が搭載されているのだ。
装置を起動させるとシート部分のメインフレームが和泉に覆いかぶさってきて、管制ユニットに格納されている腕部、脚部が自動装着された。そして、和泉が頭に気密ヘルメットを装着すると89式機械化歩兵装甲は起動した。
「強化外骨格・・・本当に使うことになるなんて・・・」
和泉は、気密ヘルメットの中で吐息を漏らす。衛士養成校では、確かに操作を習った。しかし、実際に自分がその立場に立つとは夢にも思わなかったからだ。
強化外骨格は、コクピットハッチを力尽くで開けると、外の地面に足を着けた。どうやら、現時点では周囲にBETAは居ないようだ。
「はあぁ・・・はあぁ・・・」
彼女は、慎重に明かりの無い施設の中を進む。若干過呼吸ぎみなのは、この極限状態に緊張しているからだろう。そして、彼女が通路の先の道を曲がったときにそれらは居た。
「ヒィッ・・・!?へ、兵士級・・・!」
ところどころ筋のような物がはしる白い体に茸を思わせる頭部の形状。そして、ところどころ存在している人間的な要素が醜悪さを増強している。それは2mの異形の巨人、兵士級だった。
「に、逃げなきゃ・・・」
兵士級はBETAの中で対人探知能力は最も高い。故に兵士級はすぐに和泉の存在に気付いてしまった。和泉は、すぐさま逃げようとする。
「あ、ああっ!?」
だが、非情にも彼女は兵士級に取り押さえられてしまった。
兵士級は闘士級程ではないが動きは素早く、腕力は人間の数倍、顎の力はたとえ強化装備を着ていても食い破れるほどの力がある。本来なら兵士級は、機械化強化歩兵で十分対処可能だ。しかし、今の和泉の精神状況では到底無理であった。
「あ、ああ・・・・」
BETAの兇刃が和泉に襲いかかろうとしていた。正に絶体絶命という時だ。彼が現れたのは・・・。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!俺の教え子に何をするかぁああああ!!」
和泉を喰おうとしたBETA。だが、それは成されなかった。救助しに来た真田が手に持った機関銃で兵士級に撃ち込んで来たのだ。
「きょ、教官!?」
「走れ、能登ぉ!!」
真田の声に和泉は兵士級からすぐさま離れる。真田は援護射撃をしつつ、和泉が離脱したのを見ると彼女に付き添うようにその場を離れた。
「はあ!はあ!」
和泉は、懸命に走る。だが、さきほど兵士級に捕まった事で強化外骨格に機能不全が発生したらしく、あまりスピードは上がらなかった。
「チッ!」
彼らの後ろに兵士級の群れが迫ってくる。時々、真田が機関銃を撃つも焼け石に水だった。
「ああ!」
そして、遂に兵士級が残り数mというところまで接近してきた。和泉は迫り来る死に恐怖し、真田は歯噛みする。いざとなったら自分が犠牲になっても和泉を逃がす。真田がそう心で決めたとき、それは現れた。
「やらせないニャ!!」
白銀に輝く、浮遊物体が彼らの頭上を通過し、兵士級に攻撃を仕掛けたのだ。その攻撃を受けた兵士級は、肉体を吹き飛ばされ、細切れとなった。
「な、なんだこれは・・・!?」
「た、助かった?」
真田は呆然とし、和泉はへたりこ・・・もうとして強化外骨格がジャマして出来なかった。
「大丈夫かニャ?」
目の前の浮遊体から奇妙な訛りの言葉が聞こえてきた。
「あ、ああ・・・。お前は一体・・・?」
「え~と、おいらはマサキのファミリアだニャ」
それの正体はサイバスターの武装ハイファミリアだった。
ハイファミリアとは、魔装機神に標準装備されている武装で、マサキのファミリアであるクロとシロの自意識が融合した遠隔操作武器なのだ。そして、このハイファミリアにはシロが融合していた。
「ファ、ファミリア?」
「つまり、貴様は外の騎士の関係者か?」
和泉は聞き覚えの無い言葉に困惑するが、真田はマサキの名前から目の前の物体がサイバスターに関係する物だと推測した。
「まあ、そういうことニャ。オイラが援護するから今のうちに脱出するニャ」
そういうとシロは来た道を戻っていく。真田と和泉はお互いの顔を一呼吸見やるとシロのあとを追って行った。