武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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第十三話

西暦1998年7月31日京都

 

 

嵐山仮設基地の西10キロメートルの戦場に彼らは居た。

通常の対BETA戦は、戦術機がBETAを撹乱誘導し、戦車隊の火力によって掃討するのが一般的な戦法である。だが、この戦場においてはそのセオリーとは異なる様相を繰り広げていた。

 

 

「すごい、あの戦術機たち・・・」

 

 

グランゾンの額から放たれるグランビームは、BETAのダイヤモンドに等しい装甲を貫き、サイバスターは、その疾風のごとき動きでレーザーを躱して、BETAをディスカッターで切り裂いていく。大型BETAが現れたらサイバスターが二機のファミリアを召喚し撹乱、そしてグランゾンの胸部から直接放たれたビームによって撃ち抜いていく。

今、この戦場を支配しているのは、この二機だった。

 

 

「えっ、増援!?」

 

 

だが、順調だった戦況も所詮は戦術的なものであり、

白色の瑞鶴に乗る山城上総はBETAの増援が接近した事を報告する。

 

 

「どうなっている・・・・・・後続集団の報告は受けていないぞ!CP(コマンドポスト)ッ!正規部隊はどうしたんだ?聞こえるか!?CP応答せよ!!」

 

 

嵐山中隊の中隊長は嵐山仮設補給基地に連絡を試みるが、補給基地からは何も返事が返ってこなかった。

 

 

「・・・どうやら、貴女方の基地は陥落したようですね」

 

 

そう、この時既に嵐山仮設補給基地は陥落していたのだ。

 

 

「そんな・・・!?」

 

「ですが、現状でここを持ちこたえられますか?いえ、持ちこたえる意味がありますか?」

 

 

シュウは彼女たちに問いかける。ここを守る戦術的意義があるのか、と。

 

 

「いや、もはや意味が無いな・・・。全小隊!直ちにこの戦域を離脱!第8ラインまで後退せよ!!」

 

「「了解」」

 

 

CPとの連絡も付かず補給も見込めない状況では、このまま戦い続けても無意味であると判断した彼らは、この戦域を離脱する。

するとそんな彼らを追うようにサイバスターとグランゾンがやってきて、彼らと同行した。

 

 

「私たちもご一緒しましょう」

 

 

シュウは中隊長に通信を繋げて、自分も付いていく事を告げた。

 

 

「シュウ殿!?」

 

「俺も付いていくぜ。あんた等だけだと不安でしょうがねえからな」

 

「・・・感謝します、マサキ殿」

 

 

中隊長は、彼らが同行を申し出てくれた事を感謝した。先の戦闘でその力を振るっていた彼らが共にいる事は心強い事だった。

 

 

「急げ、敵が集結しつつある!」

 

 

嵐山中隊が匍匐飛行にて移動している間もBETAは集結していた。そして、そんな彼らは悪夢の存在を察知する。

 

 

「新たな光線級!?」

 

 

新たな光線級。それは撤退中の彼らにとって鬼門とも呼べる物だった。

 

 

「案ずるな!跳躍さえしなければ・・・」

 

 

中隊長の言葉が終わる前に空に一条の光が走った。

 

 

「ふむ、どうやら射角が開けたようですね」

 

 

レーザー級に彼らは捕捉された。だが、そのターゲットはグランゾン。ファミリア曰くチートなグランゾンはレーザーごときでは傷つける事が出来なかった。

 

 

「シュウさん、大丈夫ですか!?」

 

「ふっ、この程度ではグランゾンは傷つきませんよ。・・・しかし、邪魔ではありますね」

 

 

そういうとシュウはグランゾンを反転し、レーザーが飛んできた方向を見やる。その結果、グランゾンは撤退中の嵐山中隊から離れてしまった。

 

 

「シュウ殿!?」

 

 

中隊長は驚く。もしや自分たちの盾となる気か、と。

 

 

「ワームスマッシャー発射」

 

 

グランゾンの胸部の装甲が展開され、グランゾンの目の前の空間が歪曲し、空間に穴が開いた。生成されたワームホールにグランゾンはビームを撃つ。

 

 

「レーザーが止んだ・・・シュウさんがやったの?」

 

 

ワームホールの先は光線級につながっていたのだ。ワームスマッシャーとは、胸部装甲を開放し、エネルギービームを放つ攻撃だ。またワームホールを発生させて全包囲攻撃及び複数の目標も攻撃可能で、最大65536の目標を同時に攻撃が可能と言われている戦略レベルの領域にある兵器だ。

 

 

「でも、その所為でシュウさんは・・・」

 

 

光線級を撃破した代償にグランゾンは孤立してしまった。そう気に病んでいる彼女らに言葉をかけたものが居た。

 

 

「心配する必要はありませんよ」

 

「なっ、グランゾン!?シュウさん!?」

 

 

彼女たちの隣には孤立したはずのグランゾンが居たのだ。

 

 

「・・・やっぱ驚くよなあ、ワームホール使うとか」

 

 

マサキが言ったようにグランゾンはワームホールを使い、空間を捻じ曲げて合流したのだった。

 

 

「長距離跳躍は使えませんが、結構便利な物ですよ」

 

 

シュウがマサキにそう返していると、後方に多数の砲弾が落着した。海軍が砲撃を開始したのだ。だが、それは居住区に砲撃を撃ち込むというものであった。

 

 

「あれは、艦砲射撃・・・」

 

 

今の彼女たちには天の助けと呼べるだろう。しかし、艦砲射撃をおこなった者達の心境はいかなる物か、彼女たちは知る由も無かった。

 

 

「む、前方に友軍機?」

 

 

そろそろ第3ラインあたりに到達しようとした時、撤退している進路上に友軍機の反応をキャッチしたのだ。

 

 

「あれって94式・・・壱型丙!?」

 

 

その機体の姿が目に入った時、唯依は声をあげる。それは日本帝国が作り出した第三世代型戦術機、不知火だったからだ。

 

 

「死の8分を生き延びて、少しは衛士らしい面構えになったか?」

 

 

その声は六人の乙女たちにとっては馴染み深い物だった。

 

 

「その声は教官!?」

 

 

彼は、教え子の無事を喜びながらも彼女たちの返答に苦笑する。

 

 

「ここでは、大尉と呼べ」

 

 

そう、彼は唯依たちの教官、真田晃蔵だった

 

 

「私は、嵐山中隊の如月佳織だ。貴官は?」

 

「俺は帝国軍所属の真田晃蔵だ。俺の所属している部隊が壊滅してしまってな。そちらと合流させていただきたい」

 

 

真田が所属していた部隊はBETAにより撤退を余儀なくされたのだ。

 

 

「了解した、真田大尉・・・」

 

 

如月中隊長が真田を受け入れようとした時、その凶報が届く。

 

 

「隊長!後方にBETAが!?」

 

 

彼らにBETAが追い付いて来たのだ。

 

 

「・・・仕方が無いか。殿は俺が・・・」

 

 

真田は自分が彼らの足を止めた原因ゆえに殿を引き受けようとした。だが、その言葉に異議を出す者が居た。

 

 

「いえ、私が殿を引き受けましょう」

 

「何?・・・なっ!?まさか、光州の蒼い魔神!!」

 

「ほう、私の事を貴方は知っているようですね。・・・さしずめ彩峰中将いえ、准将閣下の部下と言った所ですか」

 

 

シュウ・シラカワ、彼が立候補したのだ。真田は、彼のグランゾンに驚愕した。真田は

彩峰元中将の下で活躍していた優秀な衛士だ。故に、教官として斯衛に出向していたにも関わらず、戦友から蒼い魔神の話を聞くことが出来たのだ。

 

 

「私のグランゾンならこの局面を乗り越えれますが、あなたの機体では死ぬだけですよ」

 

「しかし・・・」

 

 

真田にとってグランゾンは所属不明機でしかない。共闘した事で信頼関係を築けている訳ではない、彼に殿を任せてよいのか?彼は反駁する。

 

 

「彼女は貴女たちの教え子でしょう?見捨てるのですか?」

 

「誰が見捨てるか!」

 

「ならば、ここは私に任せてもらいましょう。それに光州での未完成状態とは、訳が違います」

 

 

シュウは、真田の教え子たちに対する情を利用して、話の流れを自分の望む方向に誘導した。

 

 

「シュウ・・・」

 

「マサキ、あなたはどうします?」

 

 

シュウはマサキに問いかけた。

 

 

「俺は最後まで面倒見るぜ」

 

 

マサキが選んだのは彼らを守ることだった。

 

 

「そうですか・・・。私は、後ほど合流しますので後は任せてください」

 

「へっ、死ぬんじゃねえぞ」

 

 

グランゾンを残してサイバスターと13機の戦術機たちは第8ラインの京都駅にある集積所を目指したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「それでチカ、グランゾンの問題点の洗い出しは出来ましたか?」

 

 

シュウが残ったのは単純に善意だけでは無かった。グランゾンには、現在無視しえぬ問題があったためだった。

 

 

「はい、しっかりチェックしました!・・・ですけど、結構ひどいですよ、これ。前のよりはマシですけど」

 

 

シュウのファミリアのチカは、今までグランゾンの状態をチェックしていた。だが、その結果にチカは声を曇らせていた。

 

 

「ほう・・・」

 

「ブラックホールクラスターは使用不能。ディストリオンブレイクやワームスマッシャーそして歪曲フィールドはスペックダウン。グラビトロンカノンも一発が限界で、完全なのは、グランビームとグランワームソードくらいしか無いですよ」

 

 

今のグランゾンは、その本来の力を発揮できない状態だったのだ。

 

 

「想定は出来ていましたが、修理は完全では無い様ですね」

 

 

この世界に初めて出現したグランゾンは一部の機能を除き使用不可能な状態であった。これは、グランゾンがラグナロク後の状態でもあったからだ。つまり、融合しただけで無く、損傷していた部分も実は存在していたのだった。更に修理しようにも当時のシュウは少年でしかなく、ようやく戦闘可能なぐらいに修理できる環境を手に入れたのはつい最近の事だったのだ。

 

 

「本当に、これでどうにかなるんですか?いやまあ、この程度の戦いなら問題ないですけど・・・」

 

 

「ふむ・・・ですがデータは取れました。結果的に参戦したのは上々でしたね」

 

 

今回の戦闘の介入は、母の故郷を守るだけでなくグランゾンの戦闘データを取る為でもあったのだ。

 

 

「時間さえあれば、データが無くてもご主人様なら完璧に調整できると思うんですけどねー」

 

 

もっともチカにとっては、実戦テストを行わなくても自らの主人なら解決できると確信していたが。

 

 

「今は、その時間が貴重ですよ。あのままでは、来年の来るべき日に間に合いませんでしたよ。やはり、実戦が復調には一番ですね」

 

 

来るべき日。

シュウとグランゾンが本格的に世界の表舞台に登場する日、それは世界に衝撃を与える日になるだろう。

 

 

「では、始めるとしましょうか」

 

 

シュウが、そう呟くとグランゾンは急加速した。ネオ・ドライブによって重力の楔から解き放たれたグランゾンは、グランワームソードでBETAを切り払う。切り払われたBETAは、真っ二つに吹き飛ばされる。

 

 

「ふむ、バラけてるようですが・・・その程度ではグランゾンから逃れられませんよ」

 

 

グランゾンの周囲にワームホールが展開される。現時点のグランゾンでは最大捕捉数は100足らず。だが、それでもBETA群を殲滅するには十分だった。

 

 

「受けなさい、ワームスマッシャー」

 

 

空間を超え、ワームスマッシャーが放たれる。放たれたワームスマッシャーはBETAを貫通し、またワームホールの中に入る。それが幾度と無く繰り返され瞬く間に数が減っていった。

 

 

「ほう、後続の大型種も来ましたか」

 

 

全長52mの特機級の大きさを持つBETA要塞級。体内に小型BETAを飼う、まさに移動要塞とも呼べるBETAだ。

 

 

「では、この武装を試してみましょうか。・・・この武器は空間と時間、全てを歪曲し、破壊します」

 

 

グランゾンが右腕を前方に掲げると要塞級に向けて無数の歪曲空間が直列に配置される。そして、歪曲空間に胸部からビームを放射。レンズを通る光のごとく歪曲空間によって限界まで収束された高熱の光線は、空間の崩壊と共に膨張して増進、そして要塞級を中にいるBETAごと焼滅させた。

 

 

「・・・この程度ですか。本来なら市街が吹き飛ぶくらいの威力は出せるはずなのですが」

 

「まあ、出力が足りてませんし、使えるだけマシじゃないですかね?」

 

 

だが、その威力さえも本来の力に比べると脆弱な物でしかなかったのだ。腕部の重力制御装置の不全が原因だ。

 

 

「ですが、今ので粗方片付きましたね。マサキたちと合流しましょう・・・チカ」

 

 

シュウはチカにサイバスターの現在地を聞いた。

 

 

「は~い!ちゃんとサイバスターの位置はキャッチ出来てますよ!場所は京都駅って所にいますね」

 

「ふむ。どうやら集積所に辿り着けたようですね」

 

 

サイバスターの反応は京都駅から探知された。彼らは無事に離脱できたようだとシュウが思いを巡らした瞬間、周囲に砲弾が落着した。

 

 

「・・・艦砲射撃ですか」

 

 

街の中から友軍の戦術機の反応が確認されなくなった事で市街地にも砲撃が開始されたのだ。彼らにとってグランゾンは未確認機であり、存在しない物だった。それゆえ、グランゾンがいるにも関わらず砲撃が開始されたのだ。

 

 

「わわわ、どうしましょ、ご主人様!?」

 

「この場に留まる意味はありませんね。引きますよ」

 

弱体化した歪曲フィールドでも艦砲射撃は、容易に防ぐことが可能だった。シュウは、悠々とグランゾンを京都駅へ向ける。そして、通常の戦術機どころかサイバスターをも越えるスピードを発揮できるグランゾンは、すぐに艦砲射撃が降り続ける市街地から見えなくなったのだった。


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