武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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第十二話

サイバスターとグランゾン。二体の機神は京都を目指していた。

 

 

「それで、アメリカとの問題って何なんだよ」

 

 

サイバスターの操者マサキ・アンドーはグランゾンのパイロット、シュウ・シラカワに問う。

 

 

「在日米軍は、日本帝国に対し幾度と無く戦略兵器の使用の許可を求めているのですよ」

 

「戦略兵器だって?・・・まさか!?」

 

 

マサキは戦略兵器という言葉から代表格とも呼ばれる物を想起する。そして、それはシュウに肯定された。

 

 

「ええ、核弾頭でしょうね」

 

 

核兵器、人類が生み出した禁断の兵器の一つで居住地域で使うような兵器ではなかった。

 

 

「冗談じゃねえ!そんなの受け入れられる訳がねえじゃねえか!!」

 

「ですが、米軍もかなりの被害が出ています。最悪の場合もあるでしょうね」

 

(もっとも、使われる戦略兵器が核とは限りませんがね・・・)

 

 

マサキは、シュウの言う最悪の未来からきのこ雲を連想した。もっともシュウは別の未来も想定していたが・・・。

 

 

「最悪って・・・許可も得ずに核を使うって事か?」

 

「いいえ、それは政治的にもアメリカにもダメージが大きすぎます。この場合は安保条約の一方的な破棄でしょうね」

 

 

だが、シュウの述べた答えはマサキにとって意外な物だった。

 

 

「この状況で安保の破棄だと!?」

 

「いかに同盟国と言えど、かの国にも限度という物がありますからね」

 

 

現時点で米軍はそれなりの出血をしている。自らの国民の血を流すのを嫌う彼らは圧倒的な力で一掃しようとするが、それは日本帝国の心情からして受け入れられる物ではなかった。

 

 

「政治って奴か・・・」

 

「その通りです。それにアメリカはベトナムの影響で自国民の命に過敏になっています。しかも、日本は先日国際社会から白眼視されるような事をしてしまったので、国際社会からのアメリカへの非難も少ないでしょうね」

 

 

先の光州作戦の独断専行、これにより日本の国際発言力は低下しており、日本は米国を非難できる立場には成れないのだ。

 

 

「そうか・・・」

 

 

マサキはシュウから国同士の裏情報を聞いてて、ふとあることを思い出した。

 

 

「ところで、お前はどうして俺の意見を聞いたんだ?」

 

「何ですか、いきなり?」

 

「お前は、他人の意見で動くような人間じゃないだろ。全て自分で決めて行動するタイプだろ」

 

 

マサキはシュウが他人の意思で動かされるのを嫌う人間だと直感した。その彼が自分に意見を求めて、行動した事が、マサキは腑に落ちなかった。

 

 

「・・・ええ、その通りです。良くわかりましたね」

 

「なんとなくそんな感じがしただけだ。それで、何でだ?」

 

「魔装機神操者の答えが知りたかったからとでも言っておきましょう」

 

「俺の?ってか俺たちの答えだと?」

 

 

マサキはシュウの言葉にポカンとする。自分たちの答えを知りたいといわれても呆気に取られるしかなかった。

 

 

「はい。私は、私の心の命じるままに行動します。ですので、魔装機神操者の正しい道を往く事が出来る心には興味があるのですよ」

 

 

シュウは、かねてより魔装機神操者の領域に届きたいと思っていたのだ。今回、マサキの意見を聞いたのは、それが理由だった。

 

 

「正しいって、俺はそんな大した人間じゃないぜ?」

 

「ふっ、魔装機神に選ばれている時点で大したものだと思いますがね」

 

 

マサキは、自分自身を普通の人間だと言った。だが、シュウにとっては、マサキという人間は色々の意味を持つ。シュウにとって厄介な人物ではあるが称賛に値する人物でもある事を彼は知っていた。

 

 

「おや、これは近くで戦闘が起きているようですね」

 

 

レーダーに幾つもの熱源反応が見られる。シュウのグランゾンは、付近で戦闘が行われている事を察知した。

 

 

「近くでだと?てめえの話だと、ここは後方じゃなかったのか!?」

 

 

だが、彼らが参戦する予定だった防衛線は、まだ先のはず。マサキは思わず声をあげた。シュウが告げた事前情報が間違っていたのかと言う糾弾の意味も篭っているのか、マサキの声は荒かった。

 

 

「・・・思ったよりBETAの進撃が早い。介入しますよ、マサキ」

 

 

シュウは、防衛線が突破され、ここが最前線になったことを悟ったのだ。精神を研ぎ澄ましながら、グランゾンを更に加速させる。

 

 

「ああ・・・わかったぜ」

 

 

マサキのサイバスターも翠のエーテル光を発しながらグランゾンを追う。そして、彼らは戦場に向かって跳んで行ったのだ。

 

 

 

***

 

 

 

西日本から撤退していた日本帝国軍は態勢を立て直し、日本帝国軍・在日米軍・国連軍は本州中部の進行を阻止するべく、首都である京都前面に防衛線を構築した。

その防衛線の補給基地である嵐山仮設補給基地では、12機の帝国斯衛軍の戦術機『瑞鶴』が防衛線を食い破ってきたBETAを迎撃する為に出撃していた。

 

だが迎撃地点に到着した12機の瑞鶴の内11機の衛士の殆どが満足な訓練期間を終えずに初陣を迎える者ばかりで、その中で篁唯依、甲斐志摩子、石見安芸、能登和泉、山城上総の五人は同期で若干16歳という少女だった。

 

そして、戦術機のパイロットに伝わる言葉、それは『新兵の初陣での生存平均時間は8分』というものだった。

 

 

「レーザー警報!?だめ、志摩子!高すぎるッ!!」

 

 

篁唯依は、甲斐志摩子の瑞鶴の高度が高すぎて光線級に狙われている事を警告する。突撃級を迎撃するために跳躍ユニットを起動させてBETAの背後に移動させようとして機体の高度を上げ過ぎたのだ。

人類から空を奪ったBETA光線級、その命中精度は的確で30㌔圏内の飛翔体を誤射なく打ち落とす。

 

 

「えっ・・・」

 

 

一瞬、光る光条。それは甲斐志摩子の死を予想させた。だが、その光線が彼女に届くことは無かった。

 

 

「ふむ、光学エネルギー変換術式は問題なく作動してるようですね」

 

 

甲斐志摩子の瑞鶴の前方にそれはいた。蒼き魔神グランゾン、彼はワームホールを使い甲斐志摩子の代わりにレーザーを受け止めたのだ。

 

光学エネルギー変換術式とは、ヴォルクルスが持つ特性であり、それを再現したものだ。これがグランゾンの鉄壁さの一助となっている。

 

 

「な、何あれ・・・戦術機、なの?」

 

「レーザーを受け止めた・・・?」

 

 

グランゾンの姿を見た衛士たちは驚愕に包まれた。およそ戦術機のコンセプトからかけ離れた機体、更に何も無い所から突然現れたその機体に困惑するしかなかった。

 

 

「そんな!?光線級の直撃を受けて無傷なはずが無いわ!」

 

 

そして、グランゾンは志摩子の盾と成った筈なのに傷一つも付いてなかったのだ。この世界で誰がレーザーの直撃を受けて無事で居られる戦術機などを想像できるだろうか。

 

 

「どうやら無事なようですね。そのような機体で光線級の射程圏内を飛行するのは無謀ですよ」

 

 

グランゾンから嵐山中隊に通信が入る。その威圧的な見た目に反し、内容は彼女らを労わる物だった。

 

 

「貴様は何者だ!?所属と官姓名を明かせ!」

 

 

嵐山中隊の中隊長は蒼い魔神に向かって誰何する。

 

 

「あいにく機密事項ですので、碌な事はお教えできませんが・・・私の名前は、シュウ。この機体はグランゾンです」

 

「ぐらん、ぞん・・・」

 

 

唯依は、グランゾンの名前を反駁する。

 

 

「介入の目的は帝都防衛のお手伝いですよ」

 

 

シュウ・シラカワは己の目的を告げる。だが、それは聞く者にとって何か裏があると思わされるような雰囲気だった。

 

 

「・・・わかった、救援感謝する」

 

 

だが、中隊長はシュウの申し出を受けた。

 

 

「中隊長、よろしいのですか!?」

 

 

思わず、部下は隊長に問いかける。いきなり、現れたグランゾンは怪しい物でしかなかったからだ。

 

 

「この戦況で奴の素性を問いただしている暇は無い」

 

「ふっ、ご理解いただけた様で結構です」

 

 

今の戦況は非常に危険な状態で使える物なら何でも使う必要があったからだ。その為にはシュウの怪しさにも目をつぶるしかなかった。

 

 

(しかし、私のグランゾンを知らないようですね・・・。光州でそれなりに活動していましたが・・・やはり、現状では末端にまで届いていないと言う事ですか)

 

 

この世界で、グランゾンの存在はまだ世界の一部の人間にしか知られていなかった。それゆえに彼女たちはグランゾンを見たにも拘らず、光州での出来事を連想することが出来なかったのだ。

 

 

「さて、光線級の攻撃を引き受けるだけでも支援にはなりますが・・・攻撃とはこうする物です!」

 

 

グランゾンの額についている宝玉より光が放たれた。その光は突撃級の装甲を貫いてゆき、BETAの数を確実に減らしていった。グランビーム、このビームは追尾性を持つ光学兵器だ。

 

 

「すごい・・・あの機体、光学兵器を搭載してる」

 

 

グランビームにより敵の数を減らしていくグランゾンに衛士たちは、驚嘆する。未だ光学兵器は実験段階であり実戦投入できるレベルではないからだ。だが、シュウもまた戦術機の戦い様に感嘆していた。彼が目を付けたのは山吹色の瑞鶴、篁唯依の機体だ。

 

 

「ほう、近接長刀のみで、これほどとは・・・中々の物ですね、貴方の部下は」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

唯依は、BETAをその刀のみで倒していった。その姿にシュウはある種の素質を感じたのである。中隊長もまた自分の部下の戦い様に驚きを隠せなかった。

 

 

「や、やった・・・やったよ唯依!死の8分を乗り切った!!これで私たち・・・」

 

 

石見安芸は、死の8分を乗り越えたことに歓喜の声をあげる。だが、彼女は要撃級に長刀を突き立てながら棒立ちしていた。これは戦場では致命的な隙となる。

 

 

「油断しないで!」

 

 

唯依が安芸に注意を投げかける。だが、彼女の注意力が戻る前に目の前のBETAは動き出した。要撃級は、まだ生きてたのだ。その豪腕が瑞鶴の細い腰を手折ろうとした瞬間、疾風が吹いた。

 

 

「ディスカッター!魔法剣エーテルちゃぶ台返し!」

 

 

白銀の鎧を纏った風の騎士が降臨したのだ。騎士は、手に持っている剣を振るい要撃級の腕を切り落とし、更には胴を真っ二つにした。

 

 

「また、なんか来た!?」

 

 

新しく現れたグランゾンとは別の意味で戦術機らしくない機体の出現に彼女たちはただただ驚くしかなかった。

 

 

「きれい・・・」

 

 

安芸は目の前に突如として現れた騎士に目を奪われた。彼女は機動兵器には相応しくない美しさを持つ騎士に物語の英雄を想起した。しかし、騎士から彼女に掛けられたのは叱咤だった。

 

 

「バカ野郎!死にてえのか!戦場でボサッとしてるんじゃねえ!!」

 

 

その内容は乱暴だがどことなく他人を気遣う優しさを含む物だった。

 

 

「す、すいません」

 

 

騎士の叱咤に安芸は己の迂闊さを恥じ、恐縮する。そして、騎士に魔神が近づいてきた。

 

 

「おや?遅かったじゃないですか、マサキ」

 

「シュウ!テメエが俺を置いてワープしちまったから見失っちまっただろうが!」

 

 

シュウは、戦場に介入するに当たってワームホールを展開して移動したのだ。その結果サイバスターを置いてきぼりにしてしまった。

 

 

「マサキは方向音痴だからニャ・・・グランゾンからシグニャルが出てなかったら今頃迷っていたニャ」

 

 

クロはマサキの悪癖を嘆く。筋金入りの方向音痴であるマサキは見当違いの方向に行こうとし、その都度彼のファミリアはそれを修正していったのだ。その結果、マサキたちはシュウの予想よりも遅れて登場したのだ。

 

 

「ふっ、噂通りな様ですね」

 

 

シュウは、その様に懐かしさを覚えながらも呆れるようにマサキに言った。

 

 

「うるせえ、間に合ったんだから良いだろう」

 

 

シュウの揶揄にマサキは居心地が悪そうに反論した。マサキも心の何処かで悪いと思っていたのだろう。

 

 

「お前たちは一体・・・」

 

 

二体の機神に彼女らは何度驚かされたか分からない。今も会話している間に彼らは怒涛のごとくBETAを狩っていた。その機動性でレーザーを躱すサイバスター、レーザーを受けても物ともしないグランゾン。彼らは重力の楔から解き放たれた様な動きでBETAを切り捨てていく。サイバスターは、疾風のごとく切り裂いてゆき、グランゾンもその巨体からは想像できない動きでBETAを叩き切って行ったのだ。

 

 

「彼は魔装機神サイバスターの操者マサキです。機密事項により正体を明かさない無礼を詫びましょう」

 

 

シュウは自分たちの素性を明かせない事を儀礼的にだが謝罪する。

 

 

「いや、助かる」

 

 

事実、シュウとマサキの助けは彼女らの助けになっていた。もし彼らが居なければ今この時点で立っている人数は確実に減っていただろう。

 

 

サイバスターとグランゾン、この二体により戦局は傾いた。だが、それは戦術的なものでしかなかったのだ。

 

 

(ディスカッターのプラーナ密度が・・・。どうやら例の装置は問題なく作動しているようですね。ですが、現状では一段先に到達出来るかは、なんとも言えませんね)

 

 

シュウは先程のサイバスターの技をつぶさに観察し、心の中で分析結果を呟いていた。シュウの言う、例の装置とは?それがサイバスターに何を及ぼすのか。それを知っているのはシュウ・シラカワしかいないだろう。


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