武装機甲士Alternative   作:謎の食通

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第三章:京都燃えゆ
第十話


1998年地球世界

 

 

 

未だBETAの脅威に世界は晒されていた。だが、今の世界はある一つの存在に波紋が投げられていた。

 

年の始め、留まる事を知らないBETAの東進に国連は朝鮮半島からの離脱を決定した。この作戦は無事遂行され、そして朝鮮半島を陥落させた。

 

たが、この作戦は本来の歴史とは異なる流れを迎えることになる。、

避難民を救助する為に帝国軍が戦線を離脱した頃に何者かが戦闘に介入したのだ。その何者かによりBETAは勢いを弱め、史実では壊滅していた国連軍司令部が健在だったのだ。

 

この結果、本来の流れでは極刑になるはずだった彩峰荻閣は、二階級降格の上、謹慎処分に処された。だが、世界はそれどころではなかった。

 

突如、戦闘に介入した機動兵器。

明らかに戦術機の思想とはかけ離れる重厚な外見、突撃級の甲殻をいとも容易く切り裂く大剣、戦術機を遥かに上回る加速と最高速、そして空間に穴を開けることで攻撃する機動兵器。

 

あまりにも荒唐無稽で異質すぎるソレは最初は世界諸国は錯覚と判断した。だが、光州作戦において実際に接触した日本帝国軍、大東亜連合軍らによりソレの調査は続けられていた。

 

今はまだ、戦場で良くある与太話扱い、だがそれでも探す人は存在したのだ。

 

 

「これは・・・戦術機どころか、今までの技術体系と比べると異質すぎる!」

 

日本帝国の技術廠の一部の人間も。

 

 

蒼い魔神(BlueDaemon)?良くある戦場での錯覚とも思えるが・・・だが、現に謎の勢力の介入が光州作戦にあったのは事実だ。・・・調べてみるか」

 

アメリカ合衆国の人間も。

 

「こいつ、まさか重力制御?けど、ワームホールを形成するなんてアメリカでも不可能よ。ワームホールを形成するにはマイクロブラックホールが・・・」

 

そして、香月夕呼も・・・。

 

着々と世界は蒼い機械の魔神の存在を認知しつつあった。だが、いくら探そうとも、その足跡を追う事は出来なかった。当然だろう。そのようなへまをする人物ではないし、何よりも彼は今、地上に居ないのだから・・・。

 

しかし、世界中が動き始める一方で、日本帝国はソレの調査に時間を割く余裕は無かった。来るべきBETAの日本侵攻に対しての防衛網の構築を急ぐ必要があったからだ。

 

 

 

***

 

 

 

「戻りましたよ、ワン博士」

 

 

地上に戻ったシュウはエリック・ワンの自宅兼研究所を訪れていた。

 

 

「おー、シーちゃん。・・・それでどうなったのかの?」

 

 

エリック・ワンは朗らかな笑顔でシュウを迎える。しかし、直ぐに表情を真剣な物にし、声を潜めてシュウに話しかける。

 

 

「グランゾンの修復は完了しましたよ。後は調整を残すのみです」

 

 

シュウはエリック・ワンの様子から彼の聞きたい事を察した。そして、彼に自分の愛機の状態を説明した。

 

 

「ふむ。遂にグランゾンが完成するのかの・・・。グランゾンはの、その気になれば、世界中の軍なんざ1日で壊滅させることが可能での。それが遂に完成とは恐ろしい限りじゃの」

 

 

それを聞いたエリック・ワンは感慨深そうに呟いた。また、言葉の端々に恐怖の色が散見された。見た目に反し良識的な科学者である彼にとってグランゾンの超絶的な力は、不安を掻き立てるのだ。

 

 

「別にそのような事はしませんよ、今の私はね。ワン博士、頼んでいたモノはどうなりましたか?」

 

 

シュウは張り詰めた雰囲気を纏うエリック・ワンを涼しげに流しながら、自分がラ・ギアスにいる間に頼んでいた事の進行状況を彼に聞いた。

 

 

「おお。あれなら、大体形にはなっとるぞ。なんせ予算を気にする必要が無いからの」

 

「・・・一応私の資産なので遠慮はして欲しいのですが」

 

 

シュウの地上での活動費用は、技術提供の際に得た資金が当てられていた。シュウは有力者とのコネを作るだけでなく、それなりの資金も得ていたのだ。

 

 

「まま、ケチ臭い事は無しじゃの」

 

「まあ、良いですがね」

 

 

シュウはエリック・ワンの言葉に肩を竦める。ちなみに自身のファミリアも金にがめついが、シュウ自身にもその毛があるのだった。もっともエリック・ワン相手ではケチ扱いされるよりは、気前良く出す事に決めたようだが。

 

 

「ところでシーちゃん。グランゾンのテストは何時するのかの」

 

 

グランゾンのテスト、混在したグランゾンを問題なく動かすことが出来るように重要なパーツは組み替えられた。だが、そのパーツの稼動データは不足していた。それゆえにエリック・ワンはシュウにテストの開始時期を聞いたのだ。

 

 

「そうですね・・・日本で予定しています」

 

 

ソレに対し、シュウは日本帝国でテストを行うことを告げる。

 

 

「日本?確か、そろそろBETAが攻めてくると噂だったの。それにシーちゃんのご母堂の故郷だったの。何か感傷でもあるのかの?」

 

 

シュウはある程度、自分の事情をエリック・ワンに話している。だからシュウの名前の由来である母親の事をエリック・ワンは知っているのだ。もっとも、その母親がしでかそうとした事はさすがに知らないが。いや、そもそもシュウ自身が語りたがらないだろう。別の世界において彼に深い傷を与えたあの事件は・・・。

 

 

「確かにそれもそうですが、私が選ぶのは別の理由ですよ」

 

「別の理由?なんじゃそれは?」

 

 

シュウは確かに母の故郷である日本にある程度の愛着がある。だが、今日本を選んだのは別の理由が存在していた。そして、それこそがシュウにとって重要な出来事であった。

 

 

「なぞり・・・でしょうか」

 

「ううむ、さっぱりわからん」

 

 

エリック・ワンはシュウの返答では彼の理由がわからなかった。だが、シュウにとってはそれ以外は無かったのだ。シュウと彼の最初の出会い、それは日本の東京で起きた出来事なのだから・・・。

 

 

「別に気になさらなくても結構ですよ。それよりもあれを頼みますよ」

 

「うむ、任せておけ。わざわざ、設計図どころか素材や技術まで用意してくれたんじゃ。やるべきことはやるでの」

 

「感謝しますよ、ワン博士」

 

 

シュウはエリック・ワンに礼を言う。彼にとってエリック・ワンは信頼の置ける科学者だ。常識や思慮深さを備えており、更には、別の世界でフォルテギガスの製造、平行世界の来訪者であるソウルゲインを完全修復を出来たことから優秀な科学者なのは疑う余地が無い。

 

 

「なに、気にする必要はないでの、シーちゃんや」

 

「・・・・・・その呼び方は止めてください」

 

 

もっとも馴れ馴れしい接し方をする好々爺と言った彼は、シュウですら苦手としていたが・・・。

 

 

(あのご主人様が手玉に取られてるのって珍しいな~)

 

 

そして、その主人の有様を肩に止まっていた使い魔は見ていた。地上では殆ど人前で喋ることが出来ない彼にとっての生き地獄だが、それすらも吹っ飛ぶような衝撃の映像だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

シュウがエリック・ワンの元で精神はともかく体を休めていた頃、アジアで大きな動きがあった。

 

 

日本帝国はある報告を受け取った。それは重慶ハイヴからBRTAが東進したと言う知らせだった。

遂にBETAによる日本侵攻が始まったのだ。

 

だが、日本帝国は未だ光州作戦の損耗を回復する事が出来なかった。あまりにも時間が無かったのだ。

甲16号重慶ハイヴから東進した大規模BETA群が朝鮮半島から日本海を横断しようとしていた。

 

無論、それを迎撃しようとする日本帝国軍。だが、彼らに更なる不幸が待ち受けていた。

 

台風の接近だ。

 

かつて、台風は神風と呼ばれた。なら、此度のは、なんであろうか?宇宙からの厄災、自然の災害、これが合わさる。まさに泣きっ面に蜂である。

 

そして、シュウが日本を目指すのはそんな時だった。グランゾンは隠れ蓑の術を展開しながらアメリカ大陸を飛び立ったのだ。


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