ラングラン新暦4956年初夏 ラ・ギアス某所
そこはラ・ギアスでも知る人の少ない場所だった。シュウが十年余りに渡って用意した拠点の一つであり今ここでグランゾンの修復作業が行われていた。
「ご主人様~・・・って、組み立て中でしたか」
グランゾンの修理に専念しているシュウの元にチカが羽ばたいてやってきた。そして、チカのやかましい声に否が応にも気付いたシュウは、装甲が外されメカニカルな外見を晒しているグランゾンを背に置きチカの方を振り向いた。
「チカ・・・」
「これでグランゾンは直るんですか?ご主人様が言ってた事を思い出すとどうにも難易度が高いと思うんですけど」
チカはシュウの肩に止まり、己の主人に話しかける。今のグランゾンは幾つかの平行世界のグランゾンが融合しているのだ。グランゾンのコア自体はαシリーズの物だが随所に別シリーズの物が混じっている。しかも部品ごとにでは無くそれぞれが入り混じった混沌の状態で混ざっているのだ。
「一応最低限の調整は出来ましたよ。後は、実際に動かしてみるだけですね。いち早く復調するには実戦が一番です」
シュウはグランゾンの要所要所のパーツを組み替えた。これによりある程度の機能不全は改善された。しかし、この状況の最適なセッティングをするにはデータが足りていないと言う問題があった。
「ふーん、つまりダカールの時みたいななめプ性能なんですか、これ」
「・・・言い方に疑問はありますが、近いですね」
要するにチカの言いたい事は、今のグランゾンはブラックホールクラスター以上の武器が使えないと言う事だ。言い方がアレすぎるが。
「にしても、ようやくですか~。結構時間掛かりましたね」
「それはそうでしょう。ただグランゾンを調整するだけでなく、それぞれのグランゾンに使われている技術を解析する必要があったのですから」
設備を整えるのに数年、パーツを製造できるようになるまで更に1年、チカの言うようにかなりの年月を掛けていた。
「ふむふむ・・・難しいことは、アタシにはわかりませんが、解析ですか?」
「ええ。性能自体は、私の主観虚憶・・・さしずめαと言っておきましょう。そちらの方がもっとも高いのですよ」
シュウの言うとおりαシリーズのグランゾンの性能は他のグランゾンに比べると高い水準にある。一番の大きな点は試作型縮退砲が搭載されている事だろうか。
「ですが、ゲストの技術のみを使ったグランゾンの技術はヴォルクルスの羈絏の制御がαよりも完成されていました」
シュウの言ってるのは所謂旧シリーズの事だ。火星での最終決戦の悪夢と言えば、分かる人は分かるだろう。
「そして、ハガネやヒリュウが存在した世界のグランゾンの場合もバルマーとゾヴォークの技術を高度に昇華しているので、武装や機能が多彩です」
そしてグランゾンの中でもバランスが取れているのがOGシリーズのグランゾンと言える。
「つまり、それらを混ぜることで《ぼくのかんがえたさいきょう》のグランゾンになるんですね!」
「・・・・・・・・まあ、そうですね。それよりもチカ、私に何か用事でもあったので?」
チカの言い草に言うべき言葉が思い浮かばず、詰まるシュウであった。そして、シュウはチカが自分の元にやってきた理由を聞く。
「そうでした!ご主人様、マサキがサイバスターに選ばれました!!」
「ほう・・・。サフィーネが活動していない、この世界でも選ばれましたか。・・・どういった経緯で?」
「それでは説明しましょう!」
***
神聖ラングラン王国王都ラングラン
事の始まりはモニカ王女が誘拐された事から始まった。
モニカ王女を浚ったルオゾールを追う為に魔装機神たちは離れていた。だが、そんな時王都ラングランにヴォルクルス教団の別働隊が襲来する。
今の王都には、数体の魔装機しか居なかった。だが、ヴォルクルス教団はラングランよりも高度な技術力で作られた機動兵器集団に苦戦していた。
強力な戦力が出払っている今のラングランでは戦線を支えきれず、離脱する魔装機の中にはジャオームの姿もあった。
「くそ!ウェンディ、ジャオームの修理はまだ終わらねえのか!」
緑色の髪をした15歳の少年マサキ・アンドーが青い髪の女性ウェンディ・ラスム・イクナートに怒鳴るように話しかける。
「無茶よ!まだ時間が掛かるわ」
マサキの乗機ジャオームは今修理を受けていた。ヴォルクルス教団の襲撃により損傷した機体を修復する為に格納庫で修理しているのだ。
「だけどよ、このままじゃあ・・・」
しかし、今もヴォルクルス教団の襲撃は続いていた。そして、マサキの不安が的中するかのように格納庫が振動する。ヴォルクルス教団の攻撃による物だ。
「きゃあぁぁ!?」
「ぐぅぅうう!」
突然襲ってきた衝撃に二人は体勢を崩す。マサキは咄嗟にウェンディを庇う様に倒れる。倒れたマサキの腕の中にはウェンディが抱きしめられていた。
「ウェンディ!大丈夫か?」
「え、ええ・・・」
マサキはウェンディの無事を確認する。時と場合によっては赤面モノではあるが、さすがに現状ではそのような事を言えるような状況ではない。
「くそ!何か出来ないのか!」
マサキは自身の無力を噛み締めていた。彼は自身の親をテロで失っていた。それゆえに彼は関係の無い人を巻き込むテロリズムを許すことが出来なかった。そして、何よりも自分自身の無力が悔しかった。
現況に歯噛みするしかないマサキ。だが、彼はある声を聞く。
「・・・!何だ・・・この感覚・・・」
マサキは、ハッと顔を上げる。自分が何かに呼ばれた気がしたからだ。
「マサキ・・・?」
ウェンディはそんなマサキの姿に疑問と不安を胸に抱く。
「誰かが・・・呼んでる・・・」
だが、マサキはそんなウェンディを無視する。そして、立ち上がると格納庫の奥の方へ向かって行った。
「あっ!?マサキ!」
ウェンディもまたマサキを奥に行った。そして、彼女はマサキの行き先を知っていた。なぜならソコには彼女が手懸けた最高傑作があるのだから。
「お前が、俺を呼んだのか?」
マサキの目の前には30m近い巨大な白銀の騎士が存在していた。その騎士の鎧は白銀、合間を彩るのは高貴なる紫、装いは、鳥を想起させる。およそ、兵器というよりは芸術品と表現したほうが相応しい外見でありながら、この機体が最強の魔装機だと誰が考えようか。
そして、マサキが騎士の目の前に立つと一陣の風が吹き、騎士は突然発光する。
「これはフレアー現象!?まさか、サイバスターがマサキを選んだ・・・?」
フレアー現象。精霊が集まってエーテルと干渉し、光る現象の事だ。ウェンディは、サイバスターの守護精霊がマサキを選んだ事を悟った。
「・・・呼んでる・・・のか? 俺を・・・サイバスター」
「これは・・・精霊と交感しているの?」
「俺に乗れって言ってるのか・・・?」
マサキは虚空に向かって会話していた。いや、ウェンディには分かっていた。彼はサイバスターと話していると・・・。
マサキの会話をウェンディが見ていると、再び強い風が吹き込んできた。ウェンディは思わず目を閉じる。そして、目を開けた先にはマサキは存在していなかった。
「マサキが・・・消えた!?」
その時、マサキは魔装機のコクピットのいつの間にか乗っていた。
「えっ!? な、何だ……ここは……サイバスターのコクピットなのか!?」
マサキは突然の状況に戸惑うが、今ラングランが襲われている事を思い出す。この時マサキは誰かに促されたような気がしたと後日語っていた。
「まあいいや、ニューロセンサーON! BFSチェック……OK!! さあ、動いてくれよ、サイバスターッ!!」
白銀の騎士の目が翠に輝く。そして、サイバスターは、拳を握り、一歩踏み込んだ。
「サイバスターが動く・・・!もしかしてサイバスターに乗ってるの、マサキ!?」
「ああ・・・いつの間にかな」
「マサキ、あなたはサイバスターに選ばれたのよ!」
ウェンディは、此処に至って知ることになった。最後の魔装機神操者が決まった事を・・・。
「みてえだな。それより、お前はどいてろ、ウェンディ」
「わ、わかったわ」
ウェンディは外部スピーカーから聞こえるマサキの言葉を聞き、格納庫の端っこに体を置く。
「よし、行くぞ!サイバスターGO!」
格納庫からサイバスターが飛びたつ。背中からエーテルの光が緑色に輝く。格納庫から出たサイバスターを陽光が照らす。太陽の光が白銀の装甲に輝き、その美しさが際立っていた。
「これは、サイバスターですと?一体誰が・・・」
襲撃してきたヴォルクルス教団の禿げ上がった指揮官は、サイバスターの登場に驚く。
「そこまでだ、サティルス・ギャレール!これ以上ラングランはやらせねえぜ!」
***
「・・・と言う訳でしてマサキは禿げ大司教を見事撃退した訳です」
「なるほど・・・。私と言う存在が欠けたことで、彼がこの時期に動きますか・・・」
シュウは、チカから聞いた話の内容に興味を抱く。必然とはいえ、やはり自分の知るモノとは異なる流れに知識欲が刺激されたようだ。
「それにしてもホントありきたりな主人公覚醒ものでしたねえ。まあ、キャラ設定からして主人公っぽいですしね」
「しかし、やはりラ・ギアスでもある程度動く必要があるようですね」
相変わらずなチカの台詞をスルーしつつ、シュウは今後の指針を語った。
「ここでも動くんですか?」
チカは無視された事に少しションボリしながらシュウの話に集中する。
「ええ。もっとも地上と違い表立って動くつもりはありませんがね」
「というかご主人様の地上での活動、動きすぎと言うか目立ちすぎと言うか・・・」
前の世界のシュウの行動から、この世界のシュウの行動に少しチカは違和感を覚えていた。
「仕方がありませんよ。ビアン博士が存在しておらず、更には地球連邦すら作られていないのです。私の目的を達成するには、必然的に私自身が動かなければなりません」
だが、それはかつてと状況が違いすぎる地上世界では、シュウの望みを達成することが出来ないからだった。世界を纏める指導者も鋼の救世主も存在しないのだから・・・。
「なるほど!正面切って戦わずに漁夫の利を得ようと暗躍しているご主人様が積極的に地上に関わるのは、そういう理由だったんですね」
「・・・永遠に休みを取りますか?」
シュウはチカの放った言葉に対し、絶対零度とも言える冷たい眼差しを向ける。
「じょ、冗談ですよ!ご、ご主人様も積極的に行動しますよね!」
「では、どういう時に?」
自分の主人から殺気を感じた使い魔は、咄嗟に言い訳をするが、主人から突っ込まれる。
「えっ。・・・え~と、ご主人様を利用しようとした奴が居たとき?」
「それだけですか」
シュウの目が更に細くなった。
「ええ!?基本的にそれしかないじゃないですか!」
「・・・地球防衛の為なら私とて一肌脱ぎますよ」
シュウは、溜息をつきながら言う。
そう。彼の目的の一つは、ビアン博士から受け継いだ思想、地球防衛なのだから・・・。