やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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第8話

囮を買って出た少女2人に役割を説明し、格納庫から解散する時に界塚弟に声をかける。

 

「界塚弟、お前の連れてきた女の子を連れて会議室に来てくれ。」

 

「先輩ってああいったタイプが好みなんですか?」

 

こいつはちょいちょい真顔でギャグかまして来るんだよな。

 

「アホか、そんな訳無いだろ」

 

さてと・・・・鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・・・

 

 

 

 

 

会議室で待っていると界塚弟たちがやってくる。

 

「先輩、お待たせしました。」

 

「あの、私たちに話って何でしょうか?」

 

「・・・・・・ガクガク」

 

おい、ちっこいの。人を喰種かテラフォーマーでも遭遇したような目で見てんなよ。

それにしても、物怖じしないのな、この娘・・・・

ってか、そんなに真っ直ぐ見られると

 

「えぇ、まぁ、何から切り出せば良いものか・・・」

 

そら、きょどりますよ。

ぼっちは視線集中する状況に慣れないんだから

 

「先輩、通報した方が良いですか?」

 

「おい、界塚弟。勝手に事案認定すんな。携帯しまえ。それと今この街に警察どころか火星人くらいしか居ないから」

 

「えっ、あの、・・・」

 

見ろ、漫才やってるから戸惑ってるじゃないか。

 

「あぁ、すいません。この人、いっつもこんな感じ何で」

 

この野郎、最近disり方が遠慮ないな。

 

「はぁ、その・・・」

 

「伊奈帆です。界塚伊奈帆。こっちは比企谷八幡です。」

 

「伊奈帆さんに八幡さん、ですね」

 

なんか、戸塚以外に名前で呼ばれると、背筋がゾワゾワするな。

 

「私は・・・」

 

「!?」

 

ちびっこが一瞬焦った顔したな。

まぁ仕方がないか・・・・この感じじゃ嘘を吐くとか出来なさそうだもん。

 

「私の事はセラムと呼びください。」

 

「それで、先輩。ただ自己紹介する為に呼んだんじゃないでしょ?」

 

「まぁ、目的が自己紹介ってのはあながち間違っちゃいないが」

 

「やっぱり、先輩ってこういう娘が好みなんですか」

 

「なっ!」

 

お前、そのネタあとが面倒くさいんだからな。

 

「そんなことは、させません!」

 

見ろ、ちびっこがキレちゃったじゃん。

頭の後ろにガルルルルッって効果音が見えるよ。

 

「やめなさいエデルリッゾ」

 

やーい、怒られてやんの。

さて、おふざけはこの位にしないとな

 

「界塚弟、そういうボケは重ねるな。」

 

一応、釘刺しておこう。

 

「それに、おふざけ過ぎると外交問題になるぞ。そうでしょ、火星の・・・ヴァースのお姫様?」

 

「「「!?」」」

 

この反応は当たり・・・だな。

カマをかけた甲斐があった・・・これで外れてたらベッドでのた打ち回るくらいじゃ済まないぞ。

 

「ニュースとかでの見た目と違うが」

 

「この逆賊め!」

 

ちびっこが、お姫様と俺との間に入り精一杯両手を広げている。

 

「姫様お逃げください!暗殺者の仲間です!」

 

あぁ、俺の目ってそっち向きかもね。うるせえよ。

 

「・・・先輩これって」

 

界塚弟、お前ついて来れてるか?

 

「いえ、思考が追いついてません。」

 

「お前どんだけ俺の思考読めるの?どうなってるの俺の頭?」

 

つーか俺のメンタル読む人多すぎないか?いつから俺はサトラレになったんだ?

 

「エデルリッゾ、やめなさい。」

 

「ですが、姫様!」

 

「この者が本当に暗殺者の仲間であれば、このような確認をせず私を撃っています。」

 

おーおー度胸が座ってんな、お姫様。

 

「そうか?もしかしたらもっと下賎な事を考えてるかも知れないぞ?」

 

「いえ、あなたは言葉が厳しいですが、優しい人ですから」

 

「どこをどう取ったらそういう結論が出るんだよ。」

 

「伊奈帆さんとの会話を聞いていれば分かりますよ。」

 

だから、それを聞いて何でそんな回答が出るんだよ。

 

「これでもヴァースの第一皇女ですから」

 

あれ?いま、思考を読まれた?いや、まさかな。そうそうそんな人為変態できる人なんていてたまるか。

 

「さすがにM.O手術は受けてないですよ?」

 

やっぱ読まれてたよ!おい、作者、姫様になんて漫画読ませてるんだよ!って作者って誰?

 

「それでも信用できません、姫様!」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

俺は銃器保管庫から持ち出した拳銃を取りだす。

 

「やはり!姫様!」

 

「信用されると思ってないからな。これを渡しとく」

 

拳銃の向きを変え、ちびっこに渡す。

 

「何のつもりですか?」

 

「ここからの話で俺が信用できないと思えばその引き金を引けばいい。」

 

「・・・!先輩!」

 

「界塚弟は黙ってろ。それなら聞いてもらえるな?ちびっこ?」

 

「エデルリッゾ、そんなもの必要ありません。」

 

「あんたに言っているんじゃない。侍女なのかボディーガードなのか知らんが、この子の役割の上では当然だ。」

 

「・・・・・・分かりました。姫様に危害を加えるようなら、撃ちます。」

 

「エデルリッゾ!」

 

もっとも、こんなことで小学生くらいの子にトラウマ拵える訳にいかないから、撃たせるような事は言わないけど

 

「あぁ、俺もそれで構わない。界塚弟も良いな?」

 

「まぁ、先輩の事ですから」

 

俺の目を見て腑に落ちない顔をしていたが渋々と言った感じで、飲み込んだらしい。

 

「そういう訳だ。そっちの連れの仕事の責任としては譲れないだろう?こちらとしても、言葉遣いとかマナーとかすっ飛ばしてるんだから、これくらいの事はするさ。」

 

「・・・・納得はいきませんが・・・・分かりました。そこまで、こちらの事情を懸案頂いたのに、偽りの姿のままでと言うのも失礼ですね。」

 

胸元が光った。一瞬にして強い光がした後にはお姫様の姿に変わっていた。

金髪で左に纏めた髪型、純白のドレス

そう、昨日のテロで死んだ少女が扮した姿に

 

「!?・・・くっ」

 

「・・・・・火星の・・・・・プリンセス・・・・」

 

あぶねぇ、完全に昨日の事をフラッシュバックする所だった。

何とか、湧き出した吐き気を表情を変えない様に無理やりに抑え込む。

 

「それが本来の姿ですか?」

 

「はい、先程のはホログラムを用いた光学迷彩だそうです。」

 

「王女はパレードの日に暗殺された。僕は一部始終を見ていた。」

 

「それは・・・・」

 

「影武者だったんだよ。」

 

「・・・・その通りです。」

 

なんだよ、ちびっこ。自分のセリフとんじゃねーって目はやめてね。

 

「俺は事の顛末じゃなくて、表に出来ない事実を見ちまったからな。」

 

「一体、何を?」

 

界塚弟がこんなに食いつくのも珍しい気がするな。

 

「大したことじゃない。影武者が事切れる所を目の前で見ただけだ。」

 

「「!」」

 

「その時にあんたが使っているのと同じタイプの光学迷彩が停止して本当の姿を見たからな。影武者ってのは容易に想像できる。」

 

「そう・・・ですか・・・・」

 

俯いて表情は見えないけど、声が震えてるな。皇女って言ってもその辺のメンタルは普通の女子と一緒か?

 

「それが分かっていれば、確かに・・・」

 

界塚弟もようやく思考が追い付いてきたらしい。

 

「八幡さんのご説明の通りです。」

 

眼がこっちを真っ直ぐ見てる。ちょっと目が潤んでるっぽいからか、ちょっと気後れするな。

 

「姫さまはあの日、御身体の調子を崩されたのです。それを理由に懐疑派の護衛隊長が強引に影武者を」

 

「仮説じゃなかったのか」

 

界塚弟とここに来る前にそんな話をしていたみたいだな。もっとも、界塚弟は信じてはいなかったみたいだが

 

「皇帝である私の御爺様が私の無事を知れば、この戦争は直ぐにでも終わるでしょう」

 

そう物事は簡単じゃないんだよ、お姫様

 

「それはどうかな?」

 

「どうしてですか!?」

 

ちびっこ、そんなに怒りを込めた視線向けれらると、俺死んじゃうから、向けるのは銃口だけにしてね。

 

「普通は事実関係の確認とか外交努力をするものだが、昨日の今日で侵略を仕掛けているのを見ると、あんたの生死はこの際、どうでも良いと思っている可能性があるって事だ。」

 

ヘブンズ・フォール以降、火星に悪い感情を抱くものも多い。しかし、その手のテロリストが多連装ミサイルランチャーなんて大層なモノを、当局に気取られないままに手に入れられるものじゃないだろう。

だとしたらこの国またはそれに準じる組織が手を貸したのか?それも可笑しな話だ。こんなことが起きれば地球連合の他国からの制裁は免れられないだろう。ヘブンズ・フォール以後、環境の激変で食料危機なんかも起きている地球内での輸出入における相互依存が顕著なんだからな・・・・そうなれば国家が瓦解する。

それじゃ、地球連合全体が裏で糸を引いてる?ここから先の選択肢を間違えるとまた戦争になる。けど、ハッキリ言って火星相手に戦争したところで超技術のアルドノア・ドライブくらいなものだ。戦争してまで必要かと言われるとそうじゃない。

あとは、日本との非友好国の仕業?火星は地球各国と言うよりも地球連合としてしか見ていない。それは火星との戦争になれば自国も巻き込まれる可能性が高いのにそこまでやるか?

どれも可能性を完全には否定しきれないが、メリットとデメリットが釣り合わない。

だとすると・・・・・

 

「今の情勢下で暗殺を企てる可能性が最も高い勢力はヴァースだ。

自分らで地球側のテロに偽装すれば、戦争の休戦破棄の大義名分を得られる。

資源の少ない火星にとって地球はそれこそ資源の塊だ。

戦争に勝てば、もしくは有利な状況で休戦になれば今より支援というか脅迫しやすくなる。もっとも、今の協調路線でも少しずつではあるが、支援の手も増えているのに何故こんな性急な手を必要としてるのかは知りようがないが・・・・」

 

そこが一番分からない・・・・ヴァースが黒幕にしてもデメリットが多すぎる。

 

「戦争が始まってしまえば死者が出る。そうなれば、報復に報復を重ねて双方引っ込みが付かなくなる可能性は高い。」

 

界塚弟も戦争が終わらない理由には行き当たったみたいだな。

 

「そうだ。そうすればアルドノアの超技術を持つヴァースに分があると、火星の騎士は思っているんだろう。さっき見たあの技術レベルだからな・・・・実際なにかしらの軍事バランスを取らない事には休戦は難しいだろうな。」

 

「そんな・・・・」

 

お姫様が何かほんとに泣きそうだ。

見目麗しいお姫様を言葉で泣かせる図とか罪悪感半端ないな。

ここいらで土下座が必要かな。無理?打ち首?市中引き回し?

 

「先輩、女の子、しかもお姫様泣かせて楽しいですか?」

 

界塚弟がなんかいつも以上に冷めたい目を向けてくる。

 

「俺は別にそのつもりはなかったんだが・・・やっぱこれ事案かな?」

 

「そうですね、雪ノ下先輩とユキ姉には報告しておきますよ。」

 

「それ、人生詰むから・・・・」

 

前者は社会的に後者は物理的に人生が終わりそうな気がする。いや、どっちも物理的かつ社会的に殺られるな。

 

「それでも私は出来るだけ早く、ヴァースと連絡を取りたいのです。ヴァースの血族であれば戦争を止める術もあります。」

 

おぉ、あそこから立て直すなんて思ったよりメンタル強いな。

 

「どうやって?少なくともここからは難しい。」

 

界塚弟の結論に分かりやすいように理由をつけていく。

 

「ジャミングで超距離通信どころか近距離ですら満足に出来ない。通信基地が破壊されてネットも使えない。」

 

「・・・っ」

 

「でも、あなたをヴァース政府に連絡が取れる機関まで連れていく事は出来る。ユキ姉たちに相談してみよう。」

 

「駄目だ界塚弟、テロを起こした奴らが何処に居るかも分からない。その間に本当に暗殺されちゃ元も子もない。身元がはっきりしない人間は疑ってかかるべきだ。」

 

それと口の軽そうな人間もな・・・・・クラフトマンとか・・・・

 

「私たちの問題に巻き込んでしまって申し訳ありません。この件は、どうか・・・ご内密に」

 

まぁ、現状それしかあるまい。だけど、こっちが死んでまで隠す事でもない。

この手札は使いどころが難しい。正しく使えば、考えられる中では最強だが、タイミングを間違えて出しても駄目だし、持ち続ければそれはそれで持ち主を殺す手札

 

「んで、俺の話ってのはなんて事無い。まず、あんたの存在の確認だ。それとあの火星カタフラクトに関して何か知っていれば教えてほしい、機体情報もしくはパイロットについて・・・」

 

「私が知っているのは、ほんの一部と兵器、それも端的な情報だけです。あとは揚陸城についてです。それと全てがアルドノア・ドライブの力によって動いている事くらいで・・・」

 

そりゃそうか。詳しい情報があれば楽になるんだけど・・・まぁ、お姫様がミリオタだったら引くもんな。

 

「パイロットの情報も必要なんですか?」

 

「パイロットに関してはヴァースに心底忠誠を誓っている、もしくは姫個人に忠誠かそれに準ずる感情を持っている人間にはあんたの存在は切り札となる。」

 

生存を明かして、味方に引き込めば良い。その後、火星の勢力内を探らせるとか出来るし、何より余計な戦闘を回避出来るが

 

「それ以外には?」

 

流石に界塚弟は気が付くよな・・・・そこがネックなんだよ。

 

「精々、計画が上手くいったと思い込んでる奴を一瞬惑わせるくらいが関の山だろうな。とてもじゃないが使える手じゃない。」

 

姫が生きているとなれば、相手にとってはここで殺せば良いだけだ。上手くその場を退けたとしても、タカ派の火星騎士を端から相手にしなきゃならなくなる。

その相手には確実に殺害できる作戦じゃなきゃ今は使えない。

 

「ありがとう、これで現状は理解できたよ。」

 

ちょっと心許無いがこれが今現在の手札だ。作戦に変更は無いし、この手札がどうなるかも分からないが、先々で必要になるだろう。

 

これでこの密談は終了にしようと席から腰を上げた時

 

「それでは、こちらも一つ確認したい事が」

 

お姫様はちびっこの手にあった拳銃を手に取り、銃口を俺へと向ける。

 

「っ!先輩!」

 

カチン

 

会議室に響いたのは軽い金属音だった。

 

「やはり・・・・最初から弾、入ってなかったんですね。」

 

はぁ・・・・どこかで見抜かれる様な下手打ってたかな?

 

「こんな話で命を賭ける訳に行かないんだ・・・・明日がある。」

 

「本当にそれだけですか?」

 

真っ直ぐ俺の内側まで見られてるような気がした。

 

「っ・・・・それだけだ。やる事もあるし解散しよう。急に呼び出して悪かったな。」

 

これ以上は余計なことまで気が付かれそうだし、少し強引に話を打ち切り視聴覚室を出る。

あのお姫様と喋るとなんか調子狂うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室を出て資材倉庫に向かう途中で網文に捉まり、寝ずの見張りをすると言い張って聞かない界塚准尉に食事を持って行けって網文に押し付けられた。

俺もやること山ほどあるんだけど・・・・・・・

かといって、准尉が体調でも崩すと色々と面倒な事になるので引き受ける事にした。

寒いし温かい食事の方が良いだろう。

 

俺は食事を持って界塚准尉が見張りをしている筈の教室のベランダに向かっていく。

 

「界塚准尉」

 

双眼鏡で街の方向を見ている准尉に声をかける。

 

「えっ、比企谷君?どうしたのこんな時間に」

 

毛布を頭から被ってガタガタと震えてる中、こっちを見て驚いてる。

いくら毛布があるとはいえ、もう冬の始まりの季節だ。寒くない訳が無い。

 

「いえ、見張りを交代しますんで、少し休んでください。」

 

「いいわよ。軍で慣れてるし、明日はあなた達の方が大変なんだから、比企谷君こそ休まなきゃ」

 

「いえ、避難民の誘導があるのに准尉に風邪をひかれるのも困りますし」

 

「ふふふっ」

 

「笑うとこですか?」

 

「ごめんね。明日、命のやり取りするのに風邪の心配とか」

 

「風邪で作戦狂ってほしくないだけですよ。」

 

「そうね。そういう事にしときましょ」

 

「それとこれも食べてください。さっきはカタフラクトのチェックで大したもの食べてないらしいじゃないですか?」

 

つい先ほど作った食事を准尉に渡す。

 

「情報源はナオ君ね・・・って、食事?比企谷君が作ったの?」

 

「味の方はご存じのとおり、小6レベルなんで過度な期待はしないでください。」

 

「いや、私なんかそのレベルも出来ないんだけどね。」

 

寒いのか、顔が赤いな。にしても夜食と俺の顔を交互に見てはなんか小さく唸ってる?

 

「その左腕じゃ辛いでしょうし、片手で食べられるおにぎりにしましたから」

 

ほんとはサンドウィッチにしたかったが如何せん、他の人たちで使ってしまい、具材が無かった。

あとは准尉が好物って界塚弟が言ってた玉子焼き

 

「まぁ、俺が作ったおにぎりなんて嫌だったらそのままで良いんで」

 

「そっ、そんな事!そんな事ない!」

 

「ちょ、声大きいですよ。見つかったら如何するんですか?大丈夫だと思いますが」

 

敵カタフラクトよりも界塚弟に見つかるとシスコン発動で面倒だ。

 

「あぅ、すいません・・・・・・」

 

「なんで敬語なんですか?」

 

まったく、こんな調子で明日大丈夫なんだろうか。

 

「とにかく、せめて食事の間だけ見張り代わります。」

 

「そう、それなら立ってないで」

 

ポンポン

 

准尉が自分の隣の床を叩く

隣に座れって事?何か話でもあるのだろうか?

2メートルくらいの間をあけて座ると界塚准尉が冷たい視線で睨んでくる。

 

「・・・何すか?」

 

「・・・・別に」

 

別にと言うならその眼をやめて頂けませんか?

 

「他に・・・」

 

「はい?」

 

「他に方法は無かったのかしら」

 

「作戦の事ですか?界塚弟の作戦は現状では一番効果的だと思いますよ。」

 

「あいつの技量次第ですが・・・・仕損じてもフォローするんであいつが死ぬようなリスクはかなり減らせると思いますが?」

 

「分かってるわ。私自身納得できた訳じゃないけど」

 

「それでも割り切ってもらいますよ。でも、この戦いで死んでもらっては困ります。小町たちを守るにはあいつと、あなたの力が必要ですから」

 

「捻デレさんが・・・・」

 

「何か言いました?」

 

「なーにも♪」

 

じゃ、何で楽しそうんですかね?

 

「これは全員に言うつもりだけど先に言うわね。もし、作戦中に異常を感じたら引きなさい。何があっても自分の命を最優先にする事」

 

「・・・・・了解」

 

その後、食事を終えた准尉から休むように物理的に促されて校舎内に戻った。

とは言っても、明日の作戦の前に俺には俺のやる事が色々とある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・さてと」

 

これからやる作業の為に揃えた資材をチェックしていると、界塚弟が声をかけてきた。

 

「先輩?こんな時間にどうしたんです?」

 

「あぁ、ちょっとな・・・・・それとトンネルの方に居るから何かあったらそっちで対処してくれ。」

 

「普通そこは呼んでくれだと思いますけど?それと何をするんですか?」

 

「俺にそんなの期待するな。それと特に大したことじゃない。」

 

まずは共同溝を通って用意してもらった資材をトンネルへ持っていって・・・・

はぁ・・・・めんどくさい

 

 

 

 

 

 

 

トンネルで作業をしていると寒さに体が震える。

 

・・・・マジ寒い・・・

 

どの道、作業の合間に仮眠を取ろうにも眠れない。それは昨日と同じなのだろう。

自分が他人の生き死ににこんなにも影響されるとは思ってもなかった。

 

昨日の事件と今日の決死の追跡劇、精神的な負担は生半可な物ではない。死の明確な存在とそれに対する恐怖、今この瞬間にあいつに見つかってしまうのではないのか?

恐怖が不安を生み疑念へと変え、それがまた恐怖を生みだしていく悪循環

 

このまま、散発的な陽動を続け、助けを待った方がいいのでは?

ダメだ。助けが来る可能性なんて無い。あれだけの技術力の機体だ。他でも大変な状況だろう。

アセイラム姫が居る状況なら助けも来るかもしれないが向こうがそれを認識していなければ意味が無い。

それに、フェリーを守るためには早めにこちらで状況を開始する必要がある。

時間がかかれば、最悪は親玉がこの街を絨毯爆撃くらいはやりそうだ。ってか、俺が黒幕ならそうする。

選択肢なんて一つだけだ。俺が戦ってあいつらを守る。結果としてこの手で誰かを殺すことになったとしてもだ。

いい加減に覚悟を決めろ。昨日今日と人の死に直面してきたんだ。明日もそうなるだけだ。ただ、その引き金を引くのが俺ってだけだ。

 

界塚弟は覚悟を決めているのだろうか?友人を目の前で殺されたばかりだ。それを感じる暇もないのかもしれない。

俺も開き直れればこんな楽な事無いんだがな。ぼっちの悲しい習性だな。思考を続けちまう。

 

フェリー埠頭の方は大丈夫だろうか?

あいつは未だにトンネルの入り口でこっちが出てくるのを馬鹿正直に待っている。フェリー埠頭に連絡が取れれば、さっさと出航させているところだが、向こうも情報が無いし通信を傍受されたくない。

あちらもうかつに動いて刺激しないようにしているって所だろう。

いっそ、戦闘中なら出航できる。明日の作戦はそのためのものだ。

 

 

そんな事を考えていると近くで声が聞こえた。

 

「お休みになられないのですか」

 

いつの間にかお姫様が俺の前に居た。共同溝の扉が開く音が聞こえないくらい思考の渦に居たのだろう。時間は1時ちょい前・・・・お姫様が出歩いていていい時間じゃないだろ?

 

「そういう、あんたは良いのか?ちびっこと一緒じゃなくて」

 

「エデルリッゾなら寝ています。私も先ほど目が覚めてしまって・・・・」

 

「・・・だからってこんな所まで歩き回るなよ・・・・・・・」

 

まったく、このお姫様は自分の置かれてる状況が分かってないのか?

 

「こんな遅くまで、このような所で何をなさっているんですか?」

 

「期末試験が近いからテスト前の復習をな・・・・・」

 

わざわざ言うほどの事じゃないし、界塚弟が聞くならまだしもお姫様に言っても仕方ないよなぁ・・・・

 

「あの・・・・八幡さん・・・・一つお聞きしたい事が・・・・」

 

「答えられる内容ならな。」

 

お姫様が聞きたい事なんて選択肢なんてそう多くない。

作戦の事か、火星騎士の処遇・・・・正体がバレタ原因もしくは・・・・

 

「昨日、亡くなった私の影武者となられた方の最後を教えてください。」

 

それ・・・だよなぁ・・・・正直、思い出したくないんだよな。

 

「それを聞いてどうする?」

 

「彼女は私の代わりに死んでしまったのです。私にはそれを知る義務があります。」

 

義務ね・・・・

 

「・・・・・今はだめだ。」

 

「何故ですか!?」

 

彼女の最後を聞いて心が折れると俺たちが困る。

お姫様の自己満足の責務に巻き込まれるわけにいかない・・・・

 

「今は必要ないだろ」

 

「それでも!」

 

食い下がるなぁ・・・・・まぁ、自分として死んだ人間を知りたいって言うのも分からなくはないが・・・・

 

「あの火星カタフラクトを倒した後まで我慢することだ・・・・その後なら話してやる。」

 

「・・・・本当ですか?」

 

そんな顔されるとホント罪悪感が半端ないな・・・・・

他の誰かいたら確実に通報されているんだろうな。

 

「あぁ・・・・約束する。」

 

「分かりました。約束ですよ?」

 

?なんで小指だけ出してこっちに向けてるの?

 

「スレインからこの国では、古来からこうして約束する風習があると聞きました。」

 

スレイン?誰それ?

って言うか、そんなの家族以外でやってるのなんてリア充くらいじゃないの?

女の子と指切りげんまんとか心臓に悪いわ。

 

それを教えたって事はスレインって奴はリア充か・・・・・マジで死ね・・・・

 

「現代じゃそんなのやるのは子供かバカップルくらいだ・・・・」

 

「そうなのですか?」

 

それと起源は愛の証に小指を切ったとかの重い話だからね。

 

「そんな事しなくても、終わったらちゃんと話してやる・・・・」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ・・・・ホント・・・・マジで・・・・ハチマンウソツカナイ」

 

だから、離れて!

近いから!良い匂いだから!小首傾げんなよ!可愛いとか思っちゃうだろ!

 

 

 

 

 

その後、3時を回っていても俺はまだ校舎に戻らずに作業を続けていた。

 

「はぁ・・・・疲れた・・・・・・・でも、見つけたぞ・・・」

 

一応、これで一段落だ。

それでもこの作業はここで終わらせない。この作戦前の下準備には2つの目的がある。

もう一つの目的のためにはまだ足りない。

 

次が時間的に最後かな・・・・カタフラクトのチェックしたいし・・・・・30分後にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他に寝ている人たちを起こさない様に校舎を通り抜けカタクラフト格納庫へと向かう。

 

時刻は4時過ぎ

 

作戦開始は日の出だからこの時期だと後2時間半ほど時間がある。

準備もあるから1時間くらいすれば他の奴らも集まってくるだろう・・・

 

昨日の段階で界塚准尉がチェックしているし、界塚弟も夜中に何かやっていたらしいから問題無いだろうけど、チェックに関してやり過ぎってことは無いだろう。

何せ今日はこの機体に命を預けて、戦争をやるのだから・・・・

 

「自己診断プログラム作動っと」

 

バッテリや燃料関係は昨日の内に補給済み

精々計器やプログラム関係のチェックをする位なものだ。

自己診断システムを走らせて、外から外装をチェックする。

自分が乗る予定の黒いKG-6スレイプニール

オレンジの通常機ではなく3年が行う夜間戦闘訓練用に黒く塗装され、レーダー系統が強化されている。

一部のミリタリー好きの学生の中でヨタカとか呼ばれている。

まぁ、米軍のステルス戦闘機のナイトホークをそのままパクったんだろうけど、それに俺が乗るってもの何の因果なのかね?

 

まぁ、赤トンボとか呼ばれてるオレンジに乗るよりは良いか・・・あれ派手なんだよな

 

外装とスタビライザーのチェックをしていると、昨日の戦闘で界塚准尉が救助した女の子が格納庫に入ってくるのが見えた。

まぁ、余計な事をしなければどうでもいい。

 

一通りのチェックを終えてカタクラフトハンガーから降りる。

朝飯でも作るか・・・最後の食事になるかもしれないしな。

 

「ねぇ!」

 

「うおっ!な、なんだよ急に」

 

びっくりした・・・・急に後ろから声かけるの流行ってるの?

心臓に悪いからそんな流行は廃れてくれ。

 

「さっきから声はかけてたわ。そっちが無視してんじゃない。」

 

えっ?そうなの?

 

「あ~俺ぼっちだから人に声かけられてる状況を認識できなかったわ。」

 

「・・・・へぇ・・・」

 

ちょっと、何で後退りしてんの?

 

「・・・で、何の用だ?」

 

「私、自分の役割しか作戦内容知らないんだけど、どうやってあいつを殺すの?」

 

そう言えば父を殺された言ってたからな・・・仇を討てるか気になるんだろうけど

 

「作戦は知ってはいるが、殺すかどうかは俺は知らん。」

 

「どういう事よ!」

 

ちょ、そんなに急に詰め寄られると困るんだけど・・・

ここ数日、何のなの?女子との距離が近いこと多い気がするんだけど

 

「さ、さ、作戦の最低目標はフェリーの出航の陽動と俺達の新芦原からの脱出だ。その中であいつを行動不能にする必要があるだけだ。」

 

ほら見ろ。ぼっちレベルがどこぞのVRMMORPGの双剣士クラスの俺としては、キョドって噛むのはオートスキルなんだよ。

 

「だから、結果的に殺す事もあるだろうが、絶対条件じゃない。」

 

「隠していたの?」

 

まるで俺が仇みたいな目で見られて、イラついたのかも知れない。

 

「お前の役割上必要な情報か?それに隠しているのはお互い様だ。」

 

「・・・・何のこと?」

 

「お前が火星カタクラフトから追われる理由はなんだ?」

 

「!?・・・・知らないわよ・・・・」

 

当たりっぽいな。作戦を考えるうえで気になったからカマかけてみたが・・・

 

「界塚准尉のデータで見る限り、あいつが新芦原に現れてからカタクラフト隊が遭遇するまでに大したタイムラグは無い。そして接敵した時には、既にあんたを追いかけていた。」

 

「・・・・・」

 

「そんで避難完了している筈の区画であんた達親子は何をしていた?逃げ遅れたのか?」

 

俺から距離を取って俯いててしまったので、表情は分からない。

 

「武勲とか考えるアホどもだ。スコアポイントが欲しければ、さっさと基地なり埠頭なりに行くはず・・・でもそうしないのはそれ以上のスコア、もしくはクリア条件が設定されているからだ。」

 

「現状では界塚准尉かあんたしか考えられない。でも、界塚准尉のデータでは准尉が執拗に追われる理由があると思えない。」

 

データを見た時からの違和感はこれで辻褄が合う。

 

「あんたら親子が元々の目的なら一通り説明がつくんだが?」

 

 

 

沈黙は何分に渡ったんだろう・・・

 

「知らないわよ・・・・・そんなのこっちが聞きたいくらいよ!」

 

「ただの憶測だ。でも、俺以外の奴もそう考える奴が居ると思うぞ。」

 

そんな事が分かれば、面倒くさい事この上ないからな。

これ以上、話を続ける必要もないだろう・・・

朝食を摂りに格納庫を後にしようとドアへと歩き出すと後ろから声をかけられる。

 

「あんた、名前は?」

 

「俺は知らない人に教えるなって親から言われてるんだ。」

 

それに名前を名乗るときは自分からって親から教わらなかった?

 

「ライエ・・・・ライエ・アリアーシュ」

「名前よ・・・私の・・・・・」

 

名乗れば教えると思ってんのか?

まぁ、名乗られた以上はこっちも名乗らないと、うちの部長様に更なる調教プランが与えられそうだしな。

 

「はぁ・・・・比企谷八幡だ。」

 

殺された筈の人間と何かを隠している人間

フェリーの出航と火星カタフラクトの破壊

ついでに、シスコンとブラコン

 

なんか、とんでもなく面倒な状況になりつつあるなぁ・・・・・

小町ぃ・・・お兄ちゃんストレスで胃に穴、開きそうだよぉ・・・・・




そんな訳で対ニロケラスは次回になります。

そして、抜刀さんってどう攻略すれば良いんだろう・・・・・

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