やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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第7話

戦闘データの検証も一通り終えて、校舎内を歩いていると

 

「あっ、比企谷君。」

 

職員室の近くで界塚准尉に遭遇する。

 

やばい、今の俺にとれるコマンドは一つだな・・・

 

「うっす・・・・それじゃ」

 

八幡は逃げ出した。

しかし襟を掴まれた!

 

「何でいきなり逃げるのよ。」

 

「いや、何となく」

 

だってオンブの事で絶対殺される。

 

「まったく・・・ここまで運んでくれて感謝してるんだから・・・」

 

えっ、そうなの?殺されないの?

よかったわ~ところで襟をそろそろ放してくれませんか?

 

「そ・れ・に・別に重いって言った事なんて怒ってないわよ。」

 

って、そっちか!網文か?それとも界塚弟か?チクりやがったな。

 

「いや・・・あの・・・それはですね。」

 

右腕だけでチョークスリーパーに移行しないで!毎度の事ながら巡洋艦レベルのそれが背中に当たってるんですよ。それともこれが世に言う「当ててんのよ」って奴ですか?

 

「・・・比企谷君も戦うの?」

 

なんか今日は耳元で囁かれる事が多い気がするな・・・いや、やめておこう。

真面目なトーンで真面目な話をしてきているんだから・・・・

 

「・・・・・はい」

 

少し、むず痒いが真面目に答えよう。

 

「アレイオンの通信で鞠戸大尉が言ってました。フェリーへの攻撃はまだ無いって・・・出来るだけ引き付けろって」

 

「まだ無いって事は攻撃される可能性があるって事ですよね。あのフェリーには妹が、それと雪ノ下達が乗っているんです。」

 

「それを守るためには使えるものは何でも使います。」

 

それが俺であってもだ。働きたくは無いが現状の手札での選択肢はそう多くない。

 

「その腕じゃカタフラクトの操縦は無理です。准尉には一般人の誘導をお願いします。」

「それに界塚弟も代わる気が無いでしょうね。」

 

あいつ、重度のシスコンだしな・・・

 

「そう・・・比企谷君もナオ君と同じ事を言うのね・・・」

 

首に回された腕から力が抜けていく。

 

「そりゃ、この人員での布陣なんて限られますから・・・・言う事が似てくるのは仕方が無いですよ。」

 

「そりゃ、理屈では分かっているのよ。」

 

「でも、心情的には納得できないですか」

 

「・・・そうね」

 

ほんと、このブラコンは・・・

 

「とにかく、界塚弟が作戦立てるでしょうからそれを聞いてからです。」

 

それにしてもこの状況って傍から見たらとてもよろくない状況じゃないか?

 

「あれ?ユキさん?」

 

「っ!?」

 

ドン

 

「いって・・・」

 

網文の声が聞こえたと思ったらすっごい力で後ろから押されたし

 

「い、い韻子ちゃん?ddどうしたのかな?」

 

界塚准尉、めっちゃ噛んでますけど?

 

「今、誰かといました?」

 

俺の位置から網文の姿は見えない。丁度、角の部分で死角になっているんだろう。

 

「キノセイジャナイカナ?」

 

准尉、棒読みがすぎますよ。弟と違って隠し事できないタイプなんですか?

ってか、相変らずそこまで俺と居るの嫌ならほっといてくれても良いのよ?何なら筆談とかに変えます?

 

「耶賀頼先生が話があるって探してました。」

 

「そう、分かったわ。」

 

そう言って准尉は耶賀頼先生が居るであろう保健室に向かって歩き始めた。

 

「・・・・・結局何だったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少しして、会議室に呼ばれた俺は界塚弟に確認する。

 

「で、界塚弟はバリアの対抗策はあるのか?」

 

「はい、それも含めて説明します。」

 

さすがに優秀だな。それじゃ、聞かせてもらうか。

会議室の後方の壁に寄りかかり、作戦会議の開始を待つ。数分で網文とクラフトマンが来て席に座り、界塚准尉も入口近くに寄りかかる。

ってか、准尉の左腕をつっているって事は、戦闘は無理だな。

まぁ、他の避難民の誘導とかをやってもらおう。一介の学生よりも怪我してるとはいえ軍人の方が言うこと聞くだろしね。

 

「これは、あの火星カタフラクトについてまとめてみたんだけど」

 

「あいつ、ユキ姉が撃った弾を跳ね返すんじゃなくて全て吸い込んでたよね。」

 

そう、弾くでも受け止めているでもない。吸収、消滅もしくは分解そんな感じだ。仮に今は吸収って事にしておこう。

 

「弾だけじゃない、アクティブセンサーの信号もあいつに当てると帰ってこない」

 

俺がアレイオンの中に居る間のアレはそういった事だったのか。仕事が早いな。そのまま、あいつ倒してくれると俺が仕事しなくて済むんだけどな。

 

「どういうこと?」

 

界塚准尉はまだ理解できないらしい

 

「赤外線も電波探知もレーダーも全部だめ」

 

「エコーが戻らなかったんです」

 

その辺も吸収するって事かよ。んじゃ、一応の可能性は先に確認しよう。

 

「ステルスの可能性はどうなんだ?」

 

赤外線ステルスに電波ステルス、レーダーステルスどれも既存の技術だ。火星の軍人の性質、カタフラクトの性質から言って可能性は限りなく低いがな。

 

「観測用ラジコン2機を飛ばしてバイスタティック方式でも調べました。その可能性は低いと思います。」

 

ほんと、仕事早いな。そこまでやったんだったら本当に可能性は低いか。まぁ、そんな機能があるんだったら新芦原に来る時に使うだろうしな。

 

「運動エネルギーだけじゃなく、電波もレーザーも吸収される。きっとそれがあの壁の特性なんだと思う」

 

今までのデータを検証するとそれは間違いなさそうだ。

ただ、壁じゃ分かりにくいしな。

 

「まるでSFアニメのバリアだな」

 

「バリアァ!?」

 

俺の表現に網文が呆れた声を出す。

 

「物質も光も音も電波も触れるもの全てを吸収するバリア」

 

「でもさ、あいつはどうやってバリアのこっち側を見ているんだろう」

 

そう、あのバリアの特性上それが気になる。

他の奴もそれに気が付いたのか。界塚弟に視線も向ける。

 

「外からの情報を全部バリアで遮断しているんだよ。」

 

「もしかしたら、あいつはバリア越しにこっちを見る事も聞く事も出来ないのかも」

 

「僕の考えでは、あのバリアの内側は・・・真っ黒に見えるはず」

 

何せ、レーザーすら通さないんだから隔絶された別次元と考えてもいい。

あれ、俺も欲しいな。あれあったら俺のぼっちライフが捗りそうだ。

 

「でも、だったらなんであいつの攻撃は当たるの?」

 

「たしかに、見て無いんならどうやって狙いをつけてんだ?」

 

ここまで聞いてもわからないのか?界塚弟も大変だな。幼馴染とクラスメイトとの間に理解力というか類推能力がこれだけ違うと俺だと面倒くさくて距離を取るかも

あっ、俺にはまずそんな相手いないか。

 

「感覚神経を外部に委譲しているんだろう。出なけりゃ遮蔽物の向こう側に攻撃なんて簡単じゃない。衛星カメラでもハッキングしてるのか、自前のカメラでも飛ばしているのか、輸送機のカメラを利用しているってところが可能性としてあるくらいだが」

 

「はい、僕は自前のカメラって線だと思います。それにあれだけしつこく追ってきたくせに、僕らがトンネルに入った瞬間、あっさり諦めた。」

 

俺の意見に同意する界塚弟は話を続ける。

 

「精々、俯瞰視点の合成で立体に映像化はできるが、純粋に前を映せないか」

 

「だから、どんなに引き離されても僕たちを追って来れたし、トンネルに入るのを嫌がった」

 

「今でもあいつは空から僕たちを監視しているはずだ」

 

ただ、それもそんなに広範囲は見れないみたいだな。この街全てを視界に入れてるのなら、さっき格納庫に行く時に見つかっているはず

それともカメラの高度はそんなに高くないのか?

 

「なるほどな、逆にこうして屋根の下に居る間は安全って訳だ」

 

だからと言って、このままここに居たんではあいつはフェリー埠頭に向かうだろう。

 

「でも、外に出たとたんに見つかる」

 

「多分、チャンスは一回限りだ。」

 

そりゃな。失敗は死を意味する。

 

「それで、界塚弟、お前の作戦を聞こうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが僕のプランです。」

 

なるほどな。さすがに優秀だ。相手の弱点に関しては理由聞けば納得できるものだ。

でも相手の間合いに入らなければならないから、界塚弟の失敗の時のリスクはが高いな。

詰めに関しては調整の余地がありそうだ。

 

「なるほどな・・・・たしかに現状ではそれが一番良さそうだな。」

 

「それじゃ、その方向で話を詰めましょうか。」

 

界塚准尉も作戦立案はしていたが、成功確率は弟の方が高いな。

問題点は人手とあいつをどうやって精神を気付かれないように追い詰めるかだ。

 

「界塚准尉。」

 

「何、比企谷君?」

 

「その作戦をするにあたって、その前にやる事を提案したいんですけど・・・」

 

「何かしら?」

 

「まず・・・クラフトマン、観測ラジコンはあと何個ある?」

 

「正確な数は・・・そう多くないって事しか・・・」

 

「なら、正確な数を頼む。」

 

ゲリラとテロの戦術だが、綺麗事なんて言っていられないし、このエリアはあれだけドンパチやっていたんだ。多分、避難は完了している。

人的被害を気にしなくて良い。

 

「それと作戦目標を再確認する。第一目標はあいつをフェリー埠頭に行かせない事で良いんだよな。」

 

「そうね。フェリー埠頭に行かれると面倒だからね。」

 

「あそこには小町、俺の家族がいるからな。リスクは可能な限り減らしたい」

 

それにあいつ等も居るしな・・・

 

「それと人手ですね。一般人の中から誰か手伝ってもらえるかの確認をお願いします。」

 

界塚弟の作戦じゃ人数が足りない。失敗すれば全員死にかねないとはいえ一般人でも出来る事はあるだろう。

 

「そうね、私の方から話してみるわ。」

 

んでもって、あとは後詰だな。

 

「その上で今回の作戦に付け加えたい事があります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大まかな作戦は決まったが、問題が残っている。

 

人手だ。准尉が大人の一般人に志願者を募ったが、誰も手を挙げなかったらしい

 

あいつを如何にかしなければ、自分だって死ぬって言うのに・・・・・命懸けは高校生に任せて自分はのうのうとしようって訳かよ。

 

一応、そっちで話し合って決めるらしいが、まぁ無理だろう。

 

どうせどこかで見たような責任のなすりつけ合いで終わるんだろうな。

准尉を参加させるわけにいかないし・・・・・弱ったな・・・・・・・

 

 

 

 

 

准尉がカタフラクトのチェックをしている間に格納庫で使える武装などを直接見て詳細を詰める。

 

「KATで出るのが俺達4人、比企谷先輩は時間差で出るとして、さらに囮トラックに2人必要だろ?」

 

クラフトマンが人員編成について界塚弟に聞いている。

そう、この作戦上、囮が必要になる。それもカタフラクトのような戦える囮じゃなく、相手にはただ逃げるだけの獲物で無ければならない。ハッキリ言って危険度の高い役割だ。

 

「私に、お手伝いさせてください。」

 

格納庫に響く綺麗な声

界塚弟が連れてきた北欧系美少女だ。相変らず所作が上品だな・・・雪ノ下よりも堂に入ってるんじゃないか?

 

「姫さっ!」

 

妹?が言おうとした言葉を左手で遮る北欧系

それにしても妹にしては似ていないな。家族に敬語ってか尊敬語てのも、どこぞの劣等生じゃないんだから・・・・ん?姫?

昨日から続いてる思考のバラバラのジグソーの1ピースが見つかったような気がするんだけど、角度が違うのか向きが違うのか・・・

俺が思考の渦に嵌っている間に会話は続いていく。

 

「北欧美人」

 

「この窮地、この試練、私には引き受けるべき務めがあると感じます。」

 

「中二病?」

 

ほんとの中二病はこういったときは動けないから違うって

でも、確かに文字にしてみれば、そう感じるのにこの人が言うと感じさせない。

普段からこういった異常なまでに丁寧な言葉を使う立場にあるのか?

その時、いくつかのピースが向きを変えて嵌っていくのを感じた。

姫?その後に「さ」が続くこの状況での言葉ってなんだ?姫咲?姫さん?姫様・・・・

 

≪ひ、め・・・さ・・・・・ま≫

 

雪ノ下以上に上品な所作と言葉使い、立場?

引き受ける[べき]務め、火星軍の侵攻の早さ、昨日のテロ、この戦争のメリットとデメリット、影武者・・・そして姫という言葉

 

そうか、そういう事か・・・あんたがこの戦いの火種であり、終結の鍵であり、地球と火星の双方を殺しかねない存在・・・・・

俯いた、俺はこの時どんな顔していたんだろうな。

 

かと言って、ここでそれを指摘するのは不味い。

網文たちを疑うわけじゃないが、秘密を知るのは最低限の奴だけで良い。

クラフトマンとか口軽そうだもの

 

「どうか是非・・・・・」

 

でも、こいつがあの火星人は無理にしても、ヴァースを追い詰める最後の切り札になる事は確かだ。

 

「あいつは父を殺した・・・私にも協力させて」

 

こっちは界塚准尉が助け出した一般人だよな。

良かったよ、ここで北欧系を問い詰めなくて・・・・・・

 

「こっちも命がけだぜ」

 

クラフトマンが忠告する

 

「分かってる。任せて」

 

にしても、結局は同年代だけの国籍もバラバラ

まるでプライベートアーミー・・・中二が捗るな。

俺と界塚弟たちは仕方ないとしても、こんな女の子に囮をさせるのかよ、大人共は・・・死にたくないのは分かるがプライド無いのかね?

俺?とっくの昔に無くなってるよ。この前、リサイクルショップで100円だったな。

 

 

「決行は明朝、日の出と共に出発しよう。」

 

日の出と共に作戦決行か・・・・

武装などの再確認と自分の手札の一枚が切り札になりえるか・・・・

 

「あの火星カタフラクトを撃退する。」

 

界塚弟の言葉に肯きながらこの後の面倒事に思考を画策するのだった。


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