やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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EPISODE.02 地球の一番長い日 -Beyond the Horizon-
第4話


『緊急速報です。先程、世界各地の主要都市に火星ヴァース帝国からの軍事攻撃が・・・』

 

はぁ、やっぱこうなったか・・・・

そりゃ、自国の姫様が暗殺されて黙っているとは思っていなかったが、昨日の今日じゃないか。

外交努力って言葉は火星にはないのかよ、脳筋どもが。

 

朝からTVでは被害状況が錯綜しているが、休戦協定を無視してのヴァースの侵略を報じていた。

昼前にはこの新芦原市にも避難勧告が出された事が分かった。

俺のとなりでは小町が青い顔で震えていた。

 

「お兄ちゃん、これなに?」

小町はどこかで嘘だと思っているんだろう

 

「何じゃない、現実だ。飲み込め」

こんな時に気の利いた事がいえないから、ごみいちゃん認定されるんだろうな。

 

避難民用のフェリーがある埠頭までは、距離がある。

昨日の暗殺事件の犯人を逃さない為に新芦原への出入りが規制されているが、その為に両親ともにまだ帰ってきていないし、車も無い。

 

とにかく、思考を切り替える必要がある。目的はハッキリしているんだから、その為に冷静に考えろ。

 

「小町、とにかく親父たちに連絡を取ってフェリーに乗るように言っておけ。乗り場で合流じゃなくて、フェリーの中、もしくは避難先での合流だ。」

 

「ふぇっ?あっ、え?」

 

多分、まだ状況が飲み込めないんだろう。でも、それを咀嚼出来るのを待つ時間は無い。

 

「しっかりしろ、小町!まずは親父たちに連絡、そしたら急いで荷物を準備してフェリー埠頭に向かうぞ!」

 

小町の肩を掴み、怯えている目を見てハッキリと発音して話してやる。

 

「大丈夫だ。距離はあるが時間には十分余裕があるし、途中でバスとかも出てるだろう。親父たちの方はここよりフェリー埠頭に近い。」

 

涙を流しつつ少しだが小町の目に光が戻ってくる。軽く頭をなでてやると、目を瞑ってされるがままになる。

 

「小町は俺が守ってやるから、安心しろ」

 

「お兄ちゃん、それ小町的に超ポイント高いよ。高すぎて腐ってるのも悪くないかなって思っちゃうレベル」

 

「俺の場合は腐ってるんじゃなくて成熟してるんだよ。いいから準備しろ」

 

「これだから、ごみぃちゃんは」

 

携帯片手に荷物を取りに部屋に戻る小町。これで、ひとまずメンタル面は大丈夫そうだな。

 

「さて、俺も荷物をまとめるか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

荷物を纏める最中に由比ヶ浜から連絡があり、何か所かでフェリー埠頭までのバスがピストン輸送をしているらしい事と、生徒会でも軍部からの要請で何かしらやっているらしい事を聞いた。

 

雪ノ下は実家の用意した車でフェリー埠頭に向かうらしい。

由比ヶ浜経由で避難したことは分かっているが、念のために雪ノ下に連絡を取ろうと昨日の番号に連絡してみる。車で向かうなら小町だけでも乗せられないかと思ったのだが、恐らくは移動中なのだろう、電話は繋がらなかった。

 

 

荷物を纏めてもう一度スマホを手に取る。

こういった状況で一番重要なのは正確な情報だ。そして、最悪の事態はこの街が戦場になる事だ。その時でも小町を含めて死ぬ訳にいかない。その為には自分で反撃できる体勢を取る必要が出てくる。

スマホの表示には鞠戸浩一郎の文字

 

「もしもし・・・大尉に聞きたい事があるんですが・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

大尉からの情報を書いたメモを制服の内ポケットに入れて玄関前で妹を待つと

 

「お兄ちゃん、お待たせ」

 

小町は大きめのバッグともう一つ荷物を持って降りてきた。

避難の際は最小限の荷物ってのが原則だ。だから、その二つ目の荷物は置いて行けと言いたいところだが中身がカマクラじゃしょーがない。我が家のトップカーストを置いては行けない。って、ここで小町と喧嘩する余裕はない。後で怒られたらその時考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

出来るだけコンパクトにしたとはいえ荷物は重い。何せ、いつ避難生活が終わるのか分からない以上、必然的に必要最小限とはいえ品目は増える。

カバンの中には着替えにモバイルPC、もしもの時の為の非常食としてカロリーメイトとかも入れてる。

 

俺たちは、家から最寄りの駅が輸送バスの乗り場になっている情報を聞き、一先ず駅を目指して二人で歩く。

 

幹線道路まで出ると輸送バスへと向かうのだろう人が何人もいる。

それでも駅からも距離のある自宅からここまで来るのに時間がかかった。本当なら自転車を使えばもっと早かったのかも知れないが、自転車の二人乗りで事故って怪我をするリスクを避けたかった。普通の時と違って、色々な意味で命に関わる事になりかねない。

 

「あれ?ヒッキーに小町ちゃん?」

 

「あっ結衣さん!」

 

駅に続く道の途中、由比ヶ浜と出くわす。

 

「由比ヶ浜、何でまだ残ってるの?お前ん家は輸送バスの場所から、そんなに遠くないだろ?」

 

由比ヶ浜は大きなバッグの他にもう一つのバッグを地面に置いている。

あれはペット用のバッグだから、こいつも犬を置いてこれなかった口か。

 

「さっきの電話の後、通行規制が解けたの。それでパパが車でこっちに向かってるんだって」

 

そうか、避難勧告が出てるのに通行規制に人員割けないもんな。

 

「それでそのまま車でフェリー埠頭に行く予定」

 

そういう訳なら、小町だけでもそれに便乗させよう。その方が俺も動きやすいし

 

「由比ヶ浜、その車に小町乗せられるか?」

 

「お兄ちゃん?」

 

「えっ、あー・・・うん。小町ちゃん一人くらいなら大丈夫だけど」

 

「そうか。小町、由比ガ浜と一緒に先にフェリー埠頭に行け。」

 

「えっ、ちょ、お兄ちゃん!」

 

「それじゃヒッキーはどうするの?」

 

由比ヶ浜も小町も不安交じりにこっちを見ている。

 

「由比ヶ浜のそっちのバッグはお前ん所の犬だろ?それならこっちもカマクラ居るからな。ピストンバスでトラブルは避けたいんだ。」

 

さっきからバッグの中からキャンキャン聞こえてるしな・・・・

 

「それで雪ノ下に連絡しておけ。本来ならダメなんだろうけど由比ヶ浜と猫絡みだ。何かしら対応してくれると思うぞ。」

 

こんなこと言うとあいつの場合、視線だけで俺を殺しに来そうだけど、ガハマジャンキーで猫ジャンキーの雪ノ下が何とかするだろうし

 

「うん、一応連絡してみる。」

 

「それに痴漢が出そうなすし詰めのバスに小町を乗せる訳にいかん!」

 

「うわぁ・・・それはさすがの小町もドン引きだよ。」

 

「出た、シスコン・・・・」

 

えっ、そこまでドン引きするところ?ウィットなジョークですよ?

 

「まぁ、俺はピストンバスで後から行く。それに俺一人の方がいざって時に動きやすいからな。」

 

 

そんな時、珍しく俺のスマホが着信を告げる。

この番号って誰?

 

ピッ

 

「もしもし、どちら様ですか?」

 

『もしもし、比企谷君?』

 

「ヒッキー誰から?」

 

『あれ、その声って結衣ちゃん?』

 

何かどこかのベルベットルームで聞いた声だな・・・・まぁいいか。碌な内容じゃなさそうだ。この状況で面倒事に巻きこまれたくない。そして、由比ヶ浜は電話中に声掛けるなって教わらなかった?

とりあえず、通話を切ろう。

 

ピッ

 

「えっ、良いの?電話切っちゃって?」

 

「俺にかかってくる電話なんて家族からかイタ電くらいだ。」

 

「お兄ちゃん、その理屈で行くと目の前の人もイタ電認定だけど」

 

小町ちゃん、その呆れ果てたって眼やめようね。お兄ちゃん精神ダメージで誰かのサーバントを強化しちゃうから

 

「酷っ!ヒッキー、マジサイテー!」

 

どっちかって言うと由比ヶ浜の場合はメールだけどな。

もはや、デコが激しすぎてミョルニルハンマーでフォレストな夏の人と戦い始めるレベル

 

「あぁ、間違えた家族と戸塚とイタ電だったわ。」

 

「ヒッキー、彩ちゃんのこと好きすぎだし!」

 

どっちかっていうとグラハムさん的な感じだな。そうこれは愛だ!

 

♪~

 

今度は由比ヶ浜に着信があったらしい。こんな立て込んでる時に一体誰なんだか。

つーか、嫌な予感しかしないな。

 

「もしもし、ユキちゃん?どうかしたんですか?」

 

ユキちゃん?あぁ界塚准尉か・・・

 

「はい・・・はい、居ます。」

 

ガハマさん、何で俺の方を睨んでるんですか?それと小町ちゃん、ジョジョ的な効果音で「うわぁ」って表示するのやめてくれない?

 

「・・・分かりました。今、変わります。」

「ユキちゃんがヒッキーに話があるって・・・」

 

なんかオーラ見えるんですけどガハマさん?

そんなに俺に携帯触られたくなかったら、掛け直させるとかすれば良いじゃないですか。

ファブれば良いんですか?でも今ファブリーズ持ってないんですけど・・・

 

「はぁ、ごみぃちゃん。」

 

えっ、何で俺、ゴミ認定されての?

 

『比企谷君、下らないこと考えてないで早く電話を取りなさい!』

 

何で電話の向こうでこっちの状況分かってるの?エスパーなの?

渋々、由比ヶ浜の携帯を受け取る。

携帯デコるの良いけど、持ち辛ぇ・・・

 

「はぁ、もしもし何の用ですか、准尉?」

 

『その前に、さっき電話を切った言い訳を聞こうかしら・・・・』

 

こえぇ、言葉に怒りのエネルギー乗せすぎだから。マジでこの人、ペルソナ使えるんじゃないかな?

 

「いや、それはですね?知らない電話番

 

『知らない電話番号に出て、それでも私の声を認識した上で、切る理由を聞きましょうか・・・』

 

食い気味が過ぎますよ。せめてセリフを最後まで言わせてよ。

 

「うぅ・・・なんかすいません。」

 

『なんか?』

 

電話の向こうでメキメキって音が聞こえるんだけど、このままじゃ携帯を握り潰すのと同時に俺の命のデッドエンドフラグ立てられそうだ。

 

「いえ、すいません。俺が悪かったです。」

 

『はぁ、まぁ時間も無いし今は良いわ。比企谷君、今は何処にいるの?』

 

「駅に向かってるところです。」

 

『そう、一応フェリー埠頭には向かっているのね?』

 

「えぇ、まぁ」

 

『生徒で避難してない人に連絡を取っているんだけど・・・』

 

何で俺が避難できないと思われているんだ?

 

『比企谷君の場合、引き籠って出てこないか、真っ先に逃げてるかだもの。』

 

「流石に命に関わりますから、引き籠りませんよ。」

 

まったく人を何だと思っているんだか・・・

 

『何って冬眠直前の熊?』

 

それってだいぶ前のレポートネタじゃないですか。

 

「それはそうと、准尉達はまだ避難しないんですか?」

 

『ええ、ナオ君と一緒に私の車で避難する予定なんだけどね。』

 

「そうですか。それじゃ、俺も輸送バスに向かうんで切りますよ。」

 

『ええ、その、気を付けてね』。

 

「うっす。」

 

ピッ

 

通話を終えて携帯を由比ヶ浜に返す。

あっ、やばい。ファブリーズしてない。

 

「ユキちゃん何だって?」

 

「大したことじゃない。只の避難確認みたいなものだ。」

 

「・・・ふーん。」

 

何ですかその眼はファブってないだけでそこまで怒ります?

そして、チラチラと携帯見るのやめてくれません。拭くなら後で拭いてね。目の前でやられるとダメージがカンストしかねないから

 

「はぁ、とにかく俺はもう行くぞ。このままじゃ輸送バスに乗り遅れる。」

 

「う・・・うん。お兄ちゃん気を付けてね。」

 

「由比ヶ浜、後は頼むな。」

 

「ヒッキーに頼まれるのなんて珍しいよね・・・泥舟に乗ったつもりで任せてよ。」

 

「泥船じゃフェリーが沈んじゃうだろうが」

 

「結衣さんってどーやって高校生になったの?」

 

「奇跡と魔法がパンパカパーンなんだろ?」

 

少なくとも実力はあり得ない。

多分、小4レベルでも厳しいと思うし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜に小町を任せて、俺は最寄りの駅に設定された輸送バスへと向かった。

この地域の避難は比較的済んでいるとはいえ、これ以上の人が乗る事は出来ない位には車内は混雑していた。

 

10分ほど走った所で輸送バスが急停車した。

車内の人間は口々に疑問を呟いている。近くの窓から外を見ると大破している乗用車が見える。

 

輸送バスの運転手が降りて大破した車体を確認し戻ってくると俺の服を見て話しかけてくる。

 

「芦原高校の生徒だね。大破した車体に人が気を失って取り残されているんだ。手を貸してくれ。」

 

まったく、規則とはいえ学生服を着るんじゃなかった。いくら授業でやっているとはいえこんな時に人助けとか通りすがりの仮面ライダーじゃあるまいし・・・

 

まぁ、やらなきゃやらないでフェリー埠頭まで時間がかかるだけだしさっさとやるか。

 

 

 

 

バールを変形したドアに挟んで抉じ開ける。

クトゥルフ神話的な感じの力があればすぐ終わったんだけど、生憎とSAN値が絶賛降下中の俺には骨の折れる作業だった。

 

「酷いな・・・」

 

バスの運転手が大破した車から引っ張り出したのは中年の男性だったが、頭を打っているのと足が本来有り得ない方向に曲がって骨が露出しているみたいで出血もある。

 

これは高度医療に直行レベルだろうな・・・かといって避難勧告の中で病院はやっていない以上、一刻も早く避難した医師も居るであろうフェリー埠頭に連れて行くべきだ。

 

しかし、輸送バスは定員オーバーだ。フェリー埠頭への足が確保できない以上、代わりに降りてくれる人なんて居ないだろう。

 

とにかく、安静にさせる為に手を貸した大人達で簡易担架を作りバスへと乗せている。

 

「先輩、こんなところで何をしてるんです。」

 

そんな時に後ろから声をかけられ振り返る。

界塚弟、お前毎回、俺の後ろから声かけてくるよな。なに?スニーキングミッションなの?

 

「お前こそ避難は良いのかよ」

 

「ユキ姉の車で避難だったんですけど、待機任務で」

 

「あーそりゃそうか。避難勧告出てるんだし当然か」

 

お前シスコンだから准尉が絡むと面倒だもんな。

無意識下で愛しのお姉さまを置いて避難できません、とかそんな感じなんだろうな。

 

「何か馬鹿にしてません?」

 

おっと、そういやこいつも思考を読むスキルがあるんだったわ。

 

「えっと、あの」

 

それにしても、また随分な美少女と子供連れてんな。これが俺なら事案として通報されるんだろうな。

何か聞きたげだが、界塚弟もスルーしているからな。ここは俺もスルーしよう。別に美少女だから緊張するとかじゃないからね。比企谷家の家訓≪美人を見たら騙されると思え≫を守ってるだけだからね。

 

 

「まぁ、気にするな。それよりお前はどうやって避難するんだ?」

 

「生徒会で避難を手伝っているみたいで、韻子にメールしたんでもうすぐ学校の兵員輸送車が来ると思いますけど」

 

「なるほどな。」

 

それなら、フェリー埠頭までの足は何とかなるか。でもまぁ揉めるだろうし、面倒事が少ない最善手は・・・

 

「あの、すいません。」

 

俺は輸送バスの運転手に声をかける。

 

「あと少しでここに他の輸送車が来るので、俺が降りますからその人を一刻も早くフェリー埠頭の医者の所に」

 

「そうか、申し訳ないな。」

 

そう言って運転手は俺の座ってた席から荷物を取りにバスに戻っていった。

 

「先輩、何の話ですか?」

 

まだ、事態が把握できていない界塚弟が聞いてくるが、話せば長くなる。

っていうか、話すの面倒くさい。

 

「後で話す。」

 

まぁ、後には忘れているからこれで良い。

それと・・・

 

「とりあえず、網文にもう一人回収してくれってメール打ってくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送車を待っている間はとにかく無言。

 

何せ俺と界塚弟はあれこれしゃべるタイプじゃないし、界塚弟の連れてきた北欧系美少女との会話なんてハードルが高すぎる。

だって、美少女でも無理なのに外国人だよ。日本語は通じそうだけどマジで無理。

 

それにちっさい方はこっちの目を見て小声で「腐ってる・・・ヴァンパイア?・・・ゾンビ?・・・・グール?」とか言ってガタガタとして青い顔していた。腐ってるのは認めるが、石仮面をかぶった覚えはないし、Tウィルスには断じて感染していないし、赫子でバトルもしない。あと聞こえないように言えよな、チビッ子。

今は大丈夫?みたいだけど、あからさまにこっち見ないしな。

 

 

そんな重苦しい中、俺のスマホが鳴る。

 

メールの着信音じゃないと思い画面で番号を確認する。

昨日の番号、雪ノ下だな。

 

「もしもし、雪ノ下か?」

 

『着信履歴があったのだけれど、なぜあなたがこの番号を知っているのかしら、ストーカー谷君』

 

開幕罵倒ですか、そうですか。そう来なくちゃな、お前は。

 

「昨日の事件の時に電話してきただろうが・・・一応、安否確認でな」

 

『そう、私としたことが非通知設定し忘れるなんてね。末代までの恥ね。それでどんな用件だったのかしら』

 

末代までって俺に個人情報知られるのってそんなレベルの愚行なの?

 

「大したことじゃない。お前がフェリー埠頭までどうするのかと思ってな。詳しくは由比ヶ浜から聞いたけど」

 

『そう・・・私はもうフェリー埠頭よ。それと由比ヶ浜さんの犬とあなたの猫に関してはどうにかなりそうよ。』

 

カマクラも由比ヶ浜のところの鳩サブレ?もフェリーに乗れるらしい。これで小町の泣き顔を見なくて済む。

 

「そうか・・・助かるよ。」

 

『まぁ、私としては家の力を使うのは非常に遺憾の意を唱えたいところだけれども、小町さんにかかるストレスを考えたら、アニマルセラピーの考え方から言えば、間違ってはいないもの。ましてや、今の状況のように周囲に家族のいない状況としてはその存在は大きいわ。あら、ごめんなさい。あなたの場合は平時でも存在価値は猫以下よね?』

 

「そりゃな。比企谷家のカースト最下層は伊達じゃないんでな。」

 

『褒めていないのだけれど』

 

お前に褒められる事態が発生したら、ヘブンズ・フォール以上の天変地異が発生するだろうが。

 

『それであなたは今どこにいるのかしら?』

 

「新河上団地の辺りだな。」

 

界塚弟の住んでいる団地は以前行ったことがある。ここも団地からそう遠くない。

 

『何故、まだそんな所にいるのかしら?』

 

「輸送バスには乗ったんだけど降りなきゃならなくなったんだ。・・・まぁ色々あったんだよ。長くなるから詳しくは後で話す。」

 

雪ノ下の場合、どうあっても説明させられるからな。それまでに少しでも罵倒されない様に言い訳を組み立てておこう。

 

『もし変な脚色なんてしたら、焼死、溺死、生き埋め、窒息、光になる、の何れかの方法で比企谷君を処分するわ。』

 

「殺すの前提なのかよ。」

 

っていうか、何処のオーバー・エレメントさんですか?

雪ノ下の場合、あちらほど夢と希望は詰まってないですよ。杯的に言えばどちらかというとクローズド・クロック・・・いや、ワールド・クリエイトの方かも・・・

 

『そう、本当に死にたいみたいね・・・比企谷君』

 

「言いがかりだ。」

 

『そう?では何故クローズド・・・。』

 

「マジスイマセンデシタ。」

 

何でわかった。ってか、異能見てるの?それとも出てるの?

アブソリュート・ゼロとかの氷雪系で違和感なく出れそうですね?厨二が捗ります。

 

『謝罪の必要はないわ。比企谷君が、のた打ち回って力尽きるのをただ見ているだけだから』

 

「どこのフライフェイスだよ。」

 

だから、お前のどこにあんなカラシニコフ満載な脂肪の塊が・・・・やめておこう。そろそろ雪ノ下家に物理的に地獄に連れて行かれる。

 

 

『まったく・・・それでフェリーには間に合うのね?』

 

「大丈夫だろ、もうすぐ代わりの輸送車が来るらしい。」

 

『そう・・・わかったわ。その、埠頭で待ってるから』

 

「いや、もしも出港時間に間に合わない場合はフェリーに乗れよ。」

 

どうせ、フェリーが一隻だけって事はないだろうし後続の船に乗ればいいけど、わざわざ間に合う奴が後ろにずらす理由はない。

 

『何故あなたに指図されなくてはならないのかしら。』

 

「はぁ、俺の事は気にするな。輸送車探すからそろそろ切るぞ。」

 

『心配くらいするわ・・・その、気を付けて』

 

「お、おう」

 

 

 

電話を切ると由比ヶ浜からメールが入っていた。

どうやら、無事にフェリー埠頭に着いたみたいだ。

 

程なく来た輸送車に俺たちは乗り込んだ。


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