やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。 作:ユウ・ストラトス
「君たちの割り当てはこのエリアだ。」
新芦原の駅前で平塚先生から依頼である周辺の交通整理について地図を見ながら注意事項を確認する。
はぁ、働きたくないなぁ。もう、はたらくのは魔王様だけで良くないか?そのかわり俺がアルシエルやるから、家事小6レベルだけど
「で、何か聞いておきたい事は有るか?」
「はい、アレがアレしてアレ何で帰宅していいですか?」
「いきなり帰る気満々だ!」
「あなた、これ以上動かないと腐敗が進むわよ。」
ちょっと、帰りたいって言っただけで・・・解せぬ。
「まったく君というやつは・・・まぁいい。君たちが担当するのは、この場所だ。警備の車両が入れ替わる地点だから今日は立ち入り禁止区域に指定されている。パスカードを下げている人間以外は入らないようにしてくれればいい。」
「承りました。行きましょう由比ヶ浜さん。配置に付きなさい、比企谷犬。」
おいこら、誰が犬だ誰が
大体、俺が本当に犬だとお前、役立たずになっちゃうだろ。ワンニャンショーで学ばなかったっけ?
「なぜかしら、その腐った目を抉り取って握りつぶしたくなったのだけれど、比企谷犬」
「表現が怖いわ、バトルロワイヤルかよ。それと犬ネタ続けるのな。」
「あら、ごめんなさい。あまりに比企谷犬の目の腐敗具合が酷いから」
「腐敗の進んだ犬ってケルベロスかよ。Tウィルスでも感染してるの?」
1のディレクターズカットはガチで怖かったよね。小学生の時に犬が飛び込んでくるところでコントローラ持ったまま恐怖のあまり放心したもん。チビってないからね、多分
「ウィルスで腐っているのでは無いでしょ?比企谷菌?」
「おい、言ってるから。ウィルスと菌なんて大して違いないから」
「そんなことないわ。増殖の仕方とか大きさとかその他、諸々な所で大きな違いがあるわ。」
いや、人間に及ぼす危険度じゃ変わらないからな。
「あ~エバラとか?」
「なにそれ?焼肉にかけるの?」
「えっ、食べられるの?ウィルス?」
由比ヶ浜の料理は遂にあの殺人ウィルスをも調味料に変えてしまうのか・・・
「由比ヶ浜さん、正しくはエボラウィルスよ。比企谷菌と同じバイオレベル4の危険なウイルスよ。」
「って、人をレベル4の細菌扱いやめろ。」
「接触とか空気だけでなく、視線でも感染しそうじゃない?比企谷菌」
「なにその魔眼?聖杯戦争にでも参加すんの?つーか犬の設定どこ行った?」
「ある意味、それよりも性質が悪いわね。バリアすらすり抜ける上にワクチンすらないのだから」
「何で昔の俺の比企谷菌の設定知ってるんだよ。」
「前にあなた自身が言っていたことじゃない。」
よくもまぁ、半年近く前の事を覚えているものだな。
さすがは口喧嘩が強そうなキャラ3位だけあって、7位の俺じゃ太刀打ちできん。もう、折原君を池袋から呼んでくるしかないんじゃないか?
所定の場所について、交通整理を始める。
元々、大きく立ち入り禁止って書いてあるからな。ただ立っているだけの筈だったんだけど、二人ほどエリア内に入ろうとしていたので、雪ノ下が注意していた。
それにしても立っているのも長時間ともなるとしんどい
「雪ノ下、俺ちょっと席外すから」
「ヒッキー何処いくの?」
「パレードでアセイラム姫と観客を盗撮でもするのかしら、ピーピング谷君」
「それ、語感に無理があるからな・・・トイレだよ、直ぐ戻る」
さてトイレはどっちだったっけ・・・・
トイレを済ませ、自販機で飲み物を買って飲みながら戻る途中、交差点のビルを繋ぐ空中歩道に界塚弟が居るのが見えた。珍しいなと思ったが隣に同じ制服の男子が居るのを見ると、引っ張られてきたってところか
つーか、網文もいるじゃねーか。俺らに依頼するほど人手無いとかいって自分は愛しの幼馴染とデートかい。明日、准尉にチクろう
そんな事を思っていると奥の方に車列が見える。あれが火星の親善大使御一行様ってか
それにしても、あんな物々しい車でパレードってのも可笑しいよな。姿が見えないならただの護送だ。何か見られたくないのか?親善大使なのに?
ザワッ
そう考えていると、首の後ろ辺りがゾワゾワした。
昔から人の悪意を感じ取ると起きる反応だ。
でも、今までの比じゃないほどの感覚だ。
何だ?今、観衆の中から違和感があった。
周囲を注意してみてみると、観客の中の一人に行きつく。みんなが要人護送車に視線が向く中で携帯電話を見続けている。
何かが引っ掛かるそう思った時に口元がニヤリと緩んだ。その表情見たときに確信した。
コイツだ、この歓迎ムードの中にある不協和音
そいつは携帯をしまうと観客の列から離れていく。俺の杞憂だったのか・・・
一応、警備の手伝いだからって気にし過ぎかもな。これじゃ俺社畜みたいじゃんか。
ふと、思考をリセットしようと上を見上げる。
「何だあれ?」
空中歩道の更に上、何か・・・曇の空にオレンジの線を引く小さい影
あれは・・・・いや、まさか・・・・・ミサイル?
とにかく、周囲に危険を知らせようと思った時には遅かった。ミサイルが周囲の護衛車両へと次々の爆炎をばら撒く
もう、警備がどうのとかって状況じゃない。人が右に左にのパニック状態
そんな中を全速で駆ける要人護送車に次々とミサイルが襲いかかる。
爆風で横転して3回転、上下が逆になってアスファルトを滑る車体は丁度、俺の目の前15~20mって所で止まった。
なんなんだ、これ?映画なのか?
俺、映画はプリキュアが見たかったんだけどなぁ・・・・って違う。これは現実だ。
夢も希望も無い吐き気がする程の悪意の現実だ。
思い当たる節はある。さっきの男だ。
こんなのただの決め付けだ。証拠もない。俺の印象だけだ。
気のせいだったかもしれない。それでもあいつだと思う。
そして犯人には明らかな殺意。周囲の人間が死のうが関係ない。そんな心理が見える。
それはこの惨状が証明してくれる。
ギ、ギギギッ
鉄屑となった車のドアが開き中から人が出てくる。白いドレスを着た同年代の少女・・・ニュースで見た容姿だ。あれが火星の姫・・・
少女は空を見上げる。まるで神を仰ぎ見るかのように・・・
シューーーッ
ドカァーーーーン!
そんな神は無慈悲な死を彼女に与えた。最後のミサイルが彼女を襲った。その爆風が離れた位置にいる俺の頬をも焼いていくようだった。
ドシャ、
ペシャ
その時、こんな灼熱の場所に似つかわしくない。湿り気の重いものが落ちる音が足元から聞こえると共に頬に何か液体が飛んできた。
殆どが紅く染まった白いドレスに金髪でも、その体はヘソの位置から下が無い、ただただ赤が広がっているだけだった。
正確には彼女の足元に着弾したのだろう。爆風で下半身は・・・
ニュースで見た顔、火星の姫、確か名前はアセイラ・・・
そこまで、名前を思い出したところで淡い光がすると顔が変わった。髪も茶色になった。近くで無いと分からないが目の色も元々違う。
そういえば以前、鞠戸大尉にレポートで呼び出された時、光学を利用した変装アイテムがあるって言ってたっけ・・・・
「姫・・・さ・・・・・・・ま・・・・・もうし・・わけ・・・・・・・」
「ひっ!」
こんな体でもまだ息があったらしい。
怖い
でももう目に光は無い。
怖い
少し痙攣したかと思うと完全に動かなくなった。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「なっ・・・あっ・・・・・」
喉が渇く。今回ばかりはMAXコーヒーよりも水が欲しい。体に力が入らず、恐らくは影武者と思われる肉塊と目が合って離せない。向こうは既に一人ではなく一体とかで数えられる存在だ。でも離せない。死して尚、意思があるような気がして・・・
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・」
俺はいったい何時間、こうしていたんだろうか?
それとも数秒だったのかも知れない。それほどまでに放心していたのだろう。
携帯のコール音でようやく意識を取り戻す。
着信画面には知らない番号
まぁ、このタイミングで連絡してくるのなんて、あいつら位だと思うが
ピッ
「もしもし、どちらさまです?」
『比企谷君、無事なのね』
「雪ノ下か?そっちは大丈夫なのか?」
『えぇ、情報が錯綜していて大変だけれども、私も由比ヶ浜さんも無事よ、怪我一つ無いわ』
「そうか、それはよかった。」
無事だと分かると少し体に力が入るようになった。現金な体だな。それとも雪ノ下の声を聞いたからか?
にしても、事態の収拾を付ける前に俺に電話してくるって事はあいつも心配してくれてるんだな。
『とにかく合流しましょう。由比ヶ浜さんが今、網文さんと平塚先生に連絡を取っているから』
「了解だ。いつもそんだけ素直だと良いのにな」
『何ふざけた事言っているの?状況分かっているの?』
「あぁ、分かっているよ。多分な」
人の死を目の前で見たせいなのか、極限の緊張から解放されてなのか、頭ん中が妙にハッキリしている。壊れてんのかな、俺?
雪ノ下の指示された合流場所に向かう間にさっきの状況を思い返す。
見ているだけしかできなかった。ただ、その場に立っている事しかできなかった。
いや、俺なんかが出来る事なんてさして無い。ましてや、あの護送車を、偽のお姫様をどうにかできる訳がない。でも、ならどうしてこんなにも気にしている。割り切ればいいだろ。俺には関係の無い事だ。偶々、あの場に居合わせただけだ。
今は俺の感情なんて意味が無い。それよりも考えるべきことがある筈だ。
この事件の意味と、俺の取るべき行動を
翌日、軌道上にいた火星の要塞が地球に向けて降下、侵攻を開始
各国主要都市、この国では東京は陥落した。
次からは、原作2話に入ります。