やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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第11話

俺に名前呼びなんて無茶振りしたお姫様は再度変装して上機嫌で界塚弟と船室へと戻っていった。

まったく、未だに心臓がバクバク言ってるんだけど、きっとこれは只の不整脈だよね?

 

お姫様との会話で少し時間も経ったし、今ならブリッジでゆっくり話も出来るだろう。

疲れているし正直休みたいところだが、ブリッジでフェリーの動向を確認するために機関室を出る。

 

「失礼します」

 

「おう、比企谷か」

 

ブリッジにはこの揚陸艇の副操舵席に座っている鞠戸大尉がいた。

何っ!?鞠戸大尉が酒を飲まずに仕事をしているだと!!

 

「比企谷・・・・そういえばKAT教練の補修が残っていたよな?」

 

「ナニモ、イッテナイジャナイデスカ」

 

「それだけ目が泳いでいて何言ってんだか」

 

そっちこそ何を言ってるんですか。

そら泳ぐに決まっているじゃないですか。

 

「泳いでるって言っても犬掻き程度だろ」

 

「泳いでいるのは認めるのね。それとバタフライの世界記録レベルで泳いでいるから」

 

なんだと・・・・・・

界塚准尉、それはきっと気のせいです。

いや、きっとさっきのお姫様の名前呼びで精神を疲弊しているからだ。

そう言う事にしよう。

 

「それで何か用事があるのではないですか?」

 

「あっ、はい、マグバレッジ艦長。フェリーの・・・・他の避難民の安否はどうなっていますか?」

 

そう、これを確認しておかなければいけなかった。

フェリーの無事な出航この為に無茶して火星カタフラクトとの戦闘を選択するしかなかったのだから

 

「出港した事は確認しています。ただ、出港後から今現在は連絡が取れない状態です」

 

「えっ・・・・・・・・それって・・・・・・」

 

連絡がつかない・・・・・・えっ、まさか・・・・・・沈んだ?

そんな、最も優先したと思っていたのに・・・・

そんな思考に陥ると、体から急激に温度が失われていくようだった。

 

「・・・・・マジかよ・・・・・・・」

 

あのフェリーには小町たち俺の家族が、由比ヶ浜に雪ノ下だって・・・・・・

 

「・・・く・・・・・比企谷君!」

 

項垂れていた顔を上げると目の前に界塚准尉がいた。

 

「そうと決まった訳じゃないわ。今は連絡が取れないだけ・・・・・忘れたの?」

 

えっ?だけって?えっ?

 

「先ほどの隕石爆撃もですが全世界的に強力なジャミングで長距離通信が使えない状況です」

 

マグバレッジ艦長の説明を受けてようやく思い出した。

そうだ・・・・・だから俺たちで火星カタフラクトと一戦交えるって話だったじゃないか・・・・

ついさっきまで界塚弟と話してたばかりじゃないか。何、勘違いしてんだよ。

 

小町が絡むからなのか?

それだけ自分が思っていた以上に余裕がなくなっているって事か?

小さな溜息は目の前に准尉にすら聞こえないほど小さなものだった。

 

「今向かっている場所はフェリーも立ち寄る予定でした。それに護衛についていた本隊との合流すれば、リアルタイム情報とはいきませんが安否はわかると思いますよ」

 

「そうですか・・・・・お手数かけました。失礼します。」

 

このジャミングなのかで電波通信が機能しないことくらい、想定していたことなのに。

小町や雪ノ下たちと連絡が取れない事に動揺して・・・・やっぱ疲れてんだろうな。

 

「比企谷君」

 

ブリッジを出ようと踵を返すと界塚准尉に呼び止められる。

 

「なんんん・・・・・・」

 

振り向き気が付いた時には右手を後頭部に添えられ准尉の方に引き寄せられる。

 

「大丈夫よ・・・・小町ちゃんも他のみんなもきっと無事よ」

 

思考が停止して再起動するのに2秒ほどかかった。

えっ、俺の頭の右にあるのって准尉の頭?

何?今、何が起きてんの?

 

「便りが無いのは良い知らせって言うじゃない」

 

「それ、使い方間違ってます」

 

それと鞠戸大尉はニヤニヤしてないでもらえます?

つーか、副操舵席に座ってんなら前見ろよ。

それとニヤニヤされるような状況なの今?

 

「うっ・・・・・そ、それに昨日、寝ていないんでしょ。ナオ君から聞いているわ」

 

あのシスコン・・・・だから何でもかんでも姉に話すなよ。

それと耳がこそばゆいんであまり喋らないでください。あと、なんか温いです。

マジで、そろそろ止めてる息が限界だから離してください。

 

「そ、それは准尉も・・・でしょ・・・・・大丈夫なんですか?」

 

夜通しの見張りをして、避難民連れて共同溝を行き揚陸艇に・・・・充分、怪我人にはしんどいだろうに・・・と思っていると頭を2回軽く叩いて准尉が離れた。

 

「平気よ。これでも軍人なんだから」

 

「ホントにこれでもだよ」と思ったのは言わないでおこう。

なんか機嫌が良いみたいだし・・・・・きっと、新芦原の戦闘で弟が無事だったからだろう。

 

「兎に角、今は休みなさい」

 

「休まないならブラックコーヒー入れて持t・・・・・」

 

「鞠戸大尉の事は気にせずに・・・・・顔色もあまり良くないようですし、しっかり休んでください」

 

マグバレッジ艦長・・・・鞠戸大尉の台詞、バッサリっすね。

ってか、鞠戸大尉に向けてる目が笑ってない・・・・マジ怖い。

 

「分かりました。休みます」

 

「ん!よろしい!」

 

何がそんなに楽しいのかしらんが満面の笑みしやがって・・・・これだから年上は苦手なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジから出てヨダカへと乗り込む。

 

うぅ・・・まだ顔が熱いよぉ。

基本的にはポンコツ軍人のくせしやがってこういう時だけ年上になるから始末に負えない。

少し冷静になってからさっきの状況を思い出すと・・・・・いや、勘違いしかねないから思い出すのやめよう。

 

別にマグバレッジ艦長の言葉を信じていない訳じゃない、隕石爆撃から時間たっているというのに連絡が取れないのは事実なのだろう。

強力なジャミングでレーザー通信できる状況でも無ければ長距離通信は難しい。でも、レーザー通信は直線状に障害物があっては使えないし指向性が強いため向こうの位置が分からなければ使えない。双方が動いていながら位置を特定できない状態で通信が出来る訳もない。それは向こうもこっちも分かっているだから電波通信などを使わざるおえないのだが、揚陸艇では受信できなかった。

 

隕石爆撃による粉塵は通信にも影響を及ぼしている。あれだけの爆発だ。火山が噴火したのと同じような状況になっても不思議はない。

 

それでもこのヨダカに搭載されているミミルならば揚陸艇の使うアンテナよりも感知能力が高い。こちらからの通信は出来なくても向こうからの通信を受け取ることは出来るかもしれない。そんな一縷の望みをかけてみる事にした。

 

「ミミル・・・・アクティベート。感知項目を電波に限定。ITU基準1から11、およびテラヘルツ波まで感知レベルを拡大」

 

これで存在するほぼすべての電波領域を感知できる。問題はこれによって得られる膨大なデータの取捨選択。通常使われるフェリーや軍艦での通信域では捉えられない。

本隊との合流をしなければならないこの揚陸艦がそのために必要な通信に関して手を抜く筈がない。

 

本家の軍人が駄目だと言うなら本来の方法以外で確認するしかない。本来の周波数以外に拡散してしまうスペクトラム拡散とそれに伴う他周波数帯へ影響を基に受信できないかを探るが、どうにも上手くいかない。

 

「ノイズが多すぎるな・・・・・隕石爆撃で電離層に影響が出ているのか?」

 

デリンジャーエフェクトとか物理の授業の合間の無駄話とかで先生が言ってたような気がするが理数は得意じゃないし、この辺の物理学は界塚弟の領分だ。

後で確認してみるか。

 

「無理そうだな・・・・つーか、こんな海上まで通信封鎖しているなんて無茶苦茶だな」

 

通信衛星などを押えられて海の向こうまで通信できないのは分かるが、近距離通信の妨害をこんな人がいるかも分からない海上までしているなんてどうやっているんだか・・・・

 

世界中にニュートロンジャマーとかミノフスキー粒子でもばら撒いているのか?

すげぇ資源の無駄使いじゃね?

 

「まぁいいや。それはそうと戦闘記録の改竄をさっさとやっちまうか」

 

取り敢えず、お姫様の映っている映像データを削除して適当に場面を繋ぎ合わせる。

これがヨダカに戻った本来の理由だ。

不自然な所はどうしたって出るだろうが、改竄して消した部分を復旧できるような奴が前線の護衛艦に乗ってはいないだろうし、時間もかかる筈だしブラックボックスを調べられれば改竄はすぐにバレるだろうが、そこまでする設備もないし、この状況下でブラックボックスを取り出すまで機体をバラす手間をかけてる余裕もないはずだ。

渡すデータから復旧した時には連合本部に着いているだろうし、その間だけ発覚しなければそれで良い。

 

「はぁ・・・・・面倒くせぇ・・・・・・・・」

 

カタカタとキーボードを叩きデータを書き換える。

一瞬だけ視界がぼやけたような気がした。

自分でも分かるくらい、明らかな疲労。

かといって、こんな所で寝たらそれこそ疲れなんて取れないし、一度寝てしまえば何時起きられるか分からない。

 

「寝たいけど・・・・これだけはやっておかないと」

 

レポートは避難先に着いてからでも戦闘記録はそうはいかないかもしれない。

何せただのデータだからPCでも繋いでコピーされたらそれまでだ。

わだつみ本隊との合流の際にはコピーされる可能性が高い。何せマグバレッジ艦長の言葉通りならアルドノア・ドライブ搭載したカタフラクトを倒したのは俺たちが初めてだ。

前線に出る可能性のあるカタフラクト乗りなら、何が何でも欲しいだろう。

格納庫のハンガーに載せた瞬間にコピーしに来ても可笑しくない。

だから、本隊との合流前に改竄して、こちらからデータを渡す事でそれを回避する必要がある。

 

「ホント、何やってんだ、俺?」

 

昨日から仕事し過ぎじゃない・・・・・社畜かよ・・・・

まぁ親父も社畜だからな社畜のサラブレッドなんだろうなぁ・・・・・・専業主夫になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨダカでの作業を終えて俺は船室ではなく機関室に戻った。

船室だと人が多すぎてゆっくり出来そうにもないし、お姫様にはチビ侍女と界塚弟が付いている。

他の避難民も居るし、網文たちだって居る。そして、ブリッジには鞠戸大尉たち軍人もいる以上、俺がアリアーシュを警戒しなくても少しの間なら大丈夫だろう。

何よりプロぼっちの俺としてはいい加減に一人になりたかった。

俺は壁に寄りかかりペットボトルの水を飲む。

 

「はぁ・・・・・疲れた・・・・・・・」

 

機関室は機械の音が大きく披露した体でも眠るのは難しい。一応は大丈夫だとしても界塚弟にも言ったように想定外があってはいけない状況だ。

かといって、これ以上、揚陸艇の中をウロウロしていたんじゃ勘の鋭い鞠戸大尉に気取られるかもしれない。

起きていながら一人になるには五月蠅いがこの機関室しか選択肢がなかった。

 

ともかく、これでようやく落ち着ける。

日の出から数時間にもわたってカタフラクトを操縦し、初めての実戦に身を晒したことで変な精神状態にあったのは事実だ。

界塚弟たちのいつも以上の冗談は死の恐怖への裏返しみたいなもので、緊張と不安から距離を置きたがる人間の心理によるものだろう。平常を装うことで自分の精神に大丈夫だと言い聞かせる。これが酷くなると只の希望的観測を口にしたり、世に言う死亡フラグを立て始める。

 

後になって思えば、限界だったんだろう。

体から少しずつ力が抜けズルズルと腰を落としていく。

 

深夜のトンネルでは一人だったがお姫様は来るし、作戦への恐怖で緊張の糸は張りっぱなしだった。

暗殺事件以降、俺自身気負わない様に努めて冷静に判断をしてきたつもりだったが、さっきのブリッジでの件を考えると冷静さを保てなくなっているんじゃないのか。

ようやく、戦闘状況でない環境で一人になったことで張り詰めたものが切れたらしく、睡魔に気が付く間もなく眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・うぁ・・・・・・・・・?」

 

微睡みの中で俺の頭は機関室にあって柔らかい感触を感じた。

 

「起こしてしまいましたか?」

 

誰かが俺を覗き込んでいる?

 

「・・・だ・・・・・・れ・・・・・・・・?」

 

「お疲れのようですから無理をなされず・・・・・」

 

疲労と睡魔で未だに目の焦点が合わないし思考が回らない。声の主が女性である事と、どうやら横になっている俺を覗き込んでいる事だけは何とか認識できた。

 

右の頬を少し冷たい手で撫でられ俺はもう一度深く目を閉じると意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ました時、俺の視界にはちょっと説明が必要な状況になっていた。

 

「・・・・・・えっと・・・・」

 

あぁ・・・・そうか・・・・ここは揚陸艇だったっけ・・・・

いつの間にか寝てしまったのだろうか?

それはそうとこの状況は大変よろしくない。

体を起こそうとするが疲労と肩を抑えられている為に体を起こせない。

 

「あっ、八幡さん、起きられましたか?」

 

なんで、俺は火星のお姫様に膝枕されているんだっけ?

 

この機関室に来る。

    ↓

今後について話す。

    ↓

名前呼び羞恥プレイ

    ↓

ブリッジでも羞恥プレイ

    ↓

ヨダカで記録改竄

    ↓

機関室で一人寝落ち

    ↓

お姫様の膝枕←いまここ

 

ごめん・・・・・ちょっと意味が分からない・・・・

 

「他の方もみなさんお疲れの様で眠ってしまいまして・・・・・」

 

あ~それはまぁしょうがないよな・・・・

界塚弟は起き護衛しろよ!とも思うが寝落ちしてた俺が言うのは筋違いだろう。

 

「・・・・しょれで・・・・?」

 

あぁ・・・もう噛み噛みですよこんな状況経験ないんだって!

 

「はい、八幡さんがお戻りになられないので、こちらに見に来てみたらお休みになっていらっしゃいましたので・・・・・」

 

それは、本当にごめんなさい・・・・あれだけ偉そうなこと言って寝落ちとかダサっ!俺ダッサっ!戸部風に言うと罪悪感薄れるな・・・・・ちぃ憶えた。

 

「床の上では首が辛そうでしたので・・・・」

 

はいはい、確かにここは床と言っても鉄板だしね。

 

「この様に♪」

 

はい、ダウト~!完全にそこダウト~!

もうさ、昨日からこの娘、何なの?無防備だって言ってるじゃん!

自分が政府要人だって自覚しようよ。

それとこれなんの匂い?なんか微かに甘い感じがするんだけど・・・・・

 

「昔から映画とかで見てて、これやってみたかったんです」

 

「や、やるなら界塚弟にしろよ」

 

それこそ目の腐った俺よりも朴念仁イケメンの界塚弟の方が画面的に良いだろうに

 

「伊奈帆さんには韻子さんがやっていましたから」

 

網文、そんな本人が認識してない所でポイント貯めてどうすんだよ。

そのポイントは小町ポイント並みに使うところ無いからな。

それと・・・

 

「・・・・この状況の理由になってねぇ」

 

俺としちゃこの光景の説明になってないんですけど・・・・

その時、初めて自分にエマージェンシーシートがかけられているのに気が付いた。

 

「・・・・んで、これは?」

 

エマージェンシーシートなんて何処にもなかったよな?

 

「あの後、皆さんに配られたのですが八幡さんは船室にいらっしゃらなかったので」

 

あぁ・・・それで俺が居ないのをスルーされるところが流石のステルスヒッキー

 

「でも、避難民の数と在庫の数が合わないみたいで・・・・もう無いみたいです」

 

そりゃそうか・・・・こんな数の避難民が居ると思わなかったのかもしれない。

 

「ん?・・・・じゃあこれはどこから・・・・・・?」

 

「私が使っていた分ですが?」

 

だからかよ!この仄かに甘ったるい感じのは!!

眠気の何もかも全部吹っ飛んだよ!

疲労からまだ弱い力ながらも体を起こそうとすると肩に手を添えられる。

小さな白い手・・・・・・それは政府要人と言うよりは年相応・・・・いや、少し弱々しくも感じて・・・・

 

「・・・・・顔色が優れません・・・・もう少しお休みになられた方が・・・・・」

 

人間工学上、肩を制されると起き上れない。

肩を押えられると思ってなかった俺は少しだけ浮いた頭を膝枕の体制に戻される。

 

「ちょ、おい」

 

一瞬浮いて戻った所為で、フトモモの柔かい感じをモロに再認識させられると同時に動いた時の空気の流れで仄かに甘い香りが鼻を刺激する。

ちょ・・・・いい匂いいい匂いいい匂い柔かいいい匂い柔かい柔かい

 

「お、おおおい・・・・セ、シェリャム・・・・」

 

噛んだー!これ以上ないくらいに徹頭徹尾、一字一句、全部噛んだーーーーー!!

それよりもこの姿って光学迷彩なんでしょ?ドレスの感じしないんだけどあれこそどうなってるの?廚二が好きな量子変換的な奴なの?

 

「それは禁則事項です」

 

「この状況下で思考を読むなよ」

 

「八幡さん、結構表情に出ますから」

 

えっ?そうなの?

それでそんな細かいレベルでの思考まで読み取れるの?

俺の顔に電光掲示板でもついてるのかよ。

 

「昨日からの八幡さんが一番大変な思いをなさっているのですから、今はもう少しだけでもお休みになって下さい」

 

いやいや、昨日今日だけで言うなら今が一番大変な思いしてるから!

気まずさだけなら、ぶっちぎりだからね。

准尉を保健室まで連れて行った場合も一番気まずいのは、その後だった。だって向こうは気を失ってるからね。

それと違ってこの状態で会話続けるとか・・・・・今も後も気まずいだろうが!

 

どう対応したものかというか、羞恥やらの思考で固まっている間に比企谷家のシンボルたる癖毛を弄る火星の皇女・・・・ってシュールすぎる画面だろ。

大体、膝枕すら今までの人生で中で記憶に無いし頭撫でられるのだってされた事無い。初めてがお姫様ってラスボスクラスの攻撃力なのに更にそこから攻撃力を底上げしないで!

 

「面白いですね、この髪の毛」

 

人の髪の毛で遊ばないって皇帝陛下こと御爺様に教わらなかったの、お姫様?

 

「癖毛なんだよ、あんまり触るなって」

 

「~~~~~~♪」

 

聞いちゃいねぇ・・・

ほんと、楽しそうに癖毛弄ってるところ悪いんですけど俺のメンタルが限界です。

 

「・・・・いい加減にしろって」

 

何とか起き上がってお姫様の手から逃げる。

 

「あぁ・・・・・・」

 

・・・・何なのこの人間罪悪感製造機・・・・・・。

そんな名残惜しそうな顔するんじゃありません。

 

「ったく・・・・それでみんな寝ているって・・・アリアーシュは?」

 

畜生、顔が熱いんだけど、どうしたら正解なの?

風邪って事にでもするか?

それとも由比ヶ浜レベルは精神的にダメージ大きいけど知恵熱って事にするか?

 

「・・・・ライエさんもブランケットを被って寝てしまったみたいです」

 

「殺意向けられた後に寝れるってどんなメンタルしてんだよ・・・・・・」

 

勝手なことすれば殺すって脅しかけられて悠々寝られるなんて精神が超合金で出来てんの?

 

「どうして、そこまでライエさんを・・・・?」

 

「知る必要はないな」

 

下手な意識をされて気取られたくないから教えない。

証拠もないから、憶測の域を出ないし、お姫様は嘘がつけないタイプみたいだからな。

 

「う~・・・・・八幡さん」

 

「そんな目をしても駄目なものは駄目だ。」

 

一応、ヴァース帝国の第一皇女がジト目をするなよ。

さっきから純情な男子高校生の精神というか劣情を弄んでるって自覚ある?

 

「だいたい、そこまで聞きたければ界塚弟にでも聞け。」

 

あいつならこれだけの情報があれば辿り着けていても何も不思議が無い。

理数系に関して言えば、うちの部長様と肩を並べるレベルだったし。

その部長様の教えを受けてる網文が未だに全教科で負けてるって、この前の定期テスト後に言ってたしな。

俺?俺は理系はギリギリ赤点だったけど・・・・・言わせんなよ恥ずかしい。

これでもうちの部のアホの子こと由比ヶ浜よりは遥かに上だからな!

ほんと、由比ヶ浜って何で高校生やれるんだ?

 

「あいつなら俺よりも頭が良いからな・・・・良い解決策も教えてくれるだろうさ。」

 

まっ、多分教えないんだろうけど・・・・姉に似て過保護な所があるから・・・・・

 

「教えてくれないから、八幡さんに聞いてるんですよ」

 

もう聞いてたのかよ。

 

「で、俺にと・・・・・?」

 

「伊奈帆さんは八幡さんは基本過保護だから、絶対教えないだろうけどって仰ってましたけど」

 

あの野郎・・・・・過保護はお前だろーが・・・・・・

姉への過保護をどうにかしてほしいって網文からの依頼で大変だったの忘れたのか!

俺が過保護にしてるのは小町だけだから!

 

「つーか、そこまで言われてるのに何で聞いた?」

 

「伊奈帆さんの言った通りなのかと思いまして・・・・伊奈帆さんと仲が良ろしいんですね。」

 

「仲良くねーから・・・・・ぼっちの俺に友達なんか居ないからな。」

 

マジでここ数日、一人になる時間が少なすぎて八幡的にはぼっちタイム欠乏症になるレベル。

 

「・・・・ぼっち・・・・って何ですか?」

 

「何でもない・・・・気にするな」

 

「?」

 

意味が分からなく顔を傾けているが教える訳にいかない。

危うくぼっちライフの素晴らしさを語って、冗談が通じないお姫様が暴走、かくかくしかじかで最終的には俺が界塚准尉と雪ノ下にかくかくしかじかされる状況しか思い浮かばない・・・・・・・かくかくしかじかの内容はググっても狐は分からないらしいので狸の方ででググってください。犬は自称人形愛が激しすぎるのでやるだけ無駄です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合流ポイントへの航路でヴァースからの襲撃は無かった。

アルドノアが通じないから及び腰にでもなっているだけなら良いんだけど

 

揚陸艇を降りると界塚准尉や鞠戸大尉の軍人連中が並んでいた。

ちょっと、そこ居ると通れないんだけど・・・・

 

「マグバレッジ艦長!ご無事で!お待ちしておりました」

 

「中林少佐、ご苦労様です。他のみんなは?」

 

「強襲艦わだつみはフェリーの護衛任務を完遂し、安全な航路を迂回中です。先ほどの隕石爆撃の影響で海上が酷い有様で・・・・我々は不見咲副長の命令でアパルーサ小隊と共に一番艇で先行、わだつみ到着までマグバレッジ艦長のサポートと避難民の警護を行います」

 

護衛任務を完遂って事は少なくとも海路での避難先には到着しているって事だろう。

あと、そこから先はどうなっているか分からないが少なくとも今は無事って事だ。

良かった・・・・・取り敢えずは一安心だろう。

 

それにしても隕石爆撃から結構な時間立ってるのにまだ影響が出ているのか。

想定していた以上に面倒だな。

 

「助かります・・・・それにしても・・・放棄されたんですね。このあたりの被害はまだ少ないのに・・・・・」

 

「賢明な判断だ。粘った所で被害が増えるだけだ。とっとと逃げるに限る」

 

そりゃそうだ・・・・・ニロケラスとやりあって分かったがあんなの相手にしていたら普通は勝てない・・・・俺たちが勝てたのは相手の乗り手がアホだったからだ。

 

「さすがはあの15年前の戦いを生き延びた人の見解ですね」

 

「ん?」

 

ブリッジでも思ったけど何かマグバレッジ艦長の鞠戸大尉への言葉って棘があるよなぁ。

 

「わだつみ到着まで手の空いている者は揚陸艇の補給をお願いします。」

 

「「「了解」」」

 

手の空いている者って俺たちも数にカウントされてんのか?

 

「僕たちは手伝いに行きますけど、先輩はどうします?」

 

「それじゃ俺はお姫様の護衛をやる他ないだろうが・・・・」

 

ただでさえ人員が足りてないんだから、監視の目を弛める訳に行かないだろう。

別に働きたくないからなじゃないからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

界塚弟たちは陸に上がり補給活動を手伝っているが、他の避難民は原則として船室から出るのを禁じられた。

俺は界塚弟と別れて揚陸艇の甲板へと戻る中で、スマホを弄ってみるが相変わらずの圏外・・・・・まぁ、期待はしていないが・・・・

揚陸艇のハッチに近づいたところでアリアーシュが出てきて俺の存在に驚く。

 

「何であんたがここに居るのよ!?」

 

「補給作業がめんどくさいからサボってるんだよ・・・・ついでの用事もあるけど」

 

怪我人と耶賀頼先生は治療のために放棄された基地に行っているが、向こうにも一応、軍人の監視が付いている。

放棄されたとはいえ軍事施設である以上、一般人が見てはいけない区画もあるだろうし当然の事だが・・・・・問題はこっちだ。

 

人員上、揚陸艇内の人間の監視がどうしたって手薄になる。船室の入り口に一人立たせて出入りを監視するのが関の山だろう。

 

「さて・・・・」

 

「何よ・・・・屍人」

 

「赤い雨に当たってもいないし、羽生蛇村の出身でもない・・・・ゾンビの代わりの語彙が屍人って安易だな」

 

確かにミミルで視界ジャックはしたけどね。

つーか、よくそんな前のゲームを知ってんな。

 

「それと、用なんて無かったんだがな。ここにいたらあんたが来たんだろうが・・・避難民は用が無ければ船室から出るなって言われなかったか?」

 

言いながら目を細めて言葉の裏に敵意を添える。

 

「っ・・・ちょ、ちょっと風に当たりに来ただけよ・・・・」

 

「だったら、さっさと戻るんだな・・・・言ったろ?勝手な事をするなって?」

 

意味深な動きで制服ブレザーの中に手を入れる。

やっているのは只のブラフだ。

充分な殺意と共に動作を行い、本当には持っていない拳銃を存在するかのように・・・・・

装弾済みの拳銃は実際には今は手元にない。本隊合流の際に没収されると面倒だから俺の機体のコックピット内に隠してある。

 

今朝、作戦前の会話と揚陸艇に乗った直後の会話で少なからず俺に対して警戒心・・・・それと恐怖心もかもしれないが抱いている可能性は高い。こうされれば、ブラフと分かっていてもうかつには動けないだろう。

少なくとも対抗するための武器なり俺の隙なりが無ければ強硬手段には出れないし、動けば周囲の軍人が押し寄せてくる。

警戒すべきはそれらのを恐怖を乗り越えてしまうか、自暴自棄になっての行動だが・・・・

 

「くっ!・・・・・分かっているわ・・・・・・」

 

此方を睨みつけるとアリアーシュは踵を返して揚陸艇の中に帰っていった。

 

「外から見て銃を持っているかどうかわからないって事は少なくともその道のプロって事じゃないのかね?」

 

自分で言ってて思うが楽観的すぎるな。

ここでトラブルを起こせば、自分が死ぬ。あえて拳銃を持っていないと分かっていながらもスルーしたと考えるべきかな?

 

「まぁ、それでも牽制にはなっただろ・・・・・ホントめんどくせぇ・・・・」

 

「何が面倒臭いんだ?」

 

「・・・・鞠戸大尉・・・・いつからそこに?」

 

何処で飲んでたんだか、この呑んだくれ大尉」

 

「たった今だよ・・・・・お前、今日は随分と本音ダダ漏れだな」

 

そう思うんならその胸ポケットのモノを捨ててからにしてください。

 

「で、お前はこんなところで何やっているんだ?」

 

「働きたくないんでここで避難民の監視を」

 

「なら、それは俺がやってやる。若いんだから体動かせ。」

 

それって、俺の代わりに大尉がサボるって事じゃねえのか?

大尉がサボる代わりに俺が働くとか間違ってない?

 

「・・・・・はぁ・・・・・・んじゃ、お願いしますよ」

 

まぁ・・・・いいか・・・・

大尉が居るならとてもじゃないが目を盗んで何かをやるってのは無理だろうし、お姫様も避難民と一緒だ。そうそう動くことも出来ないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

揚陸艇を後にして放棄された基地に降り立つと救援隊の副操舵席に座っていたニーナ・クラインが目の前を段ボールの塊とフラフラとしている。

この子、良い所の出って感じするんだよなぁ・・・・・金髪版城廻先輩系後輩?

属性、色々盛りすぎだろ。

 

ちょいとフワフワしているというかなんというか・・・・

そういえば生徒会の網文はここにいるけど会長はどうしたんだ?

 

「・・・うぅ~・・・・」

 

それにしても段ボール箱持ちすぎだろ?

危なっかしいな・・・・・

 

「・・・・・おい」

 

「ふぇ?は、はい・・・・えっと・・・・先輩?」

 

そんなに縮こまって涙目になられると俺のゾンビレベルってどこまで行ってるの?

 

「・・・・ちょっと、動くなよ」

 

「へ・・・・・?」

 

積み上がっている段ボールを2つほど手に取る。

 

「界塚弟は何処に居る?」

 

「えっ?は?えっと・・・・」

 

お互いの持つ箱と俺の顔をループで見ているが、なにその理解できていないような顔は?

 

「まぁいいや、どうせ搬入ハッチの方だろ?これ?」

 

「は、はい!ありがとうございます。」

 

それより重いな、これ。

 

 

 

 

 

揚陸艇の搬入ハッチ前まで行くと界塚弟だけじゃなく網文とクラフトマンが居た。

 

「レーション置いとくよ~」

 

クラインが段ボールを置いた場所に俺も置く。

そっかこれってレーションだったのか・・・重い訳だわ。

 

「サンキュー」

 

つーか、クラフトマンはそれだけ体力が余っているならお前全部やれよ。

 

「先輩も一緒だったんですか?」

 

「用事が終わったからな」

 

段ボールと俺を交互に見なながら界塚弟は俺に尋ねた。

どーせ、そこから俺を弄り倒すんでしょ?薄い本みたいに!

 

「いや、触れると面倒そうなのでどーでも良いです」

 

「そろそろ、俺の思考の閲覧料とって良い?」

 

それとお前、さっきからお姫様と自慢のお姉様以外の場合のつっこみがぞんざいだな。

興味持ってやれよ。クラスメイトだろ?

 

「カームが手伝いを申し出るなんて珍しい。」

 

「兵科教練サボってばっかりだったのにね~」

 

「へっ、いつの話だよ。今は火星人やっつけるなら何でもやるぜ!」

 

まぁ、今揚陸艇に火星人の親玉乗ってるけどな・・・

 

「それ以上に先輩が手伝っているのは地球が終わります」

 

「分かった。網文、一度拳で話そうか?」

 

俺が働くと地球が終わるって事は地球規模で専業主婦が公認されるって事だよね?

間違っても100億の懸賞金が首にかかってるなんて事無いよね?マッハ20とか出ないからね。

 

「私じゃなくてユキさんの左腕が相手で良ければ」

 

この後輩、まじ鬼や・・・・・鉄パイプをへし曲げる出力のアーマチュアで殴られたらシェルブリットバースト程度じゃ済まない。

 

「韻子、ユキ姉が比企谷菌に感染するから許可できない。雪ノ下先輩に任せよう」

 

「OK、分かった。土下座すればいいんだな?」

 

「そこは無条件降伏なんだ・・・・」

 

何を言っているクライン。

あんな一人アナと雪の女王改め絶対零度の女帝に対抗する手段なんて、この世に存在しない事は脊髄に刻み付けられているんだぞ。あれはもはや血が液体窒素と言われても疑わないレベルだ。

 

 

 

 

 

ダダダダダッ!ダダダダダッ!

 

うちの女王様が揚陸艇に消えていくそんな時、そう遠くない場所から轟音が聞こえた。

 

「何だ?」

 

何だじゃねーよクラフトマン・・・・・

新芦原からの避難民がいる放棄された基地

この状況で発砲音って言えば

 

「敵襲!!」

 

まったく、想定してたよりも早いぞ。

アルドノアあっても撃破されたの分かってての追撃なのか?

弱点の対策済みってか?

 

「総員戦闘配置!」

 

「一番艇!発進準備を急げ!」

 

各々、手に持っていた荷物を捨てて走り出す。

 

「みんな!早く中へ!!」

 

界塚准尉の誘導で軍人が怪我をした避難民を揚陸艇に連れて行く。

それに伴って界塚弟達も揚陸艇に乗り込んだみたいだ。

 

さてと、俺はどうするか・・・・・・

揚陸艦所属のKAT乗りがどこまで戦えるのかと言えば不安がある。

精鋭は首都での戦闘で死んだか連合本部に行ってるかだろうからだ。

 

揚陸艇のハッチ前で立ち止まり自分の乗ってきた黒いスレイプニールを見上げる。

 

「・・・・・・仕方がないか・・・・・」

 

踵を返した俺は甲板上に跪いているヨダカに向かって走り出した。

 




未定なのに完全にセラムルートのエピローグ的なモノと2期のスタートだけ出来てしまった。

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