やっとあの男を登場させることができました!
というか話進まねぇ……。
今回も楽しんでい頂けたら幸いです。
一体いつから、移動教室ではないと錯覚していた?
「なん、だと……!?」
昼休み。いつものように、いつもの如くぼっち飯を堪能し、午後の授業開始五分前に戻ると、黒板に『生物室へ』という文字が書かれていた。無駄に字が綺麗なのが腹が立つ。
教室には案の定、誰一人いない。廊下を通る他のクラスの奴らが俺を見て、「あいつ、一人取り残されてやんの」とか言って、笑っているのが想像できる。なぜなら逆の立場の場合、俺が笑ってやるからだ。
急ぎで準備をし、生物室に向かう。ここで走ると、急いでいることが丸分かりのため、早歩きで行く。ぼっちとはいえ、マナーを守る比企谷八幡である。本当に守っているのは、俺の体裁な気がするが……。
「比企谷君、少し時間をもらってもいいかな」
俺がそろそろ、音を殺して歩く癖を身につけそうな時に、正面から呼びかけられる。この程度で声を掛けられるようでは、殺し屋一家になるのは無理そうだった。
昨日、職員室で会った女子がこちらを手招きしている。顔なじみの無い人に、名前を正しく呼ばれるのは久しぶりだった。これで相手がデスノートを持っていたら、生殺与奪の権を握られたことになる。今度からできる限り、顔を見せずに行動してみよう。
改めて見ると、ネクタイの色が上級生のものであった。つまり俺の一学年上ということになる。まぁ雰囲気からして、同い年だとは思っていなかったが……。
「どうしたの?、変な顔をして。急いでいるようだし、手短に済ませるね」
「あ、はい」
職員室で会った時と同じく、どもってしまった。
「奉仕部って、今日も活動する予定なのかな?」
「やっていますよ。別に聞かなくても、いつでもやっているんで、用があるなら、適当に来てくれればいいです」
そう言うと先輩は、納得したように頷く。この反応からすると、確認の意味で聞いたのだろう。
「ありがとう。生物だからといって、手を抜かないようにね。教科書はしっかりと持ち歩くこと!」
先輩は丁寧にお辞儀をした後、忠告をし、て教室に戻っていってしまった。
時計を見ると、授業開始まで残り三分である。今からならば、授業にはぎりぎり間に合うだろう。
「あれっ、なんであの人、俺の次の授業知っているんだ?」
手持ちを見ても、表紙に何も書いていない大学ノートと筆記用具しかない。教科書はどうせ実験だろうと判断して、持ってきていない。実験じゃなかったら寝るだけだ。
よく考えたら、俺が奉仕部ってことも伝えていない。この学校で、奉仕部の存在を知っているだけで希少なのに、俺がいることを知っているなんて、将来UMAでも見つけそうだな。
そんなことを思いながら、俺は人が少なくなっていった廊下を突き進んだ。
―――――――
そして放課後、いつもの様に各々過ごしていると、扉をノックする音が聞こえる。
そういえば、二学期に入ってから初めての来客のような気がする。気がするというか、確実にそうだろう。そう思うと、なかなか感慨深くも……ないな。相談事があるということは、要するに厄介事を持ち込まれるということだし。何事平和が一番。ラブ&ピース!。
「……どうぞ」
雪ノ下が、凛とした声で答える。
「失礼する」と返事をした後、扉が開かれ、男子生徒が部室に入って来た。
男にしては、髪が制服の襟足まで伸びている。どこか寡黙な雰囲気を纏っていて、話しかけるのを躊躇わせる印象をこちらに与える。
なるほど、この人をロールモデルにすればいいのか。ぼっちに寡黙という要素を加えて、孤高の要素を高めれば、俺に話しかける奴はいなくなる。ちなみに、ぼっちにおける称号で最も評価が低いのが「孤独」、最も評価が高いのが「孤高」である。違いは負の意味でぼっちか、正の意味でぼっちかによる。
「僕は三年生の阿良々木暦だ。漢字は阿吽の阿に、良いを重ねて、若木の木に、季節の暦だ」
なかなか分かりづらい例えをする人だ。由比ヶ浜が「あ、うん?」などと、理解しているのだか、していないのか分からない言葉を発した。
流石に雪ノ下はすぐに、漢字が当てはまたのだろう。特に臆することなく対応をしていく。
「阿良々木先輩ですね。私は、奉仕部の代表の雪ノ下と申します。何かご用でしょうか?」
「あぁ」
阿良々木先輩は肯定する。
「頼みたいことというか、手を貸して欲しいことがあるんだ。羽川に聞いた所、ここはそういう所なのだろう?」
「ええ。しかし、先輩を全面的に助ける訳ではありません。迷える人を案内するのではなく、道を教えるのが、私たちの出来ることです」
「それは承知している。知人の言葉を借りることになるが、人は一人で勝手に助かるだけだからな。それにそこまでの事を頼むつもりはない」
阿良々木先輩は雪ノ下の辛辣な言葉に対して、そう返した。一人勝手に助かるだけか……。確かにその通りだ。人は究極的には一人なのだから、自分で助からなければならない。誰かに助けてもらう事を期待して、頼って、依存してしまったら、きっと何も成し得なくなってしまうのだろう。人に頼るということは、それほどの危険性がある。だからこそ、自分で助からなければいけないのだ。
「少し調べて欲しいことがあるんだ」
そんな前置きをしてから、
「二年生のあいだで、変なおまじないであったり、人間関係を悪くする噂みたいなものって、流行っていたりしてないか?」
「噂かぁ……? 一学期の時には一回あったけど、あれはもう解決したし……」
由比ヶ浜は素直に、依頼について考えているようだった。こいつは根がいい奴だから、会話の裏表を追求せずに、力になろうとしている。
雪ノ下は、その点について懐疑的である。まぁ他人に使われる訳だから、それは知るべき情報だろう。全てを受け入れていたらキリがないからこそ、やれることに関してはこちらで吟味する必要がある。
「調べることは可能ですが、その理由をお聞きしてもよろしいですか?」
それは俺も気になった。阿良々木先輩は三年生だから、三年生のことを気にするのは分かるが、なぜ二年生なのか、そしてなぜ一年を今回の調査に含めないのか、分からない。
「それはもちろんだ。話が変わって悪いんだが、六月くらいに、中学生の間でおまじないが流行ったのは知っているか?」
雪ノ下と由比ヶ浜が首を振る。俺も記憶を探ってみると、そういえば小町がそんなことを言っていた。
「中学生の妹が、その話をしていました。別の中学だけど、人間関係を悪くするおまじないが流行ったって。その一環で、お金を取られた中学生もいるとか、なんとか。なんか中学生の元締めのファイヤーシスターズ?が原因を探っていたそうですが」
その瞬間、阿良々木先輩が居心地を悪そうにした。何か不適切なことをいったのだろうか。
「そうだ。幸い生死に関わるようなことは、僕の知る限り一つで、それも既に解決はしているんだが……。さっき君がお金を取られた子がいるって言った通り、この事件というか事態の首謀者は詐欺師で、おまじないを解呪する方法などといって、金銭を要求していたんだ」
そんなことがあったのか。小町の奴、その後何も言わなかったから気にしなかったが、かなりでかい問題になっているじゃねぇか。
「その詐欺師自体夏休みの始めには、この街から出ていったんだが、この前一時帰省みたいな形で、少しだけ戻ってきてな」
「つまり阿良々木先輩は、その詐欺師がまた何か仕掛けを打っていないか調べて欲しい、ということですね」
おそらく阿良々木先輩が続けようとした言葉を、雪ノ下が先んじる。
「しかし、なぜ二年生だけなのでしょうか? 三年生と一年生には、聞かなくてもよろしいのですか?」
「その二学年は、別の人間に任せている。二年生にしても、知り合いがいないことでもないんだが、立場的に調べさせるのが、難しいというか。できる限り詐欺師には遠ざけたいんだ。あいつとあの詐欺師はふとしたことで繋がりそうでだから、念には念をということで。あぁ、だからと言って、君らに何があっても言っているわけではない。これはどちらかというと相性の問題だ。ここの部活は二年生だけだし、交友関係が広い人もいると羽川に聞いて、頼みに来たという次第だ」
相性というなら、この部活もそこまで良いとは思えないが……言葉にはしないことにする。なんせ三分の二が友達いないからな。
雪ノ下が俺と由比ヶ浜に目配せをする。俺は相談を受けることは問題ない。由比ヶ浜も特に異論はなかったのか、二人で雪ノ下に対して頷く。
「分かりました。お受けします。調べた結果はどのようにして、お知らせすればよろしいでしょうか?」
「一週間後、またここにお邪魔するよ。何も出てこないなら、それが一番都合がいい」
「ではまた来週、お越し下さい」
雪ノ下がそう言うと。
「あぁ。丸投げの形になってしまって、申し訳ない。よろしく頼む」
そんな挨拶をして、阿良々木先輩は教室を後にした。
以上になります。
この後の予定というか、展望ですが、おそらく其之伍くらいには、話の本筋に
入ってくると思います。
神原をどのように絡めるか、いろいろ考えています。神原って年上も年下も合
わせやすいと思うんですれど、同級生は以外と絡めづらいです。
それでは、また次回。