独物語~ゆきのフォックス~   作:フリューゲル

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フリューゲルです。
前回を見て頂いた方、ありがとございます。

文章を書くのは、やはり難しいですね。
語彙力がない自分が憎い……。

それではご覧下さい。


ゆきのフォックス 其之弐

 九月に入ったからといって、奉仕部の活動内容が特に変わるわけではない。俺と雪乃下は読書をし、由比ヶ浜は携帯をいじりながら、時折雪ノ下に話かけている。その度に雪ノ下は一言、二言返事をしているものの、その手に持った本を閉じる素振りをみせなかった。

 

 

 約一ヶ月、留守にしていた部室は思ったよりも広く、物寂しさを感じさせる。一学期のように、三人で同じ机を共有しているはずなのに、俺たちを隔てている距離は、それまでよりもずっと遠くに感じる。

  

 

 窓から入ってくる夕陽が、部室を茜色に染めていく。普段、日が当たるのを避けて、窓から離れて座っている俺であるが、既に太陽が沈みかけている為に、窓際から離れていても嫌でも太陽の光に晒されてしまう。幾ら目が腐っていると、皮肉混じりで評価される俺でも、日光を受けたからといって、ダメージを負うわけではない。俺は吸血鬼ではないのだから。つーか吸血鬼になったら、朝のプリキュアが凄い見辛くなるだろうが。

 

 

 対して雪ノ下は窓に背を向け、太陽を背中にした形で座っている。夕陽を浴びた雪ノ下の髪は、いつもの艶やかな黒髪から狐色へと変化をしている。雪ノ下のその姿は、背中から差す光もあって神聖さすら感じさせる。

 

 

 いや、人は完全ではなく、神様でもないのだから、誰かに神聖さなど求めてはいけない。そのようにして俺は、これまでも、そして今もまちがえ続けているのだ。

 

 

 既に季節が秋に入ったのだろうか、窓から入ってくる風は思いの外涼しく、半袖の夏服には少し肌寒かった。というか夕陽を浴びているのに、涼しいと感じるのは、どこか背反しているように思える。夕陽に涼しいという意味はないが、どこか暖かい意味をこちらで解釈してしまうからだろうか。

 

 

 由比ヶ浜も俺と同じく少し寒かったのか、小さなくしゃみを一つした。

 

 

 

「なんか八月に比べると、一気に寒くなったねー」

 

 

「まぁ、秋だからな……」

 

 

「そうね……」

 

 

 

 由比ヶ浜が投げかけた言葉が、上滑りをしていく。由比ヶ浜は多少うろたえた後、「窓締めていい?」と一言確認をとり、俺と雪ノ下が頷くのを見ると、静かに窓を閉めた。 

 

 

 窓を閉めると、遠くに聞こえていた運動部の掛け声が消え、教室の中がさらに静かになる。雪ノ下が紙をめくる音だけが響き、よく分からない緊張感がさらに増していく。

 

 

 静かになりすぎて、逆に集中できなくなってしまった。気分転換に宿題をやろうと、重い通学バックを漁ると、昼休みに平塚先生に渡された申請届けが目に入った。

 

 

 

「平塚先生から、奉仕部の副部長を決めて欲しいと言われてだが……」

 

 

「そういえば、決めていなかったわね。でも比企谷君はどうせやらないのでしょう? 役職なんて、専業主夫希望のあなたには必要ないのだから」

 

 

「何を言うか。役職だけもらって、ただで給料貰うなんて実に俺好みだ」

 

 

「それは、只の給料泥棒じゃないのかしら?」

 

 

 

 そう言われるとそうだった。流石に全く働かないで、給料を貰うのは気が引ける。それはむしろ、ヒモの所行である。俺は家事くらいはやるからな。働きたくはないが、専業主夫という仕事には就きたい俺である。矛盾をしているとは、言ってはいけない。

 

 

 

「ヒッキーかあたしが、やるわけだよね。あたしやってもいいよ! ヒッキーどうせやらないでしょ?」

 

 

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が、俺をどう見ているかが良く分かった。

 

 

 

「期待してもらえなければ、別にいいぞ。特にやることないだろうし」

 

 

 

 雪ノ下が、いつの間にか読書の手を止めて、こちらをじっと見ていた。一応奉仕部に関わることだろうか、真剣に俺が副部長になることを検討しているのだろうか。

 

 

 

「あなたはむしろ、期待しない位なら始めからやらせなければいい、という立場だと思ったのだけれども」

 

 

「そうだな……。期待をするってことは、相手に自分の望みを押しつけることだからな」

 

 

 

 その言葉を言った直後、それが誰に向けて言ったのか分からなくなった。確かに雪ノ下に言ったはずなのに、不思議と自分に言葉が返ってくる。勝手に人に理想を重ねて、それとずれたことに対して、相手に失望している。それは何より、俺が唾棄すべきことではなかったのだろうか。

 

 

 

「でもヒッキーが副部長やってるのって、全然想像できない……」

 

 

 

 雪ノ下とのやりとりに、不穏なものを感じたのか、由比ヶ浜が話題を逸らす。

 

 

 

「一応だが、俺小学校の時に学級委員やったことあるぞ」

 

 

「う、嘘だよね、ヒッキー?」

 

 

「それはあなたの空想ではなくて?」

 

 

「お前らな……。というか空想だけだったら、学級委員なんてやってないぞ。」

 

 

 

 そう言った後、

 

 

 

「あれは小学校四年の時だな。ちょうどクラスにSさんっていうスゲー可愛い子がいたんだよ。」

 

 

「その時点で、結末が見えるわね」

 

 

 

 雪乃ノ下が、何か言ったが気にしない。

 

 

 

「その子が丁度、学年の始めに隣の席でな、一学期の学級委員を決めるときに、一緒にやろうって誘われたんだよ。その時は俺も子供だったから、俺のことが好きだけど、その事を言えないからせめて一緒に居たい、と勘違いしていたんだよ」

 

 

「それで、今回のオチは?」

 

 

「仕事を全部押しつけられた・・・・・・。Sさん(仮名)はきっといい悪女になるだろう」

 

 

 

 三人の間を沈黙が支配する。由比ヶ浜の同情するような視線が、俺の古傷をさらにえぐる。久しぶりに胃が痛くなった。

 

 

 

「そ、そういえば、そろそろ陽が落ちてきたねー」

 

 

 

 流石にいたたまれなくなったのか、由比ヶ浜がフォローを入れる。

 

 

 

「そうね。そろそろ終わりにしましょうか。副部長の件は急ぎではないでしょうし、また明日にということにしましょう」

 

 

 

 雪ノ下はそういうと、持っていた文庫本をバッグにしまい始める。こいつ、帰る準備をするまでが異様に早いな。由比ヶ浜も一瞬ぼうっとした後、雪ノ下に続き帰り支度の用意をする。

 

 

 

「では、さようなら」

 

 

「じゃあね、ヒッキー。また明日」

 

 

 

 そういって、二人は順々に部室を出ていく。その返事に俺は「おう……」としか言うことができかった。他に言うべき言葉はなかったと考えてみるが、その言葉を見つけることはできなかった。

 

 

 一人になった部室は、俺が昔から馴染んでいた風景にも関わらず、どこかもの寂しく、俺はすぐに戸締まりだけをして、教室を後にした。

 




ゆきのフォックス 其之弐でした。

今回は奉仕部の面々のみで、お送りしました。次回からは羽川なり阿良々木さん
なりが登場すると思います。クロスオーバーなのにほとんど、原作に沿ってしまった。

ご覧頂き、ありがとうございました。それでは、また次回。

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